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第2部 成り代わりなんてありえなくない!? 泣く泣く送り出した親友じゃなくて真正のご令嬢は、私のほうでした

涙の別れと初恋(2)

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 「うぅ……、ううう……」

 「エミル、泣かないで……」

 「よしよし、エミルおねぇちゃ、いいこいいこ」

 「元気出せよ、な……?」

 「そんな泣かなくたっていいだろ」



 いつの間にか、わたしの周りに子どもたちが……。

 おのおのの小さな手でわたしを慰めてくれる。



 「お前にだっていつか迎えが来るかも知んねぇじゃん」

 「そうよ、エミル。希望を捨てないで」

 「ぐすっ……、うっ……。そ、そんなわけ、ない……」

 「エミルったら、このままでいいの? ジューン、行っちゃうよ!?」

 「そぉだよぉ、エミルらしくないよぉ!」



 言われて、はっと気がついた。

 これが、ジューンとの別れ?

 姉妹のように過ごしてきた親友の幸せを、こんな恥ずかしい妬みで、台無しに?

 一番の親友に門出を祝ってもらえないなんて、そんなの、そんなの、ジューンがかわいそうすぎる!

 慌てて立ち上がり、服についた土を払った。

 うわっ、なんてこと! 昨日降った雨のせいでドロドロ……!

 

 「やだっ、どうしよう、なんてひどい格好なのっ!」

 「エミル、顔、顔!」

 「服はもうしょうがない、井戸で顔を洗って!」

 「そ、そうね!」

 「この布巾使えよ!」

 「ありがとうっ!」



 急いで顔を洗ってなんとかジューンの出発に間に合った。

 わたしの姿を見て使者のおじ様が、あからさまに顔をしかめたけど、この際仕方ないわ。



 「ジューン、取り乱して本当にごめんね……!」

 「エミル、わたしこそ、なんていったらいいか……」

 「もう気にしないで。それより、伯爵家でたくさん、いっぱい、幸せになってね、わたしの分も!」

 「ああ、エミル、あなたと離れるなんて、さみしいわ……!」

 「生まれたときからずっと一緒だった親友が行ってしまうんだもの。わたしも、さみしい……! 

 お手紙書いてくれる? やさしい文章で書いて欲しいわ。わたしでも読めるように」

 「ええ、書くわ……!」

 「きっと書いてね! 待ってるから! 元気でね!」

 「ええ、あなたも!」



 ――ぎゅっ

 ジューンとは固い握手をして別れた。

 わたしたちは全員で、ジューンが乗った馬車が消えるまで手を振ったわ。

 ああ……。

 ジューン、今、胸にぽっかりと穴が開いているみたいよ。

 さみしいわ、ジューン……!
                              
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