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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)
EP141 道場破り <☆・キャラ立ち絵あり>
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体が軽かった。何をしても、どこまで走っても、全く疲れない。
ただ眠くなったら寝て、腹が減ったら食べて、それだけの繰り返しである。
清々しい気持ちのままに草原を駆け回り、馬を借りる考えも無いままに走り続けた。
すると、道の彼方に大きな町が見え始めた。地図の通りに進んで来れたなら、あれが"オルゼ"の町である。
(ここまで二日・・・滝を切ってた期間と合わせても、5日くらい・・・いける!いけるぞ!!!)
征夜はさらに加速し、猛烈な速度で町に迫った。そして門番に話を付け、中に入れてもらう。
(冒険者の指輪・・・存在を忘れてた・・・。)
苦労して手に入れた指輪なのに、それ以上の苦労に上書きされて、記憶から抹消されていた。
ここまでの旅では提示を求められる事が無かったが、今回の町は治安が悪いようだ。だからこその身分証である。
道中では盗賊や、魔物の類には一切遭遇しなかった。いや、それを振り切る速度で走って来ただけかも知れない。
しかし、平和な雰囲気のある草原に、治安の悪い町が出来るなど不思議である。
(まずは宿を取ろうかな・・・いや、先に聞き込みか。まだ昼前だし、酒場じゃなくてレストランにしよう。)
町中を進んで行くと、この町の荒廃具合を否が応でも感じ取る。
壁には落書きが溢れ、路地裏には路上生活者が溢れ返っている。
町には活気がなく、唯一輝いている場所は風俗街だった。
派手な格好をした女性が幾度となく征夜の袖を引いたが、全て無視した。
(花の方が可愛いしなぁ・・・そもそも、20歳とか興味無いし・・・。)
若い女が多く言い寄って来たが、全く興味が湧かない。
それもそのはず、自分の恋人の方が何倍も魅力的なのだ。それに、彼に対しての誘惑に"若さは逆効果"である。
そうこうしている間に、色香でむせ返りそうな町並みを抜け、寂れたレストランに到着した。席につき、周囲の客と話をする。
「マリオネット教団って知ってますか?」
「サーカスの話かい?悪いが不景気で、遊んでる余裕はないんだ。」
「し、失礼しました・・・。」
聞き込みは、中々うまく行かない。考えてみれば当然だ。秘密結社の事を聞いて、知っていても教えるわけがない。
昼食を終えた後も聞き込みを続ける。道行く人に語りかけ、話を聞いてみる。
しかし、成果は上がらない。まともに取り合ってくれる人も少なく、明らかに効率が悪い。
(聞き込みで探すのは無駄か・・・。他の手を・・・。)
諦めて宿を探そうとした瞬間、背後から肩を叩かれた。
振り向くと、身長200センチほどのマッチョ巨漢が、征夜の事を見下ろしている。彼も身長は高い方だが、威圧感がまるで違う。
「兄ちゃん!俺知ってるぜ!マリオネット教団!」
「えっ!?本当ですか!?」
「あぁ本当だ!俺の道場に来てくれれば、教えてやるぜ!」
「行きます!教えてください!」
懸命な者ならすぐに気付くだろう。これは、キャッチセールスの常套手段である。
少し考えれば分かるはずなのに、征夜はまんまと相手の策にハマった。
~~~~~~~~~~
「お邪魔しま~すっ!」
元気良く挨拶しながら、暖簾をかき分けて道場に踏み込む。タトゥーだらけの巨漢が、ポーカーをしている手を止め、征夜の方へ振り向いた。
「早速ですが、マリオネット教団について教えて下さい!」
単刀直入に聞く。それもそのはず、残されている時間はあまり無いのだ。事件が起こってからでは遅い。それを止める必要がある。
しかし男たちは、答えようとする様子も見せずに、道場の裏手に入って行った。そして、一枚の紙を持って来たようだ。
「この書類にサインしたら教えてやるよ!」
「本当ですか!?それじゃ早速・・・・・・オルゼ剣法会・・・入門の掟・・・?あの、これって・・・。」
「あぁ!俺たちの流派名だ。入門しないなら、情報は教えられない。」
「あぁ・・・なるほど・・・。」
流石の征夜も、ようやく気付いた。面倒な事に巻き込まれたようだ。
三人の巨漢が征夜を取り囲み、頭上から睨み付けている。「入門しなければ帰さん」と言う強い意志が、全身から滲み出ているようだ。
「あ、あの・・・僕は道場に入門する気は・・・。」
「アンタも剣士だろ?なら、そんな"イワシボディ"で良いのか?剣法会に入れば、俺たちみたいにマッチョになれるぜ!ほら!入会金、30ファルゴ払いな!」
有無を言わせない態度で、男たちは迫る。どうやら、選択の余地は無いらしい。背後の男が、真剣を抜いた音が聞こえる。
(冗談じゃない!30万なんて払ったら、僕は一文無しだ!なんとかしないと!)
"平和的解決法"を模索するが、男たちは考える時間を与える気は無いらしい。
征夜を急かすために、倉庫からある物を持ち出してくる。ズタ袋に覆われているが、それ確かに"人間"だ。
「むむ~!ふぅぅむぅ~!!!」
「こ、これは何ですか!?」
ズタ袋から響く呻き声に驚き、思わず事実を確認しようとする。しかし、何が起こっているのかは明白だ。
即ち、これが"治安の悪い町"たる所以である。この町では、人が拐われても大した捜索はされないのだ。
「うるっせぇぞ!黙れ!」
優しかった男は、急に表情を変えた。そして、全力でズタ袋を殴打する。助けを求める声が止まり、グッタリと脱力してしまった。
「お、おい!何やってるんだ!」
「うるせぇなぁ!分かんねえのか?サンドバッグにしてんだよぉ!文句あんのか!?」
文句しかないだろう。特に、サンドバッグ状態の本人は。
征夜は咄嗟に、腰に差した刀を抜く事を考えた。しかし、それでは相手を殺してしまう。この相手は、殺さねばならない相手ではないはずだ。
だからこそ、抜刀の判断を躊躇った。征夜の頭に、"峰打ち"という選択肢は無く、抜刀は即ち"殺人"を意味していた。
「死ねやぁっ!ガキぃっ!!!」
2メートルの巨漢が、突如として征夜に剣を振り下ろす。刃渡りは1メートルほどあり、とても避けられる気配はない。
(や、ヤバいっ!やられるっ!!!)
次の瞬間、征夜の体は自意識を離れ、相手の動きに合わせるように自動で動いた――。
バコンッ!・・・ボキッ!
突き出した拳から鈍い音が鳴り、直後に何かが折れた音がする。目を開けると、刀は征夜に当たる寸前で止まっている。
「ふ・・・ぐぁ・・・が・・・。」
白目を剥いた男は、征夜に寄り掛かるように倒れ込んできた。押し潰される気は全くないので、自然と横に受け流す。
どうやら、征夜の拳は男の腹を直撃したらしい。そして、鎖骨を叩き折るほど深くまで、一瞬にして食い込んだようだ。
衝撃が背骨まで伝わった男は、ショックで気絶してしまった。起きる気配は全くない。
「・・・あれ?勝てちゃった・・・?」
実感が全く湧かないが、征夜のKO勝ちである。彼が厨二病なら、ここで気の利いた事を言えただろう。
しかし次に彼の口から出たのは、驚くほど安直な一言だった。
「・・・無抵抗な人を傷付けて・・・許さないぞっ!」
「ひいぃぃっ!!!」
逃げ出そうとする巨漢を追撃し、二人とも素手で制圧した。征夜はどうやら、彼が思っていた以上に強くなっていたらしい――。
~~~~~~~~~~
「た、助かりました~・・・。見かけによらず、あなた強いんですね!」
「僕も驚きましたよ・・・これはもしや、道場破りと言う奴なのでは・・・?」
そう、本人が一番驚いている。転生直後は"魔王の何倍も恐ろしく見えた"巨漢が、今となっては素手でワンパンである。
剣道以外の武道は学んだ事がない。しかしどうやら、腕力に関しても圧倒的に向上しているようだ。
(そう言えば調気の極意は、筋組織の密度を向上させるんだっけ・・・。
見た目はそんなに変わらないけど、中身は全然違うのかも・・・!)
