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3章 ダンジョンアタック

浪漫武器

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 白兎亭に出戻って、靴を持ってすぐドグラスの親父さんの店にトンボ帰りだ。


 道中どんな武器が良いか考えて居たが、ゲームではないダンジョンに潜った経験など無いので、自分に向いた武器が想像出来なかった。
 一瞬、ツルハシに安全第一と書かれた黄色いヘルメットが頭に浮かんだが、頭を振ってそのイメージを散らす。


 いっそ攻撃魔法で良いんじゃないか? とファイヤーボールを撃ち出す姿を想像してみた。
 オーバーオールに赤い帽子で髭になった自分の姿が浮かんだので、即却下することにした。
 やはり剣が無難だな。 というか剣が良い。 そうだ剣にしよう。


 そんなくだらない事を考えている間に、ドグラスの親父さんの店に到着した。


「おかえりー」


 オットー君が出迎えてくれた。
 靴を渡して、加工をお願いする。


「じゃあ、預かるね、明日の朝には出来てるから。 そうそう父さん帰ってきたよ」


「お、じゃあ呼んで……」


「剣なら打たんぞ」


「うおっ! びっくりした!」


 ドグラスの親父さんがカウンターの下からヌッと出てきた。


「良いか、坊主のように大雑把な奴には剣は向いてねえ、悪いことは言わねーから、やったハルバードを極めろ」


 まだ何も言っていないのに、酷い言いようだ。


「ところが、ダンジョンに潜ることになってな、ハルバードじゃ長すぎるんだよ。 だから、もうちょっとコンパクトなブロードソードあたりを……」


「ダンジョンだな、ちょっと待ってろ」


 話を聞け……。


「あはは、お兄さんも諦めれば良いのに」


「オットー君、男には譲れないものが……」


「ほれ、コイツを使ってみろ」


 セリフを最後まで言わせてもらえませんかねぇ!?


「って、ナニコレ?」


 渡された武器は、先の尖った円柱の杭っぽい物と盾のような物がついた1m半より少し長いくらいのぶっとい棒状の武器だった。


「アサルトランスってー、ショートランスの一種だな。 基本的には突くか突撃チャージで使うが、とにかく頑丈な上に重量があるからな、叩き付けても十分使えるし盾代わりとして攻撃を受け止める事も出来る」


「なんだ槍か、砲撃でも出来るってんなら別だが、ここはカッコイイ剣を持ってくるとこじゃないのか?」


「槍に大砲仕込んでどーする! そんなもん腕がもってかれてエライ目にあうぞ」


「浪漫?」


「そんなもんはゴブリンにでも食わせちまえ!」


 まあ、浪漫で命は守れないから、言いたい事はわかるんだが、剣が……。


「大砲は着いてねえが、射突って言ってな、先端部分がちいとばかり飛び出して、硬いモンスターの甲殻も貫くぞ、ま、気に食わねえなら仕方がねえ、他の……」


「おいくらでしょう? いやー俺に合った素晴らしい武器じゃないですかっ! 持ってかないでくださいよ」


「なんで敬語なんだよ気持ちわりいな、わかったからしがみつくなうっとおしい!」


 だってそれ、いわゆるパイルバンカーさんじゃないですかー!
 そんな素敵装備使ってみたいと思うのが男の子と言うものでしょう。
 浪漫なんか要らないと言っておきながら、ものすごい浪漫の塊じゃないですかー!


「新しい酒も着けるからあああ!」


「わかったわかったから離れやがれ、暑苦しい! もともと坊主に持ってきたモンだからな。 ほれ持って構えてみろ」


「アイアイサー!」


 さっそく持たせて貰ったが、確かに槍と言うには随分と短い。
 右手で中ほどより前方を持ち、左手で後方を持つと先端までは1mも無い。
 重量があるという話だったが、筋力が上がっているおかげと、重心の位置が絶妙になっていて、振り回すのに辛いということもない。
 構えると左側面が盾のように大きなナックルガードで覆われていて、なんだか安心感がある。
 右手のグリップのところにトリガーがあって、これで先端部分が飛び出す仕組みのようだ。
 飛び出た先端は、自分で戻す必用があるようなので、残念ながら連射は出来なそうだ。


「出しっぱなしにして長くした状態でロックがかけられるから、うまく使い分けろ。 地面に突き刺して相手の突進を踏ん張る盾にも使えるからそっちも活用しろ。 それと射突を使う時には十分気をつけろよ、頭上に構えて打ち下ろしながら使うか、十分踏ん張りが効く状態で使え、でないと坊主の方が押し戻されっちまうからな」


「あれ? トリガー引いてもなにも起こらないんだが?」


「ここでやんじゃねぇ! 店を壊す気か!」


 ドグラスの親父さんに、殴られてパイルバンカー……、もといアサルトランスを取り上げられた。
 HPが高くなかったら即死……ほどではないが、ドワーフのゲンコツ超痛い!
 店の裏にあるちょっとした広場に通されて、そこで射突を試させて貰う


「坊主みてえな、落ち着きのねぇやつの為にちゃんと安全装置が付けてある。 ココだ。 まだ触んなよ?」


 左手のグリップ部分の近くににレバーのようなものが着いていた。
 ドグラスの親父さんの指示で、十分に腰を落とし反動に備えた姿勢で安全装置を外す。


「しっかり握って離すなよ? 重てぇ物が動くと腕が持っていかれるぞ」


「ああ、よく知ってる!」


 少し緊張して、トリガーを握ると。 空気が一気に抜けるような音と金属がぶつかるような重い音とともに、反動で後ろに体ごと持っていかれ、体勢が崩れそうになるが、なんとか踏ん張ると、先端部分の杭状になっている部分が一瞬で飛び出した。
 銃や大砲と違い、杭の部分は射出されずに停止するのでその後の反動が射出方向に来て、ある意味最初の反動が相殺される。


「おおおお、使えるかどうかは別として、これはすごい!」


「でだ、再装填のときは、ここについているレバーを思いっきり引け」


 指示通りに、レバーを引き上げると、杭に直接くっついているようでそのまま杭が引き上げられた。
 ある程度杭が戻ったところで、薬莢のようなものが飛び出してきた。
 大分大きいし、ストロークも長いが、ボルトアクション式のスナイパーライフルみたいになっている。




「そしたら、このクズ魔石を詰め込んだ筒をそこの隙間に押し込んで少しレバーを押し戻せ、それでまた使えるようになる。 安全装置をわすれんなよ?」


 仕組みは違うようだが、動作だけ見ていると、ボルトアクション式とほぼ同じだ。
 ドワーフすごい。


「ってかクズ魔石を使うとか、これ魔道具じゃねーか、親父さん魔道具作れたのか?」


「ただ爆発させてるだけだ、魔道具たあ言えねーよ。 アルケミーショップの嬢ちゃんに魔導銃とやらの給弾に関して技術的な相談や部品の発注をされててな、設計図を見せてもらった時に、こいつはおもしれぇって戯れに作ったもんなんだよ。 もともとは足の遅いドワーフ用に突進力増強用で考えてたモンだがな」


「スゲーな天才か!」


 ドグラスの親父さん、ワトスンと知り合いだったのか。 どうりで、あそこの店の魔道具のパーツが精巧に出来てたわけだ。


 ともかく、これでダンジョンに持っていく武器は決まったな。
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