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第五章 氷狼神眼流編

EP136 喧騒の使者

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運命の呼び声が、古き勇者を戦場に駆り立てる。
溜め込んだ世界の歪みが、動乱を呼び起こす。

―――――――――――――――

 "氷狼神眼流最終奥義・刹那氷転"、その原理は正にの名を冠するに相応しい物だ。
 亜音速を超える速度の刃で、敵の身体を斬り飛ばす。それだけでも十分に恐ろしい技だが、その真価は別にある。

 この技の真価、それは"フローズンエッジの放つ冷気"と併用する事で発生するのだ。

 結論から言えば、敵対者を"細胞から破壊する"事が、この奥義が持つ真の力だ。
 氷刃により斬り付けられた相手の肉体は、瞬時に凍りつく。そこに追い討ちを掛けるように、亜音速の刃が放つ"摩擦熱"が加えられる。
 凍りつき、張り詰めた細胞は、摩擦熱によって瞬間的に解凍され、その落差によって崩壊する。それが、この技の真骨頂である。

 原理は単純。本当に、これだけの技。
 必要なのは清也が既に持っている"得物"と、亜音速を超える斬撃。それだけなのだ。

 だが、その習得は混迷を極めていた――。



「デヤァァッッッ!!!」

 パシャンッ!

 全身全霊を込めて斬った滝から、笑ってしまうほど軽い音が響く。これではまさに、暖簾に腕押しである。
 既に、修練を開始してから二週間が経った。それでもって、一切の成果が無い。

(早く覚えないと、花との約束に間に合わない!)

 自分で決めた事ながら、修練を優先した結果として花に見限られたのでは、全くもって笑えない。
 それを避ける為にも、彼はただひたすらに修行を続けた。朝も昼も、夕も夜も、無我夢中で滝に打ち込んだのだ。

 心の中には、確かな焦りが生まれている。
 しかし、今さら諦める訳にもいかないのだ――。

「ヤァァッッ!!!」

 気を取り直し、再び滝に打ち込んだ。しかしそれでも、亜音速の壁は越えられない。

「ああぁッ!もう!何がダメなんだ!?」

 苛立った清也は、そのまま近くの岩に寝転んでしまった。冷たく硬い感触が、背中を押す。

 テストステロンが増えて、闘争心が向上したからだろうか。清也はここ最近、少しだけ短気になっている。
 しかし、凶狼の瞳による強制的な興奮と違い、ある意味で健全な興奮である。思春期を雑に過ごした清也にとって、こんな感情は新鮮なのだ。言い方を変えれば、成長したとも捉えられる。

「お~い清也ぁ~!三色団子作ったぞ~!食いに来~い!」

「わかりました~!」

 煮詰めた思考に、糖分の甘い誘惑が染みる。麓からでも響く資正の声は、もはや老翁のものでは無い。

(しょうがない・・・先にお菓子でも食べるか・・・。いや、今日の修業はこれで終わりにしよう。)

 疲れ切っていた清也は、資正の提案に乗ることにした。

~~~~~~~~~~

「美味しいですね~♪」

「おう、それは良かった。」

 涼やかな昼下がり、爽やかな風が軒下を吹き抜け、戸口をガタガタと鳴らす。

「師匠は料理もお上手なんですね!」

「300年も生きていれば、大抵の事は極められるさ。」

「なるほど!・・・お代わりください。」

「喉に詰まらすなよ。」

 資正はそう言うと、少しだけ嬉しそうな顔をした。最近の彼は剣士や師ではなく、祖父のような心持ちで清也と関わっている。
 同居にも慣れたのか、最近は完全に心を許しているようだ。

「残りを取って来る。茶でも飲んで待ってろ。」

 縁側に敷いた座布団から、ゆっくりと腰を上げる。その軽やかな動きは、今の清也にも真似出来ないのだ。

(お茶も美味しいなぁ!・・・じゃ無かった!修業の事を考えないと!)

 関心が、修行から逸れてしまった。これではダメだ。最近の清也は寝ても覚めても、他の事を考えないようにしているのだから。



 チリンチリン!

 突然、軽やかな呼び鈴の音が玄関から響いた。どうやら、誰かが訪ねて来たらしい。

「清也、すまんが代わりに出てくれ。」

「はい、わかりました。」

 縁側を抜け、茶室を乗り越え、階段の奥にある玄関へと向かった。
 半透明の引き戸の向こうに、背の高い男が立っている。その戸を右側に動かした先には――。

「・・・おっ!逃げ出さずに、まだ残ってやがったのか!」

「あ、あなたは!」

 戸口に立っていた訪問者は、清也も知っている人物だった。
 その肩書きを確認しようとする前に、背後からその人物を良く知る者の声が響く。

「おう、誰かと思えば”あらん”ではないか。どうしたのだ?」

の仕事が暇でな。まぁ、上がらせてくれや。」

 そう言うと、試験官のアランは革靴を脱ぎ始めた。