確かに、彼の腕力は見た目にそぐわない程度まで向上している。凝縮されているだけで、筋力としては彼らと変わらないのだ。
しかし、腹筋が6つに割れて、手足が3割増しで太くなった事を、果たして"そんなに変わらない"で片付けて良いのだろうか――。
取り敢えず彼は、現在の実力に関して確かな自信を持つことが出来た。
宿敵と当たる前に、ちょうど良い相手と戦えたのは嬉しい誤算である。
「もう本当に!なんとお礼して良いか!ありがとうございます!」
文字通りサンドバックにされていた男を、ズタ袋から救出する。言っては悪いが、かなり弱そうな男である。
鼻血を出してはいるが、そこまで衰弱している訳でもなさそうだ。
「こちらこそ、無事で良かったです!」
征夜はそう言うと、男に肩を貸した。このまま、病院に連れて行こうと思ったのだ。
(・・・あれ?軽い?)
想像の4倍は軽かった。いや、きっと男が軽いのでは無く、征夜の力が強いのだ。
小柄とは言え成人している男を、征夜は軽々と持ち上げた。
「そうだ!お礼をさせてください!飯を奢りますよ!」
「いえ、僕が勝手に助けただけなので、礼は不要ですよ!」
「そう言わないでくださいよ!」
礼をされるほどの事でも無い。征夜にとっては、ただの自己防衛なのだ。
しかし男の方も、礼を返さずには居られない。この町における拉致は即ち、"野垂れ死ぬ事"と同義なのだから。
(・・・ダメで元々、聞いてみるか?)
征夜の中で、無謀な案が浮かんだ。しかし、試す分には何の代償もない。
「実は僕、"マリオネット教団"という組織に入りたいんです・・・知ってる訳、無いですよねぇ・・・。」
「あぁ!俺、団員ですよ!」
「そうですよねぇ・・・秘密結社の事なんて知ってる訳・・・え?すいません、もう一度言って頂いても・・・?」
「俺、団員です!あなたのような強い人なら、教祖様も大歓迎ですよ!」
どうやら、思いの外うまく行ったようだ。
征夜は到着から僅か2時間で、マリオネット教団に到達した――。
~~~~~~~~~~
アジトに向かう最中に、団員の男から教団の大まかな概要を説明された。
マリオネット教団は名前からも感じ取れる通り、かなりの邪教である。
彼らは金のため、もしくは教祖の信奉者として協力し、各地で割り当てられた任務をこなすようだ。
任務の内容は毎回大きく異なっており、専門性の高い任務は特殊な部隊が行うようだ。
これまでに行なった事の例を挙げると、貴族令嬢の誘拐殺人。宝石店の強盗。ギルドに対する脅迫。その他、多くの悪事をこなして来たようだ。
10年前に発足されたばかりの組織だが、その構成員は10万を超えており、非常に大規模な活動を行なっている。
恐怖で従っている者も多いが、それを加味しても入団希望者は増え続けているようだ――。
多くの構成員は"本職である仕事"をこなしながら、その傍らで活動しているらしい。
夜間に集会があるが、参加は自由。任務も希望制なので、実質的には"もう一つのギルド"としての側面も大きい。
実際にギルドから"表沙汰に出来ない依頼"が、舞い込む事もあるようだ――。
「着きましたよ!ここがアジトです!」
案内された場所は、古くて使われていない地下道だった。しかしどうやら、ただの地下道ではないようだ。
「ここは・・・広場ですか?」
「広場から分岐した道が、この町全体に広がってますよ!入団するのなら、まずは試験を受けてください!」
やはり秘密結社。様々な入団試験が有るらしいが、まずは腕っぷしを試されるらしい。
大量の書類が散乱するデスクに案内され、目つきの悪い男に入団希望の意志を知らせる。
「すいません、入団を希望するのですが・・・。」
「得物は?」
ぶっきらぼうな口調である。冷たい目が征夜を品定めし、見下すような視線を浴びせる。
「う~ん・・・大剣かな?」
日本刀と言っても伝わらないので、思い切って大剣と伝えてみた。
刃渡り80センチの武器が、果たして大剣かは疑問が残るが、短剣では無いだろう。
「そこらへんで待ってろ。」
薄暗がりの中に待機させられ、試験官となる者が到着するのを待つ。
一体、どんな大男が出てくるのだろうか。試験官と呼ばれる者だ。おそらく、先ほどの連中よりも強いだろう。
(やはり剣士か?いや、どんな男が来ても!僕は絶対に負けないぞ!)
