30 / 42
第二章<歪む世界と闇の国の王の執着>
現れた負の存在
しおりを挟む捕らわれたグレゴール達と、まだ面会は許されていなかった。
まさか拷問されたりしていないよな。
ゲルトラウトがそこまでするとは思えないけど、側近をあんな目にあわせるくらいだから心配になる。
ヴァルターもどうしているのか気がかりだ。
ゲルトラウトに直接聞いても、はぐらかされるだけだし。
あまり刺激するような事を言っても危険だと思うから、大人しく従うしかないんだけど、もどかしい。
俺はゲルトラウトとの婚姻の儀の為、純白の衣装に臣下達によって着替えさせられ、祭壇の前に進み出ると、ゲルトラウトが隣に並ぶ。
黒い衣装なのは同じだけど、質素で宝石の類いも胸元に飾られているだけだ。
臣下の二人に見守られ、指輪を交換する。
誓いの言葉はない。
見た目通りの、形ばかりの儀式なのだ。
それでもゲルトラウトに望まれれば、受け入れる。
ゲルトラウトが安心してくれるなら……。
昨夜、ベッドの中でこう聞かれた。
「お前は誰を想う?」
「誰をって?」
覆い被さってくるゲルトラウトの背中に腕を回して、肌を弄り合う。
俺の身体は術のせいで敏感になりすぎて、指でなぞられるだけで、甘えるような声をおさえられない。
自分が誰かを好きなのかっていう意味なら――答えは出なかった。
顔を振って「わからない」と呟くと、頭を撫でられてキスをされる。
その仕草はまるで、自分を選べと言われているようで……。
そっと手を握られ、婚姻の儀を行うと一方的に宣言された。
いつもより小さい声に、こっちが恥ずかしくなってしまった。
いいよ、と返事を返して今に至る。
指輪の交換か……どの世界でも、指輪って誓いの証なんだなあ。
と感慨深げに、左手の薬指にはめられた指輪を見つめていると、肩を掴まれて引き寄せられ、唇を奪われた。
誓いのキス……。
「んむう」
――どうして、彼は俺を求めるのだろう。
ゲルトラウトが俺をどう思っているのか、少し気になった。
俺をどう思っているんだって聞いたら、どんな答えが戻ってるのか興味はあるのだ。
婚姻の儀は滞りなく終わり、寝室に抱き抱えられて連れて行かれる。
今夜も身体を繋げるのだ。
でも、ちょっとだけ特別な気分でもある。
そう意識しているのが分かってしまい、もう頬が熱くなっていて困った。
ベッドに降ろされた時、ゲルトラウトが頭を手で押さえて呻き始める。
俺は狼狽えてベッドから飛び出ると、その背中をさすった。
「どうしたんだよ! 大丈夫か?」
「……く、うう……」
小刻みに震える四肢、苦しそうな声。
背中に触れている手の平から伝わる体温は、やけに熱くて焦った。
「ゲルトラウト!」
「う、ぐ、ナオキ逃げ……」
言葉が途切れて少しの間の後、ゲルトラウトはゆっくりと俺に向き直った。
虚ろな目が、俺を見据えている。
その濁った瞳を見て、確信した。
これは、ゲルトラウトじゃない。
「まさか、邪神?」
そう呟いた俺に、ゲルトラウトの顔をした男は、口端を吊り上げたかと思えば嗤い始める。
その声は、脳内に直接響くよう不快な声で、俺は両手で耳を塞いで震えた。
0
お気に入りに追加
805
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる