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第二章 黄金の魔術師編

EP26 出発

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 朝、清也は目を覚ますと風呂に入り、昨日と同じ目に合わないように急いで出た。

 すると部屋には以前、エレーナと交信した物と同じ人形があった。
 それは突然、声を発した。

「ハッハッハ!2人ともやっと気づいたのか、同じ使命を背負って召喚され、以前に会っていたことを。」

 やはり声の主はエレーナだった。

「笑い事じゃ無いですよ!別れるところだったんですから!」

 花は憤慨した。少しふくれっ面である。

「いやぁ、申し訳なかった。しかし、早くも黄金使いの居場所を突き止めるとは・・・流石だな!
 それと、昨日の人形劇。私も見させてもらったが、すごい劇であったな!」

 大きすぎる話題の転換に、清也たちは少し驚いてしまう。

「エレーナ様はトリックがわかったんですか?
 教えてくれなくても良いので、答えてください。」

「日本語とは難解な言語だなぁ・・・。まあいいか、実を言うと私にも全く分からなかった!
 糸は確かに切れてたし、中に人や動物は入ってないし、からくり人形でも無かった!
 それにしても、人間世界で語られている勇者の伝説は、まさに氷山の一角であるな。」

 またしても大きすぎる話題の転換。これは天界に住む人間の特徴なのかもしれない。

「エレーナ様はその全容をご存知なのですか?」

 興味津々な様子の花は、エレーナに質問する。

「勿論だとも。女神だからな、天界であの者は地上以上に、伝説的存在として語られているからな。
 出来れば教えたいのだが、実は天界の持つ情報は、教えてはならん事になっておるのだ。」

「あの者ということは5人全員で、魔王と戦ったのではないのですか?」

「5人とも英雄ではあるが、1人が圧倒的だった。それがあの侍だ。
 魔王と戦ったのもあの者1人だけだ。詳しくは・・・そうだ!黄金使いを仲間にしたら一度天界へ来るのだ。
 そうしたら、天界で書かれた完全な伝説を見せてやろう。
 そろそろ行かないと旅団に置いてかれてしまうな、では其方たちの活躍を期待してるぞ」

 そう言うと、人形はまたも消えていった。

「完全な伝説・・・もしかしてお侍さんは、私たち達が思っているよりも、凄い人なのかも。」

 花は不思議そうな顔をしながら、清也と顔を見合わせる。

「地上に伝承が残ってないのは、戦いの殆どが天界で起こったからだろうね。
 圧倒的・・・一体何が起こったんだ・・・。」

 清也は、少しだけ唖然とした表情で俯いた。

 ~~~~~~~~~~~~~

 2人が装備を整えると、旅団との待ち合わせ場所に、9時ギリギリになって着いた。朝なのに、少し蒸し暑い。
 十数人の冒険者らしき人が、既に護衛に関する会議をしているようだ。

「すいません!遅れました!」

 清也と花が急いで会議に混ざると、皆が一斉にこちらを向いた。

「いや、いいんだ。俺たちが早く来すぎただけだし。それに、あと数人残ってる。」

 おそらく一番年上な冒険者が言った。

「俺はサーイン。まぁ、実質的な護衛隊長を任されてるんだが、別に畏まらなくて良い。
 呼び捨てして、サーインで構わない。」

 その男は言った。意外とフレンドリーだ。

「よし、2人が新しく来たことだし、作戦について確認するぞ。この町から隣町までは300キロある。
 基本的に1日に10時間歩いて、14時間は休むと言う生活を繰り返す事になる。
 大体1時間に2キロ進めれば、半月で向こうには着くだろう。質問はないか?」

「道中の陣形はどうなるのですか?」

 花は建設的な質問をした。

「モンスターがいるとは言え、大きな脅威は行きにも無かった。
 だから、陣形というほど綿密に隊列を組む必要はないだろう。
 ただ、野犬の群れには注意したほうがいいな。行きに染み付いた人間の匂いに、集まって来ているだろうから。
 ・・・よし!じゃあ、こうしよう。
 二人一組になって先頭としんがりに1組ずつ、左右には二組ずつ居てもらおうか。
 何か発見したら、すぐに二人組の片方が他の組へ連絡してくれ。」

「二人一組って事は、花は僕と一緒でいいよね?」

「もちろん♪」

 花は上機嫌だ。

「よしっ!作戦の確認も済んだしそろそろ出発するか!」

 サーインが先頭に立ち、ついに旅団は進み始めた。

