109 / 251
第三章 シャノン大海戦編
EP98 破海竜
しおりを挟むギュォォォォンッッッッ!!!!
花の背後から水中でも響くほどに、高く巨大な叫び声が聞こえて来る。
シンが咄嗟に放った弾丸は、見事に破海竜の左目に着弾したようだ。
その巨体をガムシャラに振り乱し、数え切れない程大量な大小様々なヒレが、乱雑に旗めいている。
シン達はその時、目の前の巨竜が海を破る竜と呼称される意味を知った。
「うわぁっ!!何だこれ!?」
「きゃあっ!波がぁっ!!!」
その巨体が海中で唸る事。それは即ち、潮流に逆らった波を発生させる事と同義なのだ。
その大海の唸りの前には人間の泳ぎなど、無力極まりない。二人は段々と、神殿の内部へ押し戻されて行く。
「花!俺を後ろから支えろ!!」
シンは弾き飛ばされそうになるのを懸命に堪えて、指示を出す。
花は指示通りに、シンを後ろ側から外に向けて押し出そうとした。
「うぐぉっ・・・!!」
花の指圧と、海流の水圧がシンを板挟みにする。体が押し潰されそうになり、肺から酸素が抜けて行く。
しかしシンはそんな状況でも冷静に、そして勇猛な心持ちでライフルを構え、狙撃の準備を終えた。
「喰らえええぇぇぇっっっ!!!!」
シンは再び引き金を引いた。
花に支えてもらった事で、体制が安定したのだろう。シンの放った二発目の弾丸は、破海竜の眉間に着弾したーー。
巨大な波が少しずつ収束して行く。
破海竜はその身をはためかせる事をやめ、沈黙したのだ。
「やったかしら!?」
「馬鹿野郎!フラグ立てんな!」
二人はそう言うと、慎重な足取りで破海竜に近寄って行く。起き上がる事は無いが、死んでいるのかも分からない。
「鼓動はある・・・?」
「こんな馬鹿デケェ奴の鼓動、一体どこで測るんだ?」
「そ、それもそうよね・・・。」
花たちは懸命に、浮いている怪物の生死を調べるが中々に難航する。
いつしか、話題の中心はシンの持つライフルに変わっていた。
「そのライフル、いったい何処にあったの?」
「おっと!ただのライフルじゃ無いぞ!ほれっ!」
シンが手元のボタンを押すと、筒長のライフルは掌よりも少し大きな拳銃へと姿を変えた。
「えっ!?変形するの!?」
花は驚きを隠せない。
「あぁ!しかも、打ち出す弾は種類を選ばないんだぜ!例えば・・・!」
シンはそう言うと、黄金の槍の一部を粘土のように摘み取り、金貨の形のまま装填した。
「え?金貨なんて打ち出せるわけが・・・!?」
シンは金貨を装填した銃をそのまま破海竜に向け、再び射撃した。
打ち込まれた箇所に大きな穴が空き、大量の血液が噴き出していく。
「凄いわね!そんなの何処で?」
不思議そうな花に対して、シンは得意げに返事する。
「おいおい!忘れちまったのかよ!さっき手に入れたばかりじゃねぇか!」
~~~~~~~~~~~~~~
「え・・・?」
花には一切の心当たりが無い。
「ミストルテインだよ!」
当然のように銃の名前を叫ぶが、夢で見たシンと違い花にはその名前にも心当たりが無い。
「え?何それ・・・?」
「う~ん・・・。変形する・・・弓?破壊力がヤバい。」
シンにも、この不思議な武器の実態が掴めていないようだ。説明しながら、自分でも首を傾げている。
「しかも、念じれば消えるぞ!」
シンはそう言うと、拳銃を握る手に力を込めた。すると、拳銃は光を放って消えた。
「ハイテクすぎない?」
「アトランティスのオーパーツやで。知らんけど。」
シンは花との問答に飽き、適当にあしらった。
そんな中、花はある可能性に気が付いた。
「・・・もしかして!」
花は何も掴んでいない右手に、強く力を込めた。
すると、花の手元に青色の杯が現れた。
「・・・アッサリ出てきたわね。」
花はもっと、壮大な雰囲気で出現するのだと思っていた。
そのため、かなり拍子抜けだった。
「せやな。足治せそうか?」
シンにとってはその事が最重要だ。
「う~ん・・・行けそうよ!エリクサーの雫っていう薬が入ってる!たしか、この薬なら足を治せ・・・。」
花は突然震え出して言葉を途切れさせた。その代わりに、シンの背後を震える指で示した。
「おい、どうし・・・!!!!」
シンは恐怖と驚きで声が出せなかった。
彼の背後を、50頭以上の破海竜が取り囲んでいたのだ――。
~~~~~~~~~~~~~~~
「きゃあああぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!?????」
「嘘だろ?」
凄まじい数の破海竜が、海を裂く力を持つ存在が、海中に壮大な壁を築いている。
シンには今度こそ、生存する方法が思い付かなかった。花はもはや完全に戦意を喪失してしまった。
「バイバイ清也・・・また会いたかったな・・・。」
心の隙に付け込むようにして、破海竜の壁が迫って来る。
よく見ると背後にも、隊列が組まれている。文字通り八方塞がり。四面楚歌だ。
<<<<<ユニバースライトニング!!!!!>>>>>
ギュォォォォンッッッッ!!!!
一瞬の出来事だった。
水中に響き渡る豪雷の破裂音、そして数え切れない程の破海竜の断末魔、視界を覆い隠すほどの膨大な血。
次に二人が目を開けた時、破海竜の壁は完全に崩壊していた。
捲り立つ海底の土煙の奥に、一人の少女が浮かんでいる。その人影は急速に二人の方へと近寄って来た。
「花様!ご無事でしょうか!?お怪我はございませんか!」
花は返事が出来ないが、雷夜は怪我が無いかどうかを瞬時に診断して、少し安心したようだ。
「良かった・・・。あっ、代わりの水着を差し上げますね・・・。」
雷夜はそう言うと花の胸元に手を置いて、何か呪文を唱えた。
「えっ、えぇ・・・。あぁ、やっぱり・・・水着があると安心感が・・・。」
「今すぐに近海から離脱してください!
もうすぐ、マスターが戦闘を開始します!」
花には、言っている事が分からない。
"マスター"の戦闘が始まる事と自分達に、何の関係があると言うのか。
「な、何を言ってるの!?」
花は当然のように質問する。
しかし彼女には、どうやら答える余裕は無いようだ。
「時間がありません!!!保護魔法をかけますので、その海竜に乗ってください!
・・・"足は治しとく"から、花様をお願い!」
雷夜は言い終わるより先に、花とシンを押し出した。二人の体は強制的に海竜に密着する。
「え!?ちょっと待って!きゃあっ!!」
「お、おいっ!!うわぁっ!!!」
二人は破海竜の背に乗せられて、近海を離脱した――。
1
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる