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【9 日傘 (まこ)】
しおりを挟む新田くんと付き合い始めて、一週間が過ぎた。
このところ、だいたい七時前後には練習を見にグラウンドに着くようにしている。
徹夜明けのせなちゃんが一緒の時は六時半ごろにいくこともある。
朝が辛くていつもは無理かもって思ったけど、でも毎日朝学校へ行くのか楽しい。
なにかの歌詞で恋をするとそれだけで世界が違って見えるって聞いた覚えがあるけど、それって、本当だと思う。
あっ、いた!
フェンスの向こうで、新田くんが手を振っているのが見えた。
手を振り返す私の隣では、せなちゃんが今日も大あくびしている。
珍しく、新田君がグラウンドを出てこちらに走ってやってきた。
「おはよう、新田くん」
「おはよう、御木野さん、吉木さん」
「おは……はぁよ……」
その時、新田君が一瞬困ったような顔をして、手に持っていたなにかをぱっと後ろに隠した。
「え、なに、それ?」
「い、いや、なんでもない」
寝不足のわりに、いつも観察眼の鋭いせなちゃんががすぐに言った。
「……日傘?」
新田くんが、ばれてたか、というようなきまり悪そうな顔で、そっと後ろからそれをに差し出した。
「こ、これ、日差しがきついだろうと思って……」
「えっ、わたしに?」
うそ……。
私のために、わざわざ日傘を買ってくれたの……?
びっくりして、私は受け取った日傘をまじまじ見つめた。
軽くてシンプルな白の折り畳みの晴雨兼用。
ベージュ色の小さくて簡略化された花のデザインがところどころ入っている。
なんだか、新田くんが一生懸命考えて選んでくれたんだとわかるデザインとサイズ感だった。
「うそ……、うれしい……!」
思わず顔が緩んでしまう。
ぱっと見上げると、新田くんはほっとしたみたいに微笑んだ。
「本当にうれしい。新田くん、ありがとう」
「よかった、喜んでもらえて」
そのあと、新田くんは少し気まずそうにせなちゃんを見た。
せなちゃんは一周まわって悟りきったようにため息をついていた。
「新田くん、あたしのことまで気を使わなくっていいって。
新田くんはあげる理由がないし、私はもらうが理由ないんだから。
もらったらもらったでファンの子たちになんでお前までって叩かれるの必至だしね」
「あ、そうだよな……、ごめん、なんか逆に気をつかわせた」
そういうと、ふたりは、あははと笑った。
そうだ、こういうところだよ……!
してもらうことに慣れっ子だっていうのは。
私、新田くんにもせなちゃんにも、してもらいっぱなしだよ……!
ひとまず、せなちゃんの日傘は私が買うべきだよね……!
「それなら、せなちゃんの日傘は私が買う!」
「え、いいよ、別に。そんなに長時間つきあうわけじゃないしさ」
「ううん……! 絶対買う! せなちゃんにはいつもしてもらってばかりだもん」
「別にいいって、あたしが日傘とか似合わないし」
せなちゃんならそういうと思ったけど、私は譲らず、なんとかうんと言ってもらった。
「それよりも、ほら、開いてみなよ」
「そうだね」
真新しい日傘を開いて肩にかけた。
真夏の光が遮られて、ふっと肌に当たる温度が変ったのがわかった。
しかも軽くて全然苦にならない。
私はあらためて新田くんにお礼をいった。
「うん、似合ってる」
ほほ笑む新田くんがまぶしくて……。
私は少しどきどきしながらその輝く肌と瞳を見つめた。
「じゃあ、練習もどるわ」
「頑張ってね」
この日から私は授業が始まるまで練習を見学できるようになった。
練習が終わって校舎へ戻る途中、サッカー部のおっかけの子たちが話しているのが聞こえた。
「ねえ、今度の親善試合のとき、なにを差し入れする?」
「あたし、前回ドリンク係だったから、今度は~」
「ねぇ久々にミサンガかお守りとか作っちゃう?」
「あぁ~、それもいいかも~」
あ……、そうだ、今度親善試合があるんだ。
親善試合とはいいつつも、相手は前回のインハイ予選で負けた強豪校のS高校サッカー部。
つまり雪辱戦。
この親善試合で勝つことができれば、冬の大会へのいい弾みになる。
私も、新田くんの力になりたい。
これまでたくさんしてもらってきたから、感謝の気持ちも伝えたいし。
でも……。
私になにをしてあげられるだろう……。
*お知らせ*こちらもぜひお楽しみください!
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