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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)
EP177 おぞましい義務 <☆>
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征夜が心を入れ換えてから、三週間が経った。
半年前に別れた花と征夜は、未だにすれ違い続けたまま、同じ町で過ごしている。
征夜は激しい修行を積んだおかげで、以前よりも強力な斬撃を放てるようになった。
ミサラは連日のレッスンにより、少なくとも教わった料理だけは、まともな味が作れるようになった。
花はダイエットが身を結び、以前と同等以上にプロポーションが良くなった。ただし、太腿は痩せてない。
シンは特に変わった事なく、自由気ままな生活を送っている。当然ながら、そこにはセレアの姿もある――。
「んっ♡はぁんっ♡あんっ♡あんっ♡あっ♡あっ♡あっ♡んっ♡あっ♡ひぁんっ♡」
その日も、彼女は朝からシンに抱かれていた。
やはり2人は相性が良いのだろう。もはやルーティンと化した性交だが、一向に飽きが来ない。
「んはぁっ!♡あっ♡あぁんっ♡あんっ♡おっぱい♡キュッてされるの好きぃっ!♡もっとお乳搾ってぇっ!♡」
四つん這いになって犯されるセレアは、艶のある髪と豊満な乳房を揺らしながら、快感に蕩けた喘ぎ声を上げる。
背後から抱き締められ、両手で乳首を摘まれながら髪を振り乱す様子は、正に"乳を搾られる牝牛"そのものだ。
「ん"ぅっ!♡あ"ぁ"っ!♡あっ♡あんっ♡~~~ッッッ!!!♡♡♡」
海老反りになって痙攣しながら、セレアは倒れ込んだ。
健康的な女体を強調するかのように、白い柔肌の表面を甘い汗が伝っていく――。
「はぁ・・・はぁ・・・♡お風呂・・・入りましょうか・・・♡」
「そうだな。ベッタベタだし。」
セレアはシンの手を引いて、シャワールームに連れて行った。
この部屋は元々、シンとの行為の為に借りた。だが、いつの間にか2人の相部屋と化し、殆ど同棲となっていた。
「背中流すね!」
「いつもありがとな・・・!」
ソープで培った技で、シンの体を洗浄する。体全体を擦り付けながら、優しく温かい感触を共有する。
「いかがですか?」
「いつも通り、最高だな・・・!」
「ウフフ♡もっとサービスしちゃいますね♡」
ムニュムニュとした豊満な乳房をスポンジ代わりにして、泡の付いた状態で背中を滑らせる。
興奮で隆起した桃色の乳首は、シンの肩に食い込んでいた。胸を使って背中を洗うたびに、乳頭が擦れて快感を享受してしまう。
「次は俺の番だな。」
「お願いします!・・・んぁっ♡」
背後から乳を揉まれたセレアは、蕩けた甘い喘ぎを漏らした。
膣にも2本の指を入れられ、クチュクチュと掻き混ぜられる。
「そ、そこはぁっ♡大丈夫だよぉっ♡あ、洗わなくて良いからぁっ♡」
「感謝を忘れるなんて、躾のなってない"牝牛"だな。」
「あっ♡んっ♡ご、ごめんなさっ♡・・・い"う"ぅ"ぅ"ぅ"~~~ッッッ!!!!!」
罵倒と共に責めを強められたセレアは、ビクンビクンと痙攣した。
脱力したままの状態で抱えられ、湯船に座らされる。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・♡
あなたのおかげで、毎日とっても幸せよ♡」
「それは良かった。」
「本当に、ありがとう・・・ちゅっ♡」
湯船にも一緒に浸かり、向き合った姿勢でスキンシップを交わす事も多い。
溢れ出した想いを抑え切れなくなったセレアは、思わずキスをした。
そんな中で、彼女は思い切って聞いてみた。
これまで、あえて触れなかった事。それは、現状についての疑問だ。
「あのさ・・・シン・・・。」
「どうした?」
これから彼女が話そうとしている内容の割に、シンの表情は軽い。
その温度差に動揺しながらも、話を切り出そうと必死なる。それなのに、言葉が上手く出て来ない。
「私たちってさ・・・その・・・。」
「・・・?」
「え、えぇっとね・・・///」
ダメだ。何故か分からないが、口角が上がって仕方ない。
湯船にのぼせたのか、それとも具合が悪いのか。滅多に変化しない淫魔の顔色が、明確に赤くなっている。
「そ、その・・・なんていうか・・・"友達以上"・・・かな?」
これは、色々な受け止め方が出来る言葉だ。
肉体関係を持つ者は、もはや友達ではないのか。そして、それなら自分たちは何なのか。
もしも彼女が身籠ったなら、それは"夫婦"と呼んで差し支えない。そうでなければ理不尽だ。
しかし残念ながら、淫魔と人間では子供が生まれない。少なくとも、彼女はそう思っている。
だが、もう"1ステップ"あるのだ。夫婦と友人の間には、明確な壁がある。
「え、えと・・・その・・・エッチはしてるけどさ・・・///」
彼女はどうやら、シンの前では"ただの乙女"になるようだ。娼婦や淫魔としての貫禄はなく、恥じらいを感じながら顔を隠す事しか出来ない。
(こ、この気持ち・・・何だろう・・・?なんて言うか・・・胸がドキドキして・・・!)