~~~~~~~~~~

「酒蔵の一番奥から三番目・・・あった!」

 暗い酒蔵の奥から一本の瓶を取り出すと、客間へと走って行く。そこでは既に、資正とアランが座り込んでいた。

「これで合ってますか?」

「おう、ありがとな。」

 資正はそう言うと、渡された日本酒を器に注ぐ。そしてすぐに、アランとの宴会を始めた。
 かなり強い酒なのだろう。十分と経たずに、二人は酔い始めた。

「で、コイツは意外と才能が有ったわけだ。・・・自分で紹介しといてなんだが、相変わらずの間抜け面だなぁ・・・。」

「ハッハッハッ!たしかに!某も最初はそう思った!だが、意外と根性がある奴でな!」

「流石は、数多の冒険者を送り出した俺だ。この目に狂いはない!ハッハッハッ!!!」

(うわぁ・・・酔っ払いだ・・・。)

 疎外されたまま正座する清也だったが、その顔には”面倒くさい”と言う文字が、アリアリと浮かんでいる。

「おい清也!お前も飲め!其方も20は越えとるだろう!」

「えっ!?あっ、いや・・・僕は・・・。」

「なんじゃ!某の酒は飲めんか!」

「え、いや・・・そういうわけでは・・・うぐぅっ!?」

 酔っぱらった資正によって、強引に酒を流し込まれる。
 純度の高い日本酒が、清也の喉を伝う。味はかなり美味い。しかし何よりも、この味には覚えがある。

「・・・お、美味しいですね・・・ん?この味、どこかで・・・。」

 ボンヤリとした意識の中で、味に関する記憶をたどる。その答えは簡単だった。なぜなら、清也はこれまでの人生で、酒を飲んだ回数は100にも満たないのだ。

「あぁっ!これ、”霜陰り”だ!成人式で飲んだ奴!やっぱり美味いですね!これ、好きな酒です!」

 いつもより饒舌且つ、声が大きい。酒に弱い彼は、たった一口で酔ってしまったようだ――。

 だが、それを聞いた資正は一気に酔いが醒めたような顔になる。
 驚きながらも、馬鹿にしているような笑みを浮かべているが、意識はハッキリしていた。

「馬鹿を言うな清也!”我が家一子相伝の酒”を、お前が知っとるはずが無かろう!」

「ハハハハハ!馬鹿だなぁお前!知ったかぶりしやがって!アッハッハッハッハ!!!!!!」

「あれぇ?でも、この酒、お爺ちゃんが作ったお酒だけどなぁ?」

「寝ぼけているんだろう!名前まで知っているのが気持ち悪いが、まぁ、それも良いだろう!アッハッハッハッハ!」

 なにが”良い”のだろうか、酔いすぎて発言が意味不明である。
 しかし清也の意識の中で、霜陰りは”祖父・盛充郎が趣味で作る日本酒”と言う認識のままだ。

「東北出身だからかなぁ?ヒック!・・・うわぁ、酔い過ぎたぁ・・・。」

 清也はその言葉を最後に、畳へと倒れ込んでしまった。
 完全に泥酔し、立ち上がる事が出来ない彼は、そのまま意識を失った。

~~~~~~~~~~

 目を覚ますと、背後から会話が聞こえて来る。それは昨晩とは打って変わり、神妙な声である。
 二人の声は”老いた酔っ払い”ではなく、世界の未来を案じる”老賢者”の声だ。

「お前、ユニオンフリーダムって知ってるか?」

「すまん横文字は・・・。」

「自由同盟」

「なるほど、知らん。」

 資正は、外来語が全くと言って良いほど分からない。
 女神の加護によって、言葉が自動翻訳される魔法が無ければ、とっくに死んでいたレベルである。
 かつての仲間であったアランは、その事を知っている。それを加味しての会話にも、既に慣れているのだ。

