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1章 異世界転移

記憶喪失というこで……

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「も、もしかして、どこぞのお貴族様だったり、やんごとなきご身分の方でございまするですでしょうか?」

 明らかに使い慣れていない敬語で、アリーセが聞いてくる。
 その愉快な敬語はいったいどうしたんだ?

「え? いや、多分、きっと、恐らく普通の平民?だけども……?」

「確信無しでございますでするかぁぁぁっ!?」

「いやいやいや、平民だから! 絶対に平民! だからそのおかしな敬語やめてー」

 幾度かのやり取りが必要であったが、何とかアリーセに普通に喋って貰えるようになった。なんか疲れた……。

「と、言うか、そもそも何でそう思ったんだ?」

「だって300ナールって言ったら銀貨3枚よ? 最初見せて貰った王国金貨1枚1000ナールなのにそれを300枚渡してくるとか、どう考えてもおかしいでしょ!? 金銭感覚おかしい世間知らずの何処ぞの偉いお貴族様か何かだと思っちゃうわよ。あ、こんな大金貰えないから返すわ、手が震えちゃうし……」

「ああ、ナールって言うんだ、お金の単位」

「ナールすら知らないのおおおお!? やっぱり自分で買い物なんかした事が無いような、やんごとなき身分の方なんじゃないんですかああああ!? 不敬罪でこの若さで花と散りたくないですーーー!」

「無いから!大丈夫だから!そんな身分の人がこんな所に一人で居るわけないだろ? ちょっと記憶が曖昧なだけだから!」

話が進まないので、ありがちではあるが咄嗟に記憶喪失設定でいく事にした。いろいろおかしなことを聞いても、誤魔化せそうだし。

「え? 記憶が? え? それってどういう……」

「いや、実は気がついたらこの森に一人で立ってて、名前は思い出せたんだけど、自分が何処の誰か思い出せないんだ。思い出そうとしてたところ、そこに倒れてる熊に襲われたってわけ」

「なるほど、それは大変だったわね……。って、記憶が無いだけでお貴族様である可能性が……」

「無いから! その辺りは記憶が多少あるから!」

振り出しに戻りそうなので、俺は咄嗟に自分の設定をでっち上げていく。異世界人だと言っても信じて貰えないどころか、頭のおかしい人認定されて置いて行かれでもしたら死活問題である。
アリーセも多少訝しんだが、金貨を300枚もポンと渡して来たりと流石にお金の価値や単位すら解らないという事がとても嘘とは思えなかったようだ。
というか、300枚であんなに焦るんじゃ、カンストしてる持ち金のことを知ったらどうなるんだろう?

「それじゃあ多少は憶えてるってどの程度憶えているの?」

「とりあえず、名前とかは憶えてる。後は、ここに来る前は何処かの街に向かう途中だったんじゃないかと思う。高台の草原からその街を見てた記憶があるから、少なくともこの森には居なかったはず。その前の事は思い出せないんだけどね。誰か居たような記憶は無いから、多分行商人か何かだったんじゃないかなぁ」

 俺はFADで最後に見ていた情景を思い出しながら、その場で必死に設定を考えていく。後でなんかにメモしとかないとすっかり忘れて墓穴を掘るだろうなこれ。

「旧王国金貨300枚も持ち歩くような商人が、一人で街の外に居るものなのかしら?」

「いや、商人だったかどうかは、ただの推測だから、商人だったかどうかは解らないよ」

 穴だらけの設定なのはいま即興で考えてるので仕方がない、おかしな所は憶えてないと誤魔化すしかない。

「なんかそこで光に包まれて、目の前が真っ白になったと思ったら、この森に居たんだよ」

「なるほどねー、もしかしたら転移事故に巻き込まれたのかもね」

「転移事故?」

 何やら自分の素性を隠すのに都合の良さそうな単語を聞いて、何それ詳しく、とアリーセの話を促すのだった。
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