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6章 迷子

悪い話と

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 クロスの清掃方法やシミ抜きの手順等を必死な様子でマルに聞いているアリーセを残し、急いでホールを後にする。
 もちろんトイレダッシュする為だ。
 今履いている靴と廊下に敷かれたカーペットではうまく摩擦力が働かないようで、焦れば焦るほど足が滑って思った様に走る事が出来ない。
 生前でもそうだったが、無神論者でも思わず神に祈るのはこんな瞬間だと思う。
 もともと俺だったときの方が早くトイレにたどり着いたのではないかと思わずにはいられないが、決壊寸前になんとかトイレに駆け込み、事なきを得た。
 もしココが教会なら金貨をジャラジャラと寄付していた事だろう。

 俺はここ最近で一番晴れ晴れとした気持ちで、パールの元へ向かった。
 パールは最初にアリーセを放り込んだ部屋に決めたようなので、後でと言わず早速その話とやらを聞きに行こうと、部屋の扉を叩いたのだった。

「N○Kですが、テレビの設置はしてますか? TV放送が視聴可能なスマホやカーナビも対象になりますので、受信料を……」

「TVなんぞ無いわ! 異世界にまで受信料を取りに来るでない! 仕事熱心か!?」

 バーンと派手な音を立ててパールが扉を開けた。
 ネタが通じるって良いよね? ノリが良くて助かるわぁ。

「あ、では、押入れ等に収納されていて、設置はしていないということですね?」

「そもそもTVが存在せんわ!? って、まだ続ける気なのかの!?」

 あー思い出すわー、そもそも見る時間も買う金も無いから、最初っから無いって言ってんのに、今は使って無いんですね? だの、押入れにしまってあるんですね? だの、家にあるって決め付けて妙な曲解してくるんだよなー、あー懐かしい。 
 
「また、どーでも良いことを考えておるな? いいからさっさと入らんか」

 ぐいっと手を引かれ部屋に連れ込まれた。

「初めてだから優しくしてね?」

「不能者が何を言っておるか。 元の姿に戻って物理的に喰らってやろうかの?」

「サーセン、調子に乗りました」

 俺くらいの大きさなら、一飲みにされそうなドラゴンの頭を幻視したので、90度のパーフェクトな礼で謝罪をしておく。

 ため息をついたパールにテーブルにつくよう促され、どっかりとフィット感の良い椅子に座った。
 パールが手をフリフリと動かすと、いつの間にか手にポットを持っていて、これまたいつの間にか置いてあったティーカップにお茶を注いでくれた。
 いや、もうお茶は十分なんだが……。
 あ、いや、いただきます。

「あ、それで話というのは?」

「うむ、悪い話と悪い話があるがどちらから聞きたい?」

 いやそこは普通良い話と悪い話じゃないのか!?

「どっちも悪いなら、もうどっちでも良いです……」

「そうか、ではまず一つ、恐らく邪神に次に界渡りをする世界がバレておるようで、なにやら待ち伏せをされておるようだの。 我にも詳しくは感知が出来ないのでな、何があるのかまではわからぬ」

「おおう、じーざす」

「異界の神に祈ってもココからは届かんぞ?」

 出待ちしてると言うことがわかっているなら、魔晶石爆弾を幾つか先に放り込から行けば良いだろうか?
 もしくは行った途端に究極魔法発動するとかも手か。

「先に言っておくが、次の世界は帰ろうとしている世界と双子の様な存在でな、知的生命体も居れば文明もあるからの。 広範囲に殲滅するような手段は厳禁だ」

「手詰まりか!?」

「それだけで手詰まりになるでない! 少しは首の上の飾りを有効に使わんか!」

 頭が飾り確定!?
 しかし魔晶石爆弾も究極魔法も駄目となると、途端に選択肢が狭くなるのも確かだな。
 どうせ邪神絡みの何かが居るなり有るなりするんだろうから、ホーリーメタルの粉末に聖属性とか過剰に付加して大量散布でもするとか、なんか物凄い速度で通り抜けるとかはどうだろう?
 ってか普通にパールに元の姿に戻ってもらって蹴散らして貰うってのも確実なのではないだろうか?

「もう一つの悪い知らせだが……」

 あ、はいはいなんでしょう?

