俺の事が大好きな○○君

椿

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17 俺の事が大好きな○○君 番外編

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今までの話を整理するとこうだ。
学校の人気者で、俺が密かに想いを寄せていた瀬川。ある時、彼が俺のことを陰キャと影で嘲笑っているのを聞いてしまった俺は、一方的に癇癪を起こして瀬川を避けていたのだが…、
──なんやかんやあって、俺は自分の家に来た瀬川に押し倒され、告白されて、最終的には抱かれてしまった。

…なんやかんやの部分もその後も意味がわからないだろうが、大丈夫だ。俺だって今でもよくわかっていない。

まあ、それが大体1ヶ月くらい前の出来事で、今の俺達はというと──、




下校時間。
まだ明るい屋外で、隣を歩く瀬川がこちらを見る。

「? どしたの小崎、キスする?」

心底真面目ぶった顔で何の脈絡もない発言をする彼を、俺はジト目で一瞥してから深いため息を吐いた。


「何で一緒に帰ってんだ…」

「だって俺たち恋人だし?」
「違うけど!? 一回ヤッ、ヤ、…ャッ、た、ぐらいで恋人面すんな!!」
「じゃああと何回抱けばいい?」
「そういう回数制のやつでもないからっ!! そっ、そもそも、二回目とか絶対に無い!!」
「えー? 本当はあの日のこと思い出して、何回も一人で抜いてるくせに♡」

ニマニマとした顔で告げられたそれに、俺は目を見開いて絶句する。…何故なら瀬川の言うそれが、なんとなく的を射ていたから。

あの日の出来事は俺の人生の中でもトップレベルに衝撃的なもので、忘れるなんてことはそもそも出来やしない。しかも、全てが俺のベッド上で起こった事だ。シーツや枕、マットレスをキチンと洗浄したとはいえ、あの日も香ったいつもの洗剤の匂いや、ふとした時素肌に触れるシーツの感覚で、まだ一月前のその情事を思い出してしまうのは必然だ。
そうなると、俺も欲求に正直な健康男児。生理現象には抗えないので発散するしか道はなく……。

いや、でもそれは何ていうか、仕方がないっていうか、うん、仕方ない。そもそも瀬川が俺の部屋であんなことをしなければそんなことを思い出すこともなかったんだ。むしろお前が謝れ。そうだ瀬川。全てお前が悪い。

若干罪をなすりつけながら自身の行動を正当化しようとする俺に、瀬川は容赦なく切り込む。

「……あれ? 図星?」

「っ~~お前本当嫌い!!」
「待って待って!! もっと良く今の顔見せて!!」
「追いかけてくんな変態!!」

自分から言い出したくせに、若干驚いたように確認されたそれが、カッ!と一瞬で俺の顔を羞恥に染め上げた。
俺はそのまま瀬川を強く睨みつけて逃げるように家路を急いだが、後ろから追いかけてきた彼との運動能力の差で距離は開く間もない。
それどころか、むしろ俺は通路の壁面へと追い込まれてしまっていた。

「ねえ、本当に思い出してやってたの? お願い教えて」

瞳孔の開いた目でジリジリと距離を詰めてくる瀬川が普通に怖くて、俺も同じだけ後退る。
…まずい、背中に石の壁が当たった。行き止まりだ。
後ろに下がれないとわかった直後、素早く横に逃げようと動くが、それより先に瀬川が腕をついて退路を塞ぎに来た。そして、そこから更に距離を詰める。
今の俺は、壁と瀬川にサンドイッチされている哀れな平たいハム状態だ。
もうどうすることも出来ず、俺は身体を縮こまらせた状態で一生懸命叫ぶ。

「やめろ! 囲むな! 怖い!」
「小崎。 ね、絶対に笑ったりしないし、なんなら興奮するだけだから。 ここは俺を助けると思ってひとつ。 後ろ弄った??」
「それ聞いて言おうと思うわけないだろ!!」
「ちょっと触って確かめてみていい?」
「いいわけあるか!! 怖いよーー!! おまわりさーーん!!」

瀬川の圧迫尋問に半泣きで叫んだその時、


「おにい?」


はた、

俺と瀬川は、少し離れた位置から聞こえた高い声に視線を向ける。

そこに居たのは、近くの中学指定のセーラー服を纏う女子中学生。耳と同じ高さで結われた、きめの細かい長めのツインテールを風に靡かせる彼女の顔は、

瀬川だった。

いや、それは流石に語弊がある。

女体化した瀬川だった。

「何してんの」

彼女は、壁に押し付けられている俺と押し付けている瀬川を交互に見てから、怪訝そうに問う。
それとほぼ同時、「人違いです」と早口で言った瀬川が俺の腕を引いて、進もうとしていた方向(俺の家方向)とは逆側、つまり女体化瀬川へ背を向ける方向へと早歩きし始めた。
彼女の顔が瀬川とそっくりなことには勿論衝撃を受けたが、俺は瀬川のその逃げるような動きにも同じ気持ちを抱く。