多くの男を手玉に取って来たセレアだが、その唯一の弱点は"恋愛経験の少なさ"である。
彼女はあまりにモテ過ぎた。そして何より、理想が高すぎた。そして、その理想を"人間"に求めてしまった。
これまでの彼女にとって人間の男は"客"か"体だけの関係"、もしくは"食い物"であった。
"本気の恋"をした事など、実を言うと一度も無い。毎日が忙殺され、退屈な日々を送る。そんな彼女に、刺激的な体験を与えられる者など、これまで居なかったのだ。
「や、やっぱり・・・何でもない!」
「???」
迷った末に、セレアは"告白"を見送った。
自分の中にある感情が何なのか、未だに分かっていないのだ。だから、言葉に出来なかった。
この選択は"吉"と出るか、"凶"と出るか。
それは、彼女の今後次第だろう――。
~~~~~~~~~~
シンと共に湯船から上がると、誰かが戸口を叩く音が聞こえた。
「セレアさ~ん!郵便来てます~!」
それはミサラの声だった。どうやら、彼女を呼んでいるようだ。バスローブ姿のまま、セレアはそれに応じる。
「はいはい、どうしたの?」
「あっ・・・えと・・・お取込み中でしたか・・・///」
「フフッ♡ミサラちゃんって、"おませさん"なのね♡Hな事想像しちゃった?」
バスローブ姿から何かを察したミサラは、頬を赤らめた。しかしセレアは、その様子すら楽しんでいる。
「あ、あの・・・えと・・・これが、受付に届いたらしくて・・・。」
「・・・あら、オーナーから?」
ミサラから渡された手紙は、オルゼにある"娼館のオーナー"からだった。ごく普通の封筒に入っているのを見ると、特別な用事ではなさそうだ。
「ふむふむ・・・会いたいからオルゼに来い・・・今日中に・・・なるほど。ありがとねミサラちゃん!」
封を解いて中身を見たセレアは、内容を理解した。
どうやら、彼女に招集が掛かったようだ。今日中にオルゼに行く必要がある。
バスローブを脱ぎ去ったセレアは、シンに裸を見られながらも、手際よく服を着た。
他所行きの服ではなく地味なドレスを纏った彼女は、庶民的な美しさを感じさせる。
「ちょっと出掛けてくるわ、ディナーまでには帰るから。」
「行ってらっしゃい。」
「帰ったら、続きをしましょうね。・・・ちゅっ♡」
"行って来ますのキス"をしたセレアは、その場で手を振り上げた。そしてその場で、力強く呪文を唱える。
<<<テレポート!>>>
次の瞬間、彼女は見慣れた町に居た――。
~~~~~~~~~~
「オーナー?何の用かしら~?」
「おぉ、来たか。」
多数の本が散らばった書斎に、セレアはゆっくりと足を踏み入れる。
デスクの奥でふんぞり返る痩せた中年の紳士が、彼女の方へ向き直った。
「お前、最近どこに行ってたんだ。家にも返って来ないし、酒場にも顔を出してないだろ。」
「ソントの町で、色々と勉強してたのよ。社会福祉とか、治安維持について。」
彼女は男に対し、タメ口で話しかける。
どうやら二人は上司と部下ではなく、あくまで対等な関係のようだ。
「まぁ、お前は頭が良いしな。政治に興味があるのは分かるが、本業を疎かにするなよ。」
「大丈夫よ。しっかり仕事して、ここの宣伝もしてるわ。
貴族の新規顧客とか、教団への勧誘もしてるから。」
娼館と教団は、当然ながら繋がっている。
実質的にこの町を支配する"オーナー"は、教団の幹部でもあるのだ。
教団の事を快く思っていないセレアだが、これも仕方のない事だ。
貴族との人脈を作るのに、今となっては教団は必須。それが無ければ、孤児院への寄付も出来ない。それどころか、"職場仲間"の安全さえも、保証出来なくなってしまう。
「それで、用件は何かしら?」
「おいおい、妙にせっかちだな。ベッドの上で、ゆっくりと語らう気は無いのか?」
オーナーの右手が手際良く伸び、豊満な尻を弄った。
ムチムチとした肉感が指先に伝わり、彼は興奮する。だがセレアは、微笑と共にそれを引き剥がした。
「ごめんなさいね。でも、私だって忙しいのよ。」
「なら仕方ないか。」
男は観念したかのように肩をすくめると、大量の書類の束を持って来た。恐らくだが、200枚近くあるだろう。
「これにサインしてくれ。終わったら帰って良いぞ。」
「えぇ・・・?これ、全部なの・・・?」
「あぁ、全部だ。ここで書いてくれ。」
「はぁい・・・。」
セレアは不服そうな声を上げながらも、近くのソファに座り込んだ。一枚ずつ書類をめくり、文面を精査する。
(あっ!ソントの孤児院の出資、しっかりされてる!良かったぁ!)
1枚目の書類は、彼女にとって吉報だった。
老紳士な客の一人に頼み込んだら、あっさりと了承してくれたので、心配はしていなかった。だがやはり、実際に確認できると嬉しくなる。
(次は何かしら!・・・うん。)
しかしその後に続くのは、完全な"事務連絡"である。
(パーティ・・・貴族・・・常連さん・・・女体盛り・・・ストリップ・・・下着のモデル・・・ヌード写真集・・・温泉CM・・・水着AV・・・。)
淡々と連ねられた、仕事内容と依頼の文。
体を売るのは嫌いじゃないが、手続きが多過ぎるとウンザリする。この程度の事は、勝手にサインして欲しいものだ。
(野外撮影・・・メイドコスプレ・・・あぁ、早く帰りたい・・・シン・・・シン・・・早く会いたいよ・・・!)
