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第五章 氷狼神眼流編

EP118 因縁の相手

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 その日、彼は死神へ至る道を歩み始めたーー。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「リュックくらい、持ってくれば良かった・・・。」

 浮き足立ったまま出発した清也は、数分後には後悔していた。水やテント、その他様々な生活必需品を花達に渡してしまったのだ。

「鎧と盾は置いてけって言われたけど、リュックは必要だったかなぁ・・・いや、これも修行だよね!」

 清也は現状を前向きに捉える事にした。しかし一時間も照りつける日差しの中を歩き続けると、流石に喉も乾いてくる。

「ちょ、ちょっと休憩・・・。」

 完全にバテてしまった清也は近くの川で水を飲むと、大きな木の影に隠れて休む事にした。

「二人とも、仲良くしてるかなぁ・・・。」

 別れたばかりの花達の事が、清也は早くも心配になりつつあった。

「まぁ、仲悪くは無いと思いたいけど・・・いや、仲が良すぎても困る・・・。う~ん・・・やっぱり、1人だと寂しいなぁ・・・花・・・。」

 遂に、両思いになった。正確には両片思いが判明した清也は、恋人の花をシンと2人きりにしたのは間違いな気がして来た。

「へへへ、花が僕の彼女・・・♪」

 清也はそれだけ言うと、うたた寝を始めた。

 一方その頃、花とシンは・・・



「あ、暑い・・・。」

「よ~し、テント張ったぞ。・・・うわ、めっちゃ疑ってるじゃん。」

「・・・入って来ないでね。」

「分かりましたよ~。」

 寝不足で体力を消耗した2人、特に花はその後、清也と同じように休み始めた。
 しかし2人にはテントがある為、清也よりは幾分かマシな休養を取ることが出来たーー。

~~~~~~~~

 仄暗い夕暮れの草原、辺り一面に死体が転がり、遥か遠方からは黒煙が立ち上っている。
 空は今にも落ちてきそうなほどに赤く、たった今一機の熱気球が、盛大な騒音を残しながら墜落して行った。

 清也はその時、自分が夢を見ているのだと悟った。
 その世界の光景は、太平の世界とも地球とも異なるような、歪で入り組んだ様相を呈している。

 体は自由に動かない、意識も混濁している。
 しかしそれでも、意に反した身体のうねりが、清也の精神を置き去りにする速さで刀を振るっている。



「情けない男なのだな!殿ッ!!!」

「貴様には言われたくないものだ!|ッ!!!」

(う、うわぁっ!!??なんだこれっ!!??)

 訳が分からないまま、無我夢中に視線を敵に向ける。しかしそれでも尚、清也は死闘の中に入り込めずにいた。

(ぐ、グワングワンしてる・・・おぇっ・・・。)

 視点が次々と回転し、体を捻るたびに脳を揺さぶられる。もしこれが、生身の体であったなら、清也は確実に酔ってしまうだろう。

 だが、視点の人物は平然とした様子で戦闘を続けている。肩や手先に切り傷を負ってはいるが、どれも致命傷ではない。

「何故、そうも闘争を求める!負け犬の分際でッ!!!」

「武士に戦う意味を問うか!所詮は足軽、武士道の風上にも置けん男だッ!!!」

「何をぉ~ッッ!!」

 完全に清也は置いて行かれている。ひたすらに刀を振り続けるが、決してガムシャラでは無い。
 斬撃の一つ一つが、明確に急所を捉えながらも相手の斬撃をいなしている。

 クルクルと回転しながら空中で斬り合う2人、もはや決闘を通り越した演武のような美しさで、刃と刃が捻れ合っている。

「エリーゼを!返してもらうぞッ!!!」

 清也が視界に捉えた男が、清也に向かって叫ぶ。

「ならば、闘争から身を引くが良い!なぜそうも、彼女を戦闘に駆り立てる!!」

 清也の視点の人物も、負けじと言い返す。

「あれは、私の妻となる女だ!貴様のような下賤には、手に余るとは思わんのか!」

「彼女は貴様の妻では無いのだぞ!勝手に定められる運命など存在しない!!!」

 激情を衝突させながら、ひたすらに憎悪をぶつけ合う。周囲にはお互いの血が飛び散り、体力も限界に近づきつつある。
 それでも尚、致命傷にはまだ足りない。両者の実力は完全に互角、三日三晩の死闘が容易に想像できる。

 清也は戦いの視点を追う中で、妙な既視感に囚われつつあった。
 空中を自在に飛びながら、真空刃を飛ばし合い、神速の斬撃をぶつけ合う。そんな体験、これまで一度もないと言うのにーー。

 捻れあい、ぶつかり合い、それでも尚、死闘が終わる気配は無い。
 両者はともにそれを察したようであり、遂にの打ち合いによって、決着をつける事とした。



<<<氷狼ひょうろう神眼流しんがんりゅう奥義・刹那氷転せつなひょうてん!!!>>>

<<<黒夜こくや月光流げっこうりゅう奥義・月薙つきなぎ!!!>>>

(ウワアァァァァッッッッ!!!???)

 心の中で情けない叫びを上げながら、清也は敵の懐に斬り込んで行った。
 そして、奥義と奥義が衝突した瞬間、視界が青白く染まったーー。

~~~~~~~~~~

「う、うぅん・・・。あぁ、夢か・・・。」

 座り込んだまま大きく伸びをする。朝日が既に上っており、どうやら翌朝まで寝てしまったようだ。

 しかし、清也の寝ぼけた心地も長くは続かなかった。



「殺すつもりじゃ無かったんだが・・・まぁ、こっちも家族を養わなきゃ行けないんでな。へへへ、悪く思うなよ。」

 清也の背後で、何かを物色する音が聞こえる。
 恐る恐る振り返ると、そこには2人のがあった。棍棒で頭を叩き割られており、どう見ても既に死んでいる。

「・・・可愛いネックレスじゃねえか。・・・これは売らずに、アイツに着けさせてやるか。喜んでくれると良いが・・・。」

 淡々と、慣れた手つきで死体を漁っている。女性が首にかけた金色のネックレスは、男の巾着の中に収まった。



(ど、どうしようっ!?た、助けた方が良いのかな!?いや、でも死んじゃってるし・・・いや、僕は勇者なんだ!戦わなくてどうするんだよ!)

 様々な選択肢が、清也の中を駆け巡る。
 幸いにも、男は此方に気付いていない。背後をとって、斬り倒す事も可能だろう。
 しかし清也には、一つの葛藤があったーー。

(で、でも!それだと殺しちゃう・・・!だからと言って、手加減なんてしたら殺されちゃうし・・・!)

 殺したく無い。しかし、殺されたく無い。見過ごしたく無い。しかし、咎められない。相反する感情が、清也の中でぶつかり合う。

(ここで死んだら意味がない!死ぬのが怖い訳じゃない、意味のない死はいやだ!・・・でも、あの人達は可哀想だ・・・。でも、殺したく無い!どうすれば良いんだ!)

 悩む、悩みに悩んで悩み続ける。
 口では幾度となく「殺してやる」と言ってきた清也でも、いざという時に体が動かないのは情け無いと自分でも思った。

 しかしそれでも、性根が優しい清也には殺人の決断が出来なかった。
 冷静さを欠いた今の清也に、"背後から殴り倒して拘束する"と言う選択肢は思い浮かばなかった。

(どうしよう!どうしよう!ど、どうすれ、は・・・は・・・)

 清也は咄嗟に、口を押さえようとした。しかし間に合わない。

「へっ、へくしゅん!」
(誰か噂しやがったな!)

 絶妙なタイミングでのクシャミに、清也は外的な要因を察した。偶然にも、それは当たっていた。

「誰かいやがるな!出て来い!」

 それを聞いた清也は、仕方なく戦う覚悟を決めた。

(やってやる!やってやるさっ!!チクショーッ!!)

 心の中で自分を鼓舞する。しかし、盗賊の顔を見た瞬間、完全に怖気付いてしまった。



「お、お前は!!!」

「ん?どっかで見た顔だな。」

 そう、その盗賊はーー。

「あの時の奴!」

 異世界にて、だった!
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