79 / 251
第三章 シャノン大海戦編
EP68 地震
しおりを挟む「か、金ですか・・・?」
漁師たちはざわめき出す。
思いの力というのだから、もっと夢のある物だと思っていたからだ。
「勘違いしないでくれ、金で槍を買おうってわけじゃ無い。必要なのは金の中でも金貨だ!」
シンは取り返しのつかない勘違いを生む前に、急いで訂正した。
この発言により数人の男は、シンの考えている事が分かった。しかし、まだ大半は首を傾げている。
「つまり、集まった金貨を合成して、黄金の槍を編み出そうってわけだな?」
察しの良い漁師は、シンの意図を汲んで問いかけた。
シンはその漁師の察しの良さに感謝し、笑いかけると結論を言った。
「そうだ。俺はこの町で黄金を生成できない。鉱山が近くないのと、潮風に晒されてるのが原因だと思う。
だから、募金をしようと思うんだ。この海戦には結局のところ、シャノンに住む人たちの協力が不可欠だ。
だから戦いのシンボルとして、”希望の槍・制作募金”をしようと思う!」
シンは反発が起こるのを承知で言った。
むしろ、たった一人が使う武器のために住民が金を出せなんて、横暴も良い所だと自覚していた。
しかし、シンの予想に反して漁師たちから批判が起こる事は無かった。
「面白いじゃねえか!」
「町全員で作るのは良い案だと俺は思うぞ!」
「希望が込められたシンボル・・・いいな!」
誰もが賛同の声を上げ、少なくとも漁師たちに異議を申し立てる声は無かった。
「お前ら・・・、よし!決まりだ!たった今から希望の槍制作を開始する!
目標金額は1000ファルゴ(1000万円)だ!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
またも、町全体を包み込むほどの歓声が酒場から発せられた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その日のうちに、希望の槍の話は町中に広がった。
目標金額、使用目的などの現在決まっている情報は余すことなく伝えられ、町中でその話はもちきりになった。
シャノンの人口は大人だけを数えても300人ほどであったので、1人が3~4ファルゴの募金をすれば目標金額には簡単に到達できるという計算だった。
しかし、シンは募金という物を見くびっていた。
そもそも、現在のシャノン経済は主産業である漁業を失った事で壊滅的な状態になっていた。
そして、通常の募金との決定的な違いとして最低金額が1ファルゴと決められていることがあった。
両替えができるなら、そもそもここで募金をする必要が無かったのだ。
そもそも、1000枚の金貨がこの町に存在するのかさえ怪しかった。
それに加え、募金を更に絶望的な状況にしていたのは具体的な使い道がないことだった。
用途は分かっていても、希望の槍がどんな使われ方をして、どのように勝利に貢献してくれるか分からなかったのだ。
「そもそも、1000枚も金貨が必要なの?」
花は初歩に立ち戻って質問した。
槍を作るだけなら、200枚もあれば十分な気がしたからだ。
「金属ってのは思ってるよりも脆いから、密度を上げないと武器としては使い物にならない。
海竜どもは鱗に覆われてるんだろ?なら、かなり硬くないと駄目だ。
それに水中で形を変えないと、戦いにならないから、金属の伸縮性を考えてもあれくらい必要なんだ。
もし本気で集まらないなら、ゴドル周辺まで戻るしかない。金額は妥協できないからな。」
シンの意志は固かった。
たとえ一日で集まった金額がたったの5ファルゴでも、その意志は揺るがなかった。
~~~~~~~~~~~~~~
シンが募金を宣言した翌日の晩に、サムは病室で目を覚ました。
「んんっ・・・。んっ?」
サムはここが、一体どこなのか分からずに混乱している。
「まさか、ここに担ぎ込まれた人達が、新しい病人を運んで来るとは・・・。」
シンを介抱したのとは違う、老いた看護師。初老の老婆は目覚めたサムに、薬を飲ませようと駆け寄ってきた。
「ここはどこ?」
サムは看護師に堪らずに聞く、雷夜の素顔を見てからの記憶が殆ど無い。
「ここはホテル・グレートの病室です。あなたはシンに、ここまで連れて来て貰ったんです。
彼は海竜ハンターより、救急隊の方が向いてますね。あんな無謀な事より、絶対に有意義です。」
看護師は侮蔑を込めた声で言った。
冗談では無く、本当にそう思っているようだ。
「そんな事ない!!!」
サムは突然、大声で叫んだ。
幼さの残るその声には、看護師に対する明確な憎悪が込められている。
彼が看護師の失言に、これほど敏感に反応したのには理由があった。
「僕の父さんと母さんは海中兵だった!!
