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第二章 黄金の魔術師編

EP31 失踪

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「みんな起きろ!!!今すぐベーステントに集まってくれッ!!!」

 サーインの鬼気迫る声で、テントにいた人間は民間人、護衛を問わず全員が跳ね起きた。

「清也ぁ、おはよぅ。一緒に寝てもいいって言ったのに・・・。」

 花はテントの中から、パジャマのままで出てきた。

「・・・あ、うん。おはよう・・・。見張り・・・してた・・・。」

 清也はどうやら、居眠りをしていたようだ。
 結局、昨夜は何も起こらなかった。しかし彼は、女性の寝ているテントに入る勇気が無く、結果的に屋外で寝る事となった。

「真面目なんだからぁ~。」

 呆れたにも、残念そうにも聞こえる花の声が、朝焼けと共に頭上から降り注いだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~

 15分ほど経ち、ベーステントにある程度の人が集まると、サーインは慌てた様子で叫んだ。

「今すぐ昨日の班に分かれてくれ!・・・急げ!」

 清也は花、シンと共に民間人を集めて点呼を取った。

「うん、ちゃんと全員いるわ!」

「昨夜は点呼を取らなかったけど、誰も欠けてないのは奇跡だぜ!」

「みんなが生きてて良かったけど、一体何でサーインはあんなに慌ててるんだろう・・・?」

 他2人が安堵する中、清也は1人だけ不安そうに言った。

「みんな・・・点呼は終わったか・・・?」

「全員います。」

 ラースのいる班の護衛が報告する。

「こっちもです。」

 花も続けて報告する。

「俺の班もだ・・・。ところで、3つの班のどれにも属してない奴はいるか?」

 サーインが静かに聞いた。しかし、誰も手をあげない。



「なぁ?どうして他の2班は・・・誰もいないんだ・・・?」

 サーインは震えながら聞いた。恐れよりも怒りで震えているように感じる。
 そのとき、清也たちは初めて気付いた。現状の異常性にーー。

「本当だ・・・護衛も、民間人も・・・。1人もいない・・・。」

 清也は震えながら確認する。どうやら、最悪の事態が起こったようだ。

「どうして誰も気付かなかったんだ!班同士はそこまで離れていないはずだ!」

「待ってくれよ!俺たちは野犬に襲われて、他の班なんて気にしてる余裕はなかったんだ!」

 シンが怒ったように言う。その場に、険悪なムードが立ち込める。

「私たちは、後ろの班がしっかり付いて来ていると思っていました・・・。
 そうしたら、前から来たシンさんに、”野犬に襲われたから前には寄るな”と言われて、私が後ろの班にも、同じことを伝令しました。
 そのときには、まだ彼らはいましたよ・・・。ところでサーインさん、あなたは何をしていたんですか?」

 ラースは事細かに状況を伝えた。その言葉尻には、サーインへの"疑念"を感じさせる。

「俺は先頭で、班のみんなを連れて歩いていた。
 清也の班がついて来なくなったので、みんなと共にキャンプに着いたら清也たちを探しに戻ろうと思ってた。
 けど、戻ってきたからそのまま寝た。清也たちが野犬は倒したと聞いたからな・・・。」

 サーインは苦々しそうな表情で、昨日の動向を申告した。

「清也・・・この事はもしかしたら、と関係があるんじゃないか?」

 シンは清也に目配せしながら、判断を仰ぐ。それに応じた彼は、ゆっくりと口を開いたーー。

「あぁ、言わないと・・・。
 サーイン、シンと僕は野犬の襲撃に関して、一つの仮説を持ってるんです。」

「なんだ?それが今回の件と関係あるのか?」

「はい、実は・・・」

 清也はその後、シンと自らの仮説をサーインと聴衆に伝えた。

~~~~~~~~~~

「僕はその怪人物をと呼んでます。」

 一通り仮説を話し終えると、清也はそう言った。

「人狼・・・よし、呼び名はそれで行こう。」

 腕組みをしたサーインは、小さく頷いている。

「じゃあ、人狼が後方の二班を殺して、その遺体を持ち去ったってこと?」

 花は不気味な怪人物に恐怖しながら、怯えた様子で確認を取る。

「"ハーメルンの笛吹き男"みたいに、操ったかもしれません。」

 訳知り顔のラースは、例え話を交えて推論を述べる。

「ハーメルンの笛吹き男ってなんだ?」

 不思議そうな表情のサーインが、ラースに対して質問する。

「私の故郷で伝わるお伽話です。近々、劇にする予定です。」

「へぇ・・・。」

 自分から聞いた割には、適当な相槌である。興味を唆られる内容では無かったのだろう。
 そして、ひとしきりの問答を終えた彼は、全体に向け大きく号令を掛ける。

「ひとまず解散にしよう。1時間後に出発だ!ここからは班に分けずに行動する!」

 隊長の号令で、皆が各々のテントに散って行った。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 テントに戻って荷物をまとめた清也は、久しぶりにあの図鑑を開き、野犬について調べようとした。

「大型の野犬についても、対処法が載ってるかな?」

 独り言を呟きながら、ペラペラとページを捲る。その指先は、"野生動物では無い項目"に止まった。



「ナイト・・・ハンター・・・?」

 その名前を見つけたのは、野生動物ではなく"モンスター"の項だった。そこには、こう書かれている。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ~ナイトハンター~
 草原を住処とし、湿気を嫌う。
 特に森は苦手で、自分から近寄ることは決してない。

 主食は牛で、好物はユニコーン。
 人間を襲う事はなく、家畜にも近寄らない。

 極めて犬に似た見た目をしているが、
 その大きな特徴はやはりその巨体である。
 成人と同じほどの大きさと体重を有している。

 特異な点として、普段はいがみ合い、目が合うたびに殺し合いを行う通常の犬を、ある状態では率いることがある。

 それが、「カリスマ・バーク」と呼ばれる状態だ。
 この状態になるには、人間への敵意を一切持っていないことが条件となる。ナイトハンターの指示は、狩りの成功率を大幅に上昇させる。

 統率のとれた犬たちが人間に牙を剥かないことは幸運であると言える。
 ~生態記録・モンスター編~

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「そんな馬鹿な!」

 思わず叫んでしまった。挿絵や体長は、間違いなく昨日の野犬と同じ。しかし、修正が全く異なっているーー。

「どうしたの?大丈夫?」

 花が心配して話しかけてきたた。

「これを見てほしい・・・やっぱり今回の襲撃は、何かが変だ!」

 渡された図鑑を読むと、花も青ざめた表情になった。
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