転落王子の愛願奉仕

彩月野生

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運命に飲まれていく

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「やはりお前だったか」

ヴァルドがミハイルを睨みつけて険のある声音で呼びかける。
確かに、彼の立場でここに足を踏み入れるのはおかしい。

ふとエリオはロルフの目を見つめ、違和感を覚える。

――なんだ。

いつもとは何かが違う。
ロルフの目つきが淀んでいる事を知って、背筋に寒気が走った。
その隣に佇むミハイルも、何だか表情が冷たいように見える。

「エリオ様、貴方にはがっかりしました」
「?」

整った顔が、一気に歪み、氷のような瞳がエリオを見据えている。
一歩、ミハイルが足を出した瞬間、嫌な予感がして身を引く。
ヴァルドがエリオの前に進み出ると、ミハイルに向けて剣を突きつけた。

――まさか斬るつもりなのか。

止めるべきだとは思うのに、足が動かない。

「ロルフを操り、俺に毒を飲ませようとしたのか。いい加減下手な芝居をやめろ」
「……仕方ない。お前にはここで消えて貰おう!」

それは突然起こった。
ミハイルの身体が青く発光したのだ。

「うぐ?」

まぶしさに目を閉じた時、鈍い音が轟く。
光がおさまったのを感じてそっと目を開けると、ヴァルドがミハイルと剣同士を擦り合わせてにらみ合っていた。

その異様な光景に呆然とする。

何故、あのミハイルが、ヴァルドと争っているのだろう。
何故、ロルフ王は何もせずただぼんやりと突っ立っているのだろう。

――本当に、ミハイルがやったのか。

ミハイルがロルフを操り、毒を飲ませてヴァルドを殺そうとしたのであれば、エリオがそれを邪魔をすると見越して直接乗り込んで来たのだろうか。

冷静な思考とは裏腹に、エリオは二人の間に体当たりをするように跳躍していた。

「やめてくれ!」
「エリオ!?」

ヴァルドの焦ったような声にも怯まず、ただ必死にミハイルから剣を奪おうと腕を伸ばす――だが、ミハイルは余裕の笑みを浮かべて口元を歪ませる。

「エリオ、貴方は後でたっぷり可愛がってあげるから大人しくしてなさい」
「――ッ!」

腹に衝撃が走り、壁に背中を打ち付けた。

「かはっ」

今の力は攻撃系の魔術とは違う……エリオの直感がそう思わせる。

「神に叶うと思うか?」
「貴様アッ」

「あ」

ドシュッ!!

閃光が走り鈍い音がした。

エリオは呆然と悪夢の世界を見ていた。

「ぐ……」

ヴァルドはミハイルの剣を胸に受け、出血していた。
ヴァルドの剣もミハイルの喉元にしっかりと突き刺さっていた。
だが、ミハイルは涼しい顔つきで血も流していない。

「愚か者め」
「……ヴァ、ルド」
「ああ、エリオ」

剣をおろし、ミハイルがエリオに歩み寄ってきた。
その後方でヴァルドが血を流しながら、ゆっくりと倒れるのが見えた。

――ヴァルド、ヴァルドが死ぬ!

「う、うあ」
「さあ、おいで。エリオ」

ミハイルの愉悦に満ちた笑顔に、恐怖を抱き、エリオは膝をついて動けない。
ガシッと頭を掴まれた瞬間、意識が急激に朦朧としてくる。

――だ、だめだ。

このまま気を失えば、誰がヴァルドを助けるんだ。
エリオは唇を噛み、意識を保とうとする。


「エリオから手を放せ!!」

突然の怒声に息を飲む。

ドスッ!!

という肉を貫く音と共に、ミハイルの苦しそうな声が聞こえたが、エリオはもう目を開けていられなかった。


身体が揺れる感覚に目を覚ますと、異形の顔が目に飛び込んでくる。

「ロルフ」
「目を覚ましたか」
「あ……」

頭がぼんやりする。
どうやらロルフに抱き抱えられているようだ。
気を失う前の光景を思い出して、慌ててヴァルドについて尋ねたが、邪魔が入った。

「失礼します」
「ん? 誰だ」
「貴方は」

エリオは目を丸くして初老の聖職者を見つめる。
ロルフに自国の大神官だと話すと納得してくれた。

「ヴァルド様は我々で介抱しております」
「……そうか、良かった」
「エリオ様。申し訳ございませんが」

大神官は鋭い目つきで言い放った。

「貴方を処刑いたします」

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