「お、おい!?」
「ちょっと寄り道してから帰ろ? 小崎の家って学校から近いんだもん。 たまにはじっくり話したいな。 それとも家にあげてくれたりする?」
「それは永遠にない。 …って、そうじゃなくてあの子、」
「小崎は何も見なかった。 いいね。」

有無を言わせない笑顔に、俺は思わず口をつぐむ。

すると、正面から学ラン姿の男子中学生が歩いてきているのが見えた。眼鏡をかけたその少年を視界に入れた途端、瀬川が不自然に動きを止める。それを俺が不思議に思った直後、眼鏡の少年は不意に俯き加減だったその顔を上げて、

「睦月兄?」
「人違いです」

また先程と同じ言葉を繰り返した瀬川は、直後、すぐそこにあった曲がり角へと進路変更する。
……瀬川だった。あの少年も、眼鏡をかけたちょっと幼めの瀬川の顔をしていた。

「おい、今の、」
「今日は蜃気楼がすごいね小崎」
「いやいやいや」

「あ!! むっちゃんいるーー!!」
「むっちゃんいる」

続けて前方から走って来たのは、小学生ぐらいの顔がそっくりな…おそらく一卵性の双子。
はい、二度あることは三度あるとはよく言ったものだ。こちらの2人組も例にもれず瀬川顔である。細かく系統で分けるとしたら、片方はニコニコと元気溌溂な瀬川で、もう片方はすこしぼんやりした瀬川といったところだろうか。

…いや、「といったところだろうか…」じゃないんだわ。一週回って冷静になってたけど、改めて考えなくても何なんだこの瀬川フィーバーは。俺はいつの間にか夢でも見ているのか??
思わず強く目を擦る俺の横で、系統の違うドッペルゲンガーたちが次々に登場したオリジナル瀬川はというと、なにやら項垂れた様子で額に手を当てていた。
流石にもう人違いと自然現象で誤魔化すのは諦めたらしい。

さて、それ双子で終わりかと思えばまだまだ継続中らしい瀬川フィーバー。
双子瀬川の更に後方からは、落ち着いた男性の低い声と、舌足らずな幼い声がかけられる。

「──睦月君? 外で会うなんて久々だね」
「むつきくんだあ」

現れたのは、瀬川が歳をとるとこんな風になるんだろうな、という姿を完璧に体現している美丈夫と、彼の腕に抱えられた、これまた今度は瀬川をそのまま小さくしたような幼児。

年齢操作版大人瀬川とショタ瀬川だーーー!!女体化、学ラン眼鏡、元気属性、ぼんやり属性に加えてこれ…。今日一日でもうあらゆる瀬川コンプリートしちゃったよ!!

スタンプラリーのゴールにたどり着いたような妙な高揚感を覚える俺の背後から、まだ耳に新しい先程の女子の高い声がかかった。

「パパ、お兄がさっき陰キャ虐めてた」

若干気の強そうな、ツインテールの女体化瀬川だ。
更に後ろからは、二番目に登場した眼鏡瀬川。

「睦月兄がそんなことするわけないだろ。 馬鹿葉月はづきが見間違えたに決まってる」
「…ほんっと可愛くないわね、弥生やよい。 っていうか、いつも言ってるけど呼び捨てとか生意気なのよ。 葉月姉さんでしょ!」
「僕は可愛い。 睦月兄がそう言うからこれは世界の真理だよ。 お下品で可愛くない馬鹿葉月」
「は?もう一回言ってみろ」
「ゴリラ・ゴリラ・葉月」

言い争いを始めた2人に、ショタ瀬川を地面に降ろした大人瀬川が仲裁しようと前へ出る。

「葉月ちゃん落ちついて。 弥生君もお姉ちゃんにそんなこと言ったらダメだよ。 あっ、ちょっと香月かつき君、菜月なつき君! 買い物袋を地面に置かないで!」
「むっちゃんいんきゃって何!? 新しい遊び!? 香月もいんきゃやる!!」
「菜月も」

大人瀬川の言うことを聞かないまま、オリジナル瀬川の足元でうろちょろ駆け回る双子瀬川。

……この双子、服も髪型も一緒だし、あまりに似すぎてどっちがどっちか全く分からん。

1人がもう1人の残像みたいになっている現状に、必然目を凝らして見てしまっていると、不意に、クイッと服を引かれる感覚がして目線を下に落とした。
俺の制服のスラックスを握りしめてこちらを見上げる一番幼いショタ瀬川と、足元で目が合う。

え??
何???
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