上 下
12 / 44
一章

女の子の部屋でドキドキゲーム時間《タイム》4

しおりを挟む
「どうしたの?早く行こう?」

 なぜか、葵は上機嫌なっている。全然理由がわからないけど......。
 でも、機嫌がよくなったしいいか。
 とりあえず、また歩き出す。

「そういえば、葵の家ってどこにあるんだ?」

 行くことが決まったのは別にいいんだけど、どこに家があるのか知らなかった。
 帰るのが遅くなると怖いからな。場所がわかってないと、何時に帰ればいいのかわからないからな。

「今、家に帰るときのことでも考えてるでしょ?」

「えっ......?い、いや、その、考えて、ないぞ?」

 なぜわかる。何でわかるんだよ!
 余計なことは考えないようにしよう。これからは気をつけよう。また、そう思う。

「はぁ~。考えてたでしょ?わかってるんだから。まあ、いいや。今日はいいことがあったから許してあげる」

 よかった。
 てか、許すってなんだよ!?いや、まあ、深くは考えないようにしよう。
 それと、なぜか赤里は黙って静かにしている。
 というか、ニコニコしてるだけで、会話に参加する気はないらしい。

「で、葵の家ってどこにあるんだ?」

「うん?ああ、学校の最寄りの駅があるでしょ?そこから、3つ目のところだよ?」

「3つ目?それじゃ、俺の家の最寄りの駅と同じところか?」

「えっと、上りの方面だけど、同じ?」

「ああ。それじゃ、同じだな。へえ、朝あったこととかなかったし、まさか同じだったとは思わなかったよ」

 まだ一度も会ったことがない。
 学校行くときならまだしも、帰るときも会ったことがないんだ。
 まあ、学校始まってまだ、そんなに経ってないからかもしれないけどな。
 それにしても、葵と同じ駅で、同じ電車通学だったのは意外というか、驚いた。
 思ってたよりも、世界は小さいなと思う。
 と、そんなことを思ってると、唐突に赤里が口をひらいた。

「私も電車通学です」

 なにが言いたいのか全くもってわからないが、なぜかキレてることだけはわかる。
 そんな赤里の言葉に、葵は心底どうでもよさそうに、

「そうなんですねー」

 と、棒読みで返していた。
 俺は返事すらしてないし、まだ葵のがマシなのかもしれないが、いや、どっちもどっちな気がする。
 てか、せめて棒読みだけはやめてあげられなかったのだろうか。
 まあ、それだけどうでもよかったのだろう、葵にとっては。
 と、そんなどうでもいい、他愛のない話をしてると、学校の最寄りの駅に着いたのだった。


「それでは、また明日」

 そう言うと、一つ前の駅で赤里は電車から降りていった。
 思ってたよりも電車の中はこんでなく、葵と二人きりになっても、赤里に対して思った感情はなかった。
 そもそも、混んでなければ赤里にもならなかっただろう......。
 ......いいわけじゃないからな?俺はそもそもロリコンでもなんでもないわけで、葵にそういった感情をもってないのは、ただ思わなようにしてるだけであって............とにかく!俺はロリコンじゃない!
 いつものように、俺は自分へと言い聞かせる。
 それにしても、葵の機嫌がさっきよりもよくなった気がするのだが、絶対に気のせいではない。明らかによくなってる。
 ただ、理由はよくわからないが。

「私、を部屋に呼ぶなんて、で緊張するよ~」

 唐突に、葵はほほ笑みながらそう言った。
 というか、ほほ笑んでるというより、ニヤけてるといった方が正しい気がする。
 てか、初めて......!?今さらだが、葵は今初めてといったか?つまり、俺は葵の初めてを............いや、キモいな。今のは俺でもわかる。

 キモい。

 けど、ちょっと待て。
 俺だって女の子の部屋に行くのは初めてだし、どうしたらいいのか全然わからない。
 てか、初めてってことを意識したら、なんだか緊張してきた。
 そして、俺の心臓の鼓動はバクバクと早くなっていく。
 どうしよう、心臓の音が葵に聞こえてないかめっちゃ気になる。
 そんなことを思っていると、俺の中での緊張なんか知る由もないはずの葵に、

「どうしたの?もしかして、緊張してるの?」

 からかうようにそんなことを言われる。
 心臓のバクバクいってる音が聞こえてるのか、それとも葵も緊張してるからなのか。
 どっちなのか判別できるわけもなく、なんとも言えない気持ちになる。
 と、そして葵が俯いている俺の顔を覗き込むように俺の顔を見てくる。
 そんな彼女に、よりいっそうドキドキしながらも、顔がカァーっと赤くなっていくのがわかる。
 と、タイミングがいいのか悪いのか、三つ目の駅に到着したのは、そんなときだった。


 俺は、葵の家に行く前に、なんかしら手土産をと思い、駅の近くにあるクロワッサンが美味しいことで有名なパン屋、『三日月堂』に寄ることにした。
 その店の一番人気のオーソドックスな味のクロワッサンと、三番人気のチョコ味の二種類を一つずつ購入する。クロワッサンは全て、三日月の形をしていた。
 店名の由来はこれだろうと、なんとなく察する。
 ちなみに、二番人気はクロワッサンではなく、もちもち食感が売りの食パンだった。パンの耳までもちもちしており、小さい子などに人気なんだそうだ。
 クロワッサンは手頃な値段で、一つ130円。
 食べたことがある人からしたら、かなりの安さであるとわかると思う。
 ちなみに、購入する前に葵は、

「そんなのなくてもいいのにー」

 とか言っていた。
 まあ、そういうわけにもいかないからな。
 誰かの家にお邪魔するのに、手土産一つなしというのは、礼儀というものがなってなさすぎる。
 初めて行くわけだし、第一印象というのも大切なものだ。
 そういったところはしっかりとしなくちゃならない。
 それに、その方が落ち着く時間も取れて、一石二鳥といったところだ。

「悠くんってさ、クロワッサン好きなの?」

 葵が俺に、純粋な疑問だと言わんばかりの感じで、そんなことを聞いてくる。
 クロワッサンを買ったからだろうか?

「まあ、好き、だけど、なんで?」

がクロワッサンが有名だってことを知ってる感じだったから。だから、好きなのかなぁ~って」

 もともと有名だってこともあったのだが、悪魔でそっちはだ。
 他の用事でここに来たことがあって、そのときのことを覚えていただけだ。まあ、今はそんな話は関係のないことだ。
 そして、パン屋に寄って少し遅れた分を取り返すかのように、葵の家に急ぐのだった。
しおりを挟む

処理中です...