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ただ傍にいられるだけで

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――婚姻? 私が陛下と? 

手を強く握られ、シルヴィオが覆い被さってくる。
額同士をくっつけられ、熱い視線を注がれた。
肌をかすめる髪の毛がくすぐったいが、気持ちいい。

「アダル」
「し、シルヴィオさまあ」

ルアだった時も同じようなことがあったと思いだし、拒絶などできないと苦悩する。
だが、僅かに残された理性が、アダルを喋らせた。

「時間を、下さい」
「なんだと?」
「気持ちが落ち着かないので……すみません!」
「まあ、いいが、早くしろよ」

更に強く手を握られて、アダルの心臓は早まるばかりで爆発しそうだった。
シルヴィオの緑の瞳に心を射ぬかれ、それだけで天にも昇る気持ちになる。

――い、いかん、ジェイムのやつが監視しているのだ!

「だ、ダメです!」

ドンッ!

「なっ!?」

気づけば、上半身を起こしてシルヴィオを突き飛ばしていて、己の失態に叫びそうになる。
もうこんなに体力が戻っていた自分にも驚いた。

「――はっ」
「アダル! 何をする!」
「も、もうしわけっ」
「まさか、心変わりしたのか!?」
「は?」

シルヴィオと視線が絡まると、焦りを感じた。
苦悶の表情でアダルを見据えている。
ふいに息を吐くと顔を背けた。

「確かにな、長年、お前をないがしろにした挙げ句に、兵士にヤらせた相手になんて愛想をつかしたか」
「え、あの、あれは私が陛下を誤解させたせいで」
「蓄積された恨みや憎しみもあるだろう、聞いてやるからぶちまけろ」
「ひあっ!?」

両肩を掴まれ、寝台に腰を沈め、軋んだ音が響いた。
アダルは慌てる。

――私が、陛下に恨み?

記憶を巡らせれば、初めての出会いから今まで睨み付けられたり、話し合いの場でも文句ばかりで、功績をあげたときもつまらなそうに、褒め言葉らしきものをささやかれたり……。

「ふふふ」

シルヴィオとのやり取りを思い返していたら、なんだかおかしくなり、吹き出してしまった。

「何を笑う?」
「し、失礼しました。陛下、私はあくまでも側近として貴方を支えたいのです、信頼して頂ければ、それで充分なのです」

するすると言葉が溢れ出て、気持ちが落ち着いてくる。
瞳を閉じて嘆息してゆっくりと開く。

――そうだ、フェリクスは関係ない、私はもともと陛下のお傍にいられればそれで、幸せなのだ。

「つい誘惑に負けて乱心致しました。ルアについては忘れて下さい」
「アダル、お前……」
「陛下は、魔族と人間を繋ぐかけ橋なのです、いずれは妃を娶られ、その血を残して頂かなければ」
「勝手な事を……」
「いくら魔族とはいえ、命は永遠ではありますまい」

まっすぐ王を見つめて強い口調で続けた。

「だから、私を恋慕の情で見ないでください」
「……はっ、とんだ恥さらしだな、俺は」

アダルは今、愛している人の愛を拒絶した――盛大に振った現実に、複雑な感情が爆ぜそうになっていた。

体が震えているのがわかる。
どんな顔をしているのか不安だった。

ガタンッ

「ん?」

物音が聞こえて部屋の入り口を見ると、少しだけ開いているのが見えた。
アダルは声を張り上げる。

「何奴だ!?」
「あ、バレましたか」

アダルの呼び掛けにすぐに反応した声の主が、部屋に足を踏み入れた。
兵士だ。
背後にも数人いるようだった。
アダルは見覚えがあった。

「お前はあの時の」
「ええ、ご馳走さまでした」

アダルはニヤついた笑みを見せる兵士に怒りを向ける。

――やはり、あの時、私を辱しめた男の一人か。

あくまでも陛下の命令に従っての行為だが、憤りは隠せず、拳を握り締めた。

「カルバスか、何故この場所が分かった」
「後をつけてきたんです、得意技なんで」
「何が目的だ?」

シルヴィオの問いかけに、カルバスが変わらない笑みで答えた。

「俺たちの目的は、アダル様ですよ」
「私を?」
「ええ、なんでもアダル様を罰したのは陛下の勘違いで、近々アダル様を側近に戻されるとか?」
「だからどうした」

シルヴィオがカルバスを氷のような瞳で見据える。

「あの件は内密にってクギさされてますけど、言いふらしたらどうしますか?」
「何が目的だ?」
「だから、アダル様を俺たちに下さい」
「な、何だと!?」

アダルは心底驚く。

「私をどうするつもりだ?」
「そりゃあ、俺たちが慰めてもらうんですよ」
「な、なっ」

思考が追い付かないアダルに、さらにカルバスが追い討ちをかけるような話を始める。

「さっきの会話の流れじゃ、アダル様は陛下を振ったみたいだし、夜が寂しくなるだろうから、ちょうどいいんじゃないですか」
「……ぐっ」

――そんな所まで聞かれたのか。

「陛下は魔族と人間の橋渡し役として民からの信頼が厚い、そんな王が、己の欲を満たす為に側近を兵士にまわさせたなんて知ったら、権威は間違いなく堕ちる」
「き、貴様無礼だぞ!」
「さあ陛下! 貴方を振った命知らずな側近をどうします?」
「――っ」

カルバスの直接的な表現に、アダルは息を飲む。

シルヴィオが腕を組み、アダルを睨むと口を開いた。

「構わん、好きにしろ」
「!?」

カルバスが口笛を吹く。

「その代わり、俺もこいつを好きにさせてもらうぞ、側近の勤めに王の性欲処理を追加してやる」

グイッと腕を引っ張られ、寝台から無理やり引き剥がされた。
抱きしめられて、その肉体の感触と熱さにときめいてしまう。

「し、シルヴィオ様?」
「俺を振ったんだ、一切遠慮はしないぞ、優しくしてやる必要もない」
「……っ」
「お前は今日から、俺と奴等の肉奴隷だ」

耳たぶを甘噛みされて、吐息を吹き掛けられる。

思わぬ事態に、アダルは声も出せずに俯く事しかできなかった。

「俺が、お前を気に食わない一番の理由はな、お前を見ると俺の中の醜い欲望が刺激されるからだ」
「……ふはっ」

耳元で囁かれて背筋がぞくぞくする。

「お前は俺の嗜虐心を煽る男だ……貪りつくして快楽地獄に堕としてやる」
「くはぁ……へ、陛下あっ」

――だ、だめだぁ……イくっ!

アダルは愛しい王の欲望に満ちた囁き声に追いつめられ、絶頂し、びくびくと腰を震わせる。

下着が濡れた感覚と太ももを伝う己の精液の感触に、アダルはきつく瞳を閉じた。

これから自分はどうなってしまうのだろうか。
不安の中に、暗い欲が渦巻くのを無視できなかった。

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