俺の事が大好きな○○君

椿

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11 俺の事が大好きな○○君 完

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はあ、はあ、と熱を持つ荒い息遣いが、室内の温度をまた1℃上げる。
滲んだ汗でじっとりと湿る肌に、中途半端に脱がされた服が張り付いて気持ち悪かった。

クチュ、
下半身から粘着質な水音が聞こえて、それと同時、尻の中が指圧された感覚に、俺はまるでよく躾けられた犬か何かのようにささやかで短い鳴き声をもらす。
頭上からごく小さな笑い声が聞こえた気がしたが、薄ぼんやり霞みがかった頭にはそれが笑い声なのか、少し鼻息が強めなだけか判断できない。

目の前の、顔は良いが恐らく性格が歪んでいらっしゃる(とついさっき知った)男をぼぉっと眺めていると、段々と距離が近づいていき、最終的に柔らかな唇同士で繋がる。
ちゅ、ちゅ、とお伺いを立てるような啄みの後、隙間を縫って割り入れられた舌に口内を蹂躙されながら、俺は酸素不足により朦朧度合いが増す頭で、もう今更だと一蹴されそうな問いを思い浮かべた。

あれ?何でこんなことになってるんだっけ??





急だったが、何となく心の整理が出来てスッキリした勉強会後、間抜けな俺は忘れ物をしたという瀬川を何の疑いも無く家に入れた。
そこからはもうすべてが混乱の記憶だ。何故かベッドに押し倒され、よくわからないままに告白されたかと思えばキスをされて──、

その後、余りに自然な動作で奴は俺の服の中に手を這わせ始めた。

はい?????

「っせが、っ!? …まっ、待って、オイ待て!! ……えっ!? 何!?」
「だって、親がいない家に招いてくれて、両思いってわかって…。 じゃあ次は合体かなって」
「合体!?!?」
「セックスかなって」
「セ…ッ!?!?」

上から服を脱がせにかかって来る瀬川の手を必死に止めながら、彼のトンデモ発言に俺は開いた口が塞がらない。対する瀬川は自身の腕が俺に掴まれているのを見て、「あ、俺に先に脱いでほしい? 小崎って結構大胆…」なんて微かに頬を染めていた。俺は即座に瀬川から手を引く。
…もうどういうことなんだよ。

「い、いやいやいやっ!! っていうかそもそもりょ、両思いじゃない! お、おお俺はお前みたいなヤバい奴嫌いだ!!」
「そんな見え見えの嘘吐かなくていいよ。 まあ、小崎に向けられる感情だったら俺は全部嬉しいから良いんだけど」

瀬川は自身から素早く離れた俺の腕を簡単に絡めとって、反抗精神しかないそれをベッドのシーツへと縫い付けた。
眼前の端整な顔が、甘い笑みに彩られる。

「好きだよ、小崎。 誰よりも、何よりも、小崎が一番大好き」

麻薬のような甘言に、ドキリと心臓が収縮したのが運の尽き。
それからあれよあれよという間に流されて──、


「──っひ、ぅ…っ!」
「ここ、良かった?」
「…っ! 違っ、…は、はぁっ、…ッッ、」

今現在、こんなことになっ尻を弄られていた。

下半身だけ布が取り払われた何とも間抜けな姿をした俺は、瀬川の指で尻を拡張させられている真っ最中であった。
最初は異物感しか感じなかったそれだが、瀬川が上手いのか、それとも元々人の尻とはそういう作りになっているのか、段々とそこで快感を得るようになってしまって、もうしばらくの間俺の脳には危険信号が点滅し続けている。
このままでは、何か駄目な気がする。男としての大切なものが何か失われてしまう気がする!!その本能的に正しい焦りは、しかし瀬川から絶え間なく送られてくるナカへの刺激によって一瞬で真っ白に塗りつぶされ、到底日の目を見られる気配が無い。

「すぐ気持ちよくなれるなんて、才能あるね小崎。 もしかして自分でナカ弄ってた? それとも想像で俺に弄られてた?」

羞恥と快感に歪む顔をベッドに擦りつける俺に、瀬川は心なしか上機嫌に問う。
…なんと、快感を感じるのには俺の才能が大きく関係していたらしい。…ってそこはどうでもよくて!

尻の穴を自分で弄ったことは無かったけど、…俺はずっと瀬川が好きだったから、そういうことを全く想像しないわけじゃなかった。
今の時代、検索すればもう真偽不明の色んな情報がわんさか出て来るわけで、上辺だけの知識を得るのは非常に簡単だ。
それに伴って、…その、そういう夢も…、まあ、見たは見た…。っていうか見た。ばっちり見た。言ってしまえば一回で終わりでもなかった。夢の瀬川は現実のそれとは違って、もっと爽やかな空気を纏ってはいたけど、俺の事を大切に大切に抱いてくれて……。

とそこまで思い返して、同時に、瀬川本人によって言い当てられた事実を認識し、俺の顔は羞恥で真っ赤に燃える。
瀬川はそれに「あっは、わかりやす。 …可愛いなあもう」と表情を緩めて、唐突に俺の唇を食んできた。

「っんん゛!」

一番最初の、あの唇同士をくっつけるだけのバードキスは何だったのか。2回目の時点で早々に瀬川は舌を入れてきやがった。まあ段階がどうとかいう話をするなら、今やってるこの行為自体が何だって話になるわけだけども……。
いやそうだよ!!何流されてんだ俺!!このままじゃ本当に合体することになるぞ!?