決意を固く持つ。確かに、資正に勝った彼なら、どんな男が来ても簡単には負けない。
あとは、魔法使いなどが用いるトリッキーな技にさえ注意すれば良い。
その筈だったのだが――。
しばらくすると薄暗がりの向こうから、紫の長髪を靡かせながら、"胸元を大きく露出させた格好の女性"が歩いてきた。
一歩一歩に色気を纏わせ、全身から不思議なフェロモンを撒いている。
妖艶な顔立ちに、花と同じかそれ以上に抜群なプロポーション。団員以外に有る本職は、明らかに"そういう職"である事を感じさせる女性だ。
歩くたびに破壊力抜群の巨乳がたぷんたぷん揺れ、柔らかく豊満な尻もそれに付随する。まさに、歩くダイナマイトと言った具合だ。
年齢は29くらい。明るい電灯の元に出ると、その艶やかな風貌が際立って見える。
「坊やが私の担当ね・・・♡あら~♡大剣を腰に刺してるなんて言うから、どんな醜男かと思えば、とっても可愛いじゃない♡
お姉さん、ちょっと張り切っちゃうわ♡・・・チュッ♡」
誘うような笑みを浮かべ、征夜を籠絡する気満々である。
投げキッスを繰り出されると、彼は全身に緊張が走るのを感じた。
(む、胸が・・・すごい・・・いや待て、そんなに見たら失礼だ!視線を逸らせ!流石に怒られるぞ!)
征夜は懸命に視線を逸らすが、やはりその魔力は強烈だ。
女性の胸を見るのは失礼だと、かつて読んだ本に書いてあった。だからこそ、必死に視線を逸らす。
しかしどうやら、女性の方はそう思ってないらしい――。
「ウフフ♡ガン見しちゃって♡私のおっぱい、そんなに気になるのかしら♡」
女はそう言うと、わざとらしく胸を中央に寄せた。
豊かな谷間がさらに強調され、征夜の瞳を直撃する。
(うわぁぁぁっ!!!やばい!Hなお姉さんだぁっ!!!)
"天敵"の出現に対して征夜は、早くも負けそうな予感がしてきた――。
ただ眠くなったら寝て、腹が減ったら食べて、それだけの繰り返しである。
清々しい気持ちのままに草原を駆け回り、馬を借りる考えも無いままに走り続けた。
すると、道の彼方に大きな町が見え始めた。地図の通りに進んで来れたなら、あれが"オルゼ"の町である。
(ここまで二日・・・滝を切ってた期間と合わせても、5日くらい・・・いける!いけるぞ!!!)
征夜はさらに加速し、猛烈な速度で町に迫った。そして門番に話を付け、中に入れてもらう。
(冒険者の指輪・・・存在を忘れてた・・・。)
苦労して手に入れた指輪なのに、それ以上の苦労に上書きされて、記憶から抹消されていた。
ここまでの旅では提示を求められる事が無かったが、今回の町は治安が悪いようだ。だからこその身分証である。
道中では盗賊や、魔物の類には一切遭遇しなかった。いや、それを振り切る速度で走って来ただけかも知れない。
しかし、平和な雰囲気のある草原に、治安の悪い町が出来るなど不思議である。
(まずは宿を取ろうかな・・・いや、先に聞き込みか。まだ昼前だし、酒場じゃなくてレストランにしよう。)
町中を進んで行くと、この町の荒廃具合を否が応でも感じ取る。
壁には落書きが溢れ、路地裏には路上生活者が溢れ返っている。
町には活気がなく、唯一輝いている場所は風俗街だった。
派手な格好をした女性が幾度となく征夜の袖を引いたが、全て無視した。
(花の方が可愛いしなぁ・・・そもそも、20歳とか興味無いし・・・。)
若い女が多く言い寄って来たが、全く興味が湧かない。
それもそのはず、自分の恋人の方が何倍も魅力的なのだ。それに、彼に対しての誘惑に"若さは逆効果"である。
そうこうしている間に、色香でむせ返りそうな町並みを抜け、寂れたレストランに到着した。席につき、周囲の客と話をする。
「マリオネット教団って知ってますか?」
「サーカスの話かい?悪いが不景気で、遊んでる余裕はないんだ。」
「し、失礼しました・・・。」
聞き込みは、中々うまく行かない。考えてみれば当然だ。秘密結社の事を聞いて、知っていても教えるわけがない。
昼食を終えた後も聞き込みを続ける。道行く人に語りかけ、話を聞いてみる。
しかし、成果は上がらない。まともに取り合ってくれる人も少なく、明らかに効率が悪い。
(聞き込みで探すのは無駄か・・・。他の手を・・・。)
諦めて宿を探そうとした瞬間、背後から肩を叩かれた。
振り向くと、身長200センチほどのマッチョ巨漢が、征夜の事を見下ろしている。彼も身長は高い方だが、威圧感がまるで違う。
「兄ちゃん!俺知ってるぜ!マリオネット教団!」
「えっ!?本当ですか!?」
「あぁ本当だ!俺の道場に来てくれれば、教えてやるぜ!」
「行きます!教えてください!」
懸命な者ならすぐに気付くだろう。これは、キャッチセールスの常套手段である。
少し考えれば分かるはずなのに、征夜はまんまと相手の策にハマった。
~~~~~~~~~~
「お邪魔しま~すっ!」
元気良く挨拶しながら、暖簾をかき分けて道場に踏み込む。タトゥーだらけの巨漢が、ポーカーをしている手を止め、征夜の方へ振り向いた。
「早速ですが、マリオネット教団について教えて下さい!」
単刀直入に聞く。それもそのはず、残されている時間はあまり無いのだ。事件が起こってからでは遅い。それを止める必要がある。
しかし男たちは、答えようとする様子も見せずに、道場の裏手に入って行った。そして、一枚の紙を持って来たようだ。
「この書類にサインしたら教えてやるよ!」
「本当ですか!?それじゃ早速・・・・・・オルゼ剣法会・・・入門の掟・・・?あの、これって・・・。」
「あぁ!俺たちの流派名だ。入門しないなら、情報は教えられない。」
「あぁ・・・なるほど・・・。」
流石の征夜も、ようやく気付いた。面倒な事に巻き込まれたようだ。
三人の巨漢が征夜を取り囲み、頭上から睨み付けている。「入門しなければ帰さん」と言う強い意志が、全身から滲み出ているようだ。
「あ、あの・・・僕は道場に入門する気は・・・。」
「アンタも剣士だろ?なら、そんな"イワシボディ"で良いのか?剣法会に入れば、俺たちみたいにマッチョになれるぜ!ほら!入会金、30ファルゴ払いな!」
有無を言わせない態度で、男たちは迫る。どうやら、選択の余地は無いらしい。背後の男が、真剣を抜いた音が聞こえる。
(冗談じゃない!30万なんて払ったら、僕は一文無しだ!なんとかしないと!)
"平和的解決法"を模索するが、男たちは考える時間を与える気は無いらしい。
征夜を急かすために、倉庫からある物を持ち出してくる。ズタ袋に覆われているが、それ確かに"人間"だ。
「むむ~!ふぅぅむぅ~!!!」
「こ、これは何ですか!?」
ズタ袋から響く呻き声に驚き、思わず事実を確認しようとする。しかし、何が起こっているのかは明白だ。
即ち、これが"治安の悪い町"たる所以である。この町では、人が拐われても大した捜索はされないのだ。
「うるっせぇぞ!黙れ!」
優しかった男は、急に表情を変えた。そして、全力でズタ袋を殴打する。助けを求める声が止まり、グッタリと脱力してしまった。
「お、おい!何やってるんだ!」
「うるせぇなぁ!分かんねえのか?サンドバッグにしてんだよぉ!文句あんのか!?」
文句しかないだろう。特に、サンドバッグ状態の本人は。
征夜は咄嗟に、腰に差した刀を抜く事を考えた。しかし、それでは相手を殺してしまう。この相手は、殺さねばならない相手ではないはずだ。
だからこそ、抜刀の判断を躊躇った。征夜の頭に、"峰打ち"という選択肢は無く、抜刀は即ち"殺人"を意味していた。
「死ねやぁっ!ガキぃっ!!!」
2メートルの巨漢が、突如として征夜に剣を振り下ろす。刃渡りは1メートルほどあり、とても避けられる気配はない。
(や、ヤバいっ!やられるっ!!!)
