俺の事が大好きな○○君

椿

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「コイちゃん何か顔色悪くね? 徹夜した?」
「樫谷……。 うん…、ちょっとだけ…はは」

休みの明けた月曜日の朝、放心状態で机に腰掛ける俺を見て、登校したての樫谷が体調を気にかけてくれる。
徹夜はしていないし、なんならあの勉強会以来、まともにテスト勉強が出来ていない。理由として、金曜日の運動(隠語)で全身が死んでいたという物理的な問題もあったし、普通にあの1日に色々なことが起こりすぎて、情報を整理するのに頭の容量を割いてしまって勉強に集中できなかったというのもある。
それともう一つ。


「…大丈夫か? 保健室行くなら連れて行ってやるけど」

樫谷が気遣わしげな顔で俺の額に手を伸ばして、

──それを防ぐように、誰かの影が差し込まれる。


「おはよう、小崎。……と、ついでに誠也」

いつもと変わらず、爽やかな笑みを浮かべた瀬川がそこには居た。


そう。体調不良と過去の出来事の整理。あともう一つ、俺を悩ませたのは、
土日の休みが明けた後、瀬川が俺にどんな関わり方をしてくるのかという未来への不安だった。

想像できるのは3つ。
1つ目、「全部嫌がらせでしたー! 騙されてやんの、陰キャバーカ!(意訳)」と言われ、イジメへ発展。
2つ目、瀬川の言葉は嘘ではなかったが、休みを挟むことによって「やっぱないわ」と冷静になり、俺との接触は完全になくなる。そうじゃなくてもよそよそしくなる。
これが一番、以前の状態と近い感じではある。

そして最後、3つ目が、あの日の瀬川の言葉、態度、俺のことが好きだという気持ちは全部本当で、学校でもそれを俺に隠そうとしなくなる、というものだ。

俺は恐る恐る瀬川を見上げる。

挨拶はされたから、今のところイジメとか無視とかは無さそう…だけど…?
やっぱり2つ目のパターンが近いか…?

そんなことを考えていると、俺からの視線に気づいた瀬川がパアッ!っと表情を明るくさせた。
次いで、先程の俺たちの話が聞こえていたのか、彼は樫谷の代わりに俺の額へ触れようと手を伸ばし……、
「熱は無さそうだけど、確かに顔色悪いね。 俺を前にしてるのに、少し青白いかも…」とそう所感を述べて、頬や首筋、肩と腕をゆっくりじっくり経由して、最終的には両手を握ってきた。

おっと???かつて無いほどのボディータッチじゃ???

「具合悪いの? 保健室に行くなら俺が付きそうよ。 それとも今ここで温めてあげようか」

み、3つ目だったーーーーーー!!
金曜日の瀬川のままだったーーーーー!!!

元凶はお前だからな??という俺の驚愕の視線を意にも介さない瀬川は、椅子に腰掛ける俺の頭を抱きしめてよしよしと子供にするみたいに撫でてくる。

吹っ切れ方エッッグ。
こういうパターン、一応脳内でシミュレーションもしてたけど、……想像の何倍も周囲の目が痛いやつーー!!「え…? 瀬川君が何であんな陰キャに…?」というクラスメイトの思いがありありと伝わってくるーーー!!

それにキリキリと胃を痛めさせられながら、俺はとりあえず距離の近い瀬川を引き剥がす。これでは注目の的にならざるを得ない。…もう遅い気もするけど。

「仲直り出来たんじゃん。 良かったな睦月」
「うるさい上から言うな腹立つ。 あと小崎に近寄るな」
「は? 何で? 普通に無理。 なーコイちゃん、本当にテスト大丈夫だろうな。 絶対補習になんなよ。 放課後は俺のために使ってもらう約束なんだから」
「あ、」
「小崎はそんな約束してませんー。 放課後の小崎と俺の間に誠也の入る隙はありませんー。 ヤリチンはヤリチンらしくヤリチンしてくださいーー」
「ちょ、」
「だから何でそれを睦月が決めんだよ。 最初に約束してたのは俺だし、コイちゃんも俺と遊ぶ方がいいよな? 楽しいって言ってたもんな?」
「そ、」
「社交辞令って言葉わかる? 単細胞馬鹿。 小崎は俺と居た方が楽しいに決まってるよね。 だって小崎は俺の事が好きなんだから」
「な、」
「それを言うなら俺だって好かれてる。 な? コイちゃん」
「いや、ま、」
「理解力ゼロのコイツに教えてやってよ小崎。 俺とその他有象無象への好意を表すと、銀河系とプランクトンぐらいの差があるんだってこと」
「ま、待って、」

ぽんぽんと交わされる幼馴染同士の息のあった(?)トークに、話を振られた所で俺が入る隙は全くない。
狼狽えている間に、瀬川と樫谷はどんどん俺と距離を詰めてきて、


「コイちゃんが選ぶのは俺だよな!」
「小崎は俺を選んでくれるよね!」


クラスの人気者2人に迫られ、奪い合われる陰キャ。
その謎の光景に、周囲の奇異の目は更に重量を増して俺へと向けられる。

何だか、前より断然居心地が悪くなった気がする…!!

眼前で言い争う2人を横目に、俺は新たな悩みの種を察知して盛大に頭を抱えた。




余談だが、テストの結果は俺だけボロボロで、余裕で補修行きだった。
樫谷からは説教を受けた。
普通に泣いた。



『俺のことが大好きな〇〇君 完』

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