悔しいが瀬川はキスが上手で、俺は毎回快感を拾うので精一杯になって、それ以外のことを何も考えられなくなる。それがダメなのだ。
そうなる前に、と俺は腕を突っ張って、瀬川を無理矢理引き剥がす。

「…っ、だっ、大好きとか、信じられないから! お前っ、俺のこと揶揄って遊んでるだけなんだろ!? どうせ後で、あっ、「あいつ本気にした。キモイ~」とか言ってっ、捨てっ、捨てるつもりなの、分かってるんだよ!! もうやめろ!!」

ギッ!と睨みつけた俺に瀬川は一瞬瞳を丸くして、しかしすぐにまた弧を描いた。

「そんなことしないよ。 小崎は俺に捨てられるのが嫌なんだ? 大丈夫、安心して。
頼まれても一生離さないから」
「っひ、」

話している途中で急に下半身から指を抜いた瀬川は、俺を両腕で優しく抱きしめる。
瀬川の口が俺の耳に当たるくらい近い所に来て、俺は反射的に身を固くした。他人の息遣いと、同時に肌を撫でる温かい風がじくじくと耳を侵す。
は、と堪らず吐息を震わせた俺に気付いているのか否か、瀬川は直接そこから声を吹き込んだ。

「俺、本当に小崎の事が好きだよ。
俺の事をいつも目で追ってるのとか、話しかけると一瞬嬉しそうにするところとか。 あと、話す時緊張して顔が赤いのも、よく言葉に詰まるのも、全身で俺の事好きって言ってるみたいで好き。 目が合うと、慣れてないのに一生懸命ぎこちなく笑い返してくれるのが好き。 「瀬川」って呼ぶ優しい声が好き。
…俺の大事なものを、大事にしてくれる小崎が大好き」

至近距離の瀬川の声に負けないくらい大きく鳴るのは、自分の心臓の音だった。これはもう、耳から飛び出して瀬川にも聞こえているんじゃないかと真剣に思うくらいに爆音だ。

ダメだ、こんな言葉、本気にしたらダメだ。

ギュッと目を瞑り、自分へ必死に言い聞かせる俺を嘲笑うように、瀬川は次いですり、と首筋に鼻先を近づけてきた。

「小崎の匂い、好きだな。 ワックスとか何もつけてない髪の毛も触り心地良くて好き。 ずっとこうやって、近くで感じたかった」

先程よりも腕に力を込められて、より密着した顔の横で、すうー、と大きく息をされる。
思わず肩を竦ませると、瀬川の体温や、香り、肌と髪の質感を一段と強く感じてしまって、もうどうしたらいいのか分からず目が回る。


胸が痛くて、息が苦しくて、全身が火で炙られているみたいに熱いのに、
瀬川の声と言葉、体温、丁度いい圧迫感、全てが泣きたいほどに俺の心を満たしてくるのは何なんだ。


「好き」と言われるだけでこんなにも簡単に嬉しくなってしまう自分の身体が浅ましくて、恥ずかしくて、悔しくて。固く閉じられた目の縁に少しだけ涙が滲む。
その直後、「あ、それと…」と瀬川の片手が、俺の身体の線を伝って下半身へと降りていって──、先程まで瀬川がしつこく触っていた、潤滑剤によって潤った穴の周りをつん、と軽くつつかれた。俺が反射的に身体を揺らすと、彼は耳元で小さく吐息をこぼす。

「いいとこ触ったらナカがきゅって締まるとこも、「好き」って言ったらピクンッて反応する素直なとこも、新しい小崎を知って、俺はまたどんどん小崎を好きになってるよ」

「っ、嘘だ! …嘘だ、嘘だっ!!」
「嘘じゃないって」

瀬川は、「ほら」と俺の手を優しく引いて、

「っ!?」
「──小崎に興奮してる」

手に触れた、酷く熱く、硬質な瀬川の一部に、俺は閉じていた目をギョッ、と大きく見開く。瀬川は少し照れたようにして、既に硬く勃ち上がった自身の陰茎を俺に触れさせていた。
自分以外の、しかも自分のせい(?)で勃起したそれを見るのも触るのも初めてで、俺は驚きと衝撃で何も言えぬまま、真っ赤な顔でただただ瀬川の一物を凝視する。

「…あ、もしかして俺に好きって言わせたいから否定するようなこと言ってる?」
「ち、ちちがっちがっ、」
「冗談」

動揺する俺の手を解放してクスクスと笑った瀬川は、そのまま自由な手の平で俺の素肌部分をゆっくりと撫でる。背筋を走るよくわからない感覚が、俺の呼吸を詰まらせた。

「小崎も興奮してくれてる? してくれてるよね? だって俺のこと好きだもんね。 わかるよ。 好きな俺に触られて、気持ち良いんだよね?」

その手は、太ももをなぞって腹へ、そして薄い布を徐々に上げながら、更にその奥へも進もうとして、

「やっ、…めろっ!!」

俺は咄嗟にシャツの裾をそれ以上あがらないように固定し、不埒な腕の進行を阻む。
それを見て不思議そうに首を傾げた瀬川は、宙に浮かせた両手指をワキワキと動かして何かのジェスチャーをした。

「胸触るだけだよ?」
「だけってなんだよ! 嫌だわ!!」
「最初は微妙かもだけど、今後開発していくから大丈夫だよ。 小崎と俺なら出来る!」
「より嫌だ!!」

頑なに拒絶する俺に、瀬川は仕方なさげにその手を下半身へと移動させる。「こっちに集中するね」と言って再びナカへと瀬川の指が入って来たことに、俺は少しホッとしてしまった。
安心するところが完全に麻痺してしまっている気もするが、もうずっと弄られている尻をどうこうされるのは今更だ。むしろ慣れたと言ってもいい。

それに、…上半身はあまり、人に見られたくなかったから。

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