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34二人きりの世界~愛の浄化~
しおりを挟むエルフの住む森はフリオの心を癒やしてくれた。
サビーノも陽光に輝く木々に魅せられている様子で、大木に身を寄せて気持ちよさそうに耳と尻尾をぴくぴくさせている。
まるで犬みたいだなと笑うと額を軽く指で小突かれた。
サビーノが眠っている時に、悪夢に魘されている姿を見ているので、無邪気にじゃれてくると安心する。
悪夢の中には過去の自分達は出てこないのだろうか。
時々聞いてみると、靄がかかっているようで思い出せないと言うだけだった。
――思い出さなくていい。
そう願った筈なのに、時が経つにつれて寂しさが増していく。
神聖なる森の中で、二人きりの時間が流れていった。
十年なんてあっという間だった。
フリオの余命は数ヶ月過ぎていたが、まだ生きている。
ひとえにエルフ達の治癒の力による恩恵である。
おかげで食事も普通に食べられるし、激しい運動はできないが、歩く事もできた。
ただ、サビーノとの性交は数年前からできなくなってしまったので、代わりに口や手で熱を確かめ合うようになっていた。
いつものように大木の幹に背を預け、身を寄せ合って木漏れ日の中で他愛ない会話をする。
「ごめんな、欲求不満だよな」
「そんな事はない。オマエが傍にいる事が一番の幸福だ」
「サビーノは本当に俺に優しくなったよな」
「我はオマエが何よりも大切だからな」
「ん……」
頭を大きな掌で撫でられるのが好きだ。
サビーノの胸元に頭を埋めると温もりに胸が震える。
――なんて、幸せなんだろう。
「なあ、サビーノ」
「なんだ?」
「俺の願い、覚えてるか?」
「ああ……」
「俺が死んだら、俺の肉体をサビーノの血肉にして欲しいって。それと……」
言い終わる前に、唇を塞がれた。
まるで、それ以上は聞きたくないというような、縋り付くような口づけに、瞼が震えて頬に雫が伝うのを感じる。
この森に、あの子のお墓を作った。
自分の身勝手な想いで悲しい運命を辿った愛しい我が子。
何も残っていなかったので、墓にはただ、花が添えてある。
できる事なら名前をつけてやって欲しい――そうサビーノに伝えた。
「そうだな、いい名をつけてやろう」
「……うん」
「そうだな……リネはどうだ? 我らの言葉で愛しいという意味だ」
「いいね……あの子の名前は、リネ……」
力強く包み込んでくれるサビーノの腕の中は、とほうもない安らぎを与えてくれる。
そっと瞳を閉じると、額に雫が落ちてくるのを感じた。
それはきっと、愛しい獣の涙だ。
それでももう目を開ける力がない。
暗闇の向こうに光が見えた。
「……サビーノ、愛してる……」
いろいろあったけれど、こうしてこの獣と愛し合えて良かった。
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