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■第1章 突然のサバイバル!
005 虫大パニック!(3)
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頼りにされると嬉しくなる。外見は子どもの姿でも、中身は大人。大人と言ったって、知らない場所で野宿なんて恐いに決まっている。銀河だってひとりきりだったら、きっとブーンズをポートフォリオに戻さず共に夜を過ごすだろう。
しばらくして、銀河はトイレに行きたくなった。そのとき美怜が思った以上にしっかりとタンクトップを握り込んでいることに気づいた。
(みれちゃん、よく寝てる……。起こすのもかわいそうだし、しかたない脱いでいくか)
狭いシェルターの中でも、柔軟性のある子どもの体は、するっと脱ぐことができた。銀河はTシャツに姿になって燃えさしを探した。
(う~ん……、トイレに行って帰って来るだけの火が持ちそうにないな……。そうだ、みれちゃんのアマノジャックマキジャックにLEDライトがあったな)
ところが、アマノジャックマキジャックが入っているバッグは美玲が枕代わりにしている。
(こ、困った……。こんなことならハンドッゴといっしょに借りておくんだった。……あ、そうだ)
銀河はタブレットを取り出した。画面からの光量で十分用に足りそうだ。だが考えてみると、用を足す間タブレットを手放すことになる。暗がりで見失ったら嫌だ。脇に挟んでやり過ごすこともできるが、落として画面が割れたらと思うと不安だ。
(そうか、あれを生み出そう。BPもそれほど消費しないし、なにより手が自由になる。光の吸収があまりできてないけど、トイレに行って帰ってくるくらいの短い時間なら)
銀河はポートフォリオを開いて、目当てのブーンズのギブバースをタップした。一瞬の光とともに現れたのは、形の違う三体のほんのり明るい物体。イコのようにふわっと宙に浮いている。
「よし、十分明るいな。ピッカランテッカラン、トイレに行くからついてきてくれ」【※13】
歩き出すと命令通り行く先を照らしてくれた。途中、パッと三体の光が消えた。
「あっ、みんな、順番どおりに並んでくれないと。君たち、順番が変わると光らないんだから」
そういうと、またパッと光が灯った。この三体のブーンズ、先を行く個体から順番に、ピッカ、ランテッ、カランという。日中の太陽光を体に貯めて、暗いところで明かりを灯してくれる。電気配線が正確であることを必要とするように、三体が名前の通りに並んでいないと光らない。
「ここらへんでいいかな」
ピッカランテッカランの明かりで難なく用を足していると、耳障りな音が聞こえてきた。
――プーン、プーゥン。
銀河は慌てて手で払った。姿は見えないけどこの羽音、蚊だ!
「う、うわっ、なんで! 昼間は全然出てこなかったのに! 夜行性か?」
用を済ませて慌てて来た道をもどる。火のそばなら少しはましかもしれない。けれど、進むたびに蚊の羽音は益々増え、いつの間にか全身を覆うように取り囲まれている。
「うわっ、うわっ! なんでっ、お、多すぎるだろっ」
銀河は必死で振り払い、手足を叩いて蚊をつぶす。しかし無数の蚊の群れ。とても追い払うことはできない。
「くっ、やめろっ、ううっ! くそぉっ!」
駆け足で戻って、焚き火から燃えさしを取り振り回した。それでも全然効果がない。逆に光をめがけてきているのかもしれない。
「ピッカランテッカラン、戻れっ、セーブ!」
ピッカランテッカランをポートフォリオに戻したが、それでも変わりがなかった。
(こんなに急に大量の蚊が出てくるなんて……! まずい、みれちゃんも!)
慌ててシェルターを覗いた。不思議なことにシェルターの中は全く蚊がいなかった。なんでだろう。シェルターに使った葉っぱの中に虫除けに効果のあるものがあったのかもしれない。それならシェルターの中にいたほうがいいと思って素早く潜り込んだ。それなのに、蚊は銀河の周りだけをブンブン飛びまくっている。
(だ、だめだ……! これじゃあみれちゃんまで虫に刺される!)
銀河はすぐにシェルターを出た。急いでスキャニングで辺りを確認した。ポップアップにはすぐに情報が出てきた。
「ボラ蚊。森林、湿地、砂漠など広い地域に生息する昆虫。ヒトなどから血液を吸う吸血動物であり、ときに病気を媒介する衛生害虫である。産卵のための栄養源としてメスのみが吸血し、オスは吸血しない」
「え、衛生害虫……! やばい、感染症にかかるかもしれない! ええと、虫除けの植物は……!?」
眼鏡の画面に映しだされる情報をひとつずつ確認していく。
「ヒヨシ草、違う。ムレの木、あっこれはかゆみ止めに使える。毒草のジグ草。あっ、これも毒草、アタリ草。シニ草、これも毒草。クルシ草、毒草。毒草ばっかりだな!」
蚊に食われる痛みと痒みの不快感がますます高まって、苛立ちが募る。耳のそばでプンプン鳴る音を聞くたび腹の底が煮えくり返った。
「だめだ、ひとりじゃらちが明かない。タンズを呼ぼう!」
銀河は急いでポートフォリオからタンズを選んで『call:呼ぶ』をタップした。光とともに現れた三体に早口に言った。
しばらくして、銀河はトイレに行きたくなった。そのとき美怜が思った以上にしっかりとタンクトップを握り込んでいることに気づいた。
(みれちゃん、よく寝てる……。起こすのもかわいそうだし、しかたない脱いでいくか)
狭いシェルターの中でも、柔軟性のある子どもの体は、するっと脱ぐことができた。銀河はTシャツに姿になって燃えさしを探した。
(う~ん……、トイレに行って帰って来るだけの火が持ちそうにないな……。そうだ、みれちゃんのアマノジャックマキジャックにLEDライトがあったな)
ところが、アマノジャックマキジャックが入っているバッグは美玲が枕代わりにしている。
(こ、困った……。こんなことならハンドッゴといっしょに借りておくんだった。……あ、そうだ)
銀河はタブレットを取り出した。画面からの光量で十分用に足りそうだ。だが考えてみると、用を足す間タブレットを手放すことになる。暗がりで見失ったら嫌だ。脇に挟んでやり過ごすこともできるが、落として画面が割れたらと思うと不安だ。
(そうか、あれを生み出そう。BPもそれほど消費しないし、なにより手が自由になる。光の吸収があまりできてないけど、トイレに行って帰ってくるくらいの短い時間なら)
銀河はポートフォリオを開いて、目当てのブーンズのギブバースをタップした。一瞬の光とともに現れたのは、形の違う三体のほんのり明るい物体。イコのようにふわっと宙に浮いている。
「よし、十分明るいな。ピッカランテッカラン、トイレに行くからついてきてくれ」【※13】
歩き出すと命令通り行く先を照らしてくれた。途中、パッと三体の光が消えた。
「あっ、みんな、順番どおりに並んでくれないと。君たち、順番が変わると光らないんだから」
そういうと、またパッと光が灯った。この三体のブーンズ、先を行く個体から順番に、ピッカ、ランテッ、カランという。日中の太陽光を体に貯めて、暗いところで明かりを灯してくれる。電気配線が正確であることを必要とするように、三体が名前の通りに並んでいないと光らない。
「ここらへんでいいかな」
ピッカランテッカランの明かりで難なく用を足していると、耳障りな音が聞こえてきた。
――プーン、プーゥン。
銀河は慌てて手で払った。姿は見えないけどこの羽音、蚊だ!
「う、うわっ、なんで! 昼間は全然出てこなかったのに! 夜行性か?」
用を済ませて慌てて来た道をもどる。火のそばなら少しはましかもしれない。けれど、進むたびに蚊の羽音は益々増え、いつの間にか全身を覆うように取り囲まれている。
「うわっ、うわっ! なんでっ、お、多すぎるだろっ」
銀河は必死で振り払い、手足を叩いて蚊をつぶす。しかし無数の蚊の群れ。とても追い払うことはできない。
「くっ、やめろっ、ううっ! くそぉっ!」
駆け足で戻って、焚き火から燃えさしを取り振り回した。それでも全然効果がない。逆に光をめがけてきているのかもしれない。
「ピッカランテッカラン、戻れっ、セーブ!」
ピッカランテッカランをポートフォリオに戻したが、それでも変わりがなかった。
(こんなに急に大量の蚊が出てくるなんて……! まずい、みれちゃんも!)
慌ててシェルターを覗いた。不思議なことにシェルターの中は全く蚊がいなかった。なんでだろう。シェルターに使った葉っぱの中に虫除けに効果のあるものがあったのかもしれない。それならシェルターの中にいたほうがいいと思って素早く潜り込んだ。それなのに、蚊は銀河の周りだけをブンブン飛びまくっている。
(だ、だめだ……! これじゃあみれちゃんまで虫に刺される!)
銀河はすぐにシェルターを出た。急いでスキャニングで辺りを確認した。ポップアップにはすぐに情報が出てきた。
「ボラ蚊。森林、湿地、砂漠など広い地域に生息する昆虫。ヒトなどから血液を吸う吸血動物であり、ときに病気を媒介する衛生害虫である。産卵のための栄養源としてメスのみが吸血し、オスは吸血しない」
「え、衛生害虫……! やばい、感染症にかかるかもしれない! ええと、虫除けの植物は……!?」
眼鏡の画面に映しだされる情報をひとつずつ確認していく。
「ヒヨシ草、違う。ムレの木、あっこれはかゆみ止めに使える。毒草のジグ草。あっ、これも毒草、アタリ草。シニ草、これも毒草。クルシ草、毒草。毒草ばっかりだな!」
蚊に食われる痛みと痒みの不快感がますます高まって、苛立ちが募る。耳のそばでプンプン鳴る音を聞くたび腹の底が煮えくり返った。
「だめだ、ひとりじゃらちが明かない。タンズを呼ぼう!」
銀河は急いでポートフォリオからタンズを選んで『call:呼ぶ』をタップした。光とともに現れた三体に早口に言った。
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