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自分の気持ちがわからない

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俺は決意した、この国から出ていく。
二人から逃げ出して、城へ向かった。
がむしゃらに夢中で走っていたら、門の前で誰かが手を振っている。

ダラスだ!  
そんなバカな!

だって、先回りできる筈がない!

「ラハーン!!」
「!?」

この声――ゼルフォン様!?

パカパカ音がするう!

「ラハン!」
「ゼルフォンさまあっ?」

白馬に乗ったゼルフォン様が追いかけて来た!

まてまてまてまて!

「うわあっ」

馬に勝てるはずもなく、俺はゼルフォン様にさらわれてしまった。

ダラスが喚いていたが気にする余裕なんてあるわけがなくて、俺を前に座らせたゼルフォン様は、馬をさらに走らせて森の奥に進む。

日が落ちた森は危険だけど、聖騎士が一緒にいるんだから不安はないな。

それに、光る花が咲き誇っていて、まるで星の中にいるみたいだ。

「うわあ、綺麗だなあ」

森にこんな場所があったなんて。
ふいに前に回された腕に、力が込められてきつく抱きしめられた。

「あ……」
「すまなかった、君に敬意が足りなかったな」
「あの?」
「俺から、離れないでくれ」

ぎゅうううっ

まるで子どもみたいだ。
これが素のゼルフォン様なのかな。

なんか、怒りがどっかいったなあ、俺。

「ゼルフォン様、おりましょ」
「……ああ」

すっかり落ち込んだ様子で、かわいく見える。
こんな顔、するんだ。
足元で白く輝く花を踏まないように慎重に降りたら、ゼルフォン様に手を繋がれた。
手のひらが温い。

視線を逸らして花を観察している。
もしかして、緊張してる?

改めてその横顔を見つめて思う。

「なんで、俺がいいんですか?」

はっきり問いかけた。
ゼルフォン様は俺に顔を向けると、また俺から視線を逸らして咳払いする。

「……好きになるのに、理由はないと言いたいが、そうだな、君は……かわいいからかな」
「あ、あの俺、三十路の男ですよ?」
「それが?」
「その内むさ苦しいおっさんになって、気持ち悪くなりますよ?」
「君なら問題ない」
「いや、なんでそう言えるんですかね?」
「君が、元気でいてくれたらいい」

花の輝きが、聖騎士の笑顔を照らし出す。
どんな女も虜にする美形なのに……なんで、俺なんかを。

「ラハン、さっきは本当にすまなかった」
「ん、ん」

曖昧な返事をすると、端正な顔が近づいてきた。
別に、口をくっつけていいぞっていう事じゃないんだが?

でも、許しちゃうんだよなあ。
……俺、ゼルフォン様のこと……。

「そこまでだ」
「はっ!」

この声は。

「どうして、ここに」

やっぱりダラスだ。
何かを手にしている。
魔具かもしれない、あれでさっきは先回りしてたのか?

「ラハン、よく考えろ」
「黙っててもらおうか、ダラス殿」
「今はラハンに話しているのです」
「な、なんだよ」
「お前、一生この国から出なくていいのか?」

ダラスの目は真剣だった。
一歩ずつ、ゆっくりダラスは俺に歩み寄って来ると、さらに話し続ける。

「商人として気ままに旅をしてきたお前が、一つの国にとどまるくらい、この聖騎士に惚れているのか?」
「……そ、れは」
「ラハン」

ゼルフォン様に名前を呼ばれると、弱い。
でも、一生?

「旅に出ないなんて」
「あり得ないだろう?」

確かに。俺は、世界中を旅して商人として生きて来た。
いろんな国でいろんな宝物を見つけて、いろいろな種族や人と関わって来た。

あんな楽しい日々を、もう過ごせないなんて。

ゼルフォン様。
子犬みたいな目付きで見てる。
なんか年下なんだなって感じるな。

「俺、きっとゼルフォン様に惹かれてるんだ」
「ラハン?」
「体を重ねるのは気持ちいいし、すっごく安心するし、でも、流されてばかりだったから」

やっぱり、分からない。
ゼルフォン様を……愛してるのかどうかは。

「ラハン、旅に出たいのか」
「……一つの国にとどまるのは、性にあわないっていうか」
「そうか」

そう言う言葉しか浮かばなかった。
ゼルフォン様が俺から手を一瞬瞳を閉じて、開けると悲しそうに笑う。

「今まで、迷惑をかけて申し訳なかった」
「え」

ゼルフォン様は俺を抱き締めると、小さな声で言った。
 
「君を、自由にしよう」

それは、この関係が終わるという意味の、言葉だった。



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