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第三章 シャノン大海戦編

EP53 趣味

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 シンの口から発せられた突拍子のない提案。
 花には、それが現実的でないように感じられたが、シンは自信に満ち溢れている。

「無理よ!いくらこの子が私に懐いても、私は牧場の馬に乗った事もないのよ!」

 花は既に、ユニコーンに対して”この子”と呼ぶくらいには愛着がわいていた。

「大丈夫!俺は乗馬部だから!」

 シンは満面の笑みで言った。
 花にしてみれば、大丈夫と判断するには些か不安な根拠だった。

「乗馬部だからってユニコーンに乗れるとは限らないわ!」

 花は正論を言ったが、シンは気にも留めない。
 むしろ、信用されていないことを面白がっているようだ。

「大丈夫!牧場でのバイト経験もあるから!」

 今度の根拠は、少しだけ花を安心させた。

「まあ、そこまで言うなら・・・。というか、動物好きなの?なんだか意外だわ。」

 花はそこそこ失礼なことを言ったが、シンは気にしなかった。

「ああ!愛でるのも、狩るのも、食うのも好きだぞ!」

 シンは豪快な笑みを浮かべている。
 花はそんなシンの様子に、少しだけ恐怖を抱いた。

「狩る・・・ってことは鹿とかを撃つってこと?」

 花は少し震えながら聞いた。

「まあ、狩猟免許ももってるし、地元の猟友会にも入ってるしね。クマを撃ったこともあるよ。」

 シンは少し得意げだが、そもそもこの世界で銃を見たことがないので、あまり意味のない自慢だった。

「へえ・・・そこそこうまいのね。」

 花はシンを少し見直した。ただ、シンのことなのであまり信用しない方がいいとも思った。

「銃の使い方はライフルからピストル。リボルバーからフリントロックまで、ハワイで爺ちゃんに教わったんだ。」

 シンは、まるで高校生探偵のようなことを言った。

「ほかに趣味とかはあるの?」

「アニメ研究会、料理研究会、古生物同好会、射撃同好会、賦遊理威・・・じゃなくて、ダイビングサークル、カードゲームサークル、乗馬部、陸上部、空手部には入ってたな。あっ!ナンパ同好会も入ってたな!」

 花は「最後のさえなければ、普通に褒めたのに・・・。」と思った。

「随分と多趣味なのね・・・。」

「総てを司りたかったからな!」

 シンは右指を空に向けた。
 天の道を往ってそうなポーズだ。

「へえ・・・。」

 花にはもはや、返す言葉がなかった。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

「さあ、乗るか!」

 シンはそう言うと、ユニコーンの頭を撫でた。
 ユニコーンは立ち上がった。先程の荒ぶりはないが、目から少し不機嫌なことが窺える。

「乗せてくれるかしら?」

 花は微笑みを湛えた顔で優しく聞いた。
 すると、ユニコーンは大人しくなり、花にやさしく頬ずりした。

「こいつやっぱり、花の事が好きだな?」

 シンは訝しんでいる。花とユニコーンは飼い主と愛馬と言われても信じるほど、仲良くなっている。

「そうだといいわね。じゃあ、乗せてもらいましょうか!」

 花はいつの間にか、文字通り”乗り気”になっていた。

「じゃあ、花から先に乗ってくれ。」

 シンは軽い調子で言ったが、花には酷な注文だった。

「んくっ!・・・無理だわ。」

 花はユニコーンの背中によじ登ることは出来なかった。

「しょうがねぇなぁ!ほれっ!」

 シンは花の尻を支え、下から押し上げた。

(うわっ・・・なんていうか、清也の奴が羨ましいな。)

 彼は花の事を押し上げながら、邪な事を考えていた。
 シンの指に食い込む感触は、まるで雲のようだ。

「えぇっと・・・ありがとう?」

 よじ登った花は、首を傾げながら礼を言った。

「いやいや、こちらこそ!」

 シンはニヘニヘと笑っている。
 何かを想像しているように見える。

「何かやらしい事考えてるでしょ!」

 花は直感で分かった。

「いやぁ~良い桃をお持ちだなぁと・・・。」

 シンは正直に答えた。

「あいつを刺し殺していいわよ。」

 冷たい目をした花が命令すると、ユニコーンは即座に角をシンに向けた。

「すまんかった!!」

 シンは両手を顔の前に合わせた。

「置いてっちゃおうか?」

 花はユニコーンに話しかける。
 ユニコーンは、まるで言葉がわかるかのように、力強く嘶いた。

「おいおいおいおいおい!
 俺を置いてったら、早く走れないぞ!」

 シンは必死に引き止める。

「ちっ、早く乗んなさいよ。」

 花は明らかに不機嫌だ。

「失礼しやす姉貴!」

 シンはまた子分口調になった。
 少し拗ねていたが何かに気付き、またニヘニヘと笑い始めた。

「何笑ってんのよ?」

 花は怪訝そうな顔をして聞いた。

「振り落とされないように、後ろから腕で固定してやろうか?」

 シンはニヤけながら花に聞いた。
 明らかに何かを企んでいる。

「お気遣いどうも!でも、この子は私を振り落としたりしないわ。そうよね?」

 花が聞くと、ユニコーンは今度も力強く嘶いた。

「はぁ・・・。じゃあ俺が前に乗るよ。」

 シンは真面目な顔をして言った。
 どこか残念そうに見える。

「そうしてくれるかしら?」

 花は、シンの企みを阻止できた事を嬉しく思い、満面の笑みを浮かべている。

 シンは言われた通り前に乗った。
 残念そうにして見せたが、それは全て演技。本当は、前に座ることが目的だった。

「ちゃんと俺に掴まってろよ?」

 シンがそう言うと、花はシンの腰を掴んだ。

「よし!行くぞ!」

 ユニコーンは凄まじい速度で走り出した。
 シンがコントロールできるほどの速度ではあったが、慣れない花は怯えている。

(懐かしいねえ、この感じ!血が騒ぐぜ!社会人になってからは一度も乗ってないからなあ!)

 シンはユニコーンの走りから、”馬以外のもの”を思い出していた。

「きゃっ!」

 花はそう言って、掴まっているシンに更に密着した。

(うけけ、やっぱ花の胸は柔らかいなぁ~。)

 彼はやはり、邪な事を考えていた。
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