138 / 154
第138話 婿……
しおりを挟む「お風呂、ありがとうございました」
風呂から出た灰谷は鼻歌を歌いながら台所で楽しそうに料理する節子に声を掛けた。
「いいえ~。信、お風呂から上がったら、すぐにご飯にするからね」
「……あの、なんかあったら、手伝います」
「ん?そう?じゃあ、サラダ作ってくれる」
「はい」
鳥のからあげを揚げる節子と並んで灰谷はレタスをちぎり、トマトを切った。
「灰谷くん、ありがとね」
「はい?」
「 信、迎えに行ってくれて」
「ああ。いえ」
「灰谷くんにもいっぱい迷惑かけたでしょ。ごめんね」
「いえ。真島の事で迷惑だなんて思った事、一度もないです。全部オレがしたくてしてる事だから」
「そっか。ありがとね灰谷くん。あ、ツナはマヨネーズ。砂糖と和辛子をちょっといれてね」
「あ、はい」
言われた通りに味付けすると「こんなもんでいいですか」と節子に味見してもらった。
「うん。OK。あ~でも誰かといっしょに料理するのっていいわね」
「良かったら今度から手伝います」
「ホントに?嬉しい。久子さんに頼んで灰谷くんうちの婿にもらっちゃおうかしら」
「いいっすね」
……あ、そうだ。
灰谷は思い出した。
「結衣ちゃんから伝言預かってきました。丁寧な心のこもったお手紙ありがとうございましたって」
「そう……うん。そんな事ぐらいしかできなかったんだけどね。あ、灰谷くん、この事、信には内緒にね」
「わかりました」
結衣の名前が出ると、節子は少し悲しそうな顔になった。
親としても女性としても色々思うところがあるんだろうな。
「節子も辛かったね」
灰谷は節子の頭をポンポンと撫でた。
「キャーやめて灰谷くん。節子惚れちゃうわ」
「いいですよ、惚れても」
「ダメよ。私には夫と子供が。婿に惚れるなんて」
「はあ~。黙って見てれば。母ちゃん何してんだよ」
風呂上がりの真島が立っていた。
「もう~息子の友達とイチャイチャすんなよ」
「あら、だって、婿とは仲良くしないと」
「婿?」
「うちに婿入りしたいって前に言ってくれてたじゃない」
「ああ……婿ね……婿……」
真島の視線が節子と灰谷の上をしばらく彷徨っていたが、その顔がみるみる赤くなった。
「おい、なんで赤くなってるんだ」
「なってねえわ!ふざけんな」
「ヘンな子ね~」
「母ちゃんお腹空いたって」
「はいはい。さあ、からあげ揚がったわよ」
「うお~からあげからあげ」
真島は指でつまみ上げ、一つ口に放りこんだ。
「熱っ……ウマッ」
「これ、つまみ食いしない!」
「灰谷もほれ。あ~ん」
真島はからあげをつまんで灰谷の口に持って行く。
灰谷がぱくりと食いついた。
「ん~……熱っ……うんま」
「うんめえな」
「うん」
二人の様子をウルウルした目で見つめていた節子が言った。
「イヤ~なんかホントにマコにお婿さんもらったみた~い」
「だ~もう、やめろ母ちゃんは~。マコ言うなって言ったろ。オレ髪乾かしてくるわ」
真島が足早に出ていった。
「何あの子、テレちゃって」
「……っすね」
節子は天然でイイ所を突いてくるなあ。
灰谷は思った。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる