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3章 ダンジョンアタック

いつのまにか異名とかついてた

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 今、パトリックさんの口から、変な言葉が聞こえてきたような気がする。
 いや、まさか、猫だからちゃんと発音できないで、それっぽい言葉に聞こえただけだろう。


「王族と言っても、直系だったのは先代の父で、私などただその血を引いているというだけだぞ? 王位継承権も38位だ、天変地異が起きても私に王位が来ることはあるまいし、お情けで領地を拝領した、ただの食い詰め領主でしかない。 おっと、私は領主ではなく、ただのCランク冒険者のシークだ、なんの事かわからんな!」


 マジモンだったーーー!


「えっ、おっ、おっ おおお、お、おーぞ、おーぞくぅ!?」


 いかん、権威に弱いアリーセが過呼吸気味でオットセイのようになっている。


「はい、アリーセちゃん、お薬ですよ~。 きゅっと一本いっといて下さいね〜」


 倒れられても困るので、いつものハイコンディションポーションをアリーセに渡す。
 俺の手から毟り取るようにポーションを取ったアリーセは、すぐにそれを飲み干し事なきを得たようだ。


「ご領主様では無く、王族の方だったのですか? あれ?」


 こっちもこっちで犬娘が混乱しているようだが、こちらはわりと落ち着いているな。
 神様が最上位に居るから、王族だというくらいでは、取り乱さないのかもしれない。


「人違いですよ、あのお方はシーク様ですので。 さ、お茶とお菓子をご用意いたしますので、こちらの話が終わるまで、あちらでしばしの間ご歓談下さい」


 ヴァルターさんが、アリーセとイーリスとワトスンを連れて、奥の席へと誘導していった。


「あれ、僕もなの?」


 流石はヴァルターさんである、ワトスンを含めて誤魔化しやすいのと話がややこしくなりそうな3人をすぐに見極めて隔離していった。


わたくしもあちらに混ざりたいですわ……」


 多分、事情を知っているのでエーリカは隔離する必要が無いと判断されて放置されたのだと思うぞ。
 話す体制が出来たと思ったのか、再びパトリックさんが話を始める。


「大問題ですぞ。 実質であるとか継承権順位の問題ではないのです。 そもそも王家の血を引くものが冒険者になるなど前代未聞です。 まれに貴族のご子息等が登録されることはございますので登録はさせて頂きましたが、依頼を受けられて街から出るとなれば、流石にご自重いただきたいです。 しかもご自分で依頼を出して、その依頼に自らお出になるなんて……」


「冒険者になるのに、身分は問わないのでは無いのか?」


「本来あれは上ではなく下に向けたものです。 孤児でも奴隷でもなれるという意味で……」


「では、そう規約に書いておけば良かったな、しかし、今は規約にそう書かれてはおらんし、登録や試験は正規の方法で行っている、なにも問題は無いはずだ。 もし改定されても、改定以前に冒険者となった者には適応外であろう? それに冒険者証には身分は記載されないからな。 私はシークなので詳しい事は知らないが」


 隠す気のないジークフリード様が、勝ち誇ったように、そう宣わった。
 パトリックさんの話では、まだ家督を継いでいない貴族の子息や、継ぐものが無い三男や四男の貴族が冒険者になる事はまれにあるそうだ。 しかし、貴族ともなればそれなりに教養を積んでいる為、わざわざ冒険者にならずとも他にいくらでも仕事があるので、冒険者になるような貴族は相当食い詰めた下級貴族までだそうだ。


「それに、この街を見事に守った轟音のイオリと神弓のアリーセ、この街で一番の癒やし手のイーリス、高ランクのマジックユーザーである紅蓮のエーリカも居る。 この者達の側より安全な場所など無いであろう?」


 今、また変な言葉が聞こえたような……。
 いつの間に二つ名なんて恥ずかしいものがついたんだ!?
 しかも轟音ってなんだよ、魔導銃がうるさいからか!?


「僕も居るよー」


 向こうでアリーセ達とお菓子を貪っていたはずのワトスンが、ふらりとやって来た。


「アンドレア、今大事な話をしているから、後にしなさい」


「お父さん、僕もイオリに誘われてて一緒に行くから、更に安全だよー。 だからパパが心配するようなことは起きないから安心してくれて良いよー」


 父親の呼称くらい統一してやれ……。
 じゃなくて、俺が誘った? どういうことだ?
 話がややこしくなりそうな予感がするぞ。


「誘っただとう!? どういう事かね!?」


 尻尾がぶっとくなったパトリックさんが、俺に頭から突っ込んできた。
 ほら、ややこしくなったよ、コノヤロウ。


「知りませんよ! 俺が頼んだのはダンジョンを探す為の魔道具であって、お嬢さんの方じゃあないです!」


「え? でも、このダンジョンの魔力を感知する魔道具は僕のスキルが無いと、ちゃんと使えないんだよ? だから、この魔道具が必用ってことは、僕も必用ってことなんだよ」


 知らんがな……。


「アンドレアを便利な道具扱いだとぅ!?」


「あんたも、落ち着かんかい! 今はじめて聞いた事だ!」


「ほう、イオリはそのようなものを手配していたのか、良いだろう、我がパーティに加わると良い」


 いつの間にか「我がパーティ」とかになってるな。
 零細貴族で後ろ向きな割に、振る舞いが結構強引だったりとこの人は何考えてるかわからん!
 色んな意味で自分に正直過ぎるのは、王族だからと言われれば納得してしまいそうな自分がいる。
 いやまて、納得してはいかん。 ますます前線に出ちゃ駄目な人じゃないか。


「アンドレアまで危険な場所へ連れていくなどとんでもない!」


「大丈夫だよ父上、ダンジョンの探知からモンスター避け、野営に便利な各種魔道具、ポーションの精製に簡易結界、そしてお湯まで、このアンドレア・ワトスン・マシーネン・ピストーレにおまかせあれだよ」


 最後のお湯ってなんだよ、お湯って、給湯器をここでも持ち出すんかい。


「それとも、お父様は僕が信用できないって言ってるのかな?」


「う、いや、そんなことはないぞ!」


 パトリックさんがしどろもどろになっている。 行って欲しくはないが、信用していないとも言えず、どうしたら良いのか分からなくなったといったところだろう。


「はい、じゃあ決まりだね。 というわけでお父さんはもう帰ってね」


「あ、コラ待ちなさいアンドレア、親の首根っこを掴むんじゃない」


「しょうがないなー、ちょっとお話してくるねー」


 ワトスンが強引に話を切り上げてパトリックさんを猫の様に摘んで持ち上げ、部屋の外へ持っていってしまった。
 意外と力があるんだなぁ。
 


「良いパパ? これはねぇ僕にとっては王族なんていう最上のお得意様を捕まえるチャンスなんだよ、だから邪魔しないでよ」


「しかしだな、アンドレア捜索だけならばまだしも、ダンジョンの調査となったら、その危険性は未知数なのだぞ?」


 扉の向こうからそんな会話が聞こえてきた。 貧乏とはいっても、それは領主や街の運営という規模での貧乏であって、爪の垢に火を灯すような貧乏というのとは確かに違う。
 街の一店舗としてなら、領主、しかも王族の御用達となれれば宣伝効果もあるし十分潤うであろう。
 なるほど、自称だが腹黒いと言っていただけあって、多少は損得を考えているようだ。
 ってことは、自分しか使えない魔道具だから一緒に行くってのは、嘘ってことか……。


 なんでそういうことを考えられるのにあんな商売のしかたをしてるのだろう?


 扉の外でだんだん親子喧嘩が始まってきたのか、時折り「フシャーッ」とか威嚇音が聞こえる。
 あれは、どちらが出している音なのだろうか?


「じゃあ、もうゴロゴロしてあげない!」


「!?」


 ゴロゴロってなんだろう?
 疑問がいくつも頭をかすめるのでよくわからないが、その一言で決着がついたようでワトスンだけ部屋に戻ってきた。


「ふう、話はまとまったよー。 お父さんには帰って貰ったから」


「おお、それは重畳、これで憂いなく依頼に出られるな」


 いやいや、本来パトリックさんの話を聞きに来たのに帰しちゃだめだろう!?
 俺は憂いばかりだよ。


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いつ出発できるのか……
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