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第三章 シャノン大海戦編

EP68 地震

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「か、かねですか・・・?」

 漁師たちはざわめき出す。
 思いの力というのだから、もっと夢のある物だと思っていたからだ。

「勘違いしないでくれ、金で槍を買おうってわけじゃ無い。必要なのは金の中でもだ!」

 シンは取り返しのつかない勘違いを生む前に、急いで訂正した。
 この発言により数人の男は、シンの考えている事が分かった。しかし、まだ大半は首を傾げている。

「つまり、集まった金貨を合成して、黄金の槍を編み出そうってわけだな?」

 察しの良い漁師は、シンの意図を汲んで問いかけた。
 シンはその漁師の察しの良さに感謝し、笑いかけると結論を言った。

「そうだ。俺はこの町で黄金を生成できない。鉱山が近くないのと、潮風に晒されてるのが原因だと思う。
 だから、募金をしようと思うんだ。この海戦には結局のところ、シャノンに住む人たちの協力が不可欠だ。
 だから戦いのシンボルとして、”希望の槍・・・・制作募金・・・・”をしようと思う!」

 シンは反発が起こるのを承知で言った。
 むしろ、たった一人が使う武器のために住民が金を出せなんて、横暴も良い所だと自覚していた。

 しかし、シンの予想に反して漁師たちから批判が起こる事は無かった。

「面白いじゃねえか!」
「町全員で作るのは良い案だと俺は思うぞ!」
「希望が込められたシンボル・・・いいな!」

 誰もが賛同の声を上げ、少なくとも漁師たちに異議を申し立てる声は無かった。

「お前ら・・・、よし!決まりだ!たった今から希望の槍制作を開始する!
 目標金額は1000ファルゴ(1000万円)だ!!!」

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 またも、町全体を包み込むほどの歓声が酒場から発せられた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 その日のうちに、希望の槍の話は町中に広がった。
 目標金額、使用目的などの現在決まっている情報は余すことなく伝えられ、町中でその話はもちきりになった。

 シャノンの人口は大人だけを数えても300人ほどであったので、1人が3~4ファルゴの募金をすれば目標金額には簡単に到達できるという計算だった。

 しかし、シンは募金という物を見くびっていた。

 そもそも、現在のシャノン経済は主産業である漁業を失った事で壊滅的な状態になっていた。

 そして、通常の募金との決定的な違いとして最低金額が1ファルゴと決められていることがあった。
 両替えができるなら、そもそもここで募金をする必要が無かったのだ。
 そもそも、1000枚の金貨がこの町に存在するのかさえ怪しかった。

 それに加え、募金を更に絶望的な状況にしていたのは具体的な使い道がないことだった。
 用途は分かっていても、希望の槍がどんな使われ方をして、どのように勝利に貢献してくれるか分からなかったのだ。

「そもそも、1000枚も金貨が必要なの?」

 花は初歩に立ち戻って質問した。
 槍を作るだけなら、200枚もあれば十分な気がしたからだ。

「金属ってのは思ってるよりも脆いから、密度を上げないと武器としては使い物にならない。
 海竜どもは鱗に覆われてるんだろ?なら、かなり硬くないと駄目だ。
 それに水中で形を変えないと、戦いにならないから、金属の伸縮性を考えてもあれくらい必要なんだ。
 もし本気で集まらないなら、ゴドル周辺まで戻るしかない。金額は妥協できないからな。」

 シンの意志は固かった。
 たとえ一日で集まった金額がたったの5ファルゴでも、その意志は揺るがなかった。

~~~~~~~~~~~~~~

 シンが募金を宣言した翌日の晩に、サムは病室で目を覚ました。

「んんっ・・・。んっ?」

 サムはここが、一体どこなのか分からずに混乱している。

「まさか、ここに担ぎ込まれた人達が、新しい病人を運んで来るとは・・・。」

 シンを介抱したのとは違う、老いた看護師。初老の老婆は目覚めたサムに、薬を飲ませようと駆け寄ってきた。

「ここはどこ?」

 サムは看護師に堪らずに聞く、雷夜の素顔を見てからの記憶が殆ど無い。

「ここはホテル・グレートの病室です。あなたはシンに、ここまで連れて来て貰ったんです。
 彼は海竜ハンターより、救急隊の方が向いてますね。あんな無謀ばかな事より、絶対に有意義です。」

 看護師は侮蔑を込めた声で言った。
 冗談では無く、本当にそう思っているようだ。



「そんな事ない!!!」

 サムは突然、大声で叫んだ。
 幼さの残るその声には、看護師に対する明確な憎悪が込められている。
 彼が看護師の失言に、これほど敏感に反応したのには理由があった。

「僕の父さんと母さんは海中兵だった!!
 強くは無かったけど、一生懸命に働いてたんだ!!
 なのに、破海竜が嵐の中で船ごと二人を沈めたんだ!」

 溢れ出す怒りが、四方八方に飛び散っていく。
 方向性の無い激情が、脳を駆け巡って暴発する。

「おばさん達は知らないだろうけど!
 あの嵐の日、海に出たサーペントの海中兵はみんな、自由参加のボランティアだったんだよ!!!
 みんなが、町の安全だけを思って海に出たんだ!
 だから、僕はこの町の為に死んでいった人間を冒涜する事は許さない!!!
 そして、僕が証明するんだ!破海竜は倒せる、勝てるんだって!」

「わ、分かったよ・・・うわぁっ!?な、何だいこれはっ!?」

 看護師はサムの気迫に押され、納得せざるを得なかった。
 そして、その時急に轟音と共に足元が揺れだしたのだ。

「謝ってよ!みんなが頑張ってるんだから!!!」

 サムはベッドから起き上がると、凄まじい形相を浮かべながら迫ってきた。

「お、落ち着きなさい・・・!」

「謝れ!謝れ謝れ謝れ!!!謝れよぉッ!!!英霊への侮辱は!この僕が許さない!!!」

「ご、ごめんよ!あ、謝るから!!」

 看護師が慌てて謝ると、不思議なことに地震はすぐに収まった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ううぉっ・・・すげえ地震だな・・・。」

 ホテルから遠く離れた海岸にいたシンは強い揺れを感じて、足に力を込めて転ばないようにした。

「ほんとね・・・どんどん強くなってく・・・きゃっ!」

 花もシンと同様に足に力を入れたが、踏ん張りきることができずに転んでしまった。

「おいおい、しっかりしてくれよ・・・って、おいおい!何でそんなに慌ててんだよ!?」

 シンは花を助け起こしながら、周りを眺めると漁師たちが大騒ぎしてパニックになっている。

「だって!地震とか全然起こらないじゃないんですよ!大将はなんでそんなに余裕何ですか!!」

 漁師の一人はシンに聞いた。半分怒っているようにも見える。

「地震なんて一カ月に一回は起きるだろ。
 別に津波が起きるほど、でけえ揺れでも無い。そんなに慌てなくていいだろ。」

 シンは一般常識のような口ぶりで言うが、これは地震大国で育っていないと中々言えないセリフだ。

「・・・この地震・・・もしかしてマスターウェーブが海底で暴れてるからじゃねぇか?」

 漁師の一人が、文字通り驚天動地・・・・な発言をした。
 シンにはそれが有り得ないと分かっていたが、プレートの概念を説明するのが面倒だったので放置した。

 彼はその発言が、人々の戦意を大きく駆り立てる事になるとは、夢にも思ってもいなかった。
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