『無頼勇者の奮闘記』〜無力だった青年が剣豪に至るまで〜

序章 登録試験編

EP15 試練の怪物

　一定の距離を置いた両者は隙を晒さぬように、慎重ににじり寄っていく。
　お互いの間合いに入る直前、先に仕掛けたのは清也だった。
　盾をしっかりと構え、右手に持った剣を怪物へと振り下ろす。

　怪物は今度も身を翻し冷気を避けようとしたが、その隙を見逃さずに二度目の斬撃が、左足の脛を捉えた。

　足を切られたことにより、機動力が落ちるだろうと清也は考えた。
　しかし、その油断が動きを鈍らせ、構えた盾の死角から迫ってくる打撃への反応を遅らせた。蛇は今度は左の脇腹に直撃した。

「ぐっ！こいつ、やはり普通じゃない！戦いの中で成長してる！」

　盾により作った死角を利用し、攻撃に転ずるという方法はさっき清也がしたばかりだ。
　がむしゃらに突っ込んでも、相手に動きを読まれるだけだと、清也は冷静に判断した。
　同時に、この感覚には覚えがあるとも思った。

　そして、次に動いたのは怪物の方だった。
　蛇を振り上げ、揺らすと緑のオーラが怪物を覆い、足の傷が塞がった。
　そして、そのまま蛇を地面に突き立てると棒高跳びのように飛び上がり、上から殴りかかって来た。
　清也は奇妙なことにこの動きにも、見覚えがある気がした。
　この動きへの対処は体が覚えていた。盾を頭上に構え、剣を突き上げるのだ。

　怪物の方もまるでそう動くのが分かっていたかのように、盾を踏み台にさらにジャンプし、清也の背後へ着地した。
　そして蛇を軸にして、時計回りに回し蹴りを繰り出す。

　やはり、この動きにも清也は見覚えがあり、対処にも迷いが無かった。
　左半身を捻ると、蛇の接地面に向かって、全力の打撃を加えた。

　清也にはこの後の展開が読めた。10数回も同じ動きを見て、同じ対処をしたからだ。
　このあと倒れた怪物に向かって攻撃を加えようとすれば、足払いを喰らうだろう。
　だから清也はあえて、後ろに飛び退いた。



　やはり、”予想通り”だった。怪物の足が何もない地面を払った。

「お前は一体・・・何者なんだ！」

　言葉では言い表せない不気味さが、清也を襲った。
　目の前にいる得体の知れない怪物に、冷や汗が止まらなくなった。

　"試練の怪物"は幾度となく、既視感のある動きを見せた。

　斬撃と殴打の応酬を繰り返す中で、清也は試練の怪物の正体に、ある仮説を立てた。
　その真偽を見極めるため、清也は怪物が大きな隙を見せても、致命的な攻撃は加えなかった。
　だが、細かい攻撃は回復されてしまい、実質的にはダメージを与えられ無いのだった。

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　かなりの時間が経ったーー。

　ぶつかり合う殺気の結晶が、山道を赤く染めた。もはや両者に、守りという概念は存在しない。
　怪物の殺意と清也の魂のぶつかり合いは、ある時から"舞"のように一つの繋がりを持っていた。
　攻撃と攻撃が捻れ合い、お互いを弾きながら、ぶつかり合う。

　そこにあるのは相手に勝つという意思だけで、力や技はもはや、この戦いに入り込む余地が無い。



　膠着状態が動いたのは、清也の剣に白い輝きが戻った時の事だった。
　怪物は後ろへと飛び下がり、杖を地面に叩きつけ、奇声を上げる。先ほどよりも高く、人に近い声だ。

　そして清也の背後から、大地を割って紫の大蛇が突如として現れた。
　その巨大な頭は、すぐに彼へと向けられた。それと同時に、彼の仮説は確信へと変わった。



　大蛇の白い腹が、地中から絶えず現れ続ける地点へ。清也は全力で走り抜ける。

　そして到着した出現地点にて、敵の身を”切り裂かぬよう”注意を払いながら、虚空へと剣を振るった。
　腹部を地面と共に凍結された大蛇は、無様にも地面に這いつくばる。

　自分の体長の何倍もある、巨大な大蛇を仕留めた清也。
　疲労と焦燥に満ちたその顔は、大蛇を操っていた怪物へと向き直ったーー。