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第二章 黄金の魔術師編
EP36 紅月
しおりを挟む宿に向かう途中、清也はこれまでを思い返し感慨に耽っていた。
(16日間、本当に長い旅だった。この世界に召喚されてからはだいたい50日間だ。
黄金の魔術師に会うことができれば、この世界に召喚された転生者が全て揃う。・・・魔王を倒す冒険はこれからだ!)
清也は魔王を倒す決意を固めた。
花も道中で、同様に感慨に耽っていた。
(清也、一体なんて言おうとしたんだろう?やっぱり・・・ちょっと急ぎすぎたかな・・・。)
宿屋の前に着くと、二人は途端に緊張し始めた。
「若くてイケメンな人だと良いね!」
清也が笑顔を浮かべながら言った。
「小太りのおじさんかもよ。」
花は興味がなさそうである。
「普通、思い浮かべるの逆じゃない?」
「転生前の顔なんて覚えてないんだし、しょうがないわよ。」
そう言うと、花は大げさに肩をすくめた。
緊張がほぐれたところで二人は宿屋に入った。中はかなり豪華な作りになっている。
受付に近付くと、従業員と思われる女性に話しかけられた。
「いらっしゃいませ。当ホテルは現在、お部屋が一つしか空いておりません。同室での宿泊でよろしいでしょうか?」
女性は微笑みながら聞いた。
「同室で結構です!」
「泊まりじゃないんです。」
二人は同時に違うことを言い、顔を見合わせた。
先に意見を述べるのは清也だ。
「ここより安い宿があると思うけど。」
「2週間以上野宿したのよ?たまには少し高い所に泊まっても良いんじゃない?
それに、お金は黄金の魔術師さんに借りれば良いじゃない。」
花の考えは、かなり女性的な考えだ。
清也にはよく分からないが、争うほどの事でも無いので従う事にする。
「まぁ、そうか・・・とりあえず先に彼に会おう。」
花との相談を終えた清也は、従業員に向き直る。
「ここに、黄金の魔術師と呼ばれる方はいらっしゃいますか?」
「一番奥の部屋に泊まっていらっしゃいます。あのお客様を訪れる方宛てに、伝言を預かっています。
もし、私に用があるなら"紙に書いて扉の郵便口から入れろ"との事です。」
従業員はそう言うと、通常の業務へと戻って行った。
「紙・・・どういう事かしら?」
「大富豪だろうからね、狙われないようにしてるんだよ。」
清也は納得のいく答えを言ったつもりだが、すぐに"少ししか黄金は出せない"という彼の能力を思い出して、少し不安になった。
「ねぇ、彼は少しの黄金しか出せないんじゃ・・・。」
花も気付いたようだ。見合わせた顔は、どちらも不安げである。
「人違いじゃない事を祈ろう。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
一番奥の部屋。
その扉は金色に飾られていて、いかにも大富豪がいそうな部屋といった感じだ。
扉には、他の部屋には無い横長の窓が空いていて、ポストのようにも見える。
扉横の机に置いてあるメモ帳とペンを使い、小さな手紙を書く。
「僕は吹雪清也。魔王を倒す旅をしているものです。あなたは、私と同じ使命を持って転生したのでは無いですか?
僕の旅に同行して欲しいのです。会って話は出来ませんか?」
するとすぐに返事が来た。
答えは、二人が全く予想していないものだった。
その紙には、「私はその質問に"答えることができない。"」と丁寧な字で書かれていた。
間髪入れずにもう一枚が出てきた。「また明日来て欲しい。」と書かれている。
清也と花は共に落胆した。しかし断られたわけでは無い。
出来るだけポジティブに、今後を考える事にした。
「えぇと、花って成人してるよね?」
清也は恐る恐る聞いた。女性に年齢など聞いてよいか、彼には分からなったからだ。
「うん、まだまだ若いけどね。」
実年齢までは教えてくれなかった。"若い"という事を強調する所が、清也には可愛く感じられる。
「じゃあ、今から飲みに行こうか。」
清也はそう言うと、花を連れてシンのいる酒場へ向かった。
~~~~~~~~~~~
酒場は大勢で賑わっているが、中心付近の席は空いていた。周囲を見渡したが、そこにシンはいなかった。
「とりあえず飲もうか。」
清也はそう言って赤ワインを注文した。
「えぇ私も同じのを」
花も注文した。
二人とも酒に弱かったので、ワインを飲むとすぐに酔った。
普段はあまり飲まないので、お互いに知らなかったのだが、かなり酒癖が悪かったーー。
「でもよぉ・・・あいつが来てくんないと、話にならんっよなぁ!」
清也が大声で叫ぶ、今にも倒れそうだ。
アルコールで理性のタガが外れたのか、普段の温厚な様子が消し飛んでいる。
「質問に答えれないってどういうことよ!来ないなら来ないって、言えば良いのに!」
花は怒っている。2人とも多かれ少なかれ持っていた不満が、一気に爆発し始めた。
「魔王討伐なてぇ、金持ちになちまったら、やりたくないかぇ!」
清也は舌が回らなくなってきた。完全に泥酔している。
これではもはや、ただのオッサンである。
「それは一体誰でしょう!?」
「黄金の魔術師さんでーす!あっはっはっはっは!!!!!」
清也は完全に酔っている。花の調子良い問いかけに対して、大声で合いの手を乗せた。
「そうよね。」
花は妙に淡白な口調でそう言って、どこかへ步いて行った。
結局、清也は泥酔した花と共に、店外へ摘み出された。
酒も飲まずに大声で喚き立てら客など、店側も願い下げである。
「あしたもういちどたずねよう。にげられないようにあさいちばんに。」
清也は自分でも、何を言っているのか分かっていない。
しかし、思考は少し冷静になったようだ。
「えぇ、そうね。・・・ホテルに行こっか?」
花はそれとなく誘ってみたが、清也はそもそも聞いていなかった。
二つのベッドに分かれて、二人は熟睡した。
天窓から見上げた満月が、紅く輝いている事に二人とも気付かなかった。
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