強くは無かったけど、一生懸命に働いてたんだ!!
なのに、破海竜が嵐の中で船ごと二人を沈めたんだ!」
溢れ出す怒りが、四方八方に飛び散っていく。
方向性の無い激情が、脳を駆け巡って暴発する。
「おばさん達は知らないだろうけど!
あの嵐の日、海に出たサーペントの海中兵はみんな、自由参加のボランティアだったんだよ!!!
みんなが、町の安全だけを思って海に出たんだ!
だから、僕はこの町の為に死んでいった人間を冒涜する事は許さない!!!
そして、僕が証明するんだ!破海竜は倒せる、勝てるんだって!」
「わ、分かったよ・・・うわぁっ!?な、何だいこれはっ!?」
看護師はサムの気迫に押され、納得せざるを得なかった。
そして、その時急に轟音と共に足元が揺れだしたのだ。
「謝ってよ!みんなが頑張ってるんだから!!!」
サムはベッドから起き上がると、凄まじい形相を浮かべながら迫ってきた。
「お、落ち着きなさい・・・!」
「謝れ!謝れ謝れ謝れ!!!謝れよぉッ!!!英霊への侮辱は!この僕が許さない!!!」
「ご、ごめんよ!あ、謝るから!!」
看護師が慌てて謝ると、不思議なことに地震はすぐに収まった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ううぉっ・・・すげえ地震だな・・・。」
ホテルから遠く離れた海岸にいたシンは強い揺れを感じて、足に力を込めて転ばないようにした。
「ほんとね・・・どんどん強くなってく・・・きゃっ!」
花もシンと同様に足に力を入れたが、踏ん張りきることができずに転んでしまった。
「おいおい、しっかりしてくれよ・・・って、おいおい!何でそんなに慌ててんだよ!?」
シンは花を助け起こしながら、周りを眺めると漁師たちが大騒ぎしてパニックになっている。
「だって!地震とか全然起こらないじゃないんですよ!大将はなんでそんなに余裕何ですか!!」
漁師の一人はシンに聞いた。半分怒っているようにも見える。
「地震なんて一カ月に一回は起きるだろ。
別に津波が起きるほど、でけえ揺れでも無い。そんなに慌てなくていいだろ。」
シンは一般常識のような口ぶりで言うが、これは地震大国で育っていないと中々言えないセリフだ。
「・・・この地震・・・もしかしてマスターウェーブが海底で暴れてるからじゃねぇか?」
漁師の一人が、文字通り驚天動地な発言をした。
シンにはそれが有り得ないと分かっていたが、プレートの概念を説明するのが面倒だったので放置した。
彼はその発言が、人々の戦意を大きく駆り立てる事になるとは、夢にも思ってもいなかった。
1
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。
MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。
カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。
勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?
アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。
なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。
やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!!
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。
【完結】偽聖女め!死刑だ!と言われたので逃亡したら、国が滅んだ
富士とまと
恋愛
小さな浄化魔法で、快適な生活が送れていたのに何もしていないと思われていた。
皇太子から婚約破棄どころか死刑にしてやると言われて、逃亡生活を始めることに。
少しずつ、聖女を追放したことで訪れる不具合。
ま、そんなこと知らないけど。
モブ顔聖女(前世持ち)とイケメン木こり(正体不明)との二人旅が始まる。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません
詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m
ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦
*主人公視点完結致しました。
*他者視点準備中です。
*思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。
周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。
見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。
脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。
「マリーローズ?」
そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。
目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。
だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。
日本で私は社畜だった。
暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。
あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。
「ふざけんな___!!!」
と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
とりあえず異世界を生きていきます。
狐鈴
ファンタジー
気が付けば異世界転生を果たしていた私。
でも産まれたばかりの私は歓迎されていない模様。
さらには生贄にされちゃうしで前途多難!
そんな私がなんとか生き残り、とりあえず異世界を生きていくお話。
絶対に生き延びてやるんだから!
お気に入り登録数が増えるのをニマニマしながら励みにさせてもらっています。
皆様からの感想は読んで元気をいただいています!
ただ私が小心者の為なんとお返事すればいいか分からず、そのままになってしまってます……
そんな作者ですが生温かい目で見守ってもらえると嬉しいです。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる