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第三章 シャノン大海戦編

EP98 破海竜

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ギュォォォォンッッッッ!!!!

 花の背後から水中でも響くほどに、高く巨大な叫び声が聞こえて来る。

 シンが咄嗟に放った弾丸は、見事に破海竜マスターウェーブの左目に着弾したようだ。
 その巨体をガムシャラに振り乱し、数え切れない程大量な大小様々なヒレが、乱雑に旗めいている。

 シン達はその時、目の前の巨竜がと呼称される意味を知った。

「うわぁっ!!何だこれ!?」
「きゃあっ!波がぁっ!!!」

 その巨体が海中で唸る事。それは即ち、潮流に逆らった波を発生させる事と同義なのだ。
 その大海の唸りの前には人間の泳ぎなど、無力極まりない。二人は段々と、神殿の内部へ押し戻されて行く。

「花!俺を後ろから支えろ!!」

 シンは弾き飛ばされそうになるのを懸命に堪えて、指示を出す。
 花は指示通りに、シンを後ろ側から外に向けて押し出そうとした。

「うぐぉっ・・・!!」

 花の指圧と、海流の水圧がシンを板挟みにする。体が押し潰されそうになり、肺から酸素が抜けて行く。
 しかしシンはそんな状況でも冷静に、そして勇猛な心持ちでライフルを構え、狙撃の準備を終えた。

「喰らえええぇぇぇっっっ!!!!」

 シンは再び引き金を引いた。
 花に支えてもらった事で、体制が安定したのだろう。シンの放った二発目の弾丸は、破海竜の眉間に着弾したーー。

 巨大な波が少しずつ収束して行く。
 破海竜はその身をはためかせる事をやめ、沈黙したのだ。

「やったかしら!?」

「馬鹿野郎!フラグ立てんな!」

 二人はそう言うと、慎重な足取りで破海竜に近寄って行く。起き上がる事は無いが、死んでいるのかも分からない。

「鼓動はある・・・?」

「こんな馬鹿デケェ奴の鼓動、一体どこで測るんだ?」

「そ、それもそうよね・・・。」

 花たちは懸命に、浮いている怪物の生死を調べるが中々に難航する。
 いつしか、話題の中心はシンの持つライフルに変わっていた。

「そのライフル、いったい何処にあったの?」

「おっと!ただのライフルじゃ無いぞ!ほれっ!」

 シンが手元のボタンを押すと、筒長のライフルは掌よりも少し大きな拳銃へと姿を変えた。

「えっ!?変形するの!?」

 花は驚きを隠せない。

「あぁ!しかも、打ち出す弾は種類を選ばないんだぜ!例えば・・・!」

 シンはそう言うと、黄金の槍の一部を粘土のように摘み取り、金貨の形のまま装填した。

「え?金貨なんて打ち出せるわけが・・・!?」

 シンは金貨を装填した銃をそのまま破海竜に向け、再び射撃した。
 打ち込まれた箇所に大きな穴が空き、大量の血液が噴き出していく。

「凄いわね!そんなの何処で?」

 不思議そうな花に対して、シンは得意げに返事する。

「おいおい!忘れちまったのかよ!さっき手に入れたばかりじゃねぇか!」

~~~~~~~~~~~~~~

「え・・・?」

 花には一切の心当たりが無い。

だよ!」

 当然のように銃の名前を叫ぶが、夢で見たシンと違い花にはその名前にも心当たりが無い。

「え?何それ・・・?」

「う~ん・・・。変形する・・・弓?破壊力がヤバい。」

 シンにも、この不思議な武器の実態が掴めていないようだ。説明しながら、自分でも首を傾げている。

「しかも、念じれば消えるぞ!」

 シンはそう言うと、拳銃を握る手に力を込めた。すると、拳銃は光を放って消えた。

「ハイテクすぎない?」

「アトランティスのオーパーツやで。知らんけど。」

 シンは花との問答に飽き、適当にあしらった。
 そんな中、花はある可能性に気が付いた。

「・・・もしかして!」

 花は何も掴んでいない右手に、強く力を込めた。
 すると、花の手元に青色の杯が現れた。

「・・・アッサリ出てきたわね。」

 花はもっと、壮大な雰囲気で出現するのだと思っていた。
 そのため、かなり拍子抜けだった。

「せやな。足治せそうか?」

 シンにとってはその事が最重要だ。

「う~ん・・・行けそうよ!の雫っていう薬が入ってる!たしか、この薬なら足を治せ・・・。」

 花は突然震え出して言葉を途切れさせた。その代わりに、シンの背後を震える指で示した。

「おい、どうし・・・!!!!」

 シンは恐怖と驚きで声が出せなかった。

 彼の背後を、50が取り囲んでいたのだ――。

~~~~~~~~~~~~~~~

「きゃあああぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!?????」

「嘘だろ?」

 凄まじい数の破海竜が、海を裂く力を持つ存在が、海中に壮大な壁を築いている。
 シンには今度こそ、生存する方法が思い付かなかった。花はもはや完全に戦意を喪失してしまった。

「バイバイ清也・・・また会いたかったな・・・。」

 心の隙に付け込むようにして、破海竜の壁が迫って来る。
 よく見ると背後にも、隊列が組まれている。文字通り八方塞がり。四面楚歌だ。





<<<<<!!!!!>>>>>

ギュォォォォンッッッッ!!!!



 一瞬の出来事だった。
 水中に響き渡る豪雷の破裂音、そして数え切れない程の破海竜の断末魔、視界を覆い隠すほどの膨大な血。

 次に二人が目を開けた時、破海竜の壁は完全に崩壊していた。
 捲り立つ海底の土煙の奥に、一人の少女が浮かんでいる。その人影は急速に二人の方へと近寄って来た。

「花様!ご無事でしょうか!?お怪我はございませんか!」

 花は返事が出来ないが、雷夜は怪我が無いかどうかを瞬時に診断して、少し安心したようだ。

「良かった・・・。あっ、代わりの水着を差し上げますね・・・。」

 雷夜はそう言うと花の胸元に手を置いて、何か呪文を唱えた。

「えっ、えぇ・・・。あぁ、やっぱり・・・水着があると安心感が・・・。」

「今すぐに近海から離脱してください!
 もうすぐ、マスターが戦闘を開始します!」

 花には、言っている事が分からない。
 "マスター"の戦闘が始まる事と自分達に、何の関係があると言うのか。

「な、何を言ってるの!?」

 花は当然のように質問する。
 しかし彼女には、どうやら答える余裕は無いようだ。

「時間がありません!!!保護魔法をかけますので、その海竜に乗ってください!
 ・・・"足は治しとく"から、花様をお願い!」

 雷夜は言い終わるより先に、花とシンを押し出した。二人の体は強制的に海竜に密着する。

「え!?ちょっと待って!きゃあっ!!」

「お、おいっ!!うわぁっ!!!」

 二人は破海竜の背に乗せられて、近海を離脱した――。
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