上 下
70 / 251
第三章 シャノン大海戦編

EP60 漁師

しおりを挟む

「そ、それじゃあ、何で海に近寄らないのか聞きに行こうか・・・」

 シンは心ここに在らずと言った様子で言った。
 何かに見惚れたようで、いつもの溌剌とした様子は無く、目がトロンと垂れている。
 口調も心なしか、普段より落ち着いている。

「大丈夫?何だか具合が悪そうだけど。」

 花はシンの顔を下から覗き込んだ。
 シンは流石にこの顔を見られるのは恥ずかしいと思い、そっぽを向いた。

「大丈夫だ!行こうぜ!」

 シンは無理にいつもの調子に戻そうとして、口調から変えてみた。

「分かったわ、行きましょう。」

 花の方も納得したようで、立ち上がって部屋から出て行った。シンもそれに付いて行った。

~~~~~~~~~~~~~

 情報と人が集まりやすい酒場で情報収集を行うために、2人はホテルから一度出ることにした。
 花とシンが回転扉を抜けると、すぐにサランが花の元へ駆け寄ってきた。

「んん~♪いい子ね♪私の事待ってたの?」

 花が優しく話しかけると、サランは嬉しそうに尻尾を振った。

「貴方が寝てる間、屋外で何回か襲われそうになったんだけど、その都度サランが助けてくれたの!
 よ~し、よしよし♪いい子ですね~♪」

 花がサランの活躍をシンに語ると、サランは撫でて欲しいと言わんばかりに頭を垂れた。

「俺が寝てる間に、更に仲良くなってんじゃねえか!」

 シンはツッこまずにいられない。
 元から仲が良かったが、この数日で更に仲良くなっている事が直感で分かった。

「ねぇ知ってた!?サランって女の子なんだって!
 この辺りで牧場をしてる人に見てもらったのよ!」

 花はとても嬉しそうだ。サランが自分を好きなのが、下心から来るものでは無いと分かったからだ。

「そ、そうか。にしてはおっかない奴だな・・・。」

 シンは開いた口が塞がらない。完全に雄だと思って接してきたからだ。

(待てよ・・・?もし、海底にいるのがマジでヤバイ怪物なら、
 俺たちが戻れなかった場合も考慮して、サランをどうにかした方がいいんじゃないか?)

 シンは冒険に出るからには、死ぬこともあるだろうと思っていた。そのため死への恐怖はなかった。
 しかし残されたサランのことを考えると、放し飼いの状態ではよくないと思ったのだ。

(どこかに預けるか・・・。それか、完全に別れるかのどちらかだな・・・。)

 シンはサランに嫌われているという自負があったし、花ほどサランを溺愛しているわけでもなかった。
 それでも、1か月連れ添った仲間と離れるのは、悲しいものがあると思った。

(ていうか・・・、清也よりも付き合い長いじゃねえか!!!!)

 シンは今更になって気づいたが、サランと過ごした時間は、明らかに征夜との時間よりも長い。
 はっきり言って、シンにとってこれは衝撃の真実であった。

(まあ、何もないならこのままでもいいんだけど・・・。)

 シンはシャノンでは、特に理由はないが・・・・・・・・海に出ない・・・・・。という可能性を信じたかった――。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ごめんくださーい!!!」

 花は酒場の扉を開けると、元気よくあいさつした。
 酒場で飲んでいた男たちは一斉に花の方を向き、鼻の下を伸ばし始めた。

「いらっしゃい!花ちゃん!今日も1人かい?」

 酒場のマスターも、同じように花の下を伸ばしていたが、

「安心しろ!俺もいるからな☆」

 満面の笑みを讃えたシンが花の背後から顔を出すと、マスターを含む全員の顔が青ざめた。
 無理もない。昼間から酒を飲む血気盛んな男達、それは言い換えればシンに挑んで”殴り倒された者”なのだから。

「おいおい!そんなにビビんなって!別に、普段からキレ散らかしてるわけじゃねえから!」

 昔のシンであれば、相手から恐れられたら、誇らしげにしていただろう。
 しかし今では、円滑にコミュニケーションする方が楽しい。という風に、考えを改めている。
 それに、これから情報を集めるのなら、和やかな雰囲気の方が良いに決まっていると、シンは思ったのだ。

(にしても・・・コイツら手のひらギガドリル・・・・・・・・・スマッシャー・・・・・・しすぎだろ・・・。まぁ、痩せた時と今だと、正直別人だけども・・・。)

 シンは正直呆れていた。見たところ、喧嘩の発端となったあの男はいない。
 しかしそれでも、弱った花に近寄ろうとしなかった男たちが、手のひらを返している事には、かなり腹が立った。
 しかしシンは、それを演技力で明るくカバーした。

「ほらほら!俺も混ぜてくれよ!」

 シンは近くのテーブルに座り込むと、男たちに早速話しかけた。

「お前ら、昼間っから酒飲んでるけど仕事は何してんだ?」

 シンは軽い世間話のふりをして、海にかかわる仕事の有無を確かめようとした。
 結論から言えば、この戦法は正解だった。

「あ、ああ。俺たちは漁師だよ。ここ数年は、全くと言って良いほど仕事が無くてな・・・。アイツ・・・のせいで。」

 男は突然顔を曇らせた。先ほどまで、楽しそうに騒いでいた者たちも、一斉に静まり返った。
 花には、それが何を意味するのか分からなかった。しかし、シンは全てを察した。



「お前ら・・・まさか全員・・漁師なのか!!!???」

 シンは大げさに驚いて見せて、反応を確かめた。
 流石にそんな事は無いだろうと思っていたが、誰も異論を唱えない。

「おい嘘だろ!一体何があって、お前ら全員こんな所に居るんだよ!」

 煽りにも聞こえる一言だが、シンは純粋に驚いている。
 シンの質問に、その場に居た殆どの男が俯いてしまったが、カウンターに立っているマスターだけは違った。

「翔脚のシンさん・・・貴方まさかとは思いますが、聞いたことないんですか?」

 信じられないという顔をして、マスターはシンを見つめている。

「一体、何の話だよ・・・?」

 シンは鳥肌が止まらなくなってきた。
 間違いなくマスターが言おうとしている話こそが、周囲を取り巻く豊かな海にシャノンの人々が近寄らない理由なのだと悟る。

 マスターが次に放った一言は無知なシンだけでなく、既に知っている漁師達をも震え上がらせた。



「そんなの決まってるじゃないですか・・・海竜《・・》の話ですよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...