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一章

入学式の日は蜜の味

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「......ちゃん!...兄ちゃん!お兄ちゃんってば!朝なんだから起きてよ!」

 そんな可愛らしい声で、俺を起こす女の子が、て、

「うわっ!彩華か」

「もう、お兄ちゃん何寝ぼけてんの?それとキモい.....」

 それじゃ、さっきのは夢だったのか。それと、キモいは余計じゃね?俺だって傷つくんだぞ!しかも、まじのやつやめろ!

「お兄ちゃんなんで『ニヤニヤ』してんの?超キモいよ?」

 さっきの夢のことを思い出してたからなのか、俺は気づかなかったが、『ニヤニヤ』していたらしい。
 確かにキモいな。てか、2回も言わなくていいわ!しかも、超って。
 そういえば、久しぶりに夢を見た気がする。ここ何ヶ月かは見てなかったしな。
 たぶん、初夢以来だろうな。
 それにしても、なんだか懐かしい夢を見たなぁ~。

「.....兄ちゃん!お兄ちゃん!」

「うわっ!て、びっくりさせるなよ」

「いや、起きたからってボケーっとしてないで、早く支度してよ!それに、早くしないと遅刻するよ?」

 俺は、ボケーっとしてたのか、彩華に注意されてしまう。しかし、すぐにはピンとこず、聞き返そうとして、思い出した。

「ああ、そういえば今日入学式か」

「もしかして、お兄ちゃんまだ寝ぼけてたの?とりあえず、とっとと支度して『』食べちゃってよ!」

 そう言うと、自分の部屋に行ってしまった。自分の支度でもしにいったのだろう。
 そんなことを考えながらも、これ以上彩華に迷惑をかけるわけにもいかないので、俺もボチボチ準備をし始めるのだった。
 それに、朝ごはんを食べないで行くとうるさいからな。



「それじゃいってきまーす」

「はいはい、いってらっしゃい」

 なんとも適当な返事がきたが、妹はかわいいからな。許されれるってもんだ。
 ちなみに、機嫌が悪いときなんかは、返事をしてくれなかったりするので、朝の返事だけで俺の妹様の機嫌がわかるってもんだ。
 そこ、『キモい』っていわない。
 そんなわけで、今日はそこまで機嫌が悪いわけではないということだ。
 まあ、朝ごはんに文句一つ言わない限り、よっぽどのことをしなければ、機嫌が悪くなるなんてことにはならない。
 ちなんでおくと、俺は今までで一度しか朝ごはんに文句を言ったことがない。
 そのときのことを簡単に話すなら、朝ごはんが具無しの味噌汁みそしるだけということがあった。
 だから、『さすがにこれは......』と思ってしまい、一言『これ、お湯に味噌をといただけなんだけど......』と言ってしまい、機嫌が悪くなって、なんてことがあった。
 まあ、そういうことがあってからは、『具無しの味噌汁』よりはマシかと思いながら朝ごはんを食べるようにしている。今日は割と豪華で、『普通の味噌汁』と茶碗ちゃわん一杯の白米だった。
 この感じからして、なんとなくわかってると思うのだが、俺は家では妹に頭が上がらない。敢えて、家族内カーストを決めるのであれば、『妹→父→俺』という順番になるだろう。
 つまり、俺が一番下というわけだ。
 俺が、そんなくだらないことを考えてると、気づいたら駅についていた。
 そして、電車が来る。

「やっぱ、朝はこんでるなぁ~」

 その光景は思わずそう言葉を漏らしてしまうほどだった。『これがうわさに聞く朝の通勤ラッシュなのか~』と思う。
 そして、電車の中にはポツポツと俺が今日から通うことになる高校の制服をきた人たちがいる。
 そうやって電車の中をキョロキョロとしていると、一人目につく人がいた。顔はとてもととのっており、胸は俺の妹より小さい.......。
 そこ、妹を引き合いに出したことにひかない!
 別に、かわいい女の子がいたから目についたわけじゃない。
 彼女が痴漢を受けていたからだ。
 けどまあ、俺に彼を止めるほどの力はない。
 自慢じゃないのだが、俺は妹よりも運動ができないどころか、体力もない。いや、本当に自慢じゃないな。事実は事実だし仕方ない。
 とまあ、俺にどうこうできる問題でもないわけだし、普段なら諦めるところなんだが、よく見なくても彼女は俺と同じ高校の制服を着てるのだ。
 それも、彼女も俺と同じ一年生のようだった。
 つまり、クラスが同じであってもおかしくないわけだ。
 もし、助けることができたなら感謝されることは間違いない。そして、もしかしたら......。
 ま、まあ、同じ高校だしな。
 俺は、彼女を助けようと思い、満員電車の中を進む。まだ春だとはいえ、こうまで密集してると暑い。
 そして、それを感じているのは俺だけじゃないわけで、この中を進んでるということはたくさんの人と触れ合うということはベタベタした汗を感じながら進んでいるため、やはりつらい。
 そうして、彼女の近くまでなんとかしてたどり着いたときには、もう高校の最寄り駅につくところだった。
 それでも、俺は助けようとすると、急に俺は手首を掴まれる。
 それと同時に電車が駅につく。

「さっきから、何も言わないことをいいことに、好き勝手して!」

と、彼女はやはり怒っているのか、そんなことを言いながら俺を引っ張っていく。
 て、俺は痴漢してねぇよ!

「俺は痴漢してないんですが?」

「嘘をついても無駄だからね!絶対に許さないから!」

と、彼女は俺の言葉を聞いてくれる様子もなく、そう言いながら俺を引っ張っていく。

「キャッ!」

と、辺りに彼女の小さい悲鳴が響く。
 彼女は躓いたのか、盛大にこける。
 彼女がこけたということは、手首を掴まれていた俺もそれに引っ張っられたということだ。
 何が言いたいのか?
 そりゃ、今俺は彼女に覆いかぶさるような体制で、なんとか耐えているという状況なわけで........。
 そして、彼女はどこか驚いた様子で、

「えっ!そ、その、ごめんなさい!痴漢してた人がいたので、その、その人と間違えてしまったみたいで......」

 彼女は俺にそういう。
 俺はとりあえず起き上がってから、

「えっと、その、俺もどうせここで降りる予定だったんで。」

 俺と痴漢をしていた人を間違えてることに気づいてもらえただけでもマシだからな。俺が痴漢してたと勘違いされた方が最悪である。それに、俺は余計なことをしてしまったみたいだからな。(もちろん、このことは言わないが。)

「その制服.......!それじゃ、あなたも最上高校に?」

「ええ。よかったら、一緒に行く?」

「それじゃ、せっかくなので」

 そうして、俺と彼女は一緒に学校に行くことになった。
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