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26 隔靴搔痒
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「天佑さま。玫瑰宮を極秘に調査しましたが、囚われている者はおりませんでした。地下通路の捜索もほぼ終わりましたが、潘充儀の姿はありません……」
「……残す可能性は、麗容の都に逃げ伸びたか、徳妃の関係先か」
「さすがに礼部尚書も人攫いの真似事は……」
雪玲の捜索についての密談が執務室で行われている間、雪玲は凛凛として居心地の良い籠の中からその様子を見守っていた。
(みんなに悪いけど、まだ霊力が足りないみたいなんだ。ごめんね。巫水も心配しているだろうな……)
人間の姿になって探さなくて大丈夫だと伝えたいのに、もどかしい。それに、五虹の闇を携えたような目が気になる。
(五虹は隠密だったんだ! かっこいいなぁ……ねえ、五虹、自分を責めないでね? あの頭のおかしい暗殺者と依頼した人が悪いんだから……。隠密の長の一角は厳しくもいい人そうだから、うまく慰めてくれるといいんだけど)
執務室に入れ替わり立ち替わり出入りしていた者たちが一段落すると、天佑は部屋へ戻って着替えを始めた。
(あれ? 外出着に着替えたの? これからお出かけするの?)
薄縹色の落ち着いた衣を羽織った天佑が凛凛を懐に入れる。
「天佑さま、私の懐に入れましょうか?」
「いや、構わない。凛凛、これから麗容の街へ行くから大人しくしているんだぞ?」
(わあ、連れて行ってくれるの? うん! 大人しくしてる)
◇ ◇ ◇
(ユウはいい匂いで落ち着く……)
「人探しをしているのだが。琥珀色の髪に栗色の瞳をした年頃の娘を見たことはないか? おそらく怪我をしている」
「そんな変わった髪色の娘は見たことがないねぇ」
「腹を刺された娘の治療をしたことはないか?」
「面倒事はごめんだよ! え? 金子をくれるのかい? ……もらっておくけど、そんな娘は見たことはないね」
「あらぁ、いい男。こちらの勇猛なお兄さんも素敵だわ。……え? 女を探している? う~ん、まあ、一応気にしておくわ」
天佑と影狼は時間を見つけては麗容の都へ行き、雪玲を探しているようだ。天佑の懐の中から二人の必死な様子を見上げ、心地が悪い。
「キュゥ……(ここにいるのにごめんね……)」
「ん? 凛凛、腹が減ったか? あと一軒確認したら今日はもう戻るからな」
しらみつぶしに全ての店へ声をかけている様子。雪玲は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「凛凛、北極殿に着いたが先に龍安堂に寄る。おまえを紹介しようと思うんだ」
(? 誰に紹介してくれるの?)
「天佑さま」
「変わりないか?」
(ん? この人たちは医官?)
「お変わりございません」
「……そうか」
部屋の中には影狼もついてこない。
上質な物ばかりだけど物が少なく、落ち着いた部屋。寝牀に横たわる男の傍らに座ると、天佑が話しかける。
「兄上。凛凛を紹介しますね。凛凛、俺の兄上で龍天誠。この国の皇帝だよ」
(へ? そういえば巫水が皇帝の名前は天誠だって言ってた。天佑は皇帝の弟ってこと? つまり……この人が未知の毒に侵されていて、事情があってユウが銀の仮面を被って代役をしているのね)
ユウ……天佑によく似た顔立ちの天誠。顔色もいいし元気そうなのに目覚めない。本当に毒なのだろうか。奇病や呪術の線もあり得る。
(もうちょっと近くで見たら何かわからないかな?)
凛凛は天佑の懐を出てしがみつきながらじりじりと降り、寝牀へ飛び乗ろうとした。が、届かない。
(あ、あれ? 届くと思ったんだけど……)
「……凛凛、おまえはつくづく野生でどう生きていたんだ?」
天佑が持ち上げて凛凛を寝牀に乗せる。
(ユウ、ありがとう)
スンスン スンスン
皇帝の顔の横でじっと見ても匂いを嗅いでもよくわからない。
(毒、なのかなぁ?)
振り返って天佑を見ると寂しそうな悲しそうな顔をしていた。
雪玲は胸がズキンと痛む。
(うっ、痛……くない。あれ? でも、胸がなんだかぎゅぅって……。まあ、いいや。それより、ユウには迷惑かけちゃったし、解毒だけでもなんとかしてあげたいな)
古書には何か、手がかりが書かれているだろうか。
(とにかく、今できることをしてみよう)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※隔靴搔痒・・・靴の上から搔くような、もどかしいこと。物事がうまくいかず歯がゆい意味。
「……残す可能性は、麗容の都に逃げ伸びたか、徳妃の関係先か」
「さすがに礼部尚書も人攫いの真似事は……」
雪玲の捜索についての密談が執務室で行われている間、雪玲は凛凛として居心地の良い籠の中からその様子を見守っていた。
(みんなに悪いけど、まだ霊力が足りないみたいなんだ。ごめんね。巫水も心配しているだろうな……)
人間の姿になって探さなくて大丈夫だと伝えたいのに、もどかしい。それに、五虹の闇を携えたような目が気になる。
(五虹は隠密だったんだ! かっこいいなぁ……ねえ、五虹、自分を責めないでね? あの頭のおかしい暗殺者と依頼した人が悪いんだから……。隠密の長の一角は厳しくもいい人そうだから、うまく慰めてくれるといいんだけど)
執務室に入れ替わり立ち替わり出入りしていた者たちが一段落すると、天佑は部屋へ戻って着替えを始めた。
(あれ? 外出着に着替えたの? これからお出かけするの?)
薄縹色の落ち着いた衣を羽織った天佑が凛凛を懐に入れる。
「天佑さま、私の懐に入れましょうか?」
「いや、構わない。凛凛、これから麗容の街へ行くから大人しくしているんだぞ?」
(わあ、連れて行ってくれるの? うん! 大人しくしてる)
◇ ◇ ◇
(ユウはいい匂いで落ち着く……)
「人探しをしているのだが。琥珀色の髪に栗色の瞳をした年頃の娘を見たことはないか? おそらく怪我をしている」
「そんな変わった髪色の娘は見たことがないねぇ」
「腹を刺された娘の治療をしたことはないか?」
「面倒事はごめんだよ! え? 金子をくれるのかい? ……もらっておくけど、そんな娘は見たことはないね」
「あらぁ、いい男。こちらの勇猛なお兄さんも素敵だわ。……え? 女を探している? う~ん、まあ、一応気にしておくわ」
天佑と影狼は時間を見つけては麗容の都へ行き、雪玲を探しているようだ。天佑の懐の中から二人の必死な様子を見上げ、心地が悪い。
「キュゥ……(ここにいるのにごめんね……)」
「ん? 凛凛、腹が減ったか? あと一軒確認したら今日はもう戻るからな」
しらみつぶしに全ての店へ声をかけている様子。雪玲は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「凛凛、北極殿に着いたが先に龍安堂に寄る。おまえを紹介しようと思うんだ」
(? 誰に紹介してくれるの?)
「天佑さま」
「変わりないか?」
(ん? この人たちは医官?)
「お変わりございません」
「……そうか」
部屋の中には影狼もついてこない。
上質な物ばかりだけど物が少なく、落ち着いた部屋。寝牀に横たわる男の傍らに座ると、天佑が話しかける。
「兄上。凛凛を紹介しますね。凛凛、俺の兄上で龍天誠。この国の皇帝だよ」
(へ? そういえば巫水が皇帝の名前は天誠だって言ってた。天佑は皇帝の弟ってこと? つまり……この人が未知の毒に侵されていて、事情があってユウが銀の仮面を被って代役をしているのね)
ユウ……天佑によく似た顔立ちの天誠。顔色もいいし元気そうなのに目覚めない。本当に毒なのだろうか。奇病や呪術の線もあり得る。
(もうちょっと近くで見たら何かわからないかな?)
凛凛は天佑の懐を出てしがみつきながらじりじりと降り、寝牀へ飛び乗ろうとした。が、届かない。
(あ、あれ? 届くと思ったんだけど……)
「……凛凛、おまえはつくづく野生でどう生きていたんだ?」
天佑が持ち上げて凛凛を寝牀に乗せる。
(ユウ、ありがとう)
スンスン スンスン
皇帝の顔の横でじっと見ても匂いを嗅いでもよくわからない。
(毒、なのかなぁ?)
振り返って天佑を見ると寂しそうな悲しそうな顔をしていた。
雪玲は胸がズキンと痛む。
(うっ、痛……くない。あれ? でも、胸がなんだかぎゅぅって……。まあ、いいや。それより、ユウには迷惑かけちゃったし、解毒だけでもなんとかしてあげたいな)
古書には何か、手がかりが書かれているだろうか。
(とにかく、今できることをしてみよう)
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※隔靴搔痒・・・靴の上から搔くような、もどかしいこと。物事がうまくいかず歯がゆい意味。
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