9 / 141
第1部 婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて今はとっても幸せです
プレモロジータ伯爵家(4)
しおりを挟む
――この声っ!?
慌てて振り向くと、やっぱり! お兄様!
お兄様……、おっ、お髭が……!?
印象が違いすぎて……、ちょっとびっくり……。
死に別れたときは十八、今は三十九ですもの、変わっていて当たり前だわ……!
でも、優しい目元や、ユーモアへの理解を滲ませる口元。昔とちっとも変わらない!
懐かしさで、また目に涙が……。
「見ない顔だけど、新しい使用人? 迷ったんならキッチンはあっちだよ。
それとも、友達のミスター壁(ウォール)とおしゃべりしていたのかな? 一見したところ彼、かなり無口そうだね」
「――くすっ……!」
お兄様ったら!
もう、すぐに笑わせるんだから。
さっきまで泣きそうだったのに、私の心には太陽のぬくもりが広がっていた。
「ラーラと申します。先日からメイド見習いとしてお世話になっております」
「そう、それで仕事の不満をミスター壁(ウォール)に聞いていてもらったというわけか。
彼って話は聞いてくれそうだけど、慰めてはくれなそうだよね? 友達がいがないんじゃないかい?」
「くすっ! おしゃべりしていたのではなく、泣きそうになっていたところをこの大きな身を挺して隠してくれていたのです。
無口ですけれど、今の私にはいい友人です」
「ははっ! そうか、私には見つかってしまったけどね!」
お兄様がカラッと笑った。
あまりにも懐かしい笑顔に、心がきゅっとなる。
「それでどうして泣いていたのかな? 仕事が辛い? 君のような小さな子に屋敷勤めはなかなか大変だろう」
「いえ……。旦那様から身に余るお言葉をいただいたので感激していたのです」
「感激?」
「はい。涙を拭こうにも手がふさがっておりましたので、若旦那様とミスター壁(ウォール)のおかげで、こうして涙も乾きました。
これでキッチンに戻れます。多分なお心遣いを頂きまして、誠にありがとう存じます」
「へえ……。母上が言ってたけど、本当に君、まるで大人みたいな喋り方をするね」
「屋敷の先輩方を見習って励んでおります」
「そうか……。偉いね、がんばって」
にこっと笑ってお兄様が去っていった。
驚いた! でも、うれしかった……!
お父様だけでなく、お兄様にもお会いできたなんて。
こんなうれしい偶然!
思っていたよりとても元気そうだった。
今日はなんていい日なの……!
ただおふたりも、昔とはずいぶんお変わりになってしまった……。
それに本当に黒をお召しに……。
私の処刑と一家の亡命は、お父様とお母様とお兄様にとってそれほどまでに人生の大きな分かれ目だったのだわ……。
ああ、私に贖えることができるのならなんだってするのに。
でも、十二歳の孤児の使用人にできることなんて……。
……いいえ、なにを弱気になっているの。
誠心誠意仕えると決めたじゃない。
でなければ、生まれ変わった意味がないわ。
今はやれることひとつひとつをやっていくだけよ。
それがお父様とお母様とお兄様のためになると信じて……!
いつの日か、お父様とお母様とお兄様が、黒を着なくても済むように……。
慌てて振り向くと、やっぱり! お兄様!
お兄様……、おっ、お髭が……!?
印象が違いすぎて……、ちょっとびっくり……。
死に別れたときは十八、今は三十九ですもの、変わっていて当たり前だわ……!
でも、優しい目元や、ユーモアへの理解を滲ませる口元。昔とちっとも変わらない!
懐かしさで、また目に涙が……。
「見ない顔だけど、新しい使用人? 迷ったんならキッチンはあっちだよ。
それとも、友達のミスター壁(ウォール)とおしゃべりしていたのかな? 一見したところ彼、かなり無口そうだね」
「――くすっ……!」
お兄様ったら!
もう、すぐに笑わせるんだから。
さっきまで泣きそうだったのに、私の心には太陽のぬくもりが広がっていた。
「ラーラと申します。先日からメイド見習いとしてお世話になっております」
「そう、それで仕事の不満をミスター壁(ウォール)に聞いていてもらったというわけか。
彼って話は聞いてくれそうだけど、慰めてはくれなそうだよね? 友達がいがないんじゃないかい?」
「くすっ! おしゃべりしていたのではなく、泣きそうになっていたところをこの大きな身を挺して隠してくれていたのです。
無口ですけれど、今の私にはいい友人です」
「ははっ! そうか、私には見つかってしまったけどね!」
お兄様がカラッと笑った。
あまりにも懐かしい笑顔に、心がきゅっとなる。
「それでどうして泣いていたのかな? 仕事が辛い? 君のような小さな子に屋敷勤めはなかなか大変だろう」
「いえ……。旦那様から身に余るお言葉をいただいたので感激していたのです」
「感激?」
「はい。涙を拭こうにも手がふさがっておりましたので、若旦那様とミスター壁(ウォール)のおかげで、こうして涙も乾きました。
これでキッチンに戻れます。多分なお心遣いを頂きまして、誠にありがとう存じます」
「へえ……。母上が言ってたけど、本当に君、まるで大人みたいな喋り方をするね」
「屋敷の先輩方を見習って励んでおります」
「そうか……。偉いね、がんばって」
にこっと笑ってお兄様が去っていった。
驚いた! でも、うれしかった……!
お父様だけでなく、お兄様にもお会いできたなんて。
こんなうれしい偶然!
思っていたよりとても元気そうだった。
今日はなんていい日なの……!
ただおふたりも、昔とはずいぶんお変わりになってしまった……。
それに本当に黒をお召しに……。
私の処刑と一家の亡命は、お父様とお母様とお兄様にとってそれほどまでに人生の大きな分かれ目だったのだわ……。
ああ、私に贖えることができるのならなんだってするのに。
でも、十二歳の孤児の使用人にできることなんて……。
……いいえ、なにを弱気になっているの。
誠心誠意仕えると決めたじゃない。
でなければ、生まれ変わった意味がないわ。
今はやれることひとつひとつをやっていくだけよ。
それがお父様とお母様とお兄様のためになると信じて……!
いつの日か、お父様とお母様とお兄様が、黒を着なくても済むように……。
49
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
お幸せに、婚約者様。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】何も知らなかった馬鹿な私でしたが、私を溺愛するお父様とお兄様が激怒し制裁してくれました!
山葵
恋愛
お茶会に出れば、噂の的になっていた。
居心地が悪い雰囲気の中、噂話が本当なのか聞いてきたコスナ伯爵夫人。
その噂話とは!?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる