闇魔術師の献身

彩月野生

文字の大きさ
上 下
6 / 14

密会

しおりを挟む
「慣れない事はするもんじゃないな」

ライマーの日課は、騎士団の中で目立たぬよう大人しく過ごし、禁術の消去を行い、いいつけられる雑用をこなす事だ。

騎士団に入ってから一月ほどたつと、監視役が交代制となり、アロイスとろくに接点がなくなってしまった。
団員の一人に探りを入れてみれば、最近魔獣が出現しているという。

――まさか。

ライマーはとヴィレクの密会が今夜の約束なので、ある予感について確かめる事にした。

魔術を使い監視を逃れ、城の裏門を抜けて廃屋に向かう。
木々の合間に紛れるように放置された小屋の前には、巨体が佇んでいた。
ライマーを見るとヴィレクはほくそ笑み、腕を掴まれて小屋の中に引っ張り込まれる。

「お目当ての聖騎士様とはもうヤったのか?」
「……っ、あんたとは違う、あいつは……闇に通じるものを嫌悪しているんだ」
「ハハハッだろうなあ!? 叶うはずもない恋に身も心も捧げるとは、とんだ大馬鹿者だなお前は!!」
「そんな事は……」
「お前を一時逃がしてやったのはなあ……お前を愛するものは、俺しかいないのだと分からせる為だ!!」

強い力で腰を引き寄せられ、腕の中に閉じ込められる。

「うぐうっ」

幼い頃は丸太のようだと恐怖だったヴィレクの腕力は、大人になった今では執着という恐怖となってライマーを襲う。

「戦場で捨てられていたお前を拾ってやった恩も忘れたか?」
「そ、それには感謝している……」
「ならば、何故俺に全てを捧げると誓わない!?」
「ヴィレク……」

赦してくれ。
という一言を口にできず、押しつけられる腕の力に全身が痺れた。
死を感じて焦燥に駆られる。

――呪いが未完成のまま、しんだらアロイスに……!

それだけは避けなければならないのだと歯を食いしばり、呪文を脳内で唱え始めた時――。

「何をしている!」
「!?」

この声は……窓の外、月明かりに照らされた木々の間に、騎士が剣を構えて立っているのが見えた。

アロイスである。

ヴィレクを見て、異形だと気づき激高すると突っ込んできた。

「貴様! 闇に通じる者だな!」
「ライマーに近寄るな! これは俺の物だ!!」
「なにを言っている!?」

ヴィレクに突き飛ばされ、うつ伏せて地に叩きつけられたライマーはアロイスが剣を振るう姿を見守るが、あっけなく戦いは終わる。

「お前は必ず俺のモノになる!」
「待て!」

ヴィレクは光に包まれて消えてしまった。
取り逃がしたか、と呟くアロイスが、ふいにライマーに顔を向けて声をかけてくる。

「あいつが、お前を捕らえていたんだな?」
「……っ」
「まあいい。立てるか」

口ごもるライマーに、アロイスが手を貸してくれた。
どきりとしてしまうが、悟られないように平静を装う。
その手を取ろうとした時、何か違和感を感じて引っ込めた。

――な、なんだ?

「どうかしたのか?」
「は、はなれ……」

間に合わない――!

時すでに遅く、ライマーの手の平から炎の弾がアロイスめがけて飛び出していた。

「アロ――」

アロイスが燃えてしまう!

焦ってどうにか力を制御すると、騎士は剣を眼前に構えており、炎を遮ったようだ。
特殊な剣であるからこそ、逃れられたのだろうと推測するが、多少の負荷が持ち主にかかっていると分かる。

「う、うう……」
「アロイス!」

うめき声をあげてアロイスが膝をついたからだ。
ライマーは流石に気が動転してしまい、すぐにその身体を支えようとしたのだが、アロイスに触れようとすると、また腕がうずき、己の魔力がざわめくのを感じて咄嗟に手を引っ込める。

「これは、まさか」

両の手の平を見つめて浮かび上がる紋に苦い気持ちになった。
ヴィレクがまたも呪いをかけたのだ。
それも恐らく、聖なる力を宿す者が近づくと自動的に攻撃をしてしまう、呪術を――闇魔術の師匠でもあるヴィレクならば、たやすい術式なのだ。
ライマーはかけられた時に気づけなかった自分に怒りを覚える。
すっかり注意力が落ちていたライマーは、新たにやってきた人の気配を察知できなかった。

「兄上?」
「――ッ!」

暗闇を照らす松明の明かり。それを翳すのは長身の騎士――エドヴィンだった。

「兄上!」

倒れているアロイスに駆け寄り、その身体を抱えて揺さぶる。
ライマーは無言で見守る事しかできなかった。

「う、ぐ」
「兄上、大丈夫ですか!?」
「……やつを」
「え?」
「あいつを、とらえろ」

苦しそうな声を絞り出し、指さすのは目の前でたたずむライマー。
エドヴィンは「はい」と二つ返事で承諾し、引き連れてきた兵士に命令を下した。

「闇魔術師を地下牢へ監禁しろ!」


こうしてライマーは聖騎士の命を狙った逆賊として地下牢に閉じ込められることとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 第一部完結済み! 現在は第二部をゆっくりと更新しています。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石
BL
 今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。  10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。  妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…  アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。  ※亡国の皇子は華と剣を愛でる、 のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。  際どいシーンは*をつけてます。

【BL】キス魔の先輩に困ってます

筍とるぞう
BL
先輩×後輩の胸キュンコメディです。 ※エブリスタでも掲載・完結している作品です。 〇あらすじ〇 今年から大学生の主人公・宮原陽斗(みやはらひなと)は、東条優馬(とうじょう ゆうま)の巻き起こす嵐(?)に嫌々ながらも巻き込まれていく。 恋愛サークルの創設者(代表)、イケメン王様スパダリ気質男子・東条優真(とうじょうゆうま)は、陽斗の1つ上の先輩で、恋愛は未経験。愛情や友情に対して感覚がずれている優馬は、自らが恋愛について学ぶためにも『恋愛サークル』を立ち上げたのだという。しかし、サークルに参加してくるのは優馬めあての女子ばかりで……。 モテることには慣れている優馬は、幼少期を海外で過ごしていたせいもあり、キスやハグは当たり前。それに加え、極度の世話焼き体質で、周りは逆に迷惑することも。恋愛でも真剣なお付き合いに発展した試しはなく、心に多少のモヤモヤを抱えている。 しかし、陽斗と接していくうちに、様々な気付きがあって……。 恋愛経験なしの天然攻め・優馬と、真面目ツンデレ陽斗が少しづつ距離を縮めていく胸きゅんラブコメ。

【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話 【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】 孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。 しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。 その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。 組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。 失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。 鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。 ★・★・★・★・★・★・★・★ 無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。 感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡

白熊皇帝と伝説の妃

沖田弥子
BL
調理師の結羽は失職してしまい、途方に暮れて家へ帰宅する途中、車に轢かれそうになった子犬を救う。意識が戻るとそこは見知らぬ豪奢な寝台。現れた美貌の皇帝、レオニートにここはアスカロノヴァ皇国で、結羽は伝説の妃だと告げられる。けれど、伝説の妃が携えているはずの氷の花を結羽は持っていなかった。怪我の治療のためアスカロノヴァ皇国に滞在することになった結羽は、神獣の血を受け継ぐ白熊一族であるレオニートと心を通わせていくが……。◆第19回角川ルビー小説大賞・最終選考作品。本文は投稿時のまま掲載しています。

処理中です...