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第三章 シャノン大海戦編
EP59 推察
しおりを挟む「アトランティスの手掛かりは掴めたのか?」
シンは急に真面目な話を振った。
「えぇ、確かに城の一部が海底にあるらしいわ。」
「海底・・・ってことはダイビングか。
任せろ!俺はダイビングサークルだからな!で、どこでボンベを借りるんだ?」
シンは胸をたたいて、少し大げさにドヤ顔をして見せた。
「ボンベはないわ。」
花は声色を変えることなく言ったが、シンは驚きを隠せない。
「えっ!?じゃあ、どうやって潜るんだよ。素潜りはさすがにやばいぞ。」
シンは海底で杖を探しながら溺れる自分が容易に想像できた。
「あなたが伸びてる間に、ちゃんと考えておきましたから、ご安心を。」
花は若干、皮肉を込めて言った。そのことはシンにも感じ取れた。
(ちぇっ!俺が助けてやったのに・・・。)
「どうするんだ?まさか!水遁の術か!?」
シンは若干イラっと来たが、それを飲み込むと鮮やかに冗談へとつなげた。
「アハハッ!!水遁の術!さすがにそれはないわよ!」
花は妙なツボに入り機嫌を直したようだ。その様子を見て内心、シンはほっとした。
「水泡呪文を使おうと思うの。これを使えば5時間は水中で息ができるわ。
あなたが寝てる間にパーム油を使って完成させたから、今すぐにでも行けるわよ。」
花はいつもの笑顔に戻った。魔法に関しては少し誇らしげにしている。
「よっしゃ早速行こうぜ!・・・それはそれとして、こんなにきれいな海があるのに、ガスボンベがないなんて勿体無いな。
波も激しくないし、ダイビングにはもってこいだと思うんだが?」
「そうよね。海を一望できるレストランとかはあるんだけど、ダイビングは誰もしないらしいのよ。
海中レストランもないし、浜辺も入江以外は完全封鎖。ちょっと変よね?」
花もシンと同じ違和感を持っていたようだ。かなり訝しんでいる。
「それにこの町。港町って呼ばれてるのに沖合では漁業をしないし、貿易とかもしないらしいの。」
花は付け足すようにしていった。首が先ほどより傾いている。
「こりゃあ間違いなく何かあるな。王道のパターンだと巨大サメだけど、異世界だしなあ・・・。
クラーケンとかがいてもおかしくないよな。それなら船も沈められるし。」
シンは海底で絡みつかれて、溺れる自分が容易に想像できた。
「潜る前にそこだけ確かめておきましょうか。
あなたが顔を見せれば、きっと怖がって教えてくれるわよ。ねえ、翔脚のシンさん?」
花は完全に気を失っていたので、シンが戦っている様子を実際に見ることはなかった。
しかし、ただでさえ一際目立つ美貌を持っている上に、ユニコーンを連れての来訪という話題に事欠かない状態であったので、近寄ってくる男も多かった。
そのため、町中に飛び交うシンの噂が耳に入るのには、半日と時間を要さなかった。
その間、屋外で花に手を出そうとした男を、一人残らずサランが追い払ったのはまた別の話である。
「いや、あの、それはですね・・・。」
シンは急に慌てだした。三日前に、いわゆる覚醒をするまでのここ五年ほど、完全に平和ボケしていたので忘れていた。
武勇伝というものは簡単に広まり、留まりやすい物なのだ。
仲間には普通に接してほしかったシンにとって、これは重大な問題であった。
「そんなに慌てなくて大丈夫よ。私のために戦ってくれたのは分かってるから。」
花はシンの過去について特に気に留めた様子はなく、シンに向けて優しく笑いかけた。
初対面でナンパしてくるような奴ではあったが、シンが善人であることは花と清也が誰よりもよく分かっていたからだ。
「う、うん。」
シンは何故か、花にそれ以上何かを言う気力が無くなってしまった。
花が時折見せる表情、特に他者を労わる場面で見せるものには、見た者を自然と惹きつける不思議な魔力があった。
それは大げさに作られた笑顔でもなければ、無表情というわけでもない。
内面的な余裕に満ち溢れ、他者を幸せで純粋な気持ちで包み込む。自然な笑顔だった。
普段の、喜怒哀楽が豊かな彼女からは想像もできない。
人としての”格の差”のようなものを感じさせる笑顔に、征夜は魅了されたのだとシンは瞬時に悟ったのだった――。
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