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18 同心協力
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静まり返る執務の間。その場にいる全員が息を詰めていた。
天佑は雪玲と再会できた喜びが半分、妃なのに後宮を抜け出した無鉄砲さへの腹立ちが半分を締めていた。見つかれば殺されていたかもしれないのだ。
挨拶をしたきり皇帝から何も言われない雪玲は、床の継ぎ目を見つめながら困惑していた。勝手に動くと目を繰り抜かれ手やら何やらを切られるというのだから、うかつに話すことさえできない。
雪玲をじっと見ながら固まっている天佑を見かね、太監が咳ばらいをした。
はっとして意識を戻した天佑が雪玲に問いかける。
「ごほん。潘才人。見事な返信であった。聞きたいことがあって呼んだのだ。そなた、古語を読めるのか?」
雪玲は床の継ぎ目から目を離し、ちらっと太監を見る。頷いたのを確認して答えた。
「お答えします、陛下。私は古語を読めます」
「……そうか、実は折り入って頼みがある。こちらに古書があるのだが、どうやら知りたいことが載っているようで解読して欲しいのだ。単語を拾い上げて作業していたのだが理解できない単語が多い。文脈が掴めずなかなか進んでおらぬのだ」
雪玲は未だに床を見つめたまま。ちらっと横目で太監を見る。頷いたのを確認して答えた。
「お答えします、陛下。はい、私でよろしければ」
「……なぜお前はいちいち太監を見るのだ。こちらを見て直接話せ。太監の許可はいらぬ」
(これって引っかけ問題? 本当に見てもいいのかな?)
「……」
困って太監を見ると頷いている。言うとおりにして良いようだ。
雪玲がゆっくり目線を上げると、艶やかな黒髪に暗碧の衣を纏った皇帝が不機嫌そうな空気を醸し出していた。ひときわ目立つ銀の仮面に釘付けになる。
(文人というより武人って感じの皇帝なのね。戦になれば自ら先頭に立っていそう。側近も武将みたいに大きいな……あれ? なんだかきっちりしているけど、もしかして影狼?)
ぱちっと目があった雪玲と影狼。雪玲が口を開きかけた瞬間、影狼が鬼の形相で睨んできた。
(あ、仕事中だから話しかけるなってことか。ごめん、ごめん)
雪玲と影狼が目線でやりとりをしているのが気に入らない天佑が割り込む。
「んんっ! さっそくだが、この古書と訳しかけのこちらの紙を見てほしい。……近くに来い」
「はい、陛下」
手招きされるがまま、しずしずと机の前まで進み、机を挟んで向かいに座る。机の上には大量の古書が山積みにされ、その横に数枚の紙が重ねてあった。
銀の仮面をつけた皇帝が顎で古書を指し示す。読んでみろということのようだ。
雪玲は一番上にあった古書を手に取り、ぱらぱらと頁をめくってみた。
(どれどれ……これは調理法が書いてあるわね。こっちは……健康法について。これは大陸を旅した時の思い出話か……)
訳しかけという紙を手に取ると、植物や動物の名が脈絡なく書かれている。
「あの、陛下。質問してもよろしいでしょうか」
「ああ」
雪玲は皇帝が言っていた『知りたいことが載っているようだ』という言葉が気になっていた。
「どのようなことをお知りになりたいのでしょうか? 旅行記から日常生活に役立つ知識までこちらのある古書には様々な記述がございます」
「そうなのか? てっきりここにある古書は全て医術に関連があるものかと。ならば……ふむ、まずは口外しないと誓えるか?」
「はい、陛下」
まっすぐ目を合わせてくる雪玲に、天佑は意志の強さを感じ取る。
「では、信じよう。……潘才人には毒と解毒に関する記述を探してほしいのだ」
「毒と解毒、ですか……」
(古書の記述を探しているということは、一般的に知られていない珍しい毒を探したいのかな? 誰かを脅したり悪いことに使うのなら、古語の解読をしたくないんだけど……)
雪玲の目が泳いでいることも天佑は見逃さない。
「ふっ、潘才人。古代の毒の知識を悪用しようと思っているわけではないから安心しなさい。……実は、未知の毒に侵された者がいる」
「へ、陛下!」
太傅が驚いて声を上げるが、天佑は片手で制した。
「太傅、構わない。潘才人には状況を知った上で協力してもらった方がいいだろう。そういう事情があって、潘才人には古書を読み解いて欲しいのだ」
(誰かを助けたいってことなのか。それなら)
「はい、陛下。喜んで協力いたします」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※同心協力・・・心を一つにして協力し合うこと。
天佑は雪玲と再会できた喜びが半分、妃なのに後宮を抜け出した無鉄砲さへの腹立ちが半分を締めていた。見つかれば殺されていたかもしれないのだ。
挨拶をしたきり皇帝から何も言われない雪玲は、床の継ぎ目を見つめながら困惑していた。勝手に動くと目を繰り抜かれ手やら何やらを切られるというのだから、うかつに話すことさえできない。
雪玲をじっと見ながら固まっている天佑を見かね、太監が咳ばらいをした。
はっとして意識を戻した天佑が雪玲に問いかける。
「ごほん。潘才人。見事な返信であった。聞きたいことがあって呼んだのだ。そなた、古語を読めるのか?」
雪玲は床の継ぎ目から目を離し、ちらっと太監を見る。頷いたのを確認して答えた。
「お答えします、陛下。私は古語を読めます」
「……そうか、実は折り入って頼みがある。こちらに古書があるのだが、どうやら知りたいことが載っているようで解読して欲しいのだ。単語を拾い上げて作業していたのだが理解できない単語が多い。文脈が掴めずなかなか進んでおらぬのだ」
雪玲は未だに床を見つめたまま。ちらっと横目で太監を見る。頷いたのを確認して答えた。
「お答えします、陛下。はい、私でよろしければ」
「……なぜお前はいちいち太監を見るのだ。こちらを見て直接話せ。太監の許可はいらぬ」
(これって引っかけ問題? 本当に見てもいいのかな?)
「……」
困って太監を見ると頷いている。言うとおりにして良いようだ。
雪玲がゆっくり目線を上げると、艶やかな黒髪に暗碧の衣を纏った皇帝が不機嫌そうな空気を醸し出していた。ひときわ目立つ銀の仮面に釘付けになる。
(文人というより武人って感じの皇帝なのね。戦になれば自ら先頭に立っていそう。側近も武将みたいに大きいな……あれ? なんだかきっちりしているけど、もしかして影狼?)
ぱちっと目があった雪玲と影狼。雪玲が口を開きかけた瞬間、影狼が鬼の形相で睨んできた。
(あ、仕事中だから話しかけるなってことか。ごめん、ごめん)
雪玲と影狼が目線でやりとりをしているのが気に入らない天佑が割り込む。
「んんっ! さっそくだが、この古書と訳しかけのこちらの紙を見てほしい。……近くに来い」
「はい、陛下」
手招きされるがまま、しずしずと机の前まで進み、机を挟んで向かいに座る。机の上には大量の古書が山積みにされ、その横に数枚の紙が重ねてあった。
銀の仮面をつけた皇帝が顎で古書を指し示す。読んでみろということのようだ。
雪玲は一番上にあった古書を手に取り、ぱらぱらと頁をめくってみた。
(どれどれ……これは調理法が書いてあるわね。こっちは……健康法について。これは大陸を旅した時の思い出話か……)
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「あの、陛下。質問してもよろしいでしょうか」
「ああ」
雪玲は皇帝が言っていた『知りたいことが載っているようだ』という言葉が気になっていた。
「どのようなことをお知りになりたいのでしょうか? 旅行記から日常生活に役立つ知識までこちらのある古書には様々な記述がございます」
「そうなのか? てっきりここにある古書は全て医術に関連があるものかと。ならば……ふむ、まずは口外しないと誓えるか?」
「はい、陛下」
まっすぐ目を合わせてくる雪玲に、天佑は意志の強さを感じ取る。
「では、信じよう。……潘才人には毒と解毒に関する記述を探してほしいのだ」
「毒と解毒、ですか……」
(古書の記述を探しているということは、一般的に知られていない珍しい毒を探したいのかな? 誰かを脅したり悪いことに使うのなら、古語の解読をしたくないんだけど……)
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「へ、陛下!」
太傅が驚いて声を上げるが、天佑は片手で制した。
「太傅、構わない。潘才人には状況を知った上で協力してもらった方がいいだろう。そういう事情があって、潘才人には古書を読み解いて欲しいのだ」
(誰かを助けたいってことなのか。それなら)
「はい、陛下。喜んで協力いたします」
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※同心協力・・・心を一つにして協力し合うこと。
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