次の瞬間、征夜の体は自意識を離れ、相手の動きに合わせるように自動で動いた――。
バコンッ!・・・ボキッ!
突き出した拳から鈍い音が鳴り、直後に何かが折れた音がする。目を開けると、刀は征夜に当たる寸前で止まっている。
「ふ・・・ぐぁ・・・が・・・。」
白目を剥いた男は、征夜に寄り掛かるように倒れ込んできた。押し潰される気は全くないので、自然と横に受け流す。
どうやら、征夜の拳は男の腹を直撃したらしい。そして、鎖骨を叩き折るほど深くまで、一瞬にして食い込んだようだ。
衝撃が背骨まで伝わった男は、ショックで気絶してしまった。起きる気配は全くない。
「・・・あれ?勝てちゃった・・・?」
実感が全く湧かないが、征夜のKO勝ちである。彼が厨二病なら、ここで気の利いた事を言えただろう。
しかし次に彼の口から出たのは、驚くほど安直な一言だった。
「・・・無抵抗な人を傷付けて・・・許さないぞっ!」
「ひいぃぃっ!!!」
逃げ出そうとする巨漢を追撃し、二人とも素手で制圧した。征夜はどうやら、彼が思っていた以上に強くなっていたらしい――。
~~~~~~~~~~
「た、助かりました~・・・。見かけによらず、あなた強いんですね!」
「僕も驚きましたよ・・・これはもしや、道場破りと言う奴なのでは・・・?」
そう、本人が一番驚いている。転生直後は"魔王の何倍も恐ろしく見えた"巨漢が、今となっては素手でワンパンである。
剣道以外の武道は学んだ事がない。しかしどうやら、腕力に関しても圧倒的に向上しているようだ。
(そう言えば調気の極意は、筋組織の密度を向上させるんだっけ・・・。
見た目はそんなに変わらないけど、中身は全然違うのかも・・・!)
確かに、彼の腕力は見た目にそぐわない程度まで向上している。凝縮されているだけで、筋力としては彼らと変わらないのだ。
しかし、腹筋が6つに割れて、手足が3割増しで太くなった事を、果たして"そんなに変わらない"で片付けて良いのだろうか――。
取り敢えず彼は、現在の実力に関して確かな自信を持つことが出来た。
宿敵と当たる前に、ちょうど良い相手と戦えたのは嬉しい誤算である。
「もう本当に!なんとお礼して良いか!ありがとうございます!」
文字通りサンドバックにされていた男を、ズタ袋から救出する。言っては悪いが、かなり弱そうな男である。
鼻血を出してはいるが、そこまで衰弱している訳でもなさそうだ。
「こちらこそ、無事で良かったです!」
征夜はそう言うと、男に肩を貸した。このまま、病院に連れて行こうと思ったのだ。
(・・・あれ?軽い?)
想像の4倍は軽かった。いや、きっと男が軽いのでは無く、征夜の力が強いのだ。
小柄とは言え成人している男を、征夜は軽々と持ち上げた。
「そうだ!お礼をさせてください!飯を奢りますよ!」
「いえ、僕が勝手に助けただけなので、礼は不要ですよ!」
「そう言わないでくださいよ!」
礼をされるほどの事でも無い。征夜にとっては、ただの自己防衛なのだ。
しかし男の方も、礼を返さずには居られない。この町における拉致は即ち、"野垂れ死ぬ事"と同義なのだから。
(・・・ダメで元々、聞いてみるか?)
