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4/I'm in love
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◇◇◇
「リフレッシュをしましょう」
愛莉は俺の部屋に上がるなり、変にかしこまった言い方でそんな言葉を吐きあげた。
「……リフレッシュ?」
俺はそんな彼女の言葉をオウム返しのままに吐く。意味がわからない、と彼女に示すように。
……いや、意味については理解していたのだ。彼女が俺の無理をしているさまを見て、それを改善するためにそんなことをしていることも承知している。だけれども、そんな時間はないような気がした。
彼女が一緒に勉強をしよう、そう言葉をかけてくれたから俺の部屋に上げたのに、そんな提案をされると、俺はどうすればいいのかわからなくなってしまう。
それが彼女の優しさだ。状況を見た上で、見透かした上で、すべてを見てみぬふりをして言葉を投げかけてくれる。提案をしてくれる。そんな彼女が好きだからこそ、俺は報いたいのだ。だから、リフレッシュという提案についてを飲み込むことはできそうになかった。
「あ、断ろうとしている」
「……だって」
俺が口を紡ごうとしたところ、彼女はかき消すように言葉を挟む。
「中学3年生の熱はもう帰ってこないのですぞ? そんな時期、楽しむしかないじゃないですか」
「……いや、でも勉強──」
「──だまらっしゃい! 私は正論なんて聞きとうないのだ!」
彼女は茶化すように言葉を吐きあげた。
こうなったら愛莉の勢いは止められない。俺は長年の幼馴染という関係性から、結局リフレッシュとやらをやる運命については変えられないことを悟ってしまう。
「……いいよ、わかったよ……」
「ん、それでいいのです」
彼女は俺が諦めた様を見るとくすくすと笑う。俺もそれに笑って答えた。きっと不器用な笑顔だったけれど。
◇◇◇
「明日出掛けてくるよ」
夕食の時間になり、皐が俺を呼び出したところで俺は彼女にそう呟いた。
「そうなんだ。愛ちゃんと?」
「ん、まあそんなところ」
皐は食事を食卓に並べながら、適当に興味がなさそうに呟いた。実際皐には興味なんてなかったのかもしれない。
「どこ行くの?」
「……さあ? なんかサプライズだー、って騒いでたから何も教えてくれなかった」
「愛ちゃんらしいね……」
皐は苦笑した。俺もそれに合わせて苦笑した。
テレビの音が聞こえてくる。いつもどおりのバラエティという感じ。クイズ系の番組で、あえて誤答を繰り返しているさまを皐と眺めながら、俺は食事を摂る。
心地は悪くなかった。
◇◆
この時までは皐とは良好な関係を作れていた。家族として、兄妹として。敬語なんて存在していなかった。
きっと、それは愛莉に対しても同じだ。
彼女たちが本当の姉妹なのではないか、そんなことを思うほどに、彼女たちは仲が良かった。もしかしたら、姉妹だからって仲がいい、というのは幻想に近いかもしれないけれど、ともかくとして彼女たちは仲が良かった。俺はそれが心地が良かったのだ。
今となっては日常となってしまった皐の敬語。それはきっと一つの敵意なのである。
敵意をあからさまに示すことによって、距離感を演出する。自らに関わるなと誇示するために、敵意を演出し続ける。
それならば、きっと今の皐の言動の全ては敵意がこもっている。
どれだけ誕生会ではしゃいでいたって、どれだけ俺に対して毎日食事を作ってくれたって、俺に関わろうとしてくれたって、その裏には必ず敬語がついてまわる。
伊万里とは異なる、確かな敵意のようなもの。
そんな演出をするということは、俺にも、愛莉にも、そんな要素があるということだ。
皐は、きっと俺たちを憎んでいるに違いない。
だから、皐はいつまでも変わらない。
──次の日から、ここに至るまで、敵意はずっと彼女の中に。
「リフレッシュをしましょう」
愛莉は俺の部屋に上がるなり、変にかしこまった言い方でそんな言葉を吐きあげた。
「……リフレッシュ?」
俺はそんな彼女の言葉をオウム返しのままに吐く。意味がわからない、と彼女に示すように。
……いや、意味については理解していたのだ。彼女が俺の無理をしているさまを見て、それを改善するためにそんなことをしていることも承知している。だけれども、そんな時間はないような気がした。
彼女が一緒に勉強をしよう、そう言葉をかけてくれたから俺の部屋に上げたのに、そんな提案をされると、俺はどうすればいいのかわからなくなってしまう。
それが彼女の優しさだ。状況を見た上で、見透かした上で、すべてを見てみぬふりをして言葉を投げかけてくれる。提案をしてくれる。そんな彼女が好きだからこそ、俺は報いたいのだ。だから、リフレッシュという提案についてを飲み込むことはできそうになかった。
「あ、断ろうとしている」
「……だって」
俺が口を紡ごうとしたところ、彼女はかき消すように言葉を挟む。
「中学3年生の熱はもう帰ってこないのですぞ? そんな時期、楽しむしかないじゃないですか」
「……いや、でも勉強──」
「──だまらっしゃい! 私は正論なんて聞きとうないのだ!」
彼女は茶化すように言葉を吐きあげた。
こうなったら愛莉の勢いは止められない。俺は長年の幼馴染という関係性から、結局リフレッシュとやらをやる運命については変えられないことを悟ってしまう。
「……いいよ、わかったよ……」
「ん、それでいいのです」
彼女は俺が諦めた様を見るとくすくすと笑う。俺もそれに笑って答えた。きっと不器用な笑顔だったけれど。
◇◇◇
「明日出掛けてくるよ」
夕食の時間になり、皐が俺を呼び出したところで俺は彼女にそう呟いた。
「そうなんだ。愛ちゃんと?」
「ん、まあそんなところ」
皐は食事を食卓に並べながら、適当に興味がなさそうに呟いた。実際皐には興味なんてなかったのかもしれない。
「どこ行くの?」
「……さあ? なんかサプライズだー、って騒いでたから何も教えてくれなかった」
「愛ちゃんらしいね……」
皐は苦笑した。俺もそれに合わせて苦笑した。
テレビの音が聞こえてくる。いつもどおりのバラエティという感じ。クイズ系の番組で、あえて誤答を繰り返しているさまを皐と眺めながら、俺は食事を摂る。
心地は悪くなかった。
◇◆
この時までは皐とは良好な関係を作れていた。家族として、兄妹として。敬語なんて存在していなかった。
きっと、それは愛莉に対しても同じだ。
彼女たちが本当の姉妹なのではないか、そんなことを思うほどに、彼女たちは仲が良かった。もしかしたら、姉妹だからって仲がいい、というのは幻想に近いかもしれないけれど、ともかくとして彼女たちは仲が良かった。俺はそれが心地が良かったのだ。
今となっては日常となってしまった皐の敬語。それはきっと一つの敵意なのである。
敵意をあからさまに示すことによって、距離感を演出する。自らに関わるなと誇示するために、敵意を演出し続ける。
それならば、きっと今の皐の言動の全ては敵意がこもっている。
どれだけ誕生会ではしゃいでいたって、どれだけ俺に対して毎日食事を作ってくれたって、俺に関わろうとしてくれたって、その裏には必ず敬語がついてまわる。
伊万里とは異なる、確かな敵意のようなもの。
そんな演出をするということは、俺にも、愛莉にも、そんな要素があるということだ。
皐は、きっと俺たちを憎んでいるに違いない。
だから、皐はいつまでも変わらない。
──次の日から、ここに至るまで、敵意はずっと彼女の中に。
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