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第138話 婿……

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「お風呂、ありがとうございました」

風呂から出た灰谷は鼻歌を歌いながら台所で楽しそうに料理する節子に声を掛けた。

「いいえ~。信、お風呂から上がったら、すぐにご飯にするからね」
「……あの、なんかあったら、手伝います」
「ん?そう?じゃあ、サラダ作ってくれる」
「はい」

鳥のからあげを揚げる節子と並んで灰谷はレタスをちぎり、トマトを切った。

「灰谷くん、ありがとね」
「はい?」
「 まこと、迎えに行ってくれて」
「ああ。いえ」
「灰谷くんにもいっぱい迷惑かけたでしょ。ごめんね」
「いえ。真島の事で迷惑だなんて思った事、一度もないです。全部オレがしたくてしてる事だから」
「そっか。ありがとね灰谷くん。あ、ツナはマヨネーズ。砂糖と和辛子をちょっといれてね」
「あ、はい」

言われた通りに味付けすると「こんなもんでいいですか」と節子に味見してもらった。

「うん。OK。あ~でも誰かといっしょに料理するのっていいわね」
「良かったら今度から手伝います」
「ホントに?嬉しい。久子さんに頼んで灰谷くんうちの婿にもらっちゃおうかしら」
「いいっすね」

……あ、そうだ。

灰谷は思い出した。

「結衣ちゃんから伝言預かってきました。丁寧な心のこもったお手紙ありがとうございましたって」
「そう……うん。そんな事ぐらいしかできなかったんだけどね。あ、灰谷くん、この事、まことには内緒にね」
「わかりました」

結衣の名前が出ると、節子は少し悲しそうな顔になった。

親としても女性としても色々思うところがあるんだろうな。


「節子も辛かったね」

灰谷は節子の頭をポンポンと撫でた。

「キャーやめて灰谷くん。節子惚れちゃうわ」
「いいですよ、惚れても」
「ダメよ。私には夫と子供が。婿に惚れるなんて」


「はあ~。黙って見てれば。母ちゃん何してんだよ」

風呂上がりの真島が立っていた。

「もう~息子の友達とイチャイチャすんなよ」
「あら、だって、婿とは仲良くしないと」
「婿?」
「うちに婿入りしたいって前に言ってくれてたじゃない」
「ああ……婿ね……婿……」

真島の視線が節子と灰谷の上をしばらく彷徨っていたが、その顔がみるみる赤くなった。

「おい、なんで赤くなってるんだ」
「なってねえわ!ふざけんな」
「ヘンな子ね~」
「母ちゃんお腹空いたって」
「はいはい。さあ、からあげ揚がったわよ」
「うお~からあげからあげ」

真島は指でつまみ上げ、一つ口に放りこんだ。

「熱っ……ウマッ」
「これ、つまみ食いしない!」
「灰谷もほれ。あ~ん」

真島はからあげをつまんで灰谷の口に持って行く。
灰谷がぱくりと食いついた。

「ん~……熱っ……うんま」
「うんめえな」
「うん」

二人の様子をウルウルした目で見つめていた節子が言った。

「イヤ~なんかホントにマコにお婿さんもらったみた~い」
「だ~もう、やめろ母ちゃんは~。マコ言うなって言ったろ。オレ髪乾かしてくるわ」

真島が足早に出ていった。

「何あの子、テレちゃって」
「……っすね」

節子は天然でイイ所を突いてくるなあ。

灰谷は思った。
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