~~~~~~~~~~~~

 旅団が出発して、10時間が経った。
 そして遂に、初日のキャンプ地へと到着した。大した危険はなかったが、流石に疲れる。

「せ、清也・・・あなた大丈夫なの?」

 花は、息も絶え絶えで言った。

「まぁね。昔から運動は得意じゃなかったけど、歩くのだけは得意だったから。
 でもこう見えて、僕も結構疲れたよ。・・・安全確認をしながら、水を探してくるかな。
 危ないから、ここで待ってて。」

 清也は、川や湖を探して森へ入ろうとした。
 すると、後ろから話しかけられる。

「やはり偵察か、今出発する?私も同行する。」

「サーイン。」

 話しかけて来たのは、サーインだった。

「水を探すんだろう?俺も周囲の安全を確認するよ。」

「じゃあ、どうせなら一緒にいきましょうか。」

「あぁ、そのつもりで話しかけた。」

 うっそうと茂る森の中を、2人は蔦をかき分け、目印を残しながら進んでいった。
 しばらく進むと川があったので、水筒が満たされるまで水を入れた。
 野犬やモンスターとは、一匹も出くわさなかった。



 キャンプへ帰る途中、喉が潤ったからか、凄まじい悪臭がやぶの中からする。
 どうしても気になったので、二人は覗き込んでみたーー。



 そこにあったのは血まみれのテントと、男の死体だった。まだ死んでから時間が経っていない。
 調べると、リュックのポケットからは空になった袋と、金でパンパンに膨れた財布が見つかった。
 どうやら、旅団に加わらずに昨日帰った隣町の住民のようだ。何かに喰われたような形跡がある。

「うわぁっ・・・。これは酷いな・・・。」

 清也は堪らずに戻しそうになる。

「間違いない、これは野犬の仕業だ。歯痕から見ても、かなりでかいぞ。
 俺たちと同じか、それ以上はある・・・。まずい!キャンプに戻るぞ!急げ!」

 サーインと清也は、全速力で走り出した。

 ~~~~~~~~~~~~

 2人がキャンプに戻ると、サーインの悪い予感は見事なまでに的中していた。
 おびただしい数の黒い野犬がキャンプに押し寄せ、旅団を襲っている。

 野犬の中心にはサーインの予想通り、清也より一回り大きいほど巨大な野犬がいた。
 まるで、指揮を取っているようにも見える。

 目に入っただけでも何人かが倒れ込み、噛みつかれている。もう既に、息の無さそうな人もいる。
 護衛隊は必死になって戦っているが、それでも数の暴力によって、少しずつ劣勢に立たされている。

 泣き叫びながら、森に引きずり込まれる女性を見た瞬間、清也は酷い悪寒がした。

「まずいっ!彼女は今・・・!花っ!!」

 清也はそう言うと、花と別れた地点へと走り出した。



 テントに近づくと女性の叫び声がする。

「誰かぁーッ!助けてー!」

 花の声だ。

「今行くからなぁーっ!」

 力の限り叫び、襲われている花を励ます。

 曲がり角を曲がり、ついにテントが見えて来た。
 丁度、野犬が花に食らいつこうとしている。

「やめろぉぉぉっっ!!!」

 清也は加速したが、間に合わなかった。
 野犬の牙が、花の腿に深々と突き刺さる。

 野犬が、今度は花の腹に食らいつこうとした時、清也は遂に花の元に到着した。
 背後から野犬を刺し貫くと、野犬は瞬時に凍りつき、息絶えた。

 清也は凄まじい殺気を放ち、もはや動物の命を奪う事になんの躊躇いも無くなった。
 瞳もかつてないほどに、強く琥珀色に輝いている。

「大丈夫か!?花!」

 清也は聞いたが、花はぐったりとして返事がない。



「グォゥゥゥ・・・」

 後ろから低い唸り声がし、振り向くと指揮を執っていた巨大な野犬がいた。

「貴様か!貴様がみんなを!」

 清也は咄嗟に姿勢を低くし、その巨大な野犬に向けて、剣を体の前で斜めに構える。
 既に時刻は8時をまわり、止むことの無い絶叫の中で、満月が二匹の獣を照らしていたーー。
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