(何の話だろう・・・?)

 宴会の後、気を失った清也はそのまま夜を越したようだ。
 客間にて、朝日が照らされながら目覚めた彼は、背後の会話に聞き耳を立てる事にした。

「俺が入ってる組織だ。ギルドの中枢まで根を下ろしてる。」

「果たして、それはどんな組織だ?」

「山籠りしてるお前は知らないだろうが、ここ数年で"転生者差別"は、一層強くなった。
 転生してすぐに、過激派によって殺される奴も最近は珍しくないんだ。」

「嘆かわしい事よ・・・。」

 落ち着き払った声で、重たい議題について話している。
 清也は緊張と興奮、好奇心により起き上がる意志が失せてしまった。寝転んだまま、続きを聞こうと息を殺している。

「特に厄介なのが、"原住民貴族アブソリュート主義オリジン"って連中だ。最近では各地で勢力を伸ばして、"転生者狩り"なんて物をやってる。」

「原住民にのみ、参政権を与えるとな・・・。」

「奴らは既に、ギルドのトップとも癒着してる。それとやり合ってるのが、俺ら"転生者解放戦線ユニオンフリーダム"だ。」

「抗争・・・と言う事だな。」

(なんだなんだ!?どう言う話だ!?)

 話を整理しよう。
 太平の世界には古くから、多くの転生者が流入して来た。
 彼らの多くは特殊な能力を持っており、原住民よりも強く、仕事でも優秀だ。
 二者の間に亀裂が生まれるのは、至極当たり前の事だった。

 そんな中、ここ数年間は特に"アブソリュートオリジン"と言う組織の活動が活発化し、差別意識はより強くなったのだ。
 そして、それに対抗して転生者を保護、救済している組織。それが"ユニオンフリーダム"だ。どうやら、アランはその件で来たらしい。

「最近は、小規模ではあるが武力衝突も増えてる。お互い300人規模の組織で、実力は拮抗してるんだ。・・・その件で、お前に会いに来た。」

「言いたい事は分かる。某に、お前と共に戦ってくれと言いたいのだろう。
 だが、言い訳のようで忍びないのだが、某は戦力にならない。人を殺せば死ぬ体の都合上、1人しか殺せんのだ。・・・お前も知っての通りな。」

「・・・エリーゼの件は、お前のせいじゃない。あれは、お前には重すぎた。」

「・・・そうだな。」

 新たな人物名が出て来た。"エリーゼ"と言う人物はどうやら、資正の受けた呪いと関係が有るらしい。
 周囲の空気が暗くなる。どうやら、暗い過去が二人にのし掛かり、口を重くしているようだ。

「だが、お前に会いに来たのは、戦士になって欲しいからじゃない。」

「では、何の用で来た?」

 自分の価値は、"戦士"以外にあるはずが無い。資正はそう思っていた。しかし、アランは違ったようだ。



「転生者の意思を纏める"将軍シンボル"として、俺たちの元に来てほしい。」

~~~~~~~~~~

 資正は頭を抱えているようだ。瞳に姿を捉えずとも、その様子が手に取るように分かる。

 "かつての勇者が味方となった"。それだけの事でも、民衆心理には効果的面なのだ。
 燻っていた転生者の不満が、資正と言う火種を以って爆発する。想像に難く無い未来に、"戦争"という二文字がチラつき始める――。

 そんな事は、当然ながら資正にも分かっている。だからこそ、悩んでいるのだ。

(某が加担すれば、抗争では済まない・・・。間違いなく大政に向けた"一揆"が起こる・・・。世界全土を巻き込んだいくさか・・・。)

