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1/Train of Thought

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「うーん、少し難しいかもな」

 屋上にて、喫煙するルトに俺は相談してみた。

「ほら、生徒会ってなんだかんだ忙しいんだよ。高校生に向けての入学説明会とか、高校生がボランティアをやっているとかを地域の人に見せなきゃいけないイベントとかさ。やることがたくさんなんだよねぇ」

「イベントって……」

 その言い方だと、善意でボランティアを行っている高校生などいない、というようにも聞こえてくる。というか、そういう意図を彼は含ませているのだろうけれど。

「別に、無理に参加しろとかは言わないですよ。どうせやることは暇つぶしくらいだし」

「それなら尚更俺が入るわけねーじゃん? 俺、生徒会長だし」

 それもそうだ、と頷きそうになった。

 彼の噂は生徒会長ならでは、というか徹底している品行方正ぶりが尾ひれをつけさせている。文武両道、眉目秀麗。男の俺から見ても整っている容姿。そんな健全に見える男が、こんなだらけるための同好会に入ってくれるわけもない。

 それは、なんとなく理解することはできる。

 だが、理解はすることはできても、そこから引き下がることが俺にはできない。





 昼食のあと、伊万里が言っていたことを頭の中で反芻する。

 会員の勧誘。そもそも独り身でしかない俺たちにはあまりにもハードルが高すぎる行為。

 もし俺たちが二年生という、少しは成長しているかもしれない段階にいれば、一年生を視野に入れて勧誘することもできたかもしれないが、そもそも俺たちが一年生だ。そんな器量も度量もあるわけがない。

 別に、同好会が潰れることに対して、なにか感慨を抱くわけでもない。

 同好会が無くなれば、相応に時間をつぶすために結局学校のどこかで時間をつぶすだろうから、同好会の存続にあまり意味はない。

 ……だが、そうなると言い訳の種というものが無くなっていく。

 今までは家族や愛莉に対して「部活(同好会だが)があるから」という言い訳をすることができたのに、同好会が潰れれば、その言い訳は通じなくなる。

 別に同好会があろうとなかろうと、嘘をつけばいいだけなのだが、それは俺の精神衛生上よくない。俺はできるだけ嘘をつかずに、面倒ごとを回避したいのだ。

 それならば、同好会の存続というのは俺たちにとって鍵になる存在だ。だからこそ、俺は人を勧誘しなければいけない。

 だから俺は、思い当たる人物に声をかけたわけだが。





 このままでは埒が明かない。もし、このまま平行線をたどれば、自ずと俺は言い訳の種を消失してしまうことになる。

 それは、避けなければいけない。俺の精神衛生上のために。一応、伊万里のためにも。

 俺は、禁断の策を使うことにした。

「いやあ、ルト先輩って格好いいと思うんですよね」

「……藪から棒だね。まあ、俺自身格好いいと思うけど」

「そうですよね。みんなから慕われてますもんね」

「……気持ち悪いな。何が言いたいんだよ」

「いやー、こんな格好いい先輩が同好会に入ってくれたらなぁ、って思ってるんですけどねぇ」

「……だから俺は入らないって──」

「──あー、入ってくれなかったら、俺は口がいろいろと滑りそうだなぁ!!」

「ちょっ──」

「ルト先輩が入ってくれなかったら、たまたま見つけた吸い殻をしげちーに渡しちゃおっかなぁ!」

「し、しげちーはマズいって──」

「はあ! こんな時に入ってくれる格好いい先輩はいないかなぁ!!」





「新入部員を紹介するぜ!」

 俺は意気揚々と物理室のドアを開けた。

 その声を聞いて振り返るのは、もちろん伊万里。言葉の意味をきちんと理解しているのか、目にはどこか希望がある。

「ど、どうも……」

 死んだ声を出すルトの姿。ちょっと面白い。

(ほ、本当にこれでいいんだろうな?)

 小声で俺に耳打ちしてくる彼に、俺は大きくうなずいた。

(大丈夫です。ぶっちゃけ名前さえ貸してもらえれば、それでいいんで)

 ──結局、ルトは俺に屈した。憎むなら自分自身の素行を呪うがいい。そして、それを見つけてしまった俺を恨むがいい。

「え、会長……?」

 俺が連れてきた人物に、意外そうな目で見つめる伊万里。

 ……まあ、そうだろう。

 彼らが屋上で出くわしているところはないし、なんなら最近の伊万里は物理室という居場所を手に入れていたから、会長の不良行動も知らないだろう。

「あ、え、えと。もともと科学に興味があってね。生徒会の仕事であまり行けないかもしれないが、名前だけでも置かせてもらえたらなって」

 ものすごく白々しい嘘を吐いているルトを見て、俺は吹き出しそうになる。まあ、この嘘を吐かせているのは俺なのだが。

「というわけだ。同好会についてはこれでなんとかなるだろう」

 そうして、俺たちは『科学同好会お疲れ様会』をやらずに済んだのである。
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