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第二章<歪む世界と闇の国の王の執着>
迫る危機
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「我が神よ、お迎えにあがりました」
「ああ。こいつを預ける」
「御意」
影が人の形になったかと思うと、ゲルトラウトの前で跪いて頭を垂れた。
「ダークエルフ?」
褐色の肌に尖った耳を見てそう思った。
「魔人だ」
「魔人?」
「魔獣より使える、という話だ」
「な、なんかよくわからないけど」
要するに、ゲルトラウトの臣下っていう事か。
それにしてもさっき〝神よ〟とか言ってなかったか。
ゲルトラウトは俺を見つめながら、にやりと嗤う。
なんだかその笑みに不安を感じたが、遅かった。
身体を縄でぐるぐる巻きにされて、臣下の一人に押しつけられた。
なんで俺を拘束するんだ!?
「おい、ゲルトラウト! どういうつもりだよ!」
「お前には特別な術を施して可愛がってやる、おとなしくしてろ」
「は、はあ? なんだそれ!」
「我が神の命に従え」
「いって」
強い力で引っ張られて全身に鋭い痛みが走った。
「何するつもりなんだ!」
ゲルトラウトに向かって声を張り上げたけど、返事はなくて消えてしまった。
魔人達は俺を取り囲みながら、部屋から連れだす。
地下へと続く階段を下り、突き当たりの大部屋に押し込められる。
光が一切入らないのに、室内がはっきりと見えるのは、天井に生えている水晶が輝いているからだった。
その中心に魔方陣が描かれており、そこに立つように指示される。
丸腰の俺は反抗もできず、従うしかない。
そこで縄を外された瞬間、魔方陣から不気味な紫の糸が這い上がり、体中に巻き付いて這いずり回る。
「あ、うう?」
くすぐったさと肌をさすような鋭い痛みが襲う。
敏感なところをつつかれて、つい甲高い声を出してしまうが、魔人達は気にもとめず、詠唱を始めた。
……頭が、ぼんやりする……俺は、何をされてるんだ……?
意識がはっきりした時、俺は魔方陣の上で仰向けに寝転がっていた。
「あ、れ」
寝転がったまま視線を巡らすと、魔人達の姿はどこにもない。
代わりに重苦しい足音が響いてくる。
「ナオキ」
「あ、えっと?」
「陛下の側近のヴァルターだ」
ゲルトラウトのオークの側近のヴァルターが、俺を抱き抱えて歩き出す。
そのまま何があったのかを聞いた。
俺に施されたのは不老長寿の秘術ということ、魔人達はゲルトラウトの命で戦いに向かったという事だった。
だが、その戦闘相手というのが……。
「グレゴール達と戦うって言うのか!?」
「私が止めることができていれば、すまん」
ヴァルターは、俺を運びながら後悔したような声音で話続ける。
「私はオーク種の中でも突然変異で、知能が発達していた。種族の繁栄の為に、私が皆の助けになればと王に仕えたが……側近として主の御心を理解できず、情けない事よ」
「……」
俺はなんて言ったらいいのか分からず、口を閉じていたが、できる限りの事はしようと決意した。
一階まで上り切った所で降ろしてもらい、ヴァルターに向き直る。
「ゲルトラウトを止めよう! 犠牲者を出したくない」
「ナオキ」
「あ、そうだ。フェルは?」
「あの猫は主人の部屋で寝ているぞ」
俺はフェルの所へ行って状況を話した。
フェルは泣きながら俺にすがりついてくる。
「いやだにゃあ、にゃおきといるう」
「今、猫族達と一緒にいるんだろ? みんなと安全な場所にいるんだ。必ず迎えにいくから」
「で、でもお」
「大丈夫だから」
ふわふわの頭を撫でてやると、やっと泣き止んだ。
本当は監獄島――ルランに神様はいるはずだけど、フェルは知らないみたいだし、危険な真似はさせたくない。
俺はヴァルターと共に、ゲルトラウトを止めるべく城の外へと向かった。
「ああ。こいつを預ける」
「御意」
影が人の形になったかと思うと、ゲルトラウトの前で跪いて頭を垂れた。
「ダークエルフ?」
褐色の肌に尖った耳を見てそう思った。
「魔人だ」
「魔人?」
「魔獣より使える、という話だ」
「な、なんかよくわからないけど」
要するに、ゲルトラウトの臣下っていう事か。
それにしてもさっき〝神よ〟とか言ってなかったか。
ゲルトラウトは俺を見つめながら、にやりと嗤う。
なんだかその笑みに不安を感じたが、遅かった。
身体を縄でぐるぐる巻きにされて、臣下の一人に押しつけられた。
なんで俺を拘束するんだ!?
「おい、ゲルトラウト! どういうつもりだよ!」
「お前には特別な術を施して可愛がってやる、おとなしくしてろ」
「は、はあ? なんだそれ!」
「我が神の命に従え」
「いって」
強い力で引っ張られて全身に鋭い痛みが走った。
「何するつもりなんだ!」
ゲルトラウトに向かって声を張り上げたけど、返事はなくて消えてしまった。
魔人達は俺を取り囲みながら、部屋から連れだす。
地下へと続く階段を下り、突き当たりの大部屋に押し込められる。
光が一切入らないのに、室内がはっきりと見えるのは、天井に生えている水晶が輝いているからだった。
その中心に魔方陣が描かれており、そこに立つように指示される。
丸腰の俺は反抗もできず、従うしかない。
そこで縄を外された瞬間、魔方陣から不気味な紫の糸が這い上がり、体中に巻き付いて這いずり回る。
「あ、うう?」
くすぐったさと肌をさすような鋭い痛みが襲う。
敏感なところをつつかれて、つい甲高い声を出してしまうが、魔人達は気にもとめず、詠唱を始めた。
……頭が、ぼんやりする……俺は、何をされてるんだ……?
意識がはっきりした時、俺は魔方陣の上で仰向けに寝転がっていた。
「あ、れ」
寝転がったまま視線を巡らすと、魔人達の姿はどこにもない。
代わりに重苦しい足音が響いてくる。
「ナオキ」
「あ、えっと?」
「陛下の側近のヴァルターだ」
ゲルトラウトのオークの側近のヴァルターが、俺を抱き抱えて歩き出す。
そのまま何があったのかを聞いた。
俺に施されたのは不老長寿の秘術ということ、魔人達はゲルトラウトの命で戦いに向かったという事だった。
だが、その戦闘相手というのが……。
「グレゴール達と戦うって言うのか!?」
「私が止めることができていれば、すまん」
ヴァルターは、俺を運びながら後悔したような声音で話続ける。
「私はオーク種の中でも突然変異で、知能が発達していた。種族の繁栄の為に、私が皆の助けになればと王に仕えたが……側近として主の御心を理解できず、情けない事よ」
「……」
俺はなんて言ったらいいのか分からず、口を閉じていたが、できる限りの事はしようと決意した。
一階まで上り切った所で降ろしてもらい、ヴァルターに向き直る。
「ゲルトラウトを止めよう! 犠牲者を出したくない」
「ナオキ」
「あ、そうだ。フェルは?」
「あの猫は主人の部屋で寝ているぞ」
俺はフェルの所へ行って状況を話した。
フェルは泣きながら俺にすがりついてくる。
「いやだにゃあ、にゃおきといるう」
「今、猫族達と一緒にいるんだろ? みんなと安全な場所にいるんだ。必ず迎えにいくから」
「で、でもお」
「大丈夫だから」
ふわふわの頭を撫でてやると、やっと泣き止んだ。
本当は監獄島――ルランに神様はいるはずだけど、フェルは知らないみたいだし、危険な真似はさせたくない。
俺はヴァルターと共に、ゲルトラウトを止めるべく城の外へと向かった。
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