28 / 154
第28話 一番大事なもの
しおりを挟む
「あのさ、真島くん。自分の本当に一番大事なものがわかる方法って知ってる?」
城島さんが静かに話しだした。
本当に一番大事なものがわかる方法?そんなのあるの?
「知らないっす」
「知りたい?」
「はい」
城島さんはビールをグビッと飲んでからこう言った。
「片っ端から捨ててみることだよ。モノでも人でも。特にいま大事だと思ってるものを思い切って全部捨てるとさ、わかるんだよ。これが大事だったんだってね。失ってはじめてその本当の価値に気がつくんだ」
スゴイことを言う。
「でも、価値に気がついたときには自分が捨てちゃった後なんでしょう」
「うん。でも自分が本当に求めているものが何かを知ることはできる」
オレは空っぽの部屋を見まわした。
このガラ~ンとした部屋は、もしかしてそのなごり、なのかな。
「そうしたんですか」
「うん。全部捨てた。家族捨てて友達捨てて。まあ具体的に言えば、仕事辞めて携帯電話を解約して、新しい仕事探して引っ越しただけだけどね」
「なんでそんなこと」
「知りたかったから」
城島さんはキッパリと言った。
「それで、一番大事なもの、わかりました?」
「うん」
本当に?
それが何かってのは簡単に聞いちゃいけない気がした。
「それって捨てる前に思ってた一番と同じでした?」
「う~ん、同じと言えば同じだけど、少しだけ違った。で、その少しの違いがオレにとっては重要だったんだって気がついたよ」
「違い」
城島さんはここではないどこかを見つめているように見えた。
ずいぶん長いこと経ってから、城島さんは言った。
「自分と向き合って相手と向き合って、その先へオレは行きたいと思った。その先に道はなくても」
相手?相手ってこの間、話に出た結婚しちゃった親友のことかな。
先に道がない?
オレはゾクリとした。
「なんか……」
「ん?」
「なんか……怖い」
城島さんは小さくうなずいた。
「うん。怖かったよ。ものすごく怖かった。清水の舞台から飛び降りるっていうのあるだろ。べつにバンジージャンプでも、スカイダイビングでもいいんだけどさ。本当にああいう感じだった。オレ、元々かなり臆病だからね」
「どうしてそんなこと……」
「わからない。もう限界だったのかもね。新しい世界を見たかったんだなきっと」
新しい世界……。
「で、見えたんですか」
オレは恐る恐る聞いてみた。
「見えた。ただね、結論から言えば……」
城島さんはオレの顔を見た。
「新しい世界なんてなかったよ。新しい現実に出会っただけ。っていうか、新しい地獄か。ハハッ」
城島さんは自嘲気味に笑った。
「地獄って一つじゃないんだよね。いろんな種類があるんだ。元の地獄を懐かしがるって変だよな。同じ地獄に変わりはないのに」
「なんか怖い。怖すぎる」
「オレだって怖い。実際夢に見る」
城島さんは遠い目をした。
カラダにその夢を呼び起こすように。
そして語った。
「夢の中でオレの死は決まってる。
死刑台への階段を一歩一歩上る。
現実だという実感と、どっかでウソだろと思っている自分がいる。
目隠しされて手を後ろ手に縛られて首に縄をかけられる。
で、そのまま。そのままの状態が続く。
足元の扉が開いて下に落ちるわけでもなし、首からロープをはずされるでもなし。
いつまで経ってもそのまま。
心臓がバクバクして、喉がカラカラに乾いて、耳元を風がヒューヒュー吹き抜ける。
これはね、怖いよ」
城島さんのたんたんとした静かな語り口がさらに恐怖をアオった。
「城島さん、なんでそんな怖い話をオレにするんだよ」
城島さんはオレの目を見て言った。
「だからさ、戻れるなら戻りなさいってことだよ。青春の感傷なんかに浸ってないでさ。ガキの時って世界はもうせま~い、半径何キロだけどさ、大人になって見てみれば世界は広いんだ。だから、オレみたいにはなるなって事だよ」
城島さんの言うことはわかるような気がした。でも、気がするだけだ。
「……でも、狭くたってそれがオレの今の世界だよ。そっからは抜けられない」
「うん。わかってる。よくわかるよ。オレがここで君に何言っても、君には多分本当にはわからない。オレもそうだったから。時を経て振り返って、初めてわかることってあるんだよね。でも、そこを通り抜けてきた者として君に言っておきたい」
「城島さんは?そこを通り抜けたのにまだ胸が痛むんでしょ?だから、飛び降りたんでしょ?」
城島さんは悲しそうな顔をした。
こんなに悲しそうな人間の顔をオレは初めて見たかもしれない。
「……これはだからさ、痛みと恐怖が結びついて快感に、生きてる実感をもたらしてくれるってやつだね、きっと」
痛みに恐怖? 生きてる実感?
「マックスって何かなあって考え続けてるんだ。その渦中で死ぬことかなって」
「……」
「愛する人がロープの先を握っててくれたら、それとも下に落ちる扉を開いてくれたら、いいのかな」
なんだが心がザワザワする。
「吐きそうっす」
「そう?ロマンチックじゃない?」
実際、オレは吐いた。
酒のせいなのか、城島さんの話のせいなのか。
そして、城島さんの話はまるで呪いのようにオレの頭にこびりついてしまった。
城島さんが静かに話しだした。
本当に一番大事なものがわかる方法?そんなのあるの?
