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密会
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「慣れない事はするもんじゃないな」
ライマーの日課は、騎士団の中で目立たぬよう大人しく過ごし、禁術の消去を行い、いいつけられる雑用をこなす事だ。
騎士団に入ってから一月ほどたつと、監視役が交代制となり、アロイスとろくに接点がなくなってしまった。
団員の一人に探りを入れてみれば、最近魔獣が出現しているという。
――まさか。
ライマーはとヴィレクの密会が今夜の約束なので、ある予感について確かめる事にした。
魔術を使い監視を逃れ、城の裏門を抜けて廃屋に向かう。
木々の合間に紛れるように放置された小屋の前には、巨体が佇んでいた。
ライマーを見るとヴィレクはほくそ笑み、腕を掴まれて小屋の中に引っ張り込まれる。
「お目当ての聖騎士様とはもうヤったのか?」
「……っ、あんたとは違う、あいつは……闇に通じるものを嫌悪しているんだ」
「ハハハッだろうなあ!? 叶うはずもない恋に身も心も捧げるとは、とんだ大馬鹿者だなお前は!!」
「そんな事は……」
「お前を一時逃がしてやったのはなあ……お前を愛するものは、俺しかいないのだと分からせる為だ!!」
強い力で腰を引き寄せられ、腕の中に閉じ込められる。
「うぐうっ」
幼い頃は丸太のようだと恐怖だったヴィレクの腕力は、大人になった今では執着という恐怖となってライマーを襲う。
「戦場で捨てられていたお前を拾ってやった恩も忘れたか?」
「そ、それには感謝している……」
「ならば、何故俺に全てを捧げると誓わない!?」
「ヴィレク……」
赦してくれ。
という一言を口にできず、押しつけられる腕の力に全身が痺れた。
死を感じて焦燥に駆られる。
――呪いが未完成のまま、しんだらアロイスに……!
それだけは避けなければならないのだと歯を食いしばり、呪文を脳内で唱え始めた時――。
「何をしている!」
「!?」
この声は……窓の外、月明かりに照らされた木々の間に、騎士が剣を構えて立っているのが見えた。
アロイスである。
ヴィレクを見て、異形だと気づき激高すると突っ込んできた。
「貴様! 闇に通じる者だな!」
「ライマーに近寄るな! これは俺の物だ!!」
「なにを言っている!?」
ヴィレクに突き飛ばされ、うつ伏せて地に叩きつけられたライマーはアロイスが剣を振るう姿を見守るが、あっけなく戦いは終わる。
「お前は必ず俺のモノになる!」
「待て!」
ヴィレクは光に包まれて消えてしまった。
取り逃がしたか、と呟くアロイスが、ふいにライマーに顔を向けて声をかけてくる。
「あいつが、お前を捕らえていたんだな?」
「……っ」
「まあいい。立てるか」
口ごもるライマーに、アロイスが手を貸してくれた。
どきりとしてしまうが、悟られないように平静を装う。
その手を取ろうとした時、何か違和感を感じて引っ込めた。
――な、なんだ?
「どうかしたのか?」
「は、はなれ……」
間に合わない――!
時すでに遅く、ライマーの手の平から炎の弾がアロイスめがけて飛び出していた。
「アロ――」
アロイスが燃えてしまう!
焦ってどうにか力を制御すると、騎士は剣を眼前に構えており、炎を遮ったようだ。
特殊な剣であるからこそ、逃れられたのだろうと推測するが、多少の負荷が持ち主にかかっていると分かる。
「う、うう……」
「アロイス!」
うめき声をあげてアロイスが膝をついたからだ。
ライマーは流石に気が動転してしまい、すぐにその身体を支えようとしたのだが、アロイスに触れようとすると、また腕がうずき、己の魔力がざわめくのを感じて咄嗟に手を引っ込める。
「これは、まさか」
両の手の平を見つめて浮かび上がる紋に苦い気持ちになった。
ヴィレクがまたも呪いをかけたのだ。
それも恐らく、聖なる力を宿す者が近づくと自動的に攻撃をしてしまう、呪術を――闇魔術の師匠でもあるヴィレクならば、たやすい術式なのだ。
ライマーはかけられた時に気づけなかった自分に怒りを覚える。
すっかり注意力が落ちていたライマーは、新たにやってきた人の気配を察知できなかった。
「兄上?」
「――ッ!」
暗闇を照らす松明の明かり。それを翳すのは長身の騎士――エドヴィンだった。
「兄上!」
倒れているアロイスに駆け寄り、その身体を抱えて揺さぶる。
ライマーは無言で見守る事しかできなかった。
「う、ぐ」
「兄上、大丈夫ですか!?」
「……やつを」
「え?」
「あいつを、とらえろ」
苦しそうな声を絞り出し、指さすのは目の前でたたずむライマー。
エドヴィンは「はい」と二つ返事で承諾し、引き連れてきた兵士に命令を下した。
「闇魔術師を地下牢へ監禁しろ!」
こうしてライマーは聖騎士の命を狙った逆賊として地下牢に閉じ込められることとなった。
ライマーの日課は、騎士団の中で目立たぬよう大人しく過ごし、禁術の消去を行い、いいつけられる雑用をこなす事だ。
騎士団に入ってから一月ほどたつと、監視役が交代制となり、アロイスとろくに接点がなくなってしまった。
団員の一人に探りを入れてみれば、最近魔獣が出現しているという。
――まさか。
ライマーはとヴィレクの密会が今夜の約束なので、ある予感について確かめる事にした。
魔術を使い監視を逃れ、城の裏門を抜けて廃屋に向かう。
木々の合間に紛れるように放置された小屋の前には、巨体が佇んでいた。
ライマーを見るとヴィレクはほくそ笑み、腕を掴まれて小屋の中に引っ張り込まれる。
「お目当ての聖騎士様とはもうヤったのか?」
「……っ、あんたとは違う、あいつは……闇に通じるものを嫌悪しているんだ」
「ハハハッだろうなあ!? 叶うはずもない恋に身も心も捧げるとは、とんだ大馬鹿者だなお前は!!」
「そんな事は……」
「お前を一時逃がしてやったのはなあ……お前を愛するものは、俺しかいないのだと分からせる為だ!!」
強い力で腰を引き寄せられ、腕の中に閉じ込められる。
「うぐうっ」
幼い頃は丸太のようだと恐怖だったヴィレクの腕力は、大人になった今では執着という恐怖となってライマーを襲う。
「戦場で捨てられていたお前を拾ってやった恩も忘れたか?」
「そ、それには感謝している……」
「ならば、何故俺に全てを捧げると誓わない!?」
「ヴィレク……」
赦してくれ。
という一言を口にできず、押しつけられる腕の力に全身が痺れた。
死を感じて焦燥に駆られる。
――呪いが未完成のまま、しんだらアロイスに……!
それだけは避けなければならないのだと歯を食いしばり、呪文を脳内で唱え始めた時――。
「何をしている!」
「!?」
この声は……窓の外、月明かりに照らされた木々の間に、騎士が剣を構えて立っているのが見えた。
アロイスである。
ヴィレクを見て、異形だと気づき激高すると突っ込んできた。
「貴様! 闇に通じる者だな!」
「ライマーに近寄るな! これは俺の物だ!!」
「なにを言っている!?」
ヴィレクに突き飛ばされ、うつ伏せて地に叩きつけられたライマーはアロイスが剣を振るう姿を見守るが、あっけなく戦いは終わる。
「お前は必ず俺のモノになる!」
「待て!」
ヴィレクは光に包まれて消えてしまった。
取り逃がしたか、と呟くアロイスが、ふいにライマーに顔を向けて声をかけてくる。
「あいつが、お前を捕らえていたんだな?」
「……っ」
「まあいい。立てるか」
口ごもるライマーに、アロイスが手を貸してくれた。
どきりとしてしまうが、悟られないように平静を装う。
その手を取ろうとした時、何か違和感を感じて引っ込めた。
――な、なんだ?
「どうかしたのか?」
「は、はなれ……」
間に合わない――!
時すでに遅く、ライマーの手の平から炎の弾がアロイスめがけて飛び出していた。
「アロ――」
アロイスが燃えてしまう!
焦ってどうにか力を制御すると、騎士は剣を眼前に構えており、炎を遮ったようだ。
特殊な剣であるからこそ、逃れられたのだろうと推測するが、多少の負荷が持ち主にかかっていると分かる。
「う、うう……」
「アロイス!」
うめき声をあげてアロイスが膝をついたからだ。
ライマーは流石に気が動転してしまい、すぐにその身体を支えようとしたのだが、アロイスに触れようとすると、また腕がうずき、己の魔力がざわめくのを感じて咄嗟に手を引っ込める。
「これは、まさか」
両の手の平を見つめて浮かび上がる紋に苦い気持ちになった。
ヴィレクがまたも呪いをかけたのだ。
それも恐らく、聖なる力を宿す者が近づくと自動的に攻撃をしてしまう、呪術を――闇魔術の師匠でもあるヴィレクならば、たやすい術式なのだ。
ライマーはかけられた時に気づけなかった自分に怒りを覚える。
すっかり注意力が落ちていたライマーは、新たにやってきた人の気配を察知できなかった。
「兄上?」
「――ッ!」
暗闇を照らす松明の明かり。それを翳すのは長身の騎士――エドヴィンだった。
「兄上!」
倒れているアロイスに駆け寄り、その身体を抱えて揺さぶる。
ライマーは無言で見守る事しかできなかった。
「う、ぐ」
「兄上、大丈夫ですか!?」
「……やつを」
「え?」
「あいつを、とらえろ」
苦しそうな声を絞り出し、指さすのは目の前でたたずむライマー。
エドヴィンは「はい」と二つ返事で承諾し、引き連れてきた兵士に命令を下した。
「闇魔術師を地下牢へ監禁しろ!」
こうしてライマーは聖騎士の命を狙った逆賊として地下牢に閉じ込められることとなった。
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