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高校普通科卒業。資格特になし。三十代後半にして、正社員ようやく一年目。
それまでずっとフリーターでバイト。
ゲームのシナリオライターになりたくてオタクして遊びつつ書いてはいたが、会社に所属した時、誰でも書けるシナリオを書かされて、うんざりしてそこをやめた。

作家を目指したいと思うこともあったが、長編一本書き上げるのが精一杯で疲労感だけが残った。
それからは短編しか書けなくなり、迷走した。

いつしか書くことをしなくなった俺は、就職活動を始めていた。

営業と事務をかねた中小企業に雇って貰えたのは奇跡だった。
だから、毎日のサービス残業や上司のパワハラにも、どうにか耐えていたのだ。

体力勝負の仕事は苦手だ。
ここを辞めたらこの年齢では、ろくな仕事にはありつけない。
それが分かっているから、足元を見られて理不尽な仕打ちもエスカレートしていった。

そんな中、俺と同じ年齢で、能力も変わらない同僚がほとんど残業もせず、上司にも気に入られているのがイライラする素(もと)となっていた。

おまけに、容姿も良くて女子にモテモテである。
俺なんて、彼女いない歴年齢の非モテ男の人生を歩んでいるのに、神様は本当に不公平だ。

あいつみたいな野郎は、金持ちの女の人と結婚して裕福に暮らせそうだよなー。
イイよなあ。

時々俺を見るあいつの視線を無視して、ため息を吐いた。

こんな憂鬱な毎日だったが、密かな楽しみを見つけた。
住んでいるアパートの近くにあるコインパーキング。
そこに、いつからかちっこくて白いふわふわの猫が住み着いていたのだ。

首輪がないから野良猫なのだろうが、やけに奇麗なので誰かが面倒を見ていたのかもしれない。
俺はせっせと毎日ご飯をあげていた。

正直カツカツで辛いけれど、俺のメシやおやつを我慢すればいいのだ。
俺によくなついて可愛くて、仕事の愚痴とか悩みとか、いろいろな話を勝手にしていた。

「にゃあにゃあ」
「かっわいいなあおまえ~、できれば俺の部屋で飼ってやりたいなあ」

アパートは動物を飼っていいのだが、猫の面倒をみるほど稼げていない。
俺がもっと仕事を頑張って業績を上げればいい話なのだが……。

「がんばってみるかなあ」
「にゃあ」

猫を撫でながら決意したのだが、結果的に、俺は身体を壊しかけてしまい、上司のパワハラもひどくなり、残業も増やされてしまって、会社を辞めることにした。

――また、頑張れなかった。

俺は猫に別れを告げた。
しかし、猫は俺を止めようとして前に出て、車道に歩いていってしまって……。

「あぶない!!」

俺は猫を咄嗟に抱えたが、車はもう目の前に迫っていて、世界は真っ暗になった。
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