実のところ、彼女には"せっかち"という弱点があった。
淫魔全体に言える事だが、彼女たちは欲望に忠実。それ即ち、興味のない作業が嫌いなのだ。
いつしか、彼女の中で芽生えた感情。
そのせいで、これまで楽しくて仕方なかった"仕事"の優先順位が、二番目に落ちていた。
プロとしての誇りは忘れていないし、鍛錬も忘れない。それでも、シンと過ごす時間の方が好きになっていた。
(やっぱり私・・・シンの事が・・・。)
気づいてはいるが、怖くて言語化出来ない。
それを認識した瞬間、自分の中にある何かが崩れてしまう気がした。
だが、分かっていても抑えられない。この感情の昂りは、彼女の思考は彼一色に染める――。
少しでも早くシンに会いたい彼女は、一心不乱にサインした。勿論、文書には目を通してない。
200枚の書類というのが、そもそも無理な話だった。彼女は読書が好きだったが、流石に書類を200枚も読みたくはない。
「出来たっ!それじゃあ帰るわね!」
サインを雑に終わらせたセレアは、書類の山をオーナーに押し付けた。そしてすぐに踵を返し、出て行こうとする。
ところが――。
「悪いなセレア。だが、これしか方法が無いんだ・・・。」
「・・・?」
オーナーはセレアの背後から、不穏な文言を呟いた。
すぐに振り返った彼女の目に入ったのは、一枚の借用書だった。
「借金返済・・・"1000パラファルゴ"っ!?」
”パラファルゴ”とは、日本円に換算すると"一億円"と同価値である。即ち"1000億円の借金"を意味している。
「オーナー・・・こんなお金、あなたに返せるの・・・?」
セレアはまだ分かっていないようだ。いや、現実逃避しているだけかも知れない。
薄々勘づいていた。もしも、先ほど署名した大量の書類の中に、それが混ざっていたとすれば――。
「返済責任者はセレアティナ、お前になってる。」
男の掲げた借用書には、確かに彼女のサインがあった。早い話、彼女は嵌められたのだ。
こんな借金、返せるわけがない。確かに彼女は高級取りだが、その殆どを寄付に回しているのだ。そのせいで、貯金は全くない。
(こんなの・・・あんまりだわ・・・。)
親同然の男に裏切られた悲しみと、今後についての不安。二つの感情に挟まれた彼女は、思わず泣きそうになった。
~~~~~~~~~
数時間後、彼女は教団の本部に来ていた。
借金を返済するのは、天地が逆転しても不可能。それならば、"救済措置"を講じるしかない。
(債権者への・・・"隷属意志"の表明・・・。)
借金返済を求める男は、地方の有力貴族だった。
そして、返済が不可能な場合の"救済措置"と、不履行な場合の"ペナルティ"も用意されている。
彼女には容易に理解できた。貴族が望んだのは、借金返済ではない。救済措置という名の"性奴隷化"である。
それすらも断れば、彼女は"拷問の末に殺害される"という魔法契約が成立していたのだ。
(この貴族・・・中々やり手じゃない・・・!)
珍しく苛立ちを隠せない彼女は、勇み足でアジトに踏み行った。ここに来たのには理由がある。
教団にて"将官待遇"以上の者は、その居場所をこまめに通達する必要がある。
征夜については、彼女が"各地歴訪中"と報告しているので良い。
ただし、その"保証人"である彼女は、定期的に各地のアジトにて消息を告げる必要がある。
(貴族の奴隷になっても、逃げ出すチャンスはある。だけど、それまでは報告が出来ない・・・。)
これは死活問題だ。教団に属する幹部は、生殺与奪をラドックスに握られている。長期間の消息不明は"逃亡"と判断され、処刑の対象だ。
殺されない為に隷属するのに、その間に殺されるなど笑い話も良いところだ。
それを避ける為には、教団を脱退する他にない。
「すみません、教団を脱退したいのですが。」
「えぇっと・・・あなたはセレアさんですね・・・階級は中将・・・。」
受付の女性は名簿に目を通し、彼女の情報を確認する。そして視線を上に向け、彼女に説明した。
「その場合は、教祖様による直接の許可が必要です。アポを取りますので、待合室にてお待ちください。」
「ありがとう。」
セレアは言われた通りに待合室へ行き、昼寝をしながら呼ばれるのを待った。
~~~~~~~~~~
数時間後、彼女はついに呼び出された。
窓から差し込む陽光は消え、その代わりに朧げな月光が流れ降りてくる。
(すっかり夜だわ。)
夜までには帰ると言ったが、予想では昼前に帰れるはずだった。それなのに、想像を超えた大惨事に巻き込まれてしまった。
(はぁ・・・私、どうなるのかなぁ・・・。)
心の中でため息を漏らしながら、セレアはラースの書斎に到着した。ゆっくりとノックをして、ドアノブをひねる。
「入れ。」
「失礼します・・・。」
沈んだ気持ちの中で、セレアは書斎に踏み入った。
本棚が並ぶ円形の部屋の奥には、"教祖"が佇んでいる。
「教団を辞めたいそうだな。」
「はい、そうです。」
「理由は何だ。」
「急いで返す必要のある借金が出来まして・・・。」
返済期限は、正直なところ長くない。
一週間以内に返済するか、債権者に会わない限り、彼女の元に"執行者"という悪魔がやって来る契約なのだ。
たしかに彼女は淫魔であり、並の人間とは比べ物にならない実力を持っている。
だが所詮は"ハーフ"であり、そもそも女淫魔は悪魔の中でも弱い部類。殺戮に特化した種族の前では、拷問の末に惨殺されるのがオチである。
「お前ほどの階級を持つ者が辞めるには、それ相応の"ケジメ"が必要だ。つまり、スパイじゃない証拠を示せ。」
何となく分かっていた。これほどの秘密結社を、簡単に辞められる筈が無いのだ。
「仕事はしてますよ?今月だけでも、10人の貴族を引き込ました。」
「それだけか?」
「そ、それだけと言われましても・・・。」
彼女としては、出来る限りで最高の仕事をやって来た筈だ。
それを一蹴されてしまっては、残る物など何も無い。
「一体、どうすれば信用して貰えますか?」
「簡単な話だ。俺と教団に誠意を見せれば良い。聞けばお前は、暗殺や強盗の任務を受けないそうだな。
可笑しいと思わないか?その強靭な肉体を以ってして、体を売る事しかしないなど。」
痛い所を突かれた。ここだけを見ると、確かに”スパイ”と思われても仕方ないだろう。
実際に彼女は、”☆5手配犯”を庇っているのだ。その勘は当たっている。
「・・・何が言いたいのですか?私に人を殺せと?」
「そんな事は言ってない。ただ、”ある事”をやれば良い。」
セレアは急に嫌な予感がして来た。人殺しの代わりとして出来る事など、一つしか思い当たらない。
「お前は手配犯の所在を知っている。シンと言う男と、緑髪の女だ。ソイツらを俺の元に連れて来い。」
考えうる限り最悪の展開と言っても良いだろう。
シンと会っている事が、ラースにバレていた。一応シラを切ってみるが、無駄だとは分かっていた。
「何の証拠があるんですか?」
「コレなんてどうだ?」
デスクの下から取り出したのは”記録水晶”。映像や音声を、魔力によって封印する物だ。
ラースが水晶の表面を撫でると、そこに映されたのは覆せない証拠であった――。
「あんっ♡あっ♡あっ♡んんぅっ!♡はぁんっ♡気持ち良いよぉっ!♡」
シンとセレアの”夜の営み”が、完璧に録画されている。
音声も映像も、明らかに本人だと確認できる物だ。
「・・・他人のセックスを覗き見るなんて、趣味が悪いんですね。」
「女の趣味は良い方だと思うが?」
「気持ち悪い・・・。」
覗かれるのは構わないが、録画されては適わない。
そして何より、ラースのような”下衆”に視られていた事実が不快で仕方ない。
「シンが嫌なら、他の☆5を連れて来い。”吹雪征夜”を連れて来たなら、辞めさせてやろう。尤も、奴は死んだと思っているが。」
☆5の手配犯は、現状では3人しか居ない。そのどれもが、最悪の選択肢である。
どうやらラースが撮影していたのは、シンとの生活だけのようだ。少なくとも征夜との関係については、知られてないらしい。
(こ、コイツ・・・私に向かって・・・!!!)