 平和主義者の資正は、そんな事を望んでいないのだ。

 数で劣る転生者勢力も、魔法や特殊能力を駆使すれば反逆に足りる戦力となる。あとは単純に"頭数あたまかず"の問題なのだ。
 "狼の勇者"が参戦する。それは即ち、"天下無双の旗印"に等しい意味がある。たとえ飾りであっても、革命軍の決起に足る事象だ。

「世界中の転生者が団結すれば、革命は容易い。
 あとは、その"旗を誰が上げるか"の問題だ。・・・分かってくれ・・・。」

「我ながら、厄介な事に巻き込まれた物だ・・・。」

 資正は珍しく迷っている。
 友人の頼みを断り、理不尽な現実から目を背けてでも、より多くの人々の平和を取るか。
 友情をくみ取り、戦乱の中に身を投じてでも、世界に生じている歪みを晴らすか。

 それは、本当に難しい選択だった――。
 戦争が持つ重み。幾万の命が失われ、憎しみの連鎖が開始する。その現実を、戦乱の世に生きた彼は知っているのだ。

「資正、俺と共にユニオンフリーダムに来い。アンダーヘブン・・・いや、この世界は既に、この呼ばれ方では無いのか?
 お前だって気付いてるはずだ・・・。この世界の明日は暗い。未来の見えない時代が始まろうとしている。
 勝ち馬に乗れと言うわけでは無い!ただ、お前の立場に適した場所に来て欲しいんだ!頼む・・・この通りだ!」

 アランはそう言うと、改まった様子で深々と頭を下げる。それを見た資正は、完全に心を決めた。

(腐っても武士・・・選択肢は二つに一つだな・・・。)

 資正の取った選択。それは、"勇者としての責務"だった。

「よもや・・・足軽風情が、の名を冠するとはな・・・。
 その戦に真の義が有るなら、某は助力する事を誓おう。」

「・・・ありがとう!よく言ってくれた資正!それじゃ、早速・・・。」

「ちょっと待て。今すぐと言うのは早すぎる。第一に、某は弟子を自立させねばならん。
 第二に、決起を早める事はしたくない。対話の段階を過ぎ、いよいよ抗争と弾圧が激化した際に、某は参戦する。・・・それで良いか?」