征夜の中で、無謀な案が浮かんだ。しかし、試す分には何の代償もない。
「実は僕、"マリオネット教団"という組織に入りたいんです・・・知ってる訳、無いですよねぇ・・・。」
「あぁ!俺、団員ですよ!」
「そうですよねぇ・・・秘密結社の事なんて知ってる訳・・・え?すいません、もう一度言って頂いても・・・?」
「俺、団員です!あなたのような強い人なら、教祖様も大歓迎ですよ!」
どうやら、思いの外うまく行ったようだ。
征夜は到着から僅か2時間で、マリオネット教団に到達した――。
~~~~~~~~~~
アジトに向かう最中に、団員の男から教団の大まかな概要を説明された。
マリオネット教団は名前からも感じ取れる通り、かなりの邪教である。
彼らは金のため、もしくは教祖の信奉者として協力し、各地で割り当てられた任務をこなすようだ。
任務の内容は毎回大きく異なっており、専門性の高い任務は特殊な部隊が行うようだ。
これまでに行なった事の例を挙げると、貴族令嬢の誘拐殺人。宝石店の強盗。ギルドに対する脅迫。その他、多くの悪事をこなして来たようだ。
10年前に発足されたばかりの組織だが、その構成員は10万を超えており、非常に大規模な活動を行なっている。
恐怖で従っている者も多いが、それを加味しても入団希望者は増え続けているようだ――。
多くの構成員は"本職である仕事"をこなしながら、その傍らで活動しているらしい。
夜間に集会があるが、参加は自由。任務も希望制なので、実質的には"もう一つのギルド"としての側面も大きい。
実際にギルドから"表沙汰に出来ない依頼"が、舞い込む事もあるようだ――。
「着きましたよ!ここがアジトです!」
案内された場所は、古くて使われていない地下道だった。しかしどうやら、ただの地下道ではないようだ。
「ここは・・・広場ですか?」
「広場から分岐した道が、この町全体に広がってますよ!入団するのなら、まずは試験を受けてください!」
やはり秘密結社。様々な入団試験が有るらしいが、まずは腕っぷしを試されるらしい。
大量の書類が散乱するデスクに案内され、目つきの悪い男に入団希望の意志を知らせる。
「すいません、入団を希望するのですが・・・。」
「得物は?」
ぶっきらぼうな口調である。冷たい目が征夜を品定めし、見下すような視線を浴びせる。
「う~ん・・・大剣かな?」
日本刀と言っても伝わらないので、思い切って大剣と伝えてみた。
刃渡り80センチの武器が、果たして大剣かは疑問が残るが、短剣では無いだろう。
「そこらへんで待ってろ。」
薄暗がりの中に待機させられ、試験官となる者が到着するのを待つ。
一体、どんな大男が出てくるのだろうか。試験官と呼ばれる者だ。おそらく、先ほどの連中よりも強いだろう。
(やはり剣士か?いや、どんな男が来ても!僕は絶対に負けないぞ!)
決意を固く持つ。確かに、資正に勝った彼なら、どんな男が来ても簡単には負けない。
あとは、魔法使いなどが用いるトリッキーな技にさえ注意すれば良い。
その筈だったのだが――。
しばらくすると薄暗がりの向こうから、紫の長髪を靡かせながら、"胸元を大きく露出させた格好の女性"が歩いてきた。
一歩一歩に色気を纏わせ、全身から不思議なフェロモンを撒いている。
妖艶な顔立ちに、花と同じかそれ以上に抜群なプロポーション。団員以外に有る本職は、明らかに"そういう職"である事を感じさせる女性だ。
歩くたびに破壊力抜群の巨乳がたぷんたぷん揺れ、柔らかく豊満な尻もそれに付随する。まさに、歩くダイナマイトと言った具合だ。
年齢は29くらい。明るい電灯の元に出ると、その艶やかな風貌が際立って見える。
「坊やが私の担当ね・・・♡あら~♡大剣を腰に刺してるなんて言うから、どんな醜男かと思えば、とっても可愛いじゃない♡
お姉さん、ちょっと張り切っちゃうわ♡・・・チュッ♡」
誘うような笑みを浮かべ、征夜を籠絡する気満々である。
投げキッスを繰り出されると、彼は全身に緊張が走るのを感じた。
(む、胸が・・・すごい・・・いや待て、そんなに見たら失礼だ!視線を逸らせ!流石に怒られるぞ!)
征夜は懸命に視線を逸らすが、やはりその魔力は強烈だ。
女性の胸を見るのは失礼だと、かつて読んだ本に書いてあった。だからこそ、必死に視線を逸らす。
しかしどうやら、女性の方はそう思ってないらしい――。
「ウフフ♡ガン見しちゃって♡私のおっぱい、そんなに気になるのかしら♡」
女はそう言うと、わざとらしく胸を中央に寄せた。
豊かな谷間がさらに強調され、征夜の瞳を直撃する。
(うわぁぁぁっ!!!やばい!Hなお姉さんだぁっ!!!)
"天敵"の出現に対して征夜は、早くも負けそうな予感がしてきた――。
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【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
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12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
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ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
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まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
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転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
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カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
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貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
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この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
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ズボラ通販生活
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