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2章 冒険者としての生活

アルケミーショップ

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「あ、そうか、ご同業だよね? びっくりさせないでよ」

 猫耳っ子は、びっくりさせんなよーと肩を組んでくる。
 俺の方が背が高いので、ちょうど目の前くらいに耳が来ていて、ピクピク動いている。
 なんだこれ、触って良いのか?
 
「いや、俺は錬金術師ではないけども」

「ああ、ジョブが錬金術師アルケミストじゃないんでしょ?」

「ジョブ的にも今やってる仕事的にも錬金術師ではないかな」

「え、じゃあなんで蒸留水なんて知ってるのさ? 錬金術師か酔狂な学者さんくらいしかそんなこと知らないのに……」

「俺は科学者サイエンティストだからな!」

 うん、ちょっと言ってみたかっただけだ。
 マッドと付けなかっただけ良しとして欲しい。

「科学者?」

「この世界で起こる物事を解き明かす職業だな」

 いざ聞かれるとどう答えて良いかわからないので適当なことを言ってみる。

「なにそれ、カッコイイ!? どんなことが出来るの!?」

「えーと、さしあたってご領主様のお嬢様に魔法を使わせることが出来たぞ」

「えー、あのコリンナ様がとうとう魔法を!?」

 って魔法使えなかったこと知ってるんかい! 情報漏えいしている俺も俺だけど、別に口止めされてないしそれは良いか……。

「コリンナ様が魔法使えないって結構有名なのか?」

「そうだね。 領主様が魔法の家庭教師募集しまくってたから、みんなけっこう知ってると思うよ」

 あの領主はなんでも必死なんだな……。
 まあ、今はその話は置いといて。

「それは、いいとして魔道具を見たいんだがどんなのがあるんだ?」

「おー、良くぞ聞いてくれました。 このアンドレア・ワトスン・ハンマーシュミット・ロマノフの魔道具の数々をとくとご覧あれー」

「名前長いな!」

「芸名だから?」

「芸名なのか!?」

「え!? 芸名なの?」

「お前が芸名って言ったんだろうが!」

 なんだか調子が狂うが、店にある魔道具を紹介してくれるらしい。
 猫耳少女じゃなかったらハリセンかスリッパで叩いているところだ。

「はい、正気を取り直して、まずこちらが給湯の魔道具です。 水を入れるとお湯になって出てきます」

 正気を取り直す、にツッコんだら負けだろうか?
 とりあえず、湯沸かし器らしい魔道具を見てみた感想は消火栓くらいの大きさの『柱』である。
 金属らしき縦長の箱になっていて、上から水を入れると下に空いている穴からお湯が出て来るらしい。
 お湯を沸かすだけと考えるとちょっとでかくて邪魔だけど、これがあればもしかして風呂に入れるんじゃないか?

「お値段13000ナールだよ」

「高けえな!」

 いや買えるけど、お湯沸かすだけで130万円って言われたらそう思わず思ってしまうだろう。

「はい、お次はこちら、給湯器の魔道具です。 さっきのよりも小型で持ち運びもできちゃいます」

さっきのやつよも小さい、金属製の箱だ。
小さいといっても2リットルペットボトル2本分くらいの大きさで持ち運ぶのにはちょっと大きい。

「お値段20000ナールだよ」

「高けえな!」

いや、買えるけど200万円って新車並か。

「はい、お次はこちら、給湯器の魔道具です。 さっきのよりもさらに小型で持ち運びもできちゃいます」

「また給湯器かよ! 他の無いの!?」

「お値段30000ナールだよ」

「高えな!! というか給湯器はもうお腹いっぱいなので、他の魔道具を見せてくれ」

「ええ? お客さん給湯器食べるの!?」

「比喩だよ!」

 なんか疲れるな、ツッコミ用のハリセン欲しくなってきた。
 とにかく給湯器以外の魔道具が見たいので、先を促す。

「じゃあ、正気を取り直してー。 はい、お次はこちら、保存の魔道具です。 アイテムボックスが使えない人用のカバンで、容積は使う魔石によって変わります」

 ほう、アイテムボックスはあるから必要ないが、そういうのもあるんだな。

「お値段は魔石によって違います。5000ナールから70000ナールまでの取り揃えがあります」

「ふむ、魔石というのは?」

「あれ? 高けえな! って言わないの?」

「それ、毎回言う掛け声ってわけじゃないからな!?」

 やっぱりハリセンが必要か? ツッコんだら負けなのか?

「そうなのかー、えーと魔石って言うのは魔力を含んだ宝石の事で、モンスターから採れたり、ダンジョンで見つかったりするものだね」

「魔晶石とは違うのか?」

「魔晶石は魔石の凄い版だね。互換性はあるけど、だからって魔石用の魔道具で魔晶石使うと爆弾する時があるから気をつけて」

 爆発するんかい。

「はい、お次はこちら、定番の灯りの魔道具です。 壁掛けにも手持ちもできるタイプです」

 灯りか、ライトが使えるようになる前だったら欲しかったかもしれないがもう、要らないな。

「お値段1000ナールだよ」

「急に安くなったな」

「そうだね、高いのから言っていくと、そんなに安くも無いのに安くなった気がしてついお買上げになっていく人が多いんだよ」

「それ言っちゃ駄目だろ!?」

「はい、お次はこちらー」

「スルーすんなし!」

「新し過ぎて保守的な冒険者さんには受けが悪くて全然売れない魔導銃です。 クロスボウに似てますけど発射するのは魔石や金属の弾です」

「売る気ねーだろその売り文句は!?」

 魔導銃とやらはフリントロック銃のような見た目だ。
 使う使わないは別としてちょっと欲しいかもしれない。

「お値段破格の100ナールだよ」

「安いな! よしそれ買おう!」

「でも、弾薬1セット15発で15000ナールだよ? ただでさえお金のかかる魔石を使い捨てするとか、このお店にとっても優しい魔道具だね」

「弾薬高けえな! 仕方が無い2セットくれ、あと銃の形や性能ってオーダーメイド出来たりするのか?」

「まさかコレを買う人が居るとは思わなかった。 給湯器の方が実用性があるから、そっちが良いんじゃないかな?」

 いやいやワトスン君、君はどれだけ給湯器売りたいんだよ?
 とにかくこのロマンあふれる魔導銃を売ってもらおうかな。
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