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【22 初デート (新田)】

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 御木野さんの家へと続く帰り道。


 空は夕暮れに差し掛かり始めているけど、正直まだ帰りたくない。



「今日はすっごく楽しかったなぁ。


 プラネタリウムって久々に見たけどいいよね。


 中も涼しいし、落ち着くっていうか」


「うん、そうだな……」



 楽しそうに今日を振り返る御木野さん。


 御木野さんはまだ帰りたくないとは思ってないんだろうか。


 この気持ちが俺だけなのかと思うと、少し寂しい気もする。


 そのとき、御木野さんが小さく悲鳴を上げた。



「いたっ……。あっ……? なんか左足の小指、靴擦れしてるかも……」


「大丈夫?」


「う、うん……。楽しすぎて今まで痛いのにぜんぜん気がつかなかったみたい……」



 御木野さん……。


 一緒にいて楽しいと思ってくれるのはうれしい。


 けど、ちょっとだけ抜けてるんだよな……。


 そこがかわいいところでもあるけど。


 でも、これでもうしばらく御木野さんと一緒にいられる。



「そこの公園で休もう。俺、絆創膏買ってくる」


「あっ、大丈夫。持ってきてるから」



 御木野さんが鞄から絆創膏を取り出す。



「俺がやるよ」


「えっ……」



 御木野さんの手から絆創膏を取ると、ベンチに腰かけた御木野さんの前に膝をついた。


 御木野さんが慌てたように大きく手を横に振っている。



「だ、大丈夫だよ! 自分でやれるし」


「いいから」


「ほ、本当にいいってば。新田くんにそんなことさせられないよ」


「だめ」


「……だめ!?」



 御木野さんがびっくりしたように俺を見た。


 自分の中に芽生えてきた優越感と独占欲。


 ちょっとくらい振るったって、御木野さんなら許してくれる気がする。



「俺がしてあげたい。


 今日は俺御木野さんになにもしてあげてないから」


「そ、そんなことないよ……!


 一緒にいられただけで私はすごく楽しかったよ」


「いいから。早く靴脱いで」



 そういうと、御木野さんがためらいながら、のろのろと靴とソックスを脱ぎ始めた。


 白いソックスから御木野さんの足が出てきたとき、一瞬ドキッとした。


 きれいに塗られた薄いピンク色の爪。


 こんな見えないところまで、きれいにしているんだ……。


 今までかわいいと思っていた御木野さんが、急に大人っぽく感じた。


 御木野さんを見ると恥ずかしそうにそっぽをむいている。


 勢いで俺がやるといい出してしまったが、よく考えたら、この状態だと御木野さんの足に触らなきゃ無理だよな。


 めちゃくちゃハードル高くないか、これ……!


 やばい、変な汗が出てきたかも……。



「あ、あの、やっぱり……」



 ここまできて後に引けるか。




「足、出して」



 そっと差し出された御木野さんの足を掴んで、なんとか絆創膏を小指の付け根にできた靴擦れに貼ることができた。


 正直、汗で手が濡れていた。


 手汗を気持ち悪がられなかっただろうか。


 うまく絆創膏が剝げなくて、余計に時間がかかった。


 御木野さんに変に思われてなかっただろうか……。


 内心ひやひやしながらそっと顔を上げた。


 すると、御木野さんが真っ赤な顔をしてこちらを見ていた。


 その目が潤んでいる。


 大丈夫? と聞こうと思っていたのに、その表情を見ていたら、全然別のことを口走っていた。



「キス……してもいい……?」


「……うん……」



 顔を寄せると、お互いの体温が燃えてるみたいに熱かった。


 漏れる吐息に緊張がみなぎっている。


 ……軽く、触れあった。


 柔らかさと温かさが神経を伝わってくる。


 御木野さんのデオドラントの香りと、少し汗の匂い。


 ずっとこのままでいたい……。


 そう思ったけど、心臓がやばくて、もう無理だった。


 そっと目を開けると、御木野さんも今伏し目がちに目を開けているところ。


 見つめあったとき、御木野さんが恥ずかしそうに微笑んだ。


 あ、この人とずっと一緒にいたい。


 今、心の底からそう感じた。


 今日も、明日も。これからずっと。


 ふたりの関係を、この気持ちを、ずっと永遠にここに留めたい。


 こんなふうに、こんなに本気で思ったの初めてだ。


 溢れ出そうな気持ちを伝えたかったけど、恥ずかしさが勝って口が全然動かない……。


 御木野さんは何も言わず、でも何もかもわかっているかのように、俺を見つめていた。


 ……言葉にならない……。


 照れくさそうに笑う御木野さん。


 以心伝心みたいで嬉しい……。


 大切にしたい。


 御木野さんのこと。


 この気持ち、離したくない。


 御木野さんとなら、いつまでもどこまで、一緒にいられる気がする。


 同じ土俵にするのもおかしいけど、八代とは一生付き合うんだろうなと思った瞬間がある。


 その時みたいに、御木野さんが俺の人生の大事な一部に、もう誰もかわりの出来ない大切な人になっているんだ。


 知りたい、御木野さんのこと。


 もっと、そばにいきたい。


 御木野さんを……、まこを、俺だけのまこにしてしまいたい……。


 ……いや……。そうじゃない。


 大事にしよう、この関係を。まこの気持ちを。


 俺は永遠の彼氏で、まこは永遠の彼女だと約束したんだ。


 焦らず行こう……。


 二人の気持ちを温めて、育んでいこう。



「帰ろうか」



 手を差し出すと、まこがニコッと笑う。



「うん」



 迷うことなく、俺の手を取った。


 柔らかな感触と温度。


 隣で見あげてくる視線が愛おしい。



「次こそはピザ作るね」


「えっ、マジ!?」


「今ママに教わってるから上手く出来たら食べに来て?」


「うん、行く行く!」



 御木野さんがくすくす笑った。


 あ、やべ、反応が子どもっぽかったかな……。


 でも、いいか。

 ここから俺たちは俺たちのペースで、一歩ずつ、前に進んでいくんだ。





 


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