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第三章 シャノン大海戦編

EP67 黄金の魔術師

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 暗く沈み込んだ気分で部屋から出てきた花は、扉の前で待っていたシンと目があった。

「な、何だか嬉しそうね・・・。」

 花は妙にニヤけているシンを見て、気味が悪くなった。

「寝起きの花に問題でーす!!」

 シンはふざけた調子で大声を出した。

「俺は誰でしょう!!!」

 シンは間髪を入れずに聞いてくる。

「不良、女たらし、ナンパ男、超弩級ブラック会社の闇に従う者、チャラ男・・・」

 花の悪気の無い暴言は、止まる事を知らない。

「カード名のコラみたいな奴混ざってるな・・・てか、翔脚のシンは・・・?」

 つい最近広まったばかりの異名が、花から出てこない。シンはその事がかなり気になった。

「あっ、そんなのもあったわね!」

 花は屈託の無い笑顔で答える。

「お、おう・・・。まぁ、が出て来るのを期待してたんだが・・・。」

 シンは花の笑顔を見ると少し凹んだ。
 彼女は悪気があったのではなく、本当にシンの異名が二つとも思い浮かばなかった。

「で、何が言いたかったの?」

 花は不思議そうに聞いた。シンが何か重要な事を話そうとしているのを期待している。

「いや、俺は黄金の魔術師なんだぞって・・・。」

「くだらない事言わないでよ・・・。早いとこ、戦う方法を探さないと・・・。」

 花は呆れたような顔をすると、シンを置いて歩み出した。

「わぁ~!待って待って!!焦らして悪かったって!!戦う手段を思いついたんだよ!!」

 シンはこれ以上引っ張ると、本気で言うタイミングを逃すと思い、花を急いで呼び止めた。

「本当!?どうやって戦うの!?」

 花は好奇心が抑えられなくなり、慌てて聞き返した。

「では仲間の前で発表しましょう!
 黄金の魔術師の編み出した”俺だけの魔法”にして、シャノンに住む人々の思いを糧に強くなる武器・・・について!!」

~~~~~~~~~~~~~

 数々の質問を遮って、シンは酒場へと花を連れて行った。
 酒場に向かう途中で、何人もの漁師たちが自分たちの魔法を訓練している姿が目に入った。
 男達は空中に生み出した水同士をぶつけ合い、周囲を水浸しにしている。

「おはようございます大将!」
「花ちゃんおはよう!!!」
「見てください大将!最下位呪文ですが、アクアが使えるようになりました!!」

 皆が楽しそうに魔法を使っている姿を見て、花は優しく微笑みかけながらも心中は複雑だった。

(私だけなのかな・・・攻撃魔法を使えないのって・・・。)

 逆にシンは皆が魔法を使っている姿を見るたびに、希望の槍じぶんだけのまほうの存在が際立ち、優越感に浸ることが出来た。
 同時に、魔法が使えないと思われている自分に対しても、敬意を忘れない漁師達。彼らの事が、誇らしく思えた。

「お~い!聞いてくれ!!」

 シンは前回と同じように、屋根によじ登ると呼び掛けた。
 漁師たちの大半が自分の方を向いたのを確認すると、更に声を張り上げた。

「知っての通り、俺はお前達のような”型にハマった魔法”は使えない!
 だが今朝になって、俺にしか使えない魔法武器がある事に気が付いた!
 それは俺の力だけでは作れない!お前達と、この町の住人の心が合わさって、初めて完成するんだ!」

 シンの声に共鳴するように、男達も力強く声を張り上げる。

「なんでも言ってくれ!」
「大将の武器を作るぞ!!」
「町のみんなが、陰ながら支持してるぞぉ!!」

 シンは男達の声が、ある程度落ち着くのを待つと、ついにの概要を発表した。

「俺は黄金を事が出来る!
 長らく忘れていたが力じゃ無くて、操る力なんだ!!!
 俺の使う魔法は・・・水中でもだ!!」

 男達の太い歓声が広場から湧き起こった。
 誰もが、シンの思い付いた変幻自在の槍という、驚天動地な発想に驚嘆している。

「すげぇよ大将!!」
「黄金の槍だってよぉ!!」
「確かに、大将だけの武器だ!!!」

「ただ、これが完成図なんだが・・・。」

 シンは手元からシンプルな絵を持ち出した。
 銛、三叉、鞭、長剣など様々な形に変化する武器が描かれている。

「一つだけ問題がある・・・。
 これは俺の力だけでは完成しない。」
 シンは絵を仕舞うと、悔しげな表情で男達の反応を待った。

「手伝いますよ!!」
「俺たちの思いが必要なんですよね!!」
「みんなに協力を呼びかけますよ!」
かねは無いけど、みんな全力を尽くしてくれますって!!」

 漁師たちが暖かい言葉をかける中、シンの表情は更に歪んでいく。
 そして、思い切りを付けると彼が望む思いの真相について叫んだ。

「思いの力っていうのは要するに・・・かねだあぁぁぁッッッ!!!!!!」
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