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2章 冒険者としての生活

領主からの呼び出し

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 黒いドラゴンを倒してから1ヶ月近くが経った。
 あれから結構大変だった。
 アリーセには質問攻めにされるし、あんなデカイ死骸を放置して疫病とか起こっても困るので放って置くわけにも行かない。

 わからないとは思うが『神の使徒』の称号のあるエンシェントドラゴンを倒してしまったのだから、場合によっては大悪人扱いされても不思議はないので、チートツールを使ってただのブラックドラゴンになってもらって称号を消して誤魔化した。

 少し可愛そうな気もするが、こっちも死ぬところだったのだし、いきなり攻撃して来たのは向こうだし、話し合う気も無かったから気にしないでおく。
 コミュニケーションって大事だな。
 『神の使徒』ってのが、自然信仰的に巷でそう言われているだけじゃなくて、実際に『神』なんてものと関係があったとしたらその上司に当たる『神』にも責任があるってものだから、余計に気にしない事にした。

 ただのブラックドラゴンという事にしたとは言え、ドラゴンの死骸の処分に困っている旨をギルドに報告しに行ったら街中が大騒ぎになってしまった。

 俺だけだったら信じて貰えなかったかもしれないが、アリーセが居たおかげで冒険者ギルドからの検分もあっさりしてもらえ、死骸の処分もなんとか行って貰った。
 死骸を見つけただけという事で誤魔化そうと思っていたのだが、アリーセの鎧にくっきりとドラゴンの爪あとが残っていて誤魔化すのに失敗してしまった。
 短絡的に倒してしまって、どうしたら良いかで焦ったせいで、チートツールでアリーセの鎧を治すと言う事を忘れてしまったことを悔やんだが後の祭りだった。
 処分と言っても貴重なドラゴンは血の一滴まで捨てる所など無く素材となるそうなので、俺とアリーセが使える程度の量を残してすべてギルドに売ってかなりの大金を手に入れた。
 別にお金には全く困っていないので、アリーセに全部渡そうと思ったら全力で拒否されてしまって正直持て余している。
 
 そのドラゴンの死骸が無傷だった事で、どうやって倒したのか質問攻めにもあったり、手合わせしろとか、パーティに入ってくれとかの申し出もたくさんあったが、全部アリーセが対応してくれた。
 この世界に来た初日からアリーセには世話になりっぱなしである。

 ドラゴンを倒せる実力という扱いで仮ではあるが冒険者ランクがいきなりCランクまで上がった。
 今までの実績や信用、人柄などもランクに関係するということで、ぽっと出の俺はCランクが適当と落ち着いたらしい。
 別にランクは上がらなくても良かったのだが、もし街までドラゴンが来ていたら相当な被害が出ていたということと、実力があるのにランクが低いままだとギルドの信用に関わるということで拒否権は無いようだった。
 ランクが仮なのは、今現在ギルドマスターが出張か何かで不在らしく、最終的な判断や許可が貰えないからということらしい。
 当のギルドマスターは、ドラゴンが現れたということで大急ぎで戻ってきているらしいが、新幹線や飛行機等があるわけではないので、まだ帰り着いていないようだ。
 アリーセのランクもDランクからBランクに上がった。アリーセは俺と違って実績も信用もあるからだろうけど、Bランクになると貴族からの指名依頼なんてものが来るらしく、ギルドからの命令で礼儀作法を叩き込まれる事になったようだ。
 アリーセはドラゴンに対峙した時より悲壮な顔をしていたが、なんというか御愁傷様です。

 ドラゴンを倒したと言う事で担ぎ上げられている俺とアリーセが各所で忙しいという影で、ドグラスの親父さんの店も大盛況になっているそうだ。
 アリーセの武器や防具もドグラスの親父さんの店で買ったものらしく、ドラゴンとも渡り合える品質だと広まってしまったらしい。
 実際はスキルをミスって壊した俺の剣だったが、それもドラゴンと戦って壊したという事になって、数打ちでもドラゴンとやり合えると噂が一人歩きしている部分もある……。 
 まあ、実際品質は良かったしアリーセが即死ダメージを受けなかったのもドグラスの親父さんの防具のおかげだと思うから、特に俺も否定はしていない。
 連日の盛況でかなりお疲れのようだったから『本みりん』を10本ほど渡したら急に元気になって作業場に戻っていったから大丈夫だろう。


 いろいろと煩わしくなってきて、連日礼儀作法の講習にドナドナされていくアリーセを見送ったあとは、街の外に出てスキルの検証や魔法の練習等を夜遅くまで行って過ごしていた。




「というわけで、領主様にご面会をしていただきます」

 ギルドに呼び出しを食らった俺は、ドラゴンの一件ですっかり顔なじみになった受付のエマに開口一番そう告げられた。

「え? なんで?」

「ドラゴンを倒すほどの実力を持った期待の新人ですからね、領主様としても顔を合わせておきたいということだと思います」

「断ったりするとどうなるんだ?」

「イオリさんの紹介者はアリーセさんなので、アリーセさんが責任を取ることになりますね」

 それは断れない……。

「まあ、そのアリーセさんも一緒に呼ばれています。 イオリさんは礼儀作法等はしっかりされているので出来ればフォローしてあげて欲しいと思っています」

 ビジネスマナー講習の賜物です。
 実はアリーセに巻き込まれて礼儀作法の講習に連れて行かれたのだが、決まった作法だけ覚えたら、あなたはもう大丈夫だと1回で終わってしまったのだった。

「とりあえず断れないのは分かったけど、いつ頃行けば良いんだ?」

「今日の午後に、ギルドの前に迎えが来ますので、このままここに居てください」

「急過ぎじゃね!?」

「こちらとしましても、アリーセさんの礼儀作法がなんとかなる迄とご面会を引き伸ばして居たのですが、流石に痺れを切らされたらしく……」

 お偉いさんが下々の事情を考慮してくれないのは何処も一緒のようだ。

「はぁ、仕方がないな、了解した。 でも、お偉いさんに会うときに着るような上等な服なんて持ってないんだけど、このままで良いのか?」

「それに関しては、領主様のお館方でご用意していただけると思いますので、使いの方の指示に従って頂ければ大丈夫です」

「わかった、それでアリーセは?」

「ギリギリまで礼儀作法の講習を受けてもらうことになっています」

 そうか、頑張れアリーセ!
 心のなかで精一杯アリーセのことを応援した。


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