温厚なセレアの心に、憎しみの炎が宿った。
全身を流れる悪魔の血が、目の前の下衆を殺せと騒ぎ立てる。
(よりにもよって・・・こんな奴に・・・シンを・・・!!!)
背中で組んだ手の内に、赤黒い光が宿った。
殺人への抵抗心が薄れて行き、”制裁”という2文字が脳裏を支配する。
しかし、彼女に残った僅かな良心がそれを制止する――。
(お、落ち着くのよ・・・私・・・まずは一度戻って・・・作戦を考えましょう・・・どうにか、売らずに済む方法が・・・。)
「わ、分かりました。☆5の手配犯ですね・・・一応、やってみます・・・。」
あと一歩のところで踏み留まったセレアは、ラースに背を向けた。
これ以上この部屋に居れば、お互いにどうなるか分からないのだ。
「それでは、失礼します。」
穏やかに敬礼を済ませた彼女は、書斎のドアノブを捻った。
ところが背後から、ラースが何かを呟いて――。
カチャッ!
「・・・あれ?」
開錠したはずの扉に、再び鍵が掛けられた。何度捻っても、ドアが開かないのだ。
そして彼女の背後には、いつの間にかラースがにじり寄っており――。
「当然だが、女としての誠意も見せてもらう。」
「やっ、ちょっと!やめてよっ!」
両手で抱きしめられ、胸を揉みしだかれる。
その力は想像を超えて強靭であり、彼女でも振りほどけない。
(くっ・・・!コイツ・・・力が・・・!)
「や、やめなさっ!・・・ひぃぃっ!!!」
胸と尻を揉まれるのも、客やシンならともかく、ラースにされては不快極まりない。
それだけに留まらず、彼女は首筋と頬を舐められた。彼女の嫌悪感はその時、頂点に達した。
しかしそれでも、彼女の力ではラースを振りほどけない。
「お前に拒否権があると思うか?」
「は、離してっ!私は、そんなつもりじゃ!ふんぐぅっ!!!むぅぐぅっ!!!」
口を右手で塞がれ、左手で体を押さえ付けられる。
全力をもってしても振り解けないほどの腕力と、圧倒的な暴力。
ラドックスの本気を前にして、彼女はあまりにも無力だった。抱き上げられ、押し倒され、ベッドの上に組み伏せられる。
「放せっ!や、やめろっ!きゃあぁっ!!!」
嫌悪感と拒否の意志を訴えるが、ラドックスの耳には届かない。いや、気にもしていないのだ。
服を脱がされ、肌を撫でられる感触に恐怖する。下着を強引に剥がされた彼女は、その体を隅々まで弄ばれた。
隠す物が何も無い肢体を、記録水晶で撮影される。
体を弄られ、舐められ、吸われ、一切の抵抗も許されぬまま遊ばれた。
強引に唇を奪われ、何度も種を飲まされた。食道を通る背徳の粘液が、彼女の不快感を煽る。
「もう嫌ッ!放してよっ!アンタの触り方、雑で痛いのよッ!!!」
繊細な乳房を乱暴に握り締められ、セレアは苦悶の叫びを上げた。
女として、やがて母になる者としての恐怖が、全身を駆け巡る。
「娼婦なら喜べ。それが仕事だろう。」
慣れていないのではなく、丁寧に扱う気が無いのだ。
彼女の事をあくまで、”娼婦”や”発散道具”としか捉えていない。彼女を友人以上だと思っているシンとは、心構えがまるで違う。
「誰が!アンタなんかなっ!ま、待って!まだ濡れてな、痛いぃッ!!!」
予告の無い挿入に、彼女は悲鳴を上げる。
強引な性交に、まだ身も心も準備出来ていないのだ。
そこには快楽も興奮も存在せず、苦痛と吐き気と猛烈な不快感だけである。
幼少期以来、長らく味わっていなかった”強姦の恐怖”がそこにはあった。
「やっ!待って!動かないでよぉっ!痛いっってばッ!!!」
「うるさいぞ。」
その後、彼女は気が遠くなるほどの回数、精を吐き出された。
胎をパンパンに満たされ、下腹部は丸く膨らみ、全身が白濁に塗れ、胃の中まで浸される。
抵抗すれば平手打ちされ、首を絞められる。当然、縄で全身を締め付けられる事もあった。
「苦しい・・・苦しいです・・・!やめてください・・・!」
「我慢しろ。」
「そ、そんな・・・あぁっ・・・また、中に・・・。」
欲情を余す事なく吐き出され、セレアは抵抗する気力が失せてしまう。声は弱々しくなり、許しを乞うような口調に変わっていく。
(どうして・・・こんな事に・・・。)
強引で不快な性交によって、彼女はやつれていた。
それでもなお、辞めてもらえる気配は微塵も無い。
「シン・・・助けて・・・うぅっ・・・。」
溢れ出す涙が頬を濡らした時、彼女の心は折れてしまった。
その後は何の抵抗も示すことなく、凌辱を受け入れる事しか出来なかった。
セレアはその日、人生最大の屈辱を味わった。
愛する者の殺害を命じる男によって、彼女はその身を汚されたのだ――。
半年前に別れた花と征夜は、未だにすれ違い続けたまま、同じ町で過ごしている。
征夜は激しい修行を積んだおかげで、以前よりも強力な斬撃を放てるようになった。
ミサラは連日のレッスンにより、少なくとも教わった料理だけは、まともな味が作れるようになった。
花はダイエットが身を結び、以前と同等以上にプロポーションが良くなった。ただし、太腿は痩せてない。
シンは特に変わった事なく、自由気ままな生活を送っている。当然ながら、そこにはセレアの姿もある――。
「んっ♡はぁんっ♡あんっ♡あんっ♡あっ♡あっ♡あっ♡んっ♡あっ♡ひぁんっ♡」
その日も、彼女は朝からシンに抱かれていた。
やはり2人は相性が良いのだろう。もはやルーティンと化した性交だが、一向に飽きが来ない。
「んはぁっ!♡あっ♡あぁんっ♡あんっ♡おっぱい♡キュッてされるの好きぃっ!♡もっとお乳搾ってぇっ!♡」
四つん這いになって犯されるセレアは、艶のある髪と豊満な乳房を揺らしながら、快感に蕩けた喘ぎ声を上げる。
背後から抱き締められ、両手で乳首を摘まれながら髪を振り乱す様子は、正に"乳を搾られる牝牛"そのものだ。
「ん"ぅっ!♡あ"ぁ"っ!♡あっ♡あんっ♡~~~ッッッ!!!♡♡♡」
海老反りになって痙攣しながら、セレアは倒れ込んだ。
健康的な女体を強調するかのように、白い柔肌の表面を甘い汗が伝っていく――。
「はぁ・・・はぁ・・・♡お風呂・・・入りましょうか・・・♡」
「そうだな。ベッタベタだし。」
セレアはシンの手を引いて、シャワールームに連れて行った。
この部屋は元々、シンとの行為の為に借りた。だが、いつの間にか2人の相部屋と化し、殆ど同棲となっていた。
「背中流すね!」
「いつもありがとな・・・!」
ソープで培った技で、シンの体を洗浄する。体全体を擦り付けながら、優しく温かい感触を共有する。
「いかがですか?」
「いつも通り、最高だな・・・!」
「ウフフ♡もっとサービスしちゃいますね♡」
ムニュムニュとした豊満な乳房をスポンジ代わりにして、泡の付いた状態で背中を滑らせる。
興奮で隆起した桃色の乳首は、シンの肩に食い込んでいた。胸を使って背中を洗うたびに、乳頭が擦れて快感を享受してしまう。
「次は俺の番だな。」
「お願いします!・・・んぁっ♡」
背後から乳を揉まれたセレアは、蕩けた甘い喘ぎを漏らした。
膣にも2本の指を入れられ、クチュクチュと掻き混ぜられる。
「そ、そこはぁっ♡大丈夫だよぉっ♡あ、洗わなくて良いからぁっ♡」
「感謝を忘れるなんて、躾のなってない"牝牛"だな。」
「あっ♡んっ♡ご、ごめんなさっ♡・・・い"う"ぅ"ぅ"ぅ"~~~ッッッ!!!!!」
罵倒と共に責めを強められたセレアは、ビクンビクンと痙攣した。
脱力したままの状態で抱えられ、湯船に座らされる。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・♡
あなたのおかげで、毎日とっても幸せよ♡」
「それは良かった。」
「本当に、ありがとう・・・ちゅっ♡」
湯船にも一緒に浸かり、向き合った姿勢でスキンシップを交わす事も多い。
溢れ出した想いを抑え切れなくなったセレアは、思わずキスをした。
そんな中で、彼女は思い切って聞いてみた。
これまで、あえて触れなかった事。それは、現状についての疑問だ。
「あのさ・・・シン・・・。」
「どうした?」
これから彼女が話そうとしている内容の割に、シンの表情は軽い。
その温度差に動揺しながらも、話を切り出そうと必死なる。それなのに、言葉が上手く出て来ない。
「私たちってさ・・・その・・・。」
「・・・?」
「え、えぇっとね・・・///」
ダメだ。何故か分からないが、口角が上がって仕方ない。
湯船にのぼせたのか、それとも具合が悪いのか。滅多に変化しない淫魔の顔色が、明確に赤くなっている。
「そ、その・・・なんていうか・・・"友達以上"・・・かな?」
これは、色々な受け止め方が出来る言葉だ。
肉体関係を持つ者は、もはや友達ではないのか。そして、それなら自分たちは何なのか。
もしも彼女が身籠ったなら、それは"夫婦"と呼んで差し支えない。そうでなければ理不尽だ。
しかし残念ながら、淫魔と人間では子供が生まれない。少なくとも、彼女はそう思っている。
だが、もう"1ステップ"あるのだ。夫婦と友人の間には、明確な壁がある。
「え、えと・・・その・・・エッチはしてるけどさ・・・///」
彼女はどうやら、シンの前では"ただの乙女"になるようだ。娼婦や淫魔としての貫禄はなく、恥じらいを感じながら顔を隠す事しか出来ない。
(こ、この気持ち・・・何だろう・・・?なんて言うか・・・胸がドキドキして・・・!)
多くの男を手玉に取って来たセレアだが、その唯一の弱点は"恋愛経験の少なさ"である。
彼女はあまりにモテ過ぎた。そして何より、理想が高すぎた。そして、その理想を"人間"に求めてしまった。
これまでの彼女にとって人間の男は"客"か"体だけの関係"、もしくは"食い物"であった。
"本気の恋"をした事など、実を言うと一度も無い。毎日が忙殺され、退屈な日々を送る。そんな彼女に、刺激的な体験を与えられる者など、これまで居なかったのだ。
「や、やっぱり・・・何でもない!」
「???」
迷った末に、セレアは"告白"を見送った。
自分の中にある感情が何なのか、未だに分かっていないのだ。だから、言葉に出来なかった。
この選択は"吉"と出るか、"凶"と出るか。
それは、彼女の今後次第だろう――。
~~~~~~~~~~
シンと共に湯船から上がると、誰かが戸口を叩く音が聞こえた。
「セレアさ~ん!郵便来てます~!」
それはミサラの声だった。どうやら、彼女を呼んでいるようだ。バスローブ姿のまま、セレアはそれに応じる。
「はいはい、どうしたの?」
「あっ・・・えと・・・お取込み中でしたか・・・///」
「フフッ♡ミサラちゃんって、"おませさん"なのね♡Hな事想像しちゃった?」
バスローブ姿から何かを察したミサラは、頬を赤らめた。しかしセレアは、その様子すら楽しんでいる。
「あ、あの・・・えと・・・これが、受付に届いたらしくて・・・。」
「・・・あら、オーナーから?」
ミサラから渡された手紙は、オルゼにある"娼館のオーナー"からだった。ごく普通の封筒に入っているのを見ると、特別な用事ではなさそうだ。
「ふむふむ・・・会いたいからオルゼに来い・・・今日中に・・・なるほど。ありがとねミサラちゃん!」
封を解いて中身を見たセレアは、内容を理解した。
どうやら、彼女に招集が掛かったようだ。今日中にオルゼに行く必要がある。
バスローブを脱ぎ去ったセレアは、シンに裸を見られながらも、手際よく服を着た。
他所行きの服ではなく地味なドレスを纏った彼女は、庶民的な美しさを感じさせる。
「ちょっと出掛けてくるわ、ディナーまでには帰るから。」
「行ってらっしゃい。」
「帰ったら、続きをしましょうね。・・・ちゅっ♡」
"行って来ますのキス"をしたセレアは、その場で手を振り上げた。そしてその場で、力強く呪文を唱える。
<<<テレポート!>>>
次の瞬間、彼女は見慣れた町に居た――。
~~~~~~~~~~
「オーナー?何の用かしら~?」
「おぉ、来たか。」
多数の本が散らばった書斎に、セレアはゆっくりと足を踏み入れる。
デスクの奥でふんぞり返る痩せた中年の紳士が、彼女の方へ向き直った。
「お前、最近どこに行ってたんだ。家にも返って来ないし、酒場にも顔を出してないだろ。」
「ソントの町で、色々と勉強してたのよ。社会福祉とか、治安維持について。」
彼女は男に対し、タメ口で話しかける。
どうやら二人は上司と部下ではなく、あくまで対等な関係のようだ。
「まぁ、お前は頭が良いしな。政治に興味があるのは分かるが、本業を疎かにするなよ。」
「大丈夫よ。しっかり仕事して、ここの宣伝もしてるわ。
貴族の新規顧客とか、教団への勧誘もしてるから。」
娼館と教団は、当然ながら繋がっている。
実質的にこの町を支配する"オーナー"は、教団の幹部でもあるのだ。
教団の事を快く思っていないセレアだが、これも仕方のない事だ。
貴族との人脈を作るのに、今となっては教団は必須。それが無ければ、孤児院への寄付も出来ない。それどころか、"職場仲間"の安全さえも、保証出来なくなってしまう。
「それで、用件は何かしら?」
「おいおい、妙にせっかちだな。ベッドの上で、ゆっくりと語らう気は無いのか?」
オーナーの右手が手際良く伸び、豊満な尻を弄った。
ムチムチとした肉感が指先に伝わり、彼は興奮する。だがセレアは、微笑と共にそれを引き剥がした。
「ごめんなさいね。でも、私だって忙しいのよ。」
「なら仕方ないか。」
男は観念したかのように肩をすくめると、大量の書類の束を持って来た。恐らくだが、200枚近くあるだろう。
「これにサインしてくれ。終わったら帰って良いぞ。」
「えぇ・・・?これ、全部なの・・・?」
「あぁ、全部だ。ここで書いてくれ。」
「はぁい・・・。」
セレアは不服そうな声を上げながらも、近くのソファに座り込んだ。一枚ずつ書類をめくり、文面を精査する。
(あっ!ソントの孤児院の出資、しっかりされてる!良かったぁ!)
1枚目の書類は、彼女にとって吉報だった。
老紳士な客の一人に頼み込んだら、あっさりと了承してくれたので、心配はしていなかった。だがやはり、実際に確認できると嬉しくなる。
(次は何かしら!・・・うん。)
しかしその後に続くのは、完全な"事務連絡"である。
(パーティ・・・貴族・・・常連さん・・・女体盛り・・・ストリップ・・・下着のモデル・・・ヌード写真集・・・温泉CM・・・水着AV・・・。)
淡々と連ねられた、仕事内容と依頼の文。
体を売るのは嫌いじゃないが、手続きが多過ぎるとウンザリする。この程度の事は、勝手にサインして欲しいものだ。
(野外撮影・・・メイドコスプレ・・・あぁ、早く帰りたい・・・シン・・・シン・・・早く会いたいよ・・・!)
実のところ、彼女には"せっかち"という弱点があった。
淫魔全体に言える事だが、彼女たちは欲望に忠実。それ即ち、興味のない作業が嫌いなのだ。
いつしか、彼女の中で芽生えた感情。
そのせいで、これまで楽しくて仕方なかった"仕事"の優先順位が、二番目に落ちていた。
プロとしての誇りは忘れていないし、鍛錬も忘れない。それでも、シンと過ごす時間の方が好きになっていた。
(やっぱり私・・・シンの事が・・・。)
気づいてはいるが、怖くて言語化出来ない。
それを認識した瞬間、自分の中にある何かが崩れてしまう気がした。
だが、分かっていても抑えられない。この感情の昂りは、彼女の思考は彼一色に染める――。
少しでも早くシンに会いたい彼女は、一心不乱にサインした。勿論、文書には目を通してない。
200枚の書類というのが、そもそも無理な話だった。彼女は読書が好きだったが、流石に書類を200枚も読みたくはない。
「出来たっ!それじゃあ帰るわね!」
サインを雑に終わらせたセレアは、書類の山をオーナーに押し付けた。そしてすぐに踵を返し、出て行こうとする。
ところが――。
「悪いなセレア。だが、これしか方法が無いんだ・・・。」
「・・・?」
オーナーはセレアの背後から、不穏な文言を呟いた。
すぐに振り返った彼女の目に入ったのは、一枚の借用書だった。
「借金返済・・・"1000パラファルゴ"っ!?」
”パラファルゴ”とは、日本円に換算すると"一億円"と同価値である。即ち"1000億円の借金"を意味している。
「オーナー・・・こんなお金、あなたに返せるの・・・?」
セレアはまだ分かっていないようだ。いや、現実逃避しているだけかも知れない。
薄々勘づいていた。もしも、先ほど署名した大量の書類の中に、それが混ざっていたとすれば――。
「返済責任者はセレアティナ、お前になってる。」
男の掲げた借用書には、確かに彼女のサインがあった。早い話、彼女は嵌められたのだ。
こんな借金、返せるわけがない。確かに彼女は高級取りだが、その殆どを寄付に回しているのだ。そのせいで、貯金は全くない。
(こんなの・・・あんまりだわ・・・。)
親同然の男に裏切られた悲しみと、今後についての不安。二つの感情に挟まれた彼女は、思わず泣きそうになった。
~~~~~~~~~
数時間後、彼女は教団の本部に来ていた。
借金を返済するのは、天地が逆転しても不可能。それならば、"救済措置"を講じるしかない。
(債権者への・・・"隷属意志"の表明・・・。)
借金返済を求める男は、地方の有力貴族だった。
そして、返済が不可能な場合の"救済措置"と、不履行な場合の"ペナルティ"も用意されている。
彼女には容易に理解できた。貴族が望んだのは、借金返済ではない。救済措置という名の"性奴隷化"である。
それすらも断れば、彼女は"拷問の末に殺害される"という魔法契約が成立していたのだ。
(この貴族・・・中々やり手じゃない・・・!)
珍しく苛立ちを隠せない彼女は、勇み足でアジトに踏み行った。ここに来たのには理由がある。
教団にて"将官待遇"以上の者は、その居場所をこまめに通達する必要がある。
征夜については、彼女が"各地歴訪中"と報告しているので良い。
ただし、その"保証人"である彼女は、定期的に各地のアジトにて消息を告げる必要がある。
(貴族の奴隷になっても、逃げ出すチャンスはある。だけど、それまでは報告が出来ない・・・。)
これは死活問題だ。教団に属する幹部は、生殺与奪をラドックスに握られている。長期間の消息不明は"逃亡"と判断され、処刑の対象だ。
殺されない為に隷属するのに、その間に殺されるなど笑い話も良いところだ。
それを避ける為には、教団を脱退する他にない。
「すみません、教団を脱退したいのですが。」
「えぇっと・・・あなたはセレアさんですね・・・階級は中将・・・。」
受付の女性は名簿に目を通し、彼女の情報を確認する。そして視線を上に向け、彼女に説明した。
「その場合は、教祖様による直接の許可が必要です。アポを取りますので、待合室にてお待ちください。」
「ありがとう。」
セレアは言われた通りに待合室へ行き、昼寝をしながら呼ばれるのを待った。
~~~~~~~~~~
数時間後、彼女はついに呼び出された。
窓から差し込む陽光は消え、その代わりに朧げな月光が流れ降りてくる。
(すっかり夜だわ。)
夜までには帰ると言ったが、予想では昼前に帰れるはずだった。それなのに、想像を超えた大惨事に巻き込まれてしまった。
(はぁ・・・私、どうなるのかなぁ・・・。)
心の中でため息を漏らしながら、セレアはラースの書斎に到着した。ゆっくりとノックをして、ドアノブをひねる。
「入れ。」
「失礼します・・・。」
沈んだ気持ちの中で、セレアは書斎に踏み入った。
本棚が並ぶ円形の部屋の奥には、"教祖"が佇んでいる。
「教団を辞めたいそうだな。」
「はい、そうです。」
「理由は何だ。」
「急いで返す必要のある借金が出来まして・・・。」
返済期限は、正直なところ長くない。
一週間以内に返済するか、債権者に会わない限り、彼女の元に"執行者"という悪魔がやって来る契約なのだ。
たしかに彼女は淫魔であり、並の人間とは比べ物にならない実力を持っている。
だが所詮は"ハーフ"であり、そもそも女淫魔は悪魔の中でも弱い部類。殺戮に特化した種族の前では、拷問の末に惨殺されるのがオチである。
「お前ほどの階級を持つ者が辞めるには、それ相応の"ケジメ"が必要だ。つまり、スパイじゃない証拠を示せ。」
何となく分かっていた。これほどの秘密結社を、簡単に辞められる筈が無いのだ。
「仕事はしてますよ?今月だけでも、10人の貴族を引き込ました。」
「それだけか?」
「そ、それだけと言われましても・・・。」
彼女としては、出来る限りで最高の仕事をやって来た筈だ。
それを一蹴されてしまっては、残る物など何も無い。
「一体、どうすれば信用して貰えますか?」
「簡単な話だ。俺と教団に誠意を見せれば良い。聞けばお前は、暗殺や強盗の任務を受けないそうだな。
可笑しいと思わないか?その強靭な肉体を以ってして、体を売る事しかしないなど。」
痛い所を突かれた。ここだけを見ると、確かに”スパイ”と思われても仕方ないだろう。
実際に彼女は、”☆5手配犯”を庇っているのだ。その勘は当たっている。
「・・・何が言いたいのですか?私に人を殺せと?」
「そんな事は言ってない。ただ、”ある事”をやれば良い。」
セレアは急に嫌な予感がして来た。人殺しの代わりとして出来る事など、一つしか思い当たらない。
「お前は手配犯の所在を知っている。シンと言う男と、緑髪の女だ。ソイツらを俺の元に連れて来い。」
考えうる限り最悪の展開と言っても良いだろう。
シンと会っている事が、ラースにバレていた。一応シラを切ってみるが、無駄だとは分かっていた。
「何の証拠があるんですか?」
「コレなんてどうだ?」
デスクの下から取り出したのは”記録水晶”。映像や音声を、魔力によって封印する物だ。
ラースが水晶の表面を撫でると、そこに映されたのは覆せない証拠であった――。
「あんっ♡あっ♡あっ♡んんぅっ!♡はぁんっ♡気持ち良いよぉっ!♡」
シンとセレアの”夜の営み”が、完璧に録画されている。
音声も映像も、明らかに本人だと確認できる物だ。
「・・・他人のセックスを覗き見るなんて、趣味が悪いんですね。」
「女の趣味は良い方だと思うが?」
「気持ち悪い・・・。」
覗かれるのは構わないが、録画されては適わない。
そして何より、ラースのような”下衆”に視られていた事実が不快で仕方ない。
「シンが嫌なら、他の☆5を連れて来い。”吹雪征夜”を連れて来たなら、辞めさせてやろう。尤も、奴は死んだと思っているが。」
☆5の手配犯は、現状では3人しか居ない。そのどれもが、最悪の選択肢である。
どうやらラースが撮影していたのは、シンとの生活だけのようだ。少なくとも征夜との関係については、知られてないらしい。
(こ、コイツ・・・私に向かって・・・!!!)
温厚なセレアの心に、憎しみの炎が宿った。
全身を流れる悪魔の血が、目の前の下衆を殺せと騒ぎ立てる。
(よりにもよって・・・こんな奴に・・・シンを・・・!!!)
背中で組んだ手の内に、赤黒い光が宿った。
殺人への抵抗心が薄れて行き、”制裁”という2文字が脳裏を支配する。
しかし、彼女に残った僅かな良心がそれを制止する――。
(お、落ち着くのよ・・・私・・・まずは一度戻って・・・作戦を考えましょう・・・どうにか、売らずに済む方法が・・・。)
「わ、分かりました。☆5の手配犯ですね・・・一応、やってみます・・・。」
あと一歩のところで踏み留まったセレアは、ラースに背を向けた。
これ以上この部屋に居れば、お互いにどうなるか分からないのだ。
「それでは、失礼します。」
穏やかに敬礼を済ませた彼女は、書斎のドアノブを捻った。
ところが背後から、ラースが何かを呟いて――。
カチャッ!
「・・・あれ?」
開錠したはずの扉に、再び鍵が掛けられた。何度捻っても、ドアが開かないのだ。
そして彼女の背後には、いつの間にかラースがにじり寄っており――。
「当然だが、女としての誠意も見せてもらう。」
「やっ、ちょっと!やめてよっ!」
両手で抱きしめられ、胸を揉みしだかれる。
その力は想像を超えて強靭であり、彼女でも振りほどけない。
(くっ・・・!コイツ・・・力が・・・!)
「や、やめなさっ!・・・ひぃぃっ!!!」
胸と尻を揉まれるのも、客やシンならともかく、ラースにされては不快極まりない。
それだけに留まらず、彼女は首筋と頬を舐められた。彼女の嫌悪感はその時、頂点に達した。
しかしそれでも、彼女の力ではラースを振りほどけない。
「お前に拒否権があると思うか?」
「は、離してっ!私は、そんなつもりじゃ!ふんぐぅっ!!!むぅぐぅっ!!!」
口を右手で塞がれ、左手で体を押さえ付けられる。
全力をもってしても振り解けないほどの腕力と、圧倒的な暴力。
ラドックスの本気を前にして、彼女はあまりにも無力だった。抱き上げられ、押し倒され、ベッドの上に組み伏せられる。
「放せっ!や、やめろっ!きゃあぁっ!!!」
嫌悪感と拒否の意志を訴えるが、ラドックスの耳には届かない。いや、気にもしていないのだ。
服を脱がされ、肌を撫でられる感触に恐怖する。下着を強引に剥がされた彼女は、その体を隅々まで弄ばれた。
隠す物が何も無い肢体を、記録水晶で撮影される。
体を弄られ、舐められ、吸われ、一切の抵抗も許されぬまま遊ばれた。
強引に唇を奪われ、何度も種を飲まされた。食道を通る背徳の粘液が、彼女の不快感を煽る。
「もう嫌ッ!放してよっ!アンタの触り方、雑で痛いのよッ!!!」
繊細な乳房を乱暴に握り締められ、セレアは苦悶の叫びを上げた。
女として、やがて母になる者としての恐怖が、全身を駆け巡る。
「娼婦なら喜べ。それが仕事だろう。」
慣れていないのではなく、丁寧に扱う気が無いのだ。
彼女の事をあくまで、”娼婦”や”発散道具”としか捉えていない。彼女を友人以上だと思っているシンとは、心構えがまるで違う。
「誰が!アンタなんかなっ!ま、待って!まだ濡れてな、痛いぃッ!!!」
予告の無い挿入に、彼女は悲鳴を上げる。
強引な性交に、まだ身も心も準備出来ていないのだ。
そこには快楽も興奮も存在せず、苦痛と吐き気と猛烈な不快感だけである。
幼少期以来、長らく味わっていなかった”強姦の恐怖”がそこにはあった。
「やっ!待って!動かないでよぉっ!痛いっってばッ!!!」
「うるさいぞ。」
その後、彼女は気が遠くなるほどの回数、精を吐き出された。
胎をパンパンに満たされ、下腹部は丸く膨らみ、全身が白濁に塗れ、胃の中まで浸される。
抵抗すれば平手打ちされ、首を絞められる。当然、縄で全身を締め付けられる事もあった。
「苦しい・・・苦しいです・・・!やめてください・・・!」
「我慢しろ。」
「そ、そんな・・・あぁっ・・・また、中に・・・。」
欲情を余す事なく吐き出され、セレアは抵抗する気力が失せてしまう。声は弱々しくなり、許しを乞うような口調に変わっていく。
(どうして・・・こんな事に・・・。)
強引で不快な性交によって、彼女はやつれていた。
それでもなお、辞めてもらえる気配は微塵も無い。
「シン・・・助けて・・・うぅっ・・・。」
溢れ出す涙が頬を濡らした時、彼女の心は折れてしまった。
その後は何の抵抗も示すことなく、凌辱を受け入れる事しか出来なかった。
セレアはその日、人生最大の屈辱を味わった。
愛する者の殺害を命じる男によって、彼女はその身を汚されたのだ――。
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