「あぁ!それで良い!ありがとな資正!」

 アランは資正の手を握ると、力強く握手した。交渉に成功し、心の底から満足しているようだ。

 握手を終えた資正は、アランの顔を真面目な顔で覗き込んだ。

「よし、お前の話は聞いた。次は、某の話を聞いてもらおうか。」

「・・・何が要求だ?」

 アランの声は急に低くなった。資正の口から飛び出すかもしれない、法外な対価に身構えたのだ。

「うちの弟子は、どうやら”魔王”とやらを探しているらしい。お前は、何か情報を持って無いか?」

 真面目な表情の資正から放たれた要求。あまりに謙虚な対価に対し、アランは思わず笑ってしまった。

「・・・ハハハ!なんだ、そんな事か!そうだなぁ、知っている事と言えば・・・あぁ!あれがあったな!」

「待て、某ではなくアイツに教えよ。・・・おい、いつまで聞き耳を立てておるのだ?」

「ひぃっ!?気付いてたんですか!?」

 資正は当たり前だと言わんばかりの様子で、大きくため息を吐いた。
 どうやら、清也の狸寝入りはバレバレだったようだ。

「・・・ほれ、寝転んでないでここに座れ。」

 資正は足元を指差しながら、会話に加わる事を促した。

「は、はい!」

 清也は指示された通りに、資正とアランの間の座布団に座った。

~~~~~~~~~~

「"マリオネット教団"・・・?」

「あぁ、今一番不穏な組織だ。」

「"まりおねっと"とは何じゃ?」

 横文字が分からない資正は、不思議そうな顔をしている。清也も、それは同感だった。

(たしかに、マリオネットって何だ?)

 英検5級未満の清也には、少し難しかったようだ。
 英語圏出身のアランは、バカにしたような笑みを浮かべながら、二人に意味を諭す。

「まぁ、平たく言えば"操り人形"だな。
 アブソリュートオリジン・・・俺らは"アブオリ"って呼んでるが、アイツらと違って目的が分からない。
 夜中にコソコソ何かをして、災害が起こる前日に動き出す。本当に薄気味悪い連中だ。
 一説によるとアブオリとも繋がってるらしいが、俺らは関わりたくも無い。」

「それが・・・魔王と関係が?」

「・・・分からない。だが、奴らが出て来たのは数年前だ。
 その辺りから、各地で怪奇現象の報告が激増した。失踪者も以前の4倍に増えて、確実に治安も悪くなった。
 ・・・そう言えば、アブオリが活発化したのも同じ頃か・・・。」

 聞けば聞くほど、"マリオネット教団"と言う組織は、怪しい点が多すぎる。
 魔王と繋がっているのかは分からないが、何らかの陰謀を企てている事は、誰の目にも明らかだった。



 そして清也は、挙げられた情報の中に、奇妙な既視感を見つけた。

(操り人形・・・失踪・・・怪奇現象・・・・・・・・・ッッッ!!!)

 点と点が、一本の線で繋がった。
 この数ヶ月間で完全に忘れ去っていた一人の男の存在を、脳内で再構築した清也は、その名前を高らかに叫んだ。



「"ラドックス"じゃないかぁッッッ!!!!!」

「うわっ!どうした突然・・・。」

 真横に座っていた資正は、突然の大声が心臓に来たようだ。彼は心臓病では無いが、そうでなくとも危ない。

「ラドックスです!ラドックス!人形使いの!異界と繋がってて!人を攫ってる!
 アイツは、間違いなく教団と関係あります!だから僕は、その教団に潜入します!」

 矢継ぎ早に要点を述べ、自分の中で判断を完結させる。
 清也は修行を終えた後の予定を、唐突に訪れた有力な情報によって、即座に決めたのだ。

「落ち着くのだ。まず、その"らどっくす"とは誰だ?」

「ヤバい奴です!」

 清也は興奮した様子で即答するが、資正には伝わらない。

「・・・"やばい"とは何だ?」

「危ないって事です!」

 それを聞いた資正は、"最初からそう言え"と言わんばかりの呆れ顔になる。

「そして、それが教団と繋がっているのか?」



「はい!間違いなく!そしてアイツは異界との門を開いて、人を攫う事が出来ます!」

 清也はその後も、二人に対してラドックスに関する話をし続けた。
 彼との出会いから、彼の起こした二つの事件。その幕切れに至るまで、全てを打ち明けた。



「なんとも、不思議な男じゃのう。」

「はい、当面の目標は奴を探す事なので、修行を終えたら教団に参入しようと思います。」

「それが良さそうだな。」

「アランさん、教団の場所ってわかりますか?」

 資正と話し合い、今後の予定を決めた清也は、アランに教団の所在地を訪ねた。

「秘密結社の本拠地なんて、知っているわけがないだろう。
 ・・・ただ、アイツらが次に現れる場所の目星は付いてる。」

 アランはそう言うと、世界全土を描いた地図を取り出した。そして、広大な大陸の右下にある町に、大きく赤いバツを付ける。

「"オルゼ"の町が怪しいな。近いうちに、何かが起こりそうだ。」

「・・・近いうち、と言う事は?」

「一週間以内だな。それを逃せば、あと半年は動かないだろう。」

 それを聞いた清也は、慌てふためく。流暢に待っていたのでは、それだけ犠牲者増えると言う事なのだ。
 目の裏に焼き付いた悲惨な光景が、再び浮かんでくる。このままでは、森で起こったような惨劇が繰り返されてしまうだろう――。

「半年・・・!ちなみに、ここからオルゼまでは何日ですか?」

「最速でも2日は掛かるな。」

「マズイッ!こうしちゃいられないっ!」

 清也はそう言うと、傍に置いた木刀を持ち上げて走り出した。
 ポカンとしているアランと資正を放置して、再び修練場に向かったのだ。
 雪に包まれた白い山道を駆け抜けて、目的地へと急いだ。

 到着した清也は、轟音と共に流れ落ちる滝に正対し、刀を向ける。
 その心にあるのは最早、焦り以外の何者でもない。

(刹那氷転を完成させて、オルゼの町に行く!そうじゃないと、また多くの人が死ぬ!・・・やってやるさ!)

 新たな決意を胸に抱いた清也は、再び修練に打ち込み始めた。
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