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第二章 黄金の魔術師編
EP32 誘導 <☆>
しおりを挟む「お前が言うことが本当なら、あの馬鹿でかい犬はナイトハンターだってことか?」
シンは疑っているような表情で聞いた。たしかに、信じがたい話だろう。
「間違いない!挿絵も体格も、犬を引き連れる習性も一致してる!」
「でも、森には近付かなくて、人を襲わないんじゃないの?
それに、人に敵意を持っていたら犬は引き連れないって・・・。」
「僕が思うに、アレは人間には敵意を持ってない・・・。」
「だったら、どうして私たちに襲いかかってきたの?」
「そうだ、犬どもを従えてたんだぜ。突然変異か何かなのか?」
「なぜ襲ってきたのか。それは僕にも分からな・・・ハッ!」
その時、清也は一つの方法を閃いた。
その方法なら、全ての矛盾に合点がいく。
「分かった・・・!"ハーメルンの笛吹き男"だ・・・!その方法なら、ナイトハンターを使える!」
「俺、その話知らないんだけど、一体どんな話なんだ?」
「簡単に言えば、笛を吹いて子供を"催眠術にかけ連れ去った男"の話だよ。
きっと人狼も、ナイトハンターを操ったんだ!
敵意を持ってはいないけど、自意識が伴ってなかったから犬を率いて僕たちを襲えた!
その騒ぎに乗じて、人間を運び出した・・・。いや、彼らの事も操って誘い出したのかも・・・。
そして昨日の道中で、後方の二班を同じように連れ去った・・・。」
苦々しそうな表情で、清也は俯く。相手はどうやら、予想を超えて手強い男のようだーー。
「その話が本当なら、今日中に俺たち全員が攫われるって事か!くそ!」
絶望的な状況に対して、シンも悪態を吐く。
怯えた花は清也に体を寄せ、安心感を得ようとする。
「そんなことはさせない!僕に案がある!」
清也はそう言うと、花を振り解いて全速力で走り出した。
~~~~~~~~~~
先頭を歩くサーインの元に、清也が駆け寄って来る。
「サーイン!話があるんだ!みんなを止めてくれ!」
「一体どうしたんだ?」
「今すぐに、全員に伝えないと意味がない!頼む!急いでくれ!」
「分かった、みんな止まれ!清也が話があるそうだ!」
全員が足を止めると清也は話し始めた。
「僕の考えでは後方の二班のどちらかに、人狼がいた!そいつは催眠術のようなものを使えるみたいなんだ!
ラースが見に行った後、その人狼が二班を操って姿を消した!だから、もう襲撃はされないし、人が姿を消すこともない!安心して進んでほしい!」
「みんな聞いたか?もう襲撃はされないようだぞ!」
サーインは嬉しそうに言った。民間人たちも嬉しそうにしている。
「突然止めて悪かった。これで話は終わりだ。先へ進もう。」
旅団が進み始めると花とシンが清也に駆け寄ってきた。
「本当にあれが伝えたかった事なの?後ろの二班じゃなくて、私たちの中に人狼はいるかもよ。」
「そうだぜ、俺たちの中にいないっていう保証がどこにある?」
シンも花と同意見のようだ。
「僕はむしろ、後ろニ班には人狼はいないと思ってる。それを見越して全体に言ったんだ。」
「じゃあ、どうしてあんな事を言ったの?」
花は不思議そうにしている。
「奴は僕たち全員を一度に操るだけの力が恐らくない。だから少しずつ数を減らしてるんだ。
ナイトハンターもそのために使ったんだと思う。だから、きっと正体がバレるのを恐れてる。
僕が後方の二班の中にいたと言い、その後に襲撃が起きなければ、その言葉をみんなが信じる。」
「そうか!その言葉で逆に人狼は俺たちを操りにくくなる!」
シンは、清也の機転に少しだけ感心しているようだ。
「おそらく、人狼は班二つ分。つまり80人ほどを操れるんだと思う。
何が目的なのか分からないけど、後の3班は無事に町へ着くことができると思う。
町に着けば、もっと多くの人を攫う事が出来る。そう考えれば、危険を冒してまで僕たちを攫う理由は無いよ。」
~~~~~~~~~~
その晩、点呼をすると確かに全員がいた。
各々がテントを張り、ついに寝静まった。
「清也ぁ~、見張りなんてしなくても大丈夫だよ~。
早く寝ようよ。明日に疲れを残すべきじゃないよ。」
花が甘い言葉を以って清也をテントに誘う。
その声には、少しだけ艶やかな気が含まれている。
(そうだよな・・・僕がみんなに安心しろって言ったんだし、その責任は取るべきだよな。
・・・よし、自制心だ!絶対に、手を出したりしないぞ!)
「僕も眠くなってきたし寝るかなぁ・・・。」
清也とて男である。一つ屋根、それも狭いテントの中で同衾するのは、並大抵で無い事は知っている。
だからこそ、肝に銘じた。花という誘惑の塊に屈しないとーー。
開けてみると、中は想像よりも狭かった。
布団が一枚だけ敷かれていて、花が掛け布団から顔だけを出している。
「この辺り、妙に蒸し暑いじゃない?だから、夏用のパジャマに変えてみたんだけど・・・どうかな?」
そう言って掛け布団を取り払うと、いつもより薄着になった花がいた。魅力的なボディラインが、清也の交感神経を直撃する。
「えぇと・・・とっても似合ってるよ。なんていうか、その、綺麗だ。」
清也は目を逸らしながら言った。色々と、凝視するのが恥ずかしい。
「本当!?ありがとう!」
「じゃあ、おやすみなさい。」
清也はそういうと、吊るされたカンテラを消した。
暗闇に包まれた薄布の中で、花の敷いた布団に潜り込む。
しかし、決して彼女には触れない。出来るだけ離れて、彼女を避けるようにする。
モフッ・・・モフッ・・・♡
(おわぁっっっ!!!???)
清也は、危うく叫ぶところだった。
夢へと落ちる寸前でまどろんでいた彼の手に、柔らかい感触が広がって行く。
花のしなやかな手が、清也の手を掴んで離さないのだ。無理やりに引きはがす事も出来るが、その度胸も無い。
そして何より、彼の手が触っているのは、花が胸部に蓄えた豊かな脂肪であるーー。
「んぁっ・・・♡んっ・・・♡んんっ・・・♡あんっ・・・♡」
(ええぇぇぇッッッ!!!???何やってんのぉッ!!??)
幾度となく同衾しているのに、ボディタッチの一つも無い清也に対して、花は少々憤っていた。
そして、テント一つでの旅という物には、プライベートが存在しない。
危険なので茂みに行くことも出来ないし、基本的に一人になれる時間が無い。
早い話、”発散”することが出来ないのだーー。
欲求は溜まる一方で、悶々とした日々が続いている。"大人の女性"にとって、これはかなり辛かった。
思い切って、大きくアプローチを掛けてみた。
自分の好意を示せば、関係の発展が有るかも知れないと思ったからだ。
しかし清也はーー。
(えっ!?えっ!?えぇぇっっっ!!!???ど、どうすれば良いの!?寝ぼけてるの!?)
すべきことが分からなかった。
答えは簡単だ。花の胸を揉み込む手に、力を込めれば良い。しかしそれだけの事が、彼には出来なかった。
花にも、彼が起きている事は伝わっていた。吐息が明らかに荒くなり、手が震えているのだ。
しかし、一向に揉み返してくれる気配はない。彼女の中に、みじめな気持ちが広がって行くーー。
「・・・意気地なし。」
これ以上の挑戦を諦めたのか、花は握りしめた清也の手を強引に引きはがした。
そして小さく不満の声を漏らすと、ふて寝してしまった。
(い、一体・・・どうすれば良かったんだ・・・?)
突如として、強烈な疲労感に襲われた清也は、落ちるように眠り込んだ。
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