上 下
148 / 250
4章 王都

ファイヤーワークス

しおりを挟む
「イオリ先生の講義を受講します!」

 そんなコリンナ様からの発言から事件は始まった。

 俺が週一で行っている講義は、学園長含めた教員と偉そうな大人達ばかりになってしまった。
 別にナマハゲイオリくんを怖がってということでは無い。
 厳ついおっさん増えて、大人の比率が高くなり、子供が居心地悪くなってしまったのである。
 そして、講義というより、既存流派のおっさん達との議論大会のようになってしまった。
 そのうち、俺の話など関係ないとばかりに既存の流派同士での白熱した議論の場となってしまった。
 学園の生徒が一人も居ないし、そもそもすでに講義になってないってどうなんだ?
 こういう状態なら別に放置でも良いかーとお目付け役のアリーセも来なくなってしまった。
 受講している側から見ると、助手っぽいポジションに見えるアリーセにも、身分が高そうで偉そうなおっさん達から質問が飛んだりするので、それを嫌がって逃げたという言い方も出来るな!

 
 と、このような話をしたところ、冒頭のコリンナ様の発言につながるのである。

 講義当日、大人達に混ざってコリンナ様とそのお友達数名といつの間にか仲がよくなっていたらしいウィル王子が講義に参加してくれた。
 護衛にはグレイさんがついているようだ。
 お友達には平民の子も混ざっているようで、大人ばかりいる状況に若干引き気味のようである。
 ……ナマハゲイオリくんが怖いわけじゃないよな?

 一応今日は空気というものを認識してもらう為に、天辺に丸い穴を開けただけの四角い箱の空気砲やら、風船やらを用意しては来ている。
 ドライアイスがあればもうちょっと色々遊べたが、流石にそれは無かった。
 二酸化炭素を冷やすだけだから作ろうと思えば作れそうだが、魔法だと二酸化炭素が解る俺がやらないといけないし、魔道具だと作成にそれなりに時間を使ってしまうから、今回には間に合わなかった。
 一応、冷凍庫的な魔道具はワトスンに概念は教えてあるので、そのうち出来るかもしれない。

 空気砲は、魔法使わずに起こした風で離れた所にあるロウソクの火が消せるかどうか?
 という非常に単純な実験である。
 まあ、元々小学生の理科の実験域を出るつもりは無かったので、魔法が発達したこの世界の住人からしたら物足りないかもしれない。

「一切の魔力を使用せずに、風を送っただと!? ありえん! 何らかの魔道具なのではないのか!?」

「しかし、精霊も見えませんし、魔力の流れも一切ありませんでした。 もし魔道具だと言うのならば、アーティファクト並の魔力隠蔽が、あの粗末な箱に施されている事になります」

 思ったより、反応が良かった……。
 悪かったな、粗末な箱で。 ダンボールもガムテープも無かったからな、竹ひご的な物のフレームに羊皮紙を重ね張りして自作したものなので、その辺は多めに見て欲しい所だ。
 
 この実験で透明であるが空気は存在し、風はこ空気の対流であることを板書しながら説明をしていく。
 そして空気は重さのある「物質」である事も説明していく。
 後者は、大人向けになるが……。
 空気が物であるという発見は元の世界でも16世紀から17世紀になってからだと何かで見た記憶があるし、それも一部の知識階層人達しか知らない物だったわけだから、まだまだ、迷信や宗教的な定義の方が多く信じられているこの世界の住人にとってこれは新しい概念だったようだ。
 精霊とかいう生物なのかエネルギーなのかよく解らない存在が、空気砲に介入してくる可能性もあったが、精霊を見れる、または感じる能力やスキルの持ち主から見て、その存在を感じない状態で空気が動いたと言うのならば、今回のこの実験は成功といって良いだろう。

 精霊や魔力に重さがあるのか、ちょっと調べてみたい気もする。
 重さを測る測る方法が皆目検討もつかないが……。

「風の初歩である『そよ風の魔法』よりも強い風が吹くとは。 こんななんの魔力もない粗末な箱が……」

 魔力的にタネも仕掛も無いただの箱であることを確認して貰うために、空気砲を子供たちから順に渡して見てもらった。
 まあ、箱の構造事態がタネであり仕掛けなわけだが。

「それで、これがどのように魔法の役に立つのだ? 魔力を使っていないものの何を魔法の参考にすれば良いというのだ?」

 ウィル王子が質問、というより、挙手をしていないので疑問に思ったことをそのまま口に出したというのが正しいだろう。
 うむ、良い質問だ。

「魔力を使わなくても良いということは、魔力で行う必用が無いということです。 この場合風を起こす為に周り一帯全部の場所に風を起こしたり相手に届くまでずーっと魔力を注がなくても、この箱と同じくらいの大きさの範囲に一瞬だけ魔力を使えば十分風が起こせるってことなんですよ」

 俺が言おうとしたことを、コリンナ様がウィル王子に言ってくれた。
 台詞取られた感じだが、まあ良いか……。

「なるほど、そうすると使用する魔力がそれだけ少なくて済むということか」

 ウィル王子も、理解が出来たようで納得している。

「圧力を掛ける、つまりぎゅっと空気を押さえつけて縮めてやると、もっと強い風も起こせます。 魔力で再現するのであれば、この箱よりもさらに小さくすることができますね」

 とりあえず、先生らしく追加で補足説明をいれてやる。
 フワフワの綿を握って潰して見せて、圧縮とはどの様なものを言うのかと教える事も忘れない。

「やりすぎると爆発するから、圧縮をやる時はかならず対処できる魔法の心得がある大人のそばでやらないと駄目だそうです。 なので、一人で実験しちゃ駄目ですよ?」

 コリンナ様がウィル王子に遊び半分でやると危険であると注意を呼びかけた。
 女の子はしっかりしているな。

「や、やはり爆発するのか、流石は歩く錬金術師ギルドだな」

 待てこら、安全に気を配れって意味であって、それは関係無いだろ!?

「爆発するのが必ず悪いってことでは無いですよ? 魔法トーナメントで私が使った『ファイヤーワークス』の魔法も2つの爆発を利用した魔法ですから」

 その発言がコリンナ様から出た時、周囲の大人がザワリとした。

「殺傷能力を上げる以外に爆発の利用法がある……だと?」
「爆発は起こすものではなく事故で起こってしまうものではないのか?」
「それも2つ? 爆発に分類があるとでも言うのか? 爆発は爆発だろう、ありえん、それにそんなことで既存の魔法より効率が良くなるわけがない」
「コリンナ様ハァハァ」

 最後の奴は犯罪者予備軍だからつまみ出せ!

 ま、ここの居る大半の大人はコリンナ様が使った魔法を実際に見ているわけじゃないから、信じられないという意見が出るのは想定内だ。 今までやってきたことを否定されるような気分なのだろう。
 別段、この世界では迷信だろうが妄想だろうが魔法の発動に問題があるわけじゃあ無いので、各々が自分の信じる物に当てはめて貰えればそれで構わないんだけどな。
 ここではまだ話さないが、火の魔法に風を送り込んでやるだけで手っ取り早く火を大きくする事ができるので、科学を理解していなくてもそれだけで単純な火の魔法の強化ができたりする。
 エーリカがすでにこれを実戦しているので、既存の流派でも、問題なく使えるはずなのだ。
 
 爆発に関しては、魔法使いより錬金術師の方が理解が深い。 伊達にしょっちゅう爆発を起こしているわけじゃあないのだろう。
 ワトスンは水蒸気の圧力で金属片を飛ばすスチームキャノンを作っているわけだしな。
 

「信じられないとおっしゃるのでしたら、実証してくれますよ? 論理実証流のイオリ先生は流派の名前のとおり実証可能なことしか言いませんから」

 コリンナ様が後ろで騒いでいる大人達に向かってそう言い放った。
 なんというか、信頼し過ぎである、ハードル爆上げだ。
 実証は可能なはずだけど、設備やら何やらで実証するのが難しい物や、実証した内容を理解するのが難しい物もあるので、全部実証しろとか言われても難しいかもしれない。
 そもそも、実証方法を俺がすべて知っているというわけではないからな。
 光は波であり粒子である。 とか、観測するとどちらかの性質に寄ってしまうとか、なんでそうなのかを説明しろと言われても、流石によくわからない。

「では、論理実証流の魔法を十全に使えるであろう当人に、魔法を実際に使って見せてもらおう、話だけではなく、実証をしてみてくれたまえ」

 うへ、そういう方向で来たか。
 一番偉そうな服を着ているおっさんに要求をされた。

「あ、良いですね! 私もイオリ先生の魔法を見てみたいです」

 しかもコリンナ様まで同調してしまった。 そんなキラキラした純粋な目で見ないでくれ……。

「む? 弟子にあたるコリンナ様が、師の魔法を見たことがないと言うのかね?」

「ああ、それは私がまだ初歩の段階だからです。 理解や制御が及ばないと危険なのはどの流派でも同じだと思います」

「なるほど、道理ですな。 昨今は危険性を理解せずに、より強力な魔法を教えろとせがむような弟子が多いですが、コリンナ様は大変聡明でいらっしゃるようだ。私の弟子たちにも見習わせたいですな」

「お褒めいただきありがとうございます。 ですが、コレを機にイオリ先生の魔法が見られるならば、という気持ちも強いですからお恥ずかしい限りです」

 困ったように、はにかむコリンナ様が非常に庇護欲がそそられてしまう。
 俺が魔法使って見せる流れからは逃れられなさそうだし、俺の魔法がしょぼいとコリンナ様にも呆れられてしまうかもしれない。
 エーリカ指導のもと、一応魔法は使用可能にはなっている。
 確実性や安定性、制御に至るまで問題は山積みだが、ここは先生としての威厳を保つためにも、覚悟を決めてやってみせるしか無さそうだ。

「わ、わかりました、お見せしましょう。 ここでは難ですから魔法を放っても大丈夫な場所に移動しましょう」

 確実性を上げるために発動体が必用だな、これはエーリカに渡したものと同じ「ケーリュケイオン」を使えば良いだろう。
 あとは、インパクトも重要だと思うから、実際の効果より見た目が派手めな魔法を選んだほうが無難かな?
 『ファイヤーワークス』の魔法は小型の打ち上げ花火の想定だから、ここは日本人らしく大玉の花火を打ち上げてやるか。






 この日、学園の一部の区画が消滅し、俺は学園内での一切の魔法の使用を禁止さた。
 さらにうず高く積まれた始末書の山と格闘するはめにもなり、金で解決出来ないか聞いたのだが、反省を促すための始末書だということで金での問題の解決は却下を食らってしまった。
 
どうしてこうなった?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

当然だったのかもしれない~問わず語り~

章槻雅希
ファンタジー
 学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。  そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇? 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・

マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

処理中です...