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6章 迷子

効果切れ

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 一悶着あったが、普段の姿に戻った俺達は、ジャンプポイントに向けて移動を再開した。
 安心と安定の普段通りの服に装備なのに、俺の中で残念に思う気持ちが湧き上がってきている。

「なぁ、パール。 俺の感情? 戻って来ている気がするんだが……」

「不能は治らんと言ったであろう 後からじわじわと抑制されて来たモノがリーラ様の使徒となった事で、こちらの世界へ落とされたときの状態にリセットされただけだの」

「おのれ邪神め。 いつか消滅させてくれる!」

 残酷な現実を突き付けられ「邪神許すまじ」の気持ちが高まる。
 嫌がらせ魔道具に「不意に踏んだレ○ブロック」機能と「振り返りざまにぶつけた肘に電気が走ったかのような衝撃」発生装置もつけてやる!
 邪神が人と同じ神経をしているかは知らないけどな!

「まあ、邪神に傾倒せぬのは良い事だの。 感情を戻してやる等と甘言を吐かれても騙されるでないぞ?」

「戻るならチョットは考えてしまうかもしれん」

「戻るわけがが無かろう。 その必要があるから感情を奪われておるのだぞ。 本当に戻すとするなら始末される前提でしかなかろうが! 少しは首の上に乗っかった出来の悪い装飾品を使わぬか!」

 なんか酷い事をしれっと言われたが、使い魔の繋がりで、本気で心配してくれている事がわかったので、ちょっと口元が緩んでしまう。

「何を罵られてニヤニヤしておるのかの? ほれ、先を急ぐぞ」

 ツンデレなパールにニヤニヤしながら、スタスタと歩いて行くパール追いかける。
 かなりハイペースで進んでいるが、ジャンプポイントまであと少しというところで日が沈んでしまった。
 別にこのメンバーなら強行して進んでも構わないだろうと思ったのだが、ここで問題が起きた。

「いやあああああ、あんな格好で人前にいいいいいい!」

 アリーセが突然両手で顔を抑えてゴロゴロと転がりだした。

「あ、コンディションポーションが切れたのか。 朝まで持つかと思ったのに……」

 アリーセは、何がどう恥ずかしかったのかを自己報告しながらゴロゴロ転がったりジタバタしたりと、ひとしきり暴れたあと、急に大人しくなり、うずくまって物陰でしくしくと泣き始めた。

「えーと、あー、なんかスマン……」

「しくしく……もうお嫁に行けない……」

 えーと、ここは、俺が貰ってやるとか言うところだったりするか?

「何を気にしておる? ここはおヌシのいた世界と異なるし変装であったのだから、誰もおヌシだとはわからぬであろう。 それに申し訳程度に隠しておった乳だの何だのは、そこにいる不能者にしか見られておらん。 この不能者であれば路肩の木石とさして変わらぬであろう?」

 パールがさり気なく俺をディスりながら、全く慰めにならないことをアリーセに言うと、アリーセがガバっと起き上がり、俺の両肩をガッシリ掴んだ。

「忘れて? ね、綺麗さっぱり忘れて? アレは何かの間違いだから」

 顔は真っ赤だし涙目状態であるのだが、その目は怖い……。
 本能的な恐怖を感じるのは、俺があの変装を提案したせいだろうか?
 あ、な、なにか言わないと……。

「けっ、敬語とか辞めて今まで同様に普通に接してくれるなら……」

「わかったわ! だからイオリもこの事は忘れてね!?」

 コンディションポーションが切れた反動であまり冷静でないのはわかるが、良いのかそれで?
 まあ、本人が納得しているなら、一瞬記憶が無くなるまでボコボコにされる未来を幻視したから、穏便に済んで良かったということにしておく。

「裸見られたとか、そういうの気にしてたら、冒険者なんてやってられない! とか言うかと思ってたな」

「危険がある場所で肌の露出をするわけ無いでしょ!」

「と、トイレとか……」

「一番無防備になるんだから、細心の注意を払って隠れてするわ。 今無防備な状態ですよーって晒してどうするのよ!」

「な、なるほど……」

 となると、パーティ内で恋仲とかになったらどうするのだろう?
 いろいろと大人な事とかあるよな?
 良からぬ事を考える奴だって居ないとは限らないし。

「他の職業だって仕事中にそんな事する人居ないでしょ! 冒険者だって同じよ! 刃物を持ったモンスターがウロウロしてるのに、もしそんな迂闊な冒険者が居たら早々に死んじゃうだけよ」

「な、なるほど……」

 普段簡単に倒せるモンスターだからといって、無防備な状態でも大丈夫なんて事は無いと言うことか。

「他に質問は!? 無いわね!? さあ、さっさと行くわよ!」

 踵を返して結構な早足で行って行ってしまった。
 夜間に移動するのは構わないのだろうか?
 まあ、当初の予定通り、アリーセに敬語使われなくなったのは良かったけど、何もされなかったので、ちょっと物足りな……、いやいや、殴られたいわけじゃないから、コレで良かったな! うん。

「もきゅ……(お疲れ、ご主人……)」

 マルがぽんっと背中を叩くような仕草で膝裏あたりをテシっと叩いてきた。

「ああ、ありがとな……」

 マルは、もきゅっと鳴いたあと、足早に先導するアリーセの所に走って言って、もきゅもきゅとなにやら話しかけている。
 どうやら、マルなりにアリーセをなだめているようだ。
 ほら見てー服着てないでしょー、とか言ってるっぽいけど、そ~言うことでは……。
 あ、アリーセもなんだか説明に困ってるな。
 まあ、気は紛れてるみたいだから、アレはアレで良さそうだ。

「で、あとどのくらいだ?」

「このペースならば、深夜になる前には到着するであろうの」

「こっちとあっちで時間は同じなのか?」

「少し早いはずだの。 もし今渡ったとすれば、向こうは深夜、深夜に渡れば夜明け前といったところだの」

「向こうに着いたら街は近いのか?」

「休まずにこのまま進むなら昼頃には到着するであろうの。 あのエルフの国からは少々遠い場所であるがの」

 それなら、夜通し歩いても良いか。
 しばらく早足なアリーセ歩調に合わせて進み、小さな川越えて真っ暗な森にたどり着いた。
 どうも、ジャンプポイントはこの森の中にあるらしい。
 それ程鬱蒼とした森ではないが、真っ暗にも程があるというレベルだ。

「なあ、流石に暗くないか? ライトの魔法使うぞ?」

「駄目よ。 こんなところで明かりなんてつけたらめんどくさいことになるわ。 私は見えてるからちゃんと後に着いてきてくれれば大丈夫よ」

「そうは言うが、自分の鼻先すら見えないぞ?」

「我も問題ないぞ?」

「もきゅ(平気ー)」

 見えないの俺だけかよ!
 見えないからライトを使うんだと駄々をこねてみたら、アリーセ手を引いて行ってくれることになった。
 なんだか、妙に気恥ずかしいのはなぜだ?
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