「どうも邪神はイオリを特定出来ておらぬようだの」

「はい? 特定されたから位相結界とやらに閉じ込められたんじゃないのか? よくわからんがそれでも特定されてないなら、良い事のような気がするんだが」

「特定されておれば、イオリだけを護れば済む話なのだがな、相手は神であるからの、手当たり次第となったら被害が大きいということだ。 それもイオリと親しい者が巻き込まれることになるであろうの」

「む、それは流石に避けたい未来だな。 でもそれならあえて特定させるってのは駄目なのか?」

「神からすれば人の子等は矮小すぎて区別が難しいのだ。 砂粒とまでではないが、例えるならスタジアムいっぱいのヒヨコの群れから一羽を特定するというイメージかの。 ひしめき合っておるとどこからが個人の境目なのかも判別は難しいので、特定したところで、また群れに混ざってしまえばわからなくなってしまうというわけだの」

 一回見失うと見つけられないってことか。
 でも、リーラ様は俺の夢に出てきたから、俺を特定してるってことだよな?
 パールの例えだと、リーラ様も俺を特定出来ないって事にならないか?

「疑問が顔に出ておるの。 リーラ様がイオリを特定出来るのは、我という目印が居るからだの。 使徒や加護といった、それをつけた神だけがわかる目印をつけて判別をしているというわけだ、故に種族や性別、大きさといった見た目で見分けているわけではないのだ」

 それで見分けがつく使徒を使って代わりに何かさせてるっていうのもあるのか。
 つまり目印のついた奴が捕まえてるのが目的の物だという感じか。

「まだ何もない世界であれば良かったのだがの、さっきも言ったように、次に向かおうとしている世界は、帰ろうとしている世界と双子のような世界だからの。 そこで大暴れされるのは少々困るのだ」

「困るのだ、と言われてもな、出待ちされてるのは確定何だろ? 先手必勝爆破出来ないんじゃ、どう対処しろって言うんだよ」

 やっぱりパールに蹴散らして貰うのが手っ取り早いんじゃ?

「利用する為に捕まえるにしろ、排除しようとするにせよ、逃さぬように加護を与えるなりして目印をつけようとしてくるだろうとは予測が出来るの。 特定はさせたいところだが、邪神の加護はちとマズイ」

「そうなのか? でも加護とかチートツールでチョチョイと外せるぞ?」

「その不可思議なスキルは邪神由来のスキルだからの、使えぬ様になる可能性もあるぞ」

 おうふ、それは頂けない。 俺個人の居場所は特定してもらいたいが、目印はつけられたくないとか難易度高いな!
 
「そこで少々訪ねたいことがあるのだがの」

「おう、なんでも聞いてくれ」

「ダークの奴を倒しただけでなく、神の使徒の称号を剥奪し、種族も変え、さらに転生も出来ぬ様にしおったよな?」

「……ちょっと急用を思い出したので、その話はまた今度!」

 速攻で席を立ち脱走を謀る。
 立つ時に勢いをつけすぎて天井に激突しそうになったが、スキルのおかげか、くるりとうまく体勢を変えられたので、そのまま天井を蹴り出入り口に向かって跳ぶ。
 今までで一番素早く動けたな。
 あと僅かで扉に手が届くというところで、大きな風船が割れたような音がして、扉の前にはパールが立っていた。

「まあ、待て」

「瞬間移動だと!?」

 跳んだ後では方向転換が出来ないので、このままでは衝突コースだ。
 普通なら弾き飛ばして島羽化、押し倒すかするシチュエーションだが、パールは非常に重いのでぶつかったら俺の方が一方的に弾き飛ばされる可能性が高い。
 戯れに実装しておいた「飛行」スキルで軌道修正出来ないか試してみたが、3m程の大きな翼を動かしている感覚だけが脳裏に浮かんだだけで、現実は手をバタバタと動かしただけで終わり、軌道修正は叶わないまま棒立ちのパールの胸に顔から飛び込んだ。

「げふっ!」

 パールの胸は薄く硬質で、大型のゴムタイヤにでもぶつかったかのような感触に跳ね返され、床の上を転がった。

「おっと、大丈夫かの?」

「……か、硬い胸とか誰得?」

「むしろ扉にぶつかるのを阻止してやったというのに酷い言い様だの。 まあ、ダークのことについては咎めぬから逃げるでない」

「え、咎められないのか!?」

 驚く俺を軽々と掴かみあげ、椅子に座らせられると、何事もなかったかのようにパールがお茶のおかわりをくれた。

「我らは神に直接作られた少々理より外れた種族であるからの、ただちにとはいかぬが存在が無くなったとしても改めて神に創造されれば問題は無いというわけだの」

「はぁ、それはなかなか高尚な生死観をお持ちで……」

 あれだけやっても復活可能だったのかよ。

「とは言え、復活までには数百年程度は時間がかかるでな、少々の間は空位となってしまうのだがの」

 数百年は少々なのだろうか? と思わないでもないが、生きている時間が違い過ぎるので仕方がないか。
 エルフくらいでも、手紙の返事が孫に届くなんて話があったからな。

「そこで提案なのだがの。 イオリよ、おぬしリーラ様の使徒にならぬか?」
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