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第二章 黄金の魔術師編

EP34 赤空

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 清也はふらふらと歩く人達の向かう先へと走って行った。
 想像していたよりも奥深くへと、多くの人が列を為して歩いている。

(間違いない!この先に人狼がいる!)

 清也は剣に手をかけ警戒を怠らず、慎重に進んでいく。



 30分は歩いただろうか。歩く人が為す隊列は、間隔を空けて途切れる事なく続いていた。
 そして、ついに隊列の先頭に追いついた清也は、先頭を歩く者の視線の先にある林が、紫色に輝いていることに気がついた。

(あれは、一体なんだ?)

 好奇心を刺激された彼は、光る林へと分け入った。
 するとそこには、巨大な"紫色の魔法陣"が敷かれている。

(この先に行けば、何かが分かる!)

 直感で察した清也は、迷うことなく魔法陣に飛び込んだ。

 そして彼は、転生した時と同様に視界が回り、意識が深い渦の中に吸い込まれるような感覚を、またも味わったーー。

~~~~~~~~~~

 目を覚ますと、そこは城の外壁にある広場だった。足元には、先程の魔法陣が敷かれている。
 空は燃えるように赤く、今にも落ちて来そうなほど低い。
 カラスのような声で鳴く、鱗に覆われた不気味な鳥が、空を自在に飛んでいた。

(ここは、一体どこなんだ?)

 清也が周囲をを見渡すと、1人の黒いマントに身を包んだ男が外壁の外を眺めていた。フードで髪を隠している。
 清也は、その人物こそが"人狼"であると瞬時に察した。

「お前は誰だ!こっちを向け!」

 清也が叫ぶと、その男は小刻みに震えながらゆっくりと振り向く。

<ここまで、お前は自分で来たのか?>

 男は振り向きざまに、一度だけ止まって聞いた。

「そうだ!ここはどこだ!」

 清也は強気に言い返す。しかし内心では、この不気味な空間に怯えている。

「ここは、空の果てであり、地平線の先。
 土の下であり、星の中心。人の心とは相いれぬ場所であり、人で無くなった者を受け入れる場所。数多ある世界の、可能性の一つ。」

 男がそう言うと、清也が遮った。

「何が言いたい!具体的に話せ!・・・!?動けない!?」

 そこで清也は、自分の体が動かない事に気が付いた。指先の関節まで、微動だにしないのだ。

「この世界の空は血の色で染まり、土は現世の空のように青い。
 ここを住処とする者にとって、人の死は芸術であり、人の争いは娯楽だ。」

「黙れ!要件だけを言え!」

 清也は叫んだが、斬りかかろうとしても体が動かない。

「原始より様々な世界と交わりつつも、どの世界から拒絶された場所。
 人の幻想を受け止めつつも、美しい物を跳ね除ける場所。
 心の闇を受け止めながらも心に光を持つ者を許さない場所。
 絶望により塗り固められた世界。人はこの場所を魔界と呼ぶ。」

 言い終わると、男は左回りにゆっくりと振り向いてこう言った。



<私は新世界・・・を作る者だ。>



 振り向いた男の顔には何も無かった。
 顔の大部分はフードに覆われ、下半分しか見えない。
 しかし、目も鼻も口もない顔から声がした。

 それと同時に、掠れたため息のような呻き声が聞こえて来る。
 しかし、すぐにそれは、透き通るような美しい声に変わったーー。

「私と共に来るんだ。新たな世界の創造のために。」

 清也は不思議と、その言葉に感激を覚えた。
 理由のわからない感動が清也の体を駆け巡り、涙が頬を伝った。

「新世界・・・新世界・・・新世界・・・。」

 清也は同じ言葉を何度も繰り返した。

 清也はふらふらとした足取りで男の方へと近づいていく。
 男のそばに着いた頃には、その心に心酔以外の感情は残っていなかったーー。

「さぁ、私と共に行こう。古き世を捨て、新しい世界を作るのだ。」

 またも、透き通るような声が囁いた。
 今度の声は、嘲笑を堪えているかのような雰囲気があった。



 しかし、その言葉は清也の眠っている心と、清也を守る不思議な力を呼び覚ました。

(・・・魔王の・・・討伐・・・僕は、使命・・・。
 ・・・ハッ!そうだ!僕には使命がある!あの世界でやるべき事がある!そして・・・。)

 そこから先は言葉となって発せられた。

「僕には!命を賭けても!守らなければならない物がある!」

 その言葉を発した時、周囲は桜色の霧に包まれ、清也は姿をくらました。

「な、何!?清也!一体どこへ行った!」

 男は先ほどまでの余裕に満ちた態度を捨て、清也を見つけようと慌てて周囲を見渡している。

「お前が誰だか知らないが!お前は絶対に!まともじゃないッッッ!」

 背後から、殺気に満ちた清也の声がする。
 男が振り向くと、霧の中から"瞳を琥珀色に輝かせた“清也が現れた。
 剣を頭上に振りかぶって飛び上がり、勢いよく振り下ろすーー。

「グァァッッ!!!」

 清也は男の頭を狙ったが、間一髪で腕に受け止めた。清也の剣は、男の"左腕"に深々と食い込んだ。

 清也は再び攻撃を加えようと思った。
 しかしある事に気付き、急いで森の様子を確かめた方が良いと考え、思い留まった。

 そして、紫色の魔法陣に飛び込もうとしたとき、背後から男の叫びが聞こえてきた。

「お前のことは必ず殺してやる!俺に傷をつけた事を!死後も永遠に後悔させてやるからな!」

 男は捨て台詞を吐いている。先ほどの余裕に満ちた態度は消え、確実な憎悪を清也に向けているのだ。

「お前が俺の大切な人に手を出したら、俺が必ずお前を殺してやる!死ぬのはお前だ!」

 清也は振り返ってこう叫んだ。
 瞳は更に強く輝き、髪が逆立っている。乱暴な口調で言い返す姿には、逞しさすら感じさせる。

「死ぬ?この私が?笑わせてくれるわ!」

 男はそう叫ぶと黒い雲のような姿となり、清也に迫って来る。
 しかし清也は雲に呑まれる直前で、紫の魔法陣へと飛び込んだーー。
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