神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生

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ケダモノに追い詰められて

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 治癒の水の効果は本物であった。
 怪我人はルネリクスを神のように崇めたが、どうか内密にと念を押す。
 その奇跡の水を次々に使用し、やがて怪我人は一人残らず完治し、数日経たぬうちに村へ帰る事が叶った。

 目立つ事を避けたいので、日が昇るのと同時にこっそりと帰していた。
 水はあっという間になくなってしまったので、あの洞窟に新たな治癒の水を作りに行かなければならない。

 ある事を思いつき、大神官にだけ治癒の水の件を話す事にした。
 自分より年上のちょうど三十路になったばかりの大神官は、ルネリクスの意志を汲んでくれて、しばらくの間、神殿を離れ、治癒の水の生成に集中して良いと許可して下さった。

 幸いアロルフに見つかる事もなく、神殿を離れる事ができたので、これで安心して触手との交わりを行えると喜んだ。

 正直、治癒の水よりも快楽を欲している己の浅ましさに、罪悪感を抱いているが、神託であるのだからと、無理矢理心を落ち着かせた。

 ルネリクスは洞窟の近くにある小屋を、住処にする事に決めた。
 小屋は泉の傍にあり、さらに豊かな生態の森の中なので、水にも食べ物にも困らなくて済む。

 泉で身を清めた後、触手の元へと向かう。
 出迎えてくれた輝く触手は、するするとルネリクスの四肢に絡みつく。
 その甘い香りと感触にすでに身体は火照り、心臓は期待でどきどきしている。

「さ、さあ……じっくりと交わって治癒の水を作りましょう♡」

 誘う言葉に触手は応えた。

 *

 全身がどろどろに穢されるまでたっぷりと快楽を味わい、ぼんやりとしていたルネリクスは、ようやく眠気が覚めるとゆっくりと起き上がる。

 洞窟の入り口が月明かりで照らされているのが見えて、小屋に急いで帰らなければと焦った。
 この森には獰猛な生き物はいないが、オーガの軍団が気になっていた。
 最後に暴れたという話を聞いてから、もう一月は経つ。
 どこかに移動したかも知れないが、慎重に行動しなければ。

 しっかりと治癒の水入りの触手の籠を両手に抱えると、歩き出すが、足がもつれて転びかけて顔を振る。

 ――ねむい……。

 またしても強烈な眠気に襲われて、とうとう動けなくなり、洞窟を出たところで意識を失った。
 
 身体が揺れているのに気付いてうっすらと目を開くと、誰かの肩に担がれているのだと分かって動揺する。

「もう少しで小屋に着くぞ」
「あ、ありがとうございます……?」

 この声は聞き覚えがあった。
 小屋の前に辿り着くと、そっと地に降ろされて、扉に背を預けて深呼吸を繰り返す。
 目の前にいるのは――

「アロルフ様、どうして」

 名前を呼ぶと、巨漢の将軍は腕を組んで肩を揺らした。

「大神官殿に護衛を頼まれてな、この場所を教えて貰ったのだ」
「な……!?」

 誰にも言わないで欲しいと伝えて、確かに頷いてくれたのに。
 まさか、二人は……!

 ルネリクスは顔を振ってアロルフに帰るように促すが、言う事を聞く筈もなく、強引に小屋の中へ入ろうとするので困り果てた。
 不用心だが鍵をかけておらず、押されると簡単に扉は開いてしまう。

「ところで、ルネリクス殿」
「はい?」
「この、網籠が何で作られているのかを知りたいのだが」
「!」

 いつの間にか、アロルフの片手には治癒の水が入った触手の籠があったのだ。
 息を飲み、その籠を返して欲しいと懇願すると、説明を求められてしまい、渋々その正体について話してみた。
 アロルフは訝しむように眉根を寄せる。

「アロルフ様?」
「触手から作られるというのは分かったが、どんな方法で……?」
「そ、それは」

 まさか触手と交わる事で生成されるだなんて、大神官にも話してはおらず、どうすればこの事実を話さずに済むのかと思考を巡らせるが、良い答えが思い浮かばない。
 押し黙っていると、突然アロルフが嗤い声を上げて籠を押しつけてくるので、心臓が跳ねた。

「わ?」
「すまんすまん! 無理に話す必要はないぞルネリクス殿!」
「あ、アロルフ様」
「実際に触手の元へ行けばわかる」
「……えっ」

 一歩、前に進み出るアロルフから後ずさるが、壁に突き当たり逃げ場はなくなる。
 獣のような歪んだ笑みを浮かべる将軍に、今にも食べられそうで瞳を閉じて心を落ち着かせようと試みるが、うまくいかない。

「おや? 触手を見る事もダメなのか? 何故だ、ん?」
「え、えっと」
「はっきり言え! 神官よ!!」
「ひっ」

 大きな声に思わず悲鳴を上げると、頭をぐりぐりと撫でられて、うっすらと視界を開いた。
 獲物を喰らおうとする獣が嗤っている。
 気圧されたルネリクスは、とうとう真実を口にした。

「わ、分かりました! 触手と交わることで、治癒の水が作られるのです!」

 そう叫ぶと、すうっと大きな手の平が頭から離れていく。
 ルネリクスはゆっくりと長い息を吐き出すと、まるで檻の中から抜け出した気分になった。
 
「大神官には、言ってないな?」
「え? ええ」
「ならば、その肉体を好きなようにさせてくれれば、誰にも言わないでやろう」
「!?」

 勝手な言葉にルネリクスはそっと顔を上げる。
 
「あ……」

 アロルフの表情を見つめて、ルネリクスは絶望した。

 彼は欲情し、舌なめずりをしていたのだ。 
 
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