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子供達の戯れとワニの彫像

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舞台は欧州のローマ、イタリアに住む従兄弟のもとに遊びにきた…
まだ幼い子供だった頃の話

ナイルの箱庭…皇帝の銀貨…あの時の銀のコインが
今も私の手の中にある…あの束の間の思い出…

あれは夢、幻…ナイルの箱庭

ローマ貴族の郊外の邸宅の庭、緑の迷路でかくれんぼで遊び、
それから…歳上の従兄弟は笑いながら言う

「この近くにハドリアヌス帝の別荘跡地があるよ、遊びに行こうか」
 
歳上の従兄弟に誘われ、行ったのは…広々とした遺跡の跡地…

円形のドーム型の泉やら建物の跡、

そして緑の野原で見かける数多くの彫像…まだ年若い青年像アンテオキア

エジプトにも似た名前の都市がある…

彼の名前から取ったものだと言う 
この遺跡のテイボリとは縁が深いハドリアヌス帝とアンテオキア

従兄弟は、僕の顔をしみじみと覗き込み、呟いた…

「そう言えば、似てるよね」…
「誰に?」

「この彫像のアンテオキアに似てる
ギリシャ系で情感的で綺麗な顔立ち…柔らかな髪の毛とか…ふふ」

愉しげに笑う従兄弟

「このテイボリは彼の別荘跡地…あ!見てごらん」

従兄弟の彼が指さすのは
長方形の池 周りに白い彫像や柱の後がある…

それからワニの彫像

そこはナイル川のイメージで創られたもの

…ナイルの箱庭さ‥‥

「アンテオキアはエジプトの
ナイル川で溺れてワニに食べられたんだよ、

本当かどうか…分からないけど…

古代エジプトの人達は
ワニに食べられた人は神になるらしいって信じたって

ハドリアヌス帝は 嘆き悲しんで 

それから 愛する人へのモニュメントを沢山 作ったんだ・・

エジプトに神殿を作り それから・・

新しい都市に 愛するアンテイキアの名を付けて
それでも まだ哀しくて

この巨大な別荘・・彼が廻った都市の箱庭にも 
沢山 彫像を置いたのさ
「ここ・・
ナイルの箱庭のワニの彫像に触れてごらんよ」

「え?」

「そっとだよ・・。」

[ただし 左手の一指し指で そっとだよ」

「じゃないと ワニが目を覚まして食べられちゃうかもね・・」
従兄は笑う

言葉につられて しゃがみこみ 言われた通り 左手の一指し指で
そっと ワニの尻尾に触れてみた

「気を付けて・・
アンテイノーみたいに食べられないように・・ふふ」
奇妙な笑み

まるで 道化師が悪戯をたくらむ 笑顔みたいに・・

「え!」と驚き
従兄の方へ振り返った瞬間

グオオオ・・という低いうなり声
白いワニの彫像が 命を得たように動きだし
大きな口を開けて こちらを見ている

従兄は言う

「アンテイノーみたいに 神になるかい?
神殿を建ててあげるね・・
でもワニに食べられて生贄にならないといけないよね」
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