「知らないっす」
「知りたい?」
「はい」
城島さんはビールをグビッと飲んでからこう言った。
「片っ端から捨ててみることだよ。モノでも人でも。特にいま大事だと思ってるものを思い切って全部捨てるとさ、わかるんだよ。これが大事だったんだってね。失ってはじめてその本当の価値に気がつくんだ」
スゴイことを言う。
「でも、価値に気がついたときには自分が捨てちゃった後なんでしょう」
「うん。でも自分が本当に求めているものが何かを知ることはできる」
オレは空っぽの部屋を見まわした。
このガラ~ンとした部屋は、もしかしてそのなごり、なのかな。
「そうしたんですか」
「うん。全部捨てた。家族捨てて友達捨てて。まあ具体的に言えば、仕事辞めて携帯電話を解約して、新しい仕事探して引っ越しただけだけどね」
「なんでそんなこと」
「知りたかったから」
城島さんはキッパリと言った。
「それで、一番大事なもの、わかりました?」
「うん」
本当に?
それが何かってのは簡単に聞いちゃいけない気がした。
「それって捨てる前に思ってた一番と同じでした?」
「う~ん、同じと言えば同じだけど、少しだけ違った。で、その少しの違いがオレにとっては重要だったんだって気がついたよ」
「違い」
城島さんはここではないどこかを見つめているように見えた。
ずいぶん長いこと経ってから、城島さんは言った。
「自分と向き合って相手と向き合って、その先へオレは行きたいと思った。その先に道はなくても」
相手?相手ってこの間、話に出た結婚しちゃった親友のことかな。
先に道がない?
オレはゾクリとした。
「なんか……」
「ん?」
「なんか……怖い」
城島さんは小さくうなずいた。
「うん。怖かったよ。ものすごく怖かった。清水の舞台から飛び降りるっていうのあるだろ。べつにバンジージャンプでも、スカイダイビングでもいいんだけどさ。本当にああいう感じだった。オレ、元々かなり臆病だからね」
「どうしてそんなこと……」
「わからない。もう限界だったのかもね。新しい世界を見たかったんだなきっと」
新しい世界……。
「で、見えたんですか」
オレは恐る恐る聞いてみた。
「見えた。ただね、結論から言えば……」
城島さんはオレの顔を見た。
「新しい世界なんてなかったよ。新しい現実に出会っただけ。っていうか、新しい地獄か。ハハッ」
城島さんは自嘲気味に笑った。
「地獄って一つじゃないんだよね。いろんな種類があるんだ。元の地獄を懐かしがるって変だよな。同じ地獄に変わりはないのに」
「なんか怖い。怖すぎる」
「オレだって怖い。実際夢に見る」
城島さんは遠い目をした。
カラダにその夢を呼び起こすように。
そして語った。
「夢の中でオレの死は決まってる。
死刑台への階段を一歩一歩上る。
現実だという実感と、どっかでウソだろと思っている自分がいる。
目隠しされて手を後ろ手に縛られて首に縄をかけられる。
で、そのまま。そのままの状態が続く。
足元の扉が開いて下に落ちるわけでもなし、首からロープをはずされるでもなし。
いつまで経ってもそのまま。
心臓がバクバクして、喉がカラカラに乾いて、耳元を風がヒューヒュー吹き抜ける。
これはね、怖いよ」
城島さんのたんたんとした静かな語り口がさらに恐怖をアオった。
「城島さん、なんでそんな怖い話をオレにするんだよ」
城島さんはオレの目を見て言った。
「だからさ、戻れるなら戻りなさいってことだよ。青春の感傷なんかに浸ってないでさ。ガキの時って世界はもうせま~い、半径何キロだけどさ、大人になって見てみれば世界は広いんだ。だから、オレみたいにはなるなって事だよ」
城島さんの言うことはわかるような気がした。でも、気がするだけだ。
「……でも、狭くたってそれがオレの今の世界だよ。そっからは抜けられない」
「うん。わかってる。よくわかるよ。オレがここで君に何言っても、君には多分本当にはわからない。オレもそうだったから。時を経て振り返って、初めてわかることってあるんだよね。でも、そこを通り抜けてきた者として君に言っておきたい」
「城島さんは?そこを通り抜けたのにまだ胸が痛むんでしょ?だから、飛び降りたんでしょ?」
城島さんは悲しそうな顔をした。
こんなに悲しそうな人間の顔をオレは初めて見たかもしれない。
「……これはだからさ、痛みと恐怖が結びついて快感に、生きてる実感をもたらしてくれるってやつだね、きっと」
痛みに恐怖? 生きてる実感?
「マックスって何かなあって考え続けてるんだ。その渦中で死ぬことかなって」
「……」
「愛する人がロープの先を握っててくれたら、それとも下に落ちる扉を開いてくれたら、いいのかな」
なんだが心がザワザワする。
「吐きそうっす」
「そう?ロマンチックじゃない?」
実際、オレは吐いた。
酒のせいなのか、城島さんの話のせいなのか。
そして、城島さんの話はまるで呪いのようにオレの頭にこびりついてしまった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
壊れた番の直し方
おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。
顔に火傷をしたΩの男の指示のままに……
やがて、灯は真実を知る。
火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。
番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。
ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。
しかし、2年前とは色々なことが違っている。
そのため、灯と険悪な雰囲気になることも…
それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。
発情期のときには、お互いに慰め合う。
灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。
日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命…
2人は安住の地を探す。
☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。
注意点
①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします
②レイプ、近親相姦の描写があります
③リバ描写があります
④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。
表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
彼の人達と狂詩曲
つちやながる
BL
転生を繰り返してる元日本人とペットを溺愛するおっさんの話。ほのぼのネタに最後はじんわりするらしい…BLよりローファンタジー寄り仕様。癒され愛されキャラ目標。本編10話完。のつもりが以後追加章。そして番外編のあと、その後の第二章38話追加。魔物転生エロ無し残念BL完結話。甘々が好きな自己満足作品。ムーン様